セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
びっきー誕生日おめでとう!!
あ、今回ダブル響です。
9月13日
そう――立花響の誕生日である。
無論祝い事好きなS.O.N.G.面々は今日の為に時間を用意し、誕生日パーティーの準備をしていた。
豪華な料理、盛大に飾り付けされた会場(シャトー)、用意された誕生日プレゼント。
何もかも準備万端で後はサプライズと言う形で何も知らない彼女が会場に来ればパーティーの始まり……と言う状態になっていた。
「わくわく♪」
さてそんな状況下で我等が主人公であるセレナは込み上げる感情を抑えきれずに笑顔で手に持つクラッカーを握り締めていた。
これまで過ごしてきた誕生日において、こういったサプライズ式と言うやり方を経験した事のない彼女からすれば仕方のない事でもあるだろう。
その姿はどこか大人じみた雰囲気を醸し出ているいつもの姿ではなく、年相応の子供らしい微笑み溢れる愛らしい姿である。
そんな彼女をほっこりとした顔で眺めるのはガリス。
今日のサプライズを練習したい、そう願われ何度もその身にクラッカーを浴びた彼女からすれば遂にその想いが報われるのだとただほっこりとした顔で眺めていた。
…決してやっとあのサプライズ練習の日々から解放されるのが嬉しいと言う話ではない。
サプライズの練習、と言う事なので日頃の何気ない時間に毎回毎回パンパン鳴らされて決して少し憂鬱な気分になどなっていない。
断じて、ない。(大事な事なのでry)
そうこうしていると、部屋に近づく足音が1つ聞こえた。
S.O.N.G.の面々もシャトーの面々も揃っているこの状況でこの部屋に向かって来ているとなれば、それはもう1人しかいないだろう。
全員の表情に僅かながら緊張が生まれる。
あと少し、あと少しと待ちながら部屋の扉が開くのを待ち、そしてーーー
「「「「「誕生日おめでとーーーー?」」」」」
「……ん?」
ーー扉から現れた人物に全員が首を傾げた。
確かにそこにいたのは間違いなく《立花響》だ。
その姿形も、その雰囲気も間違いなく彼女だ。
だけどーー何か違う。
何故か目の前にいる彼女を《立花響》だと思えないのだ。
言い表せない奇妙な感覚、それに全員が困惑している中でーーー
「あー!!待って待ってってば《私》!!」
ーー扉から《もう1人の立花響》が姿を現した。
「………なるほど」
立花響ーー此方の面々が知る彼女からの説明を一通り聞き終えた弦十郎はとりあえず理解だけはした。
彼女曰く、昨日了子くんにとある実験に付き合ってほしいと頼まれ、彼女はそれを了承。
実験内容としてはとある聖遺物の起動実験であり、立花響は万が一の為の護衛としてその実験に付き合う事になっていた。
だが、その実験は過去幾度も行われており、その度にこれと言った事件や事故も起きなかったので安全性は保証されている様なもので何事もなく終わる筈………だった。
だが、実験の最中に起きた些細なトラブルが発生した。
トラブル自体は些細なものだったのだが、その影響で聖遺物が軽度の暴走を引き起こし、それを止めようとした彼女は聖遺物から漏れだしたエネルギーに包まれーー次に目覚めた時には《彼女》が居たのだ。
「………?なに?」
言葉少なくそう語ったのは《もう1人の立花響》。
彼等の知る彼女とは違ったその反応に誰もが困惑するが、当の本人からすればそんなものどうでもいいと机に並べられた料理をパクパクと食していく。
……こう言った所を見るとやはり彼女もまた立花響なのだとその場の全員が理解する。
「それで了子くんは何と?」
「えっと……なんか難しい事色々言ってましたけど………」
響が理解できた範囲での必死な説明を聞く限り、どうやら彼女は聖遺物から漏れだしたエネルギーによってこの世界に引寄せられた《別の立花響》らしい。
所謂並行世界の立花響と言う事だ。
