セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第136話

 

「ドクター、ウェルッ!!」

 

ナスターシャは苦々しい感情を胸にその名を呟く。

もう少しだったのに、と。

もう少しであの《死神》を叩き落す事が出来たのに、と。

 

《…なぁんかやっているって知ってはいましたけれど、まあ所詮ババァの悲しい抵抗だって見過ごしてやってたのに…よくもまあこんなふざけた真似してくれたなぁ…ババァ》

 

対するドクターウェルの声は冷静でこそあるけれども、言葉の節々から堪え切れない怒りが滲み出ている。

無理もない、彼からすれば崇拝する《死神》を害そうとしたと言うだけで十分な理由となるのに、ナスターシャが行おうとしたのは《死神》の海底封印と言う英雄の末路にふさわしくない終わり方。

《死神》を英雄視する彼からすれば、それはもう許されない行為であった。

それらの理由を以て男は怒りを胸に抱く。

止まらない憤りを、燃やし尽くしそうな憎悪の炎を、胸に宿す。

 

「――ッ!聞きなさいドクターウェル!!今その《死神》を落とさなければ世界が終わってしまうのです!!《死神》さえいなければマリアの歌が世界に響き、旋律となって月の落下を防ぐ手立てとなるのです!!貴方とて世界の終焉を望んでいるわけではないでしょう!?ですから――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴーちくぱーちく騒ぐなババァ!!!!世界の終焉!?マリアの歌が世界を救う!?なぁぁに寝ぼけた事ほざいてんだよ!!!!僕にとって大事なのは――僕の英雄と僕の英雄が支配する世界だけなんだよぉぉ!!!!僕はもう決めてるんだ!!!!このフロンティアで僕は僕の英雄と共に僕達の世界を作る!!!!僕の英雄が絶対の王として君臨し、僕がそれを支える素晴らしい世界をぉぉぉ!!!!!その素晴らしい世界を、僕の英雄を否定するこんな世界なんか知るかってんだ!!!!月が落ちようが核が爆発しようが知るか!!!!勝手に滅んでろバーカぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聴こえるおぞましい欲に満ちた雄叫び。

それを前にナスターシャはただ黙って歯を噛み締めるしかなかった。

もう、この男には私の…いいえ、誰の言葉も届かないと。

 

《しかしまあ馬鹿の一つ覚えみたいに月月月!!!!そんなに月が好きってんならぁぁぁ!!!!》

 

ドクターウェルは怒りに身を任せて己の腕に一体化したネフィリムを通してとあるシステムを――ナスターシャが居る区画を射出させようとする。

本来ならば緊急脱出時用の区画射出システムだが、流石は異端技術の結晶であるフロンティア。

この出力ならば容易く月までの片道切符を果たせるだろう。

だからこそドクターウェルはそれを起動させようとする。

大好きな月へと飛ばして殺してやる、そう息巻いてそれを起動させようとして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――――はん、とりあえずお前は後回しだ。そこで大人しく震えてろ》

 

 

 

 

 

 

 

 

――その言葉を最後にナスターシャが居る区画の明かりが落とされた。

試しにと操作を試みてみるが、此方側からのアクセスは全て拒絶されている。

この区画全てのシステム操作権限を奪われたのだと理解し、こうなっては自分に出来る事は何もないと己の無力さを嘆くと同時に1つの疑問を抱く。

 

「…どうして……」

 

――どうして、あの男は私を殺さなかったのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これで良いですか?」

 

ドクターウェルは端末に接続しているネフィリムと一体化した逆の手を挙げながらそう問いかける。

己の背後に立つ女性に、その手に槍を握る少女に。

 

「ええ、上等です。後は貴方が死んでくれたら万々歳なんですけれど」

 

少女の名はガリス。

マスターセレナに仕える従者であり、家族でもあるオートスコアラーの一体。

そのガリスがドクターウェルに槍を突き立てる。

少しでも動いたら突き刺す、そう言わんばかりに。

 

「――それで?」

 

――その状態でガリスは問う。

圧倒的有利な状況で、ほんの少し手を伸ばすだけでその命を奪える状態で、ガリスは問う。

問わなければならない問いを、問う。

 

「…それで、とは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――どうしてわざと捕まったのか、と聞いているのです。ノイズを出すわけでも、ネフィリムを使うわけでもなく、無抵抗で意図的にこの状況を作り出した理由を問うているのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガリスがこの男を捕えた時に感じたのは、マスターからの使命を達成できた満足感でもなければ、やっとの思いで捕まえる事が出来たと言う安心感でもない。

ただただ、気味が悪かった。

己の目的達成の為ならば自身が持つ天才と言う名にふさわしい知識を最大限フル活用するこの男が、ノイズを呼び出す事もなければネフィリムを使って抵抗さえせずに大人しく捕まる。

それも彼にとって愛しの《死神》がいるこの状況で、だ。

 

――あり得ない。

崇拝すべき対象が居る前でこの男がそんな愚行を犯すとは到底思えない。

何かがある、そう判断したからこそガリスは問うた。

意図的に捕まり、己の命の運命を少女に握らせる、そんな男からすれば最悪な状態を作り上げた理由を、問う。

返答次第では捕縛と言うマスターからの命令に背いてでもその命を落とすと槍を握りながら。

 

そして、そんなガリスの問いにドクターウェルは―――満足げに笑みを浮かべた。

 

「くふ、くふふ…!!流石は僕の英雄の仲間だぁ!!他のバカどもよりも知能が優秀だぁ!!」

 

ドクターウェルが零した言葉にガリスは警戒を強める。

 

「(こいつ…あの暴走状態のマスターと仮面の人物が同一人物だって見抜いてる!?)」

 

《死神》の正体を知っている、それだけで処分する理由になった。

無意識にガリスは己が握る槍を男の心臓に突き刺そうとする。

彼女達オートスコアラーが発揮できる力の前では例えネフィリムと一体化している身体であろうとも容易く貫通して見せるだろう。

その力を以てガリスは男を仕留めに掛かる。

こいつを生かしておくのは危険だと、生かしてはおけないと。

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――此処に誓おう!!!!今後僕は僕の持つ全てを以てあの英雄に仕えると!!!!この知識も!!!!命もなにもかもを捧げよう!!!!だからどうか――僕を貴女達の仲間にしてほしい!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――清々しい程の笑みを以て、男は跪いた。

王に従う中世の騎士の様に、男はガリスと遠くに見える《死神》に跪き、忠誠を捧げた。

 




ドクターウェルがなかまになりたそうにこちらをみている
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