セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第135話

 

鳴り響く轟音。

フロンティアにいる全ての人が聴こえているであろうそれは激しい音を掻き鳴らしながら――《死神》へ向けて一斉に攻撃を始めた。

 

「な、なんデスかこれはッ!?」

 

「ーーッ!?」

 

その影響をまともに受けているのは切歌と調だろう。

鳴り響く轟音と共に《死神》目掛けて放たれるフロンティアの防衛設備の数々、その余波が二人を襲う。

 

「ーーッ!調!あそこに行くデスよ!!」

 

襲ってくる余波、それから逃れる為に切歌は調の手を握るとすぐ近くにあった余波を避けられそうな窪みへと避難すると、2人で《それ》を見上げた。

降り注ぐ攻撃の嵐、フロンティアに施されていた防衛設備が与えられた役目を果たさんと《死神》へ向けて次々とその機能を以て攻撃し続ける。

異端技術が誇る火力と物量、それは並大抵の物であれば易々と破壊し尽くしてしまう程に激しく降り注ぐ。

 

《―――――――――――》

 

対する《死神》は何もしていない。

悲鳴を上げるわけでもなく、反撃するわけでもない。

ただ立ち尽くし、攻撃の嵐を受け続けていた。

 

「い、いったいどういう事デスか…?」

 

その状況を切歌は困惑しながら見ていた。

フロンティアの現在の管理権限はドクターウェルの手にある筈。

そのフロンティアの防衛設備が《死神》を攻撃している、そんな事あのドクターがする筈がない。

それなのにどうしてと戸惑い、困惑する2人であったがそれに答えるかのように通信機が突然起動する。

 

《聴こえていますか。切歌、調》

 

「え!?こ、この声って……マムデスか!?」

 

「マム!?」

 

2人の通信に突如聴こえたのは、2人にとって大事な家族の1人であるナスターシャの声。

突然の通信に驚きながらもナスターシャの無事が確認できた事に安堵する2人だが、その気持ちはナスターシャとて同じだった。

 

2人の無事、この数時間で起きた様々な出来事の果てにそれが確認できたのは素直に嬉しい事であり、本当ならば話したい事はたくさんある、そう思うのは2人もおナスターシャも同じ気持ちであった。

だが、今はその時間さえ惜しい、そう判断したナスターシャは2人が言葉を発する前に淡々と言葉を紡ぐ。

 

《現在フロンティアの防衛設備の一部管理権限を私が奪取しています。その攻撃は私の手による物です》

 

「デデデ!?これマムがしてるんデスか!?」

 

今現在フロンティアの管理権限はドクター…正確に言えばドクターウェルの腕と一体化したネフィリムによって管轄されており、そのネフィリムから一部とは言え管理権限を奪い取って見せるナスターシャの技術力は流石と言うしかないだろう。

だからこそだろう、切歌がその質問をしたのは――

 

「でもマム、こんな攻撃してもあいつには意味が無いデスよ!!」

 

そう、あの攻撃の嵐を受けても――《死神》には効果がない。

どれだけの火力を浴びても、どれだけの物量を受けても、《死神》の外皮には損傷らしき損傷が見えない。

異端技術の塊であるフロンティアの防衛設備でこれなのだ、もしかしたら核ミサイルを受けたとしてもあいつは無傷でいるかもしれない。

そんな恐ろしい妄想に身震いしながらも問うた切歌の質問に、ナスターシャは告げる。

 

《ええ、理解しています。ですからこの攻撃の目的は倒す事ではありません》

 

「…?それってどういう意味デスか?」

 

ナスターシャの言葉の意味が理解できないと頭を傾げる切歌であったが、それとは反対に調はまさかと《死神》を見上げる。

降り注ぐ攻撃の嵐、それは徐々にでこそあるが《死神》を後退させていく。

一歩、一歩とゆっくりとではあるが、確実に後退させている。

その果てにあるのは――崖。

それらを見ていた調はこの攻撃の目的が何にあるのかを即座に理解した。

 

「――ッ!駄目!!マム攻撃をやめて!!」

 

ナスターシャの言葉の意味、それは《死神》をフロンティアから《死神》を突き落とし、フロンティアにある防衛設備の1つ、重力操作で《死神》を海底奥深くに沈める事にあると理解した調はナスターシャへ向けて叫ぶ。

理由は2つ、1つは《死神》の中にいる人物の為。

いくら《死神》が無敵だとしてもその中にいる人物はそうではない可能性がある。

そうなると海底奥深くにまで沈められれば水圧で死んでしまうかもしれない上に、フィーネが残してくれた中にいる人を助ける計画が破綻してしまう。

そしてもう1つは―――

 

「マム!!すぐにそこから逃げないと!!」

 