ただ聖遺物の起動実験に用いたエネルギーはさほどの量ではなく、漏れだしたエネルギーはそれを更に減らした量。
そこから逆算しーー恐らく彼女が此方の世界に居られるのは精々1日程度だろうと了子もさほど事態を重く見ずにそう言ったらしい。
彼女曰く、聖遺物の実験にこれ位のトラブルは良くある事らしい。
ーーただまあ、その実験自体をS.O.N.G.のトップである弦十郎はこの場で初めて知ったのだが………
「と、とにかく!今日1日だけだけど、もう1人の私をよろしくお願いします!!」
「………は?いやなにあんた。私のなんなの?母親気取りなの?」
「がーん!!あーん私が冷たいよー!!もっと仲良くしよーよー」
「引っ付くな、うざい」
立花響と立花響。
同じ顔をしているけれど、その性格は真逆の二人が戯れるのを見ているとかなり複雑だ。
並行世界の立花響、姿形こそそっくりだがその中身は全くと言って良い程に違う。
その姿を見ているとその場にいる面々は何となく思った。
自分の並行世界の姿ってどんな感じだろう、と。
そんな想いに悩む面々を無視する様に立花響(並行世界)は食事を食べる。
「(…なんか、変な感じ)」
目覚めた時、彼女は既にこの世界にいた。
…《元の世界》の記憶を無くして。
性格に言えばちぐはぐに、と言う感じだろう。
分かる事と分からない事の割合で言えば、分からない方が多いと言った具合にだ。
櫻井了子曰く、恐らく強制的にこの世界に存在を引っ張られてしまった影響だろう、と。
あくまで仮説ではあるが、元の世界に戻った際にその記憶も戻るだろうから安心してこの世界での時間を楽しみになさい、そう言われてこのパーティーに参加している。
例え並行世界の存在でも、今日は《立花響》の誕生日なんだから、と。
「…ふん」
机に並んだ料理に手を伸ばしながら考える。
失われた記憶、それを思い出そうとしても叶わないが、1つだけ分かる事がある。
――何か悲しい出来事があった、と。
とても大事な何か、それを失ってしまった…記憶を思い出そうとするとそんな感覚に襲われ、そして――異常なまでの殺意が胸に湧き上がる。
何かを倒さないといけない、何かをこの世から殲滅しなければならない。
そんな怒りと殺意が異様なまでに湧き上がる。
こんな事をしている時間はないと思わせるくらいに。
「(…そうだよ)」
こんな事をしている時間などないのだ。
1分1秒でも早くあの世界に戻らないといけない。
そこにいる敵を、
「…ねえ、ちょっと良いかな?」
――聴こえてきた声に立花響の身体が無意識に反応する。
こっそりと逃げ出そうとしていた脚が止まり、ゆっくりとその声に引き寄せられる様に顔が動く。
そして、見た。
《彼女》を、胸の奥が張り裂けそうになる程感情を揺らがせる《彼女》を見たのだ。
「えっと…響って呼んでも良いかな?」
「――ッ……別に、どうとでも呼べば良い」
目の前でそう微笑む彼女を見ると、様々な感情が胸の中のかき乱す。
嬉しい、寂しい、会いたくない、会いたい。
反発する感情に胸をかき乱されながらも立花響は冷静に、そして冷酷に答える。
その姿を見ているとかき乱される感情、けれどもその奥で理解していたのだ。
《立花響》が求めている《彼女》は目の前の《彼女》ではない、と。
だから冷酷に、そして冷たくあしらおうとする。
《彼女》ではないと理解しながらも、けれども無意識に求めてしまいそうになる《彼女》を阻もうとして。
「……それで?何の用。私あんまり関わり合いとかしたくないんだけど」
言葉に棘を含ませ冷たく引き離そうとする。
関わるなと、関わらないでくれと。
そう願いを込めて言葉を紡ぐ。
なれどその願いは―――
「――良ければだけど、お話しない?」
彼女の笑顔の提案を前にあっけなく崩壊する。
「え!?そっちの響って成績良いの!?」
「……ん、まあ、ね。時間だけはあるから…」
