セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「――はぁ?」
一瞬、この男が何を言っているのか理解できなかった。
この状況で、己の命が失われようとしているこの瀬戸際で、この男は従属を誓おうとしてきた。
「必ずや僕の知識はあの御方の力になる!!だから僕を貴女達の仲間にしてほしい!!」
――最初は醜い命乞いだと思った。
死にたくないと言う願望から出た嘘だと、この場を凌ぐ為の嘘だと、そう思った。
だが、すぐにその可能性を否定する。
己の命が失われるかもしれないこの状況を自ら作り出した事。
そして――男の瞳に宿る狂気に満ちた喜びがこれが命乞いではなく、本心からの望みである事を理解する。
「…あんた何言っているのか理解しているの?」
そんな狂気の瞳を前にガリスはただそう告げる。
この男からすればこの男が目的に定めている《己が英雄として扱われる世界(笑)》への理想到着はもう間もなくだ。
邪魔する勢力を排除し、自身を英雄だと……いや、王だと認める人物だけをこのフロンティアに乗らせて宇宙へと逃れる。
そんなゴールを目の前にして、この男は従属を誓おうとしているのだ。
己の目的を失ってまで――
「理解していますよぉ!!今の僕にとって大事なのは僕の英雄にィ!!あの御方にお仕えする事だけだぁ!!!!」
「――それであんたの理想とやらが崩壊しても?」
「無論当然です!!なんなら月の落下阻止にだって全力で協力しますよぉぉ!!共に僕らの王をお守りしようじゃないですかぁぁ!!!!」
――狂ってる、それがガリスがこの男から得た感想だった。
狂気に囚われた人間とはこうも壊れるのかと思わず感心してしまいながらも、ガリスは迷った。
「(……こいつの存在は危険だわ)」
この男が今まで起こしてきた所業の数々だけでも断罪するには十分だと言うのに、こいつは《死神》とマスターが同一人物である事を見抜いている。
もしもその情報が洩れたら……最悪だ。
ならば今この場で仕留めておいた方が良いかもしれないが、
「(…だけど、その危険性に相応しい位に…この男は使える)」
櫻井了子レベル、とまでは行かなくてもこいつは天才を自称するだけあって研究者としてみれば間違いなく優秀な人材だ。
櫻井了子以外で唯一LiNKERを製造し、異端技術を始め多くの専門知識を有しており、その身体にはネフィリムを宿している。
もしかしたらこの男の知識ならばマスターを《死神》から戻す方法を見つけ出す事が可能かもしれないし、今後この男の知識を利用できると言うならばそれは間違いなく力となる。
それに手元に置いておけば万が一の場合に――始末するのが楽だ。
故にガリスは迷った。
この男の危険性と利用価値、その2つを天秤に並べて考えようとして―――
《ソレ》は鳴り響いた。
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《死神》は《彼女》が戻ってきたのを感じた。
《死神》の身体で最も安全な場所に戻ってきた彼女。
そこから感じる彼女の温もり、それが停止させていた全身へと駆け巡る。
全身へ、全身へ、全身へ。
駆け巡る温もりは次第に身体を動かすエネルギーへと変換されていく。
ゆっくりと動き出す身体と共に停止していた思考が動き始め、停止していた間に見ていた光景が再生される。
――そこには《敵》しかなかった。
動きが止まっている間に止めを刺そうと画策する者、フロンティアから叩き落して海底に眠らせようとした者。
敵だ、敵しかいない。
此処にはやはり彼女を傷つけようとする敵しかいないのだ。
《(――マモラナイト)》
《死神》は再度決意する。
彼女の敵を皆殺しに、彼女に安息をもたらさないといけないと。
故に《死神》は動かなければならないと全身に命ずる。
速く、速く、速く、と。
「マム!?聴こえているですかマム!?」
「マムどうしたの!?マム!!」
まずはこの2人だと決める。
彼女の心をかき乱す存在、彼女を傷つけようとした存在。
――そして、《アレ》を奪った存在。
消さなければ、破壊せねば、殺さなければ、取り戻さないと。
循環したエネルギーが徐々に身体を慣らし、動かしていく。
もう少し、もう少しで動く。
もう少しであの子を傷つける者を始末出来る。
優しい彼女を、誰かが傷つく位ならば己が傷つく心を持つ彼女を、守れる。
その為ならば、私はどんな汚名でも、どんな浴びよう。
私はその為に此処にいるのだから。
故に、死ね。
あの子の平穏の為に、あの子の優しい心を壊してしまう前に、
―――――死んでくれ。
《――――――ア゛》
咆哮と共に振り上げる腕。
未だに動きづらい身体から繰り出すのは単なる純粋な物理攻撃。
なれど十分だ、彼女達を殺すのには十分すぎる位だ。
完全なる不意打ち、確実に直撃する一撃であった。
だが――――
「ハアァァァァァァァッッッ!!!!!」
それを阻むのは1人の少女の拳。
絆と言う言葉を信じ、傷つきながらも優しい心を持つ少女が、
一度は戦う力を無くし、それでも戦場から離れる道を選ばなかった少女が、
―――立花響が、それを阻んだ。
立花響復活