――あの男がナスターシャに害する可能性が極めて高いからだ。

彼が《死神》を崇拝しているのはもう誰もが知っている周知の事実だ。

だからこそその《死神》を害そうとしているナスターシャをあの男が許す筈がない。

ナスターシャは言った、奪い取ったのは防衛設備の一部管理権限だけだと。

ならばそれ以外の全ての権限は未だにあの男の手にある、ならば――ナスターシャの命1つ奪う位容易い筈。

 

「そんな…逃げるデスマム!!あいつならアタシ達がなんとかするデスから!!」

 

「逃げてマム!!」

 

必死に声を荒げる。

今この瞬間でさえもその命が失われるかもしれない、そんな恐怖に震えながら。

共に戦う仲間として、そして大事な家族として、失いたくないと必死の思いで叫ぶ。

けれども―――

 

《聞きなさい切歌、調。私はもう――長くありません。2人もそれは理解しているでしょう?》

 

――その言葉に2人の叫びが止められる。

 

「それは――でも!!」

 

2人とて理解はしていた。

ナスターシャの命、それがもう長くはないと言う事を。

今日までドクターによって処置を受けていたからこそその命を繋いでこれたが、それも端的な言葉で言えば――延命でしかないのだ。

ナスターシャの身体は当の昔に限界を迎えている。

本来ならばどこかの医療機関に居なければならない程に悪化した身体を無理やり動かしているツケは、彼女の寿命を奪う事で成り立っている。

そんな状態にある事を2人は知っているし、突然ナスターシャの命が失われる可能性がある事だって理解している。

 

《……私に残された命は罪を償うには少なく、きっと貴女達に更なる重みを背負わせてしまいます。それならば…今できる限りの償いを果たし、残されてしまう貴女達に課せられる重みを少しでも持っていく。それが私にできる償いなのです》》

 

2人は理解する…理解させられる。

ナスターシャはもう諦めているのだと。

自身が助かる事を、生き残る事を。

そして残された命全てを――残される私達の為に使おうとしている、と。

 

「――ッ!!そんな…そんなの可笑しいデス!!マムだけが罪を背負うなんて可笑しいデスよ!!アタシ達だって悪いんデス!!ドクターに騙されて!!世界中滅茶苦茶にして!!――アタシ達だって罪を償わないといけないんデス!!調やマリアと、そしてマムと皆で一緒にッ!!だからッ!!」

 

「お願いマム!!きっと二課の人達ならマムの病気だって治せる!!だからッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「生きてマムッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……歳を取ったら涙腺が緩くなるとは言いますが…全く……」

 

2人の叫び声が聞こえる。

生きてと、一緒に生きようと、そう告げる声が聞こえる。

思わず答えてしまいそうになる声、甘い願望を出してしまいそうになる声。

 

――愛おしい家族の声。

 

「……ありがとう優しい子達」

 

聴こえる愛おしい声、愛する家族の声。

ずっと聞いていたくなるその声を――通信機の電源を切る事で遮断する。

 

「…けれども、これは私が成さないといけない事なのです」

 

ナスターシャが視線を向けるのは1つの映像。

突如姿を現した仮面の少女によってもう一度立ち上がる気力を取り戻したマリアが歌おうとしている。

もう諦めないと、そう言わんばかりに覚悟した面持ちで。

 

ならば私はその想いに答えなければならない。

民衆を恐怖に陥れた《死神》、奴をこのフロンティアから叩き落す。

そうする事できっと民衆はもう一度歌声を聞いてくれる筈だ。

あの子が――マリアが大好きな歌声はきっと世界に響いてくれる。

その為ならば――罪に塗れたこの命、捨てるに惜しくはない。

 

「―――落ちなさい」

 

ナスターシャの視線は《死神》へ向く。

フロンティアの防衛設備から降り注ぐ攻撃の嵐が確実に一歩、一歩と奴を後退させていく。

 

「――落ちろ」

 

奴は抵抗さえしない。

降り注ぐ攻撃の嵐、その衝撃を受けてただただ後退していく。

 

「落ちろ!」

 

段々と崖が迫る。

目指すべき到達点が、ゆっくりと迫っていく。

 

「落ちろ!落ちろ!!落ちろ!!!!」

 

もう少し、もう少し、もう少し!!

握りしめた車いすのレバーが悲鳴を上げる、それ程までに力強く握りしめナスターシャはそれを見つめる。

崖に到達した《死神》を、降り注ぐ攻撃の嵐を、

そして――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やってくれたなぁ、ババァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――攻撃が、止まった。

《死神》をあと一歩の所まで追いやり、後一撃でも当たれば落とせるであろうと言う段階で、止まった。

それと同時に聴こえた声にナスターシャは――静かに目を瞑り、そして謝罪する。

 

《間に合わなかった》と。

 

 

 

 

 

 

 

 




ドクター活躍
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