会場の隅、そこで2人は語り合っていた。
最初はあしらおうとした響だったが、彼女の――小日向未来の強い押しを前に折れると覚えている範囲でのあちらでの生活を語った。
此方の世界と同じくリディアンに通っている事。
成績は毎回上位をキープしている事。
猫が好きな事。
余計な事まで話している、そう自覚しながらも口が止められなかった。
目の前にいる未来に対して、何故か響は止める事が出来なかった。
全てを語りつくしたい、そう思いながら話慣れてないであろう口調で必死に語る響を、未来は笑顔で微笑みながら聞いていた。
ずっとこのまま話していたい、そう思いながらも話を続けて―――《その時》が来た。
「―――あ」
ふと、何気なく己の手を見て察した。
薄れていく己の手を見て、嗚呼終わりが来たんだなと察した。
「――ッ」
その姿を見て未来は慌てて他のみんなを呼ぼうとしたが、それを響が止める。
これで良いんだと、優しく止めたのだ。
「……うん、なんかスッキリした。ありがとね」
立花響の言葉に嘘偽りはない。
最初はあしらおうとしていたのに、冷たく突き放そうとしていたのに、
話をしているといつの間にか救われた思いをしている自分に気付いた。
《彼女》ではない、そう理解しながらも、救われた想いで一杯になっていたのだ。
「…響」
「…違うよ、貴女の《響》はあっち。私は…貴女の響じゃないから」
薄れていく身体、薄れていく心。
意識が段々と薄れていくのを感じ取りながら――ふと思い出す。
自らの世界での出来事を、自らの過去を、思い出して――そして小さく笑う。
嗚呼、何だと。
《私》が救われた思いをしていたのは――あっちの《未来》は、私のひだまりはもういないからなんだ。
嗚呼、何だそうだったのかと笑う。
救えなかった過去を、そしてその原因を作った敵を――《ノイズ》を思い出す。
そうだったと、私がやるべき事を――この胸の怒りの正体を思い出す。
そして同時に理解した。
あちらに戻ると同時にこの記憶は消える。
また孤立した日々を、ノイズを倒す為だけに拳を振るう日々へと戻るのだと。
だからこそ、せめて―――
「……ねえ未来、1つだけお願いしても良い?」
「――ッ!…うん、何かな?」
貴女ではなく未来、そう呼んだ響を前に思わず驚いてしまいながらも未来は問う。
お願いの内容は何かと、聞く。
一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇しながらも、立花響は口を開く。
この世界に《立花響》がいた証を残す様に、そして今日のこんな奇跡をかなえてくれた世界に恩返しする様に、一つの願いを口にした。
「…《こっちの立花響》をよろしく」
自分の世界では叶わなかった現実を、けれどもこちらの世界では叶っている夢を、未来に託す。
どうか《私》を1人にしないでくれと。
その願いを前に未来は――
「――うん、任せて。響は私が守るから」
その願いを受け止める。
彼女のいた世界を知るわけでもなく、彼女の言葉に込められた思いを知るわけでもない。
けれども受けなければならないと思った。
彼女の願いを、受け止めなくては――報われないと《何かが》そう思わせたのだ。
願いを託した者、願いを受け止めた者。
2人は静かに見つめあいながら、そして終わりの時を迎える。
消える立花響に、未来は最後に届けと必死の思いで叫ぶ。
聴こえてくれと、届いてくれと、
「《響》!!!!誕生日おめでとう!!!!いつか…いつか絶対にまた会いに行くから!!!!」
その言葉が届いたのかは誰にもわからない。
届いたとしても、あちらに戻った彼女はこの記憶を忘れている。
だから届いたとしても意味はないのかもしれない。
けれども、小日向未来は確かに見たのだ。
消えゆく最後に―――こっちの響と同じ様なお日様の笑顔を、確かに見たのだ。
無理やりXDにつなげた…ふへへこれでフラグがつながったぜ…(白目)