セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「…正直、私も全てまでは理解しきれてない。だからうまく話せないかもだけど……」
そう前振りをしてから月読調は自身に残されたフィーネの記憶とそこにある計画を説明していく。
調自身、あまりにも突発的でそう易々と信じる事の出来ない奇妙なそれを――
フィーネ曰く、あれは――先史文明期が栄えるよりも遥か昔に存在していたとある生物の生き残りだと言う。
先史文明期における人類 ルル・アメルはそれを多種多様な名前で呼んだとされ、その中で最も多く使われた名前が――《神》。
ルル・アメルを支配していたとされるカストディアンにさえも管理が出来ずに圧倒的な力を振るうその姿から人々は《神を倒せる存在》としてそれを信仰、一部の人種のみであったがカストディアンの支配を良しとしない人々がこれをいずれ訪れるであろうカストディアンとの戦いで用いようとしていたとされる。
そんな存在に危機感を抱いたカストディアンはこの生物達を殲滅せんと先手を打ち、戦いを繰り広げた。
その戦いは激しい激戦となり、地球全体を一度戦場へと変えてもなお続き、その果てに――カストディアンは勝利した。
それまで数百はいたとされるこの生物達はそのほとんどを討ち取られ、生き残った数体はこの星を捨てたとされていた。
…最低でも数少ない過去の歴史を知る事が出来る品々からはそう読み取れた。
だが、この星にまだ1体残っていたのだ。
《神》と呼ばれ、カストディアンに恐怖を与え、ルル・アメルに希望を与えかけた存在がまだ1体生き残っていたのだ。
「…それが今目の前にいる存在、だとッ!?」
思わず翼がそう叫ぶ。
今の話が本当だとすれば目の前にいる存在は遥か昔から生き延びてきた化物だと言う。
これまで一度も発見されるどころか情報さえ出てこなかった存在がどうして今出てきたのか、そう問いたくもなるが今はそれを堪える。
この状況で最も優先すべきは質問をして時間を阻む事ではない、彼女の口から語られる情報を全て知る事が先だと続きの言葉を待つ。
だが奇しくも続いて出た言葉は翼の思いとどまった質問の答えとなっていた。
「…事の発端はずっと昔のエジプト」
――とある女王が統べるエジプトに1人の男が流れ着いた。
男の名前までは分からなかったが、その男は当時のエジプトの女王に1つの鏡を授ける代わりにこの国に居を据える許可を求め、女王はその男と男が授けた鏡をたいそう気に入り、男を自身の近衛として雇い入れた。
それ以降、女王は男が授けた鏡を――黒い手を操る鏡を用いて幾人もの罪人と女王に逆らった人々を次々と殺していった。
最初は本当にそう言った人だけを相手に行われたそれは次第に数を増していき、遂には罪のない人さえも鏡によって殺す様になっていった。
その時点でもはや女王は正気ではなかったのだろう。
鏡によって殺される人々の姿と泣き叫び助けを乞う姿を笑い、人々に恐怖を与えた。
そんな女王が死に、国が崩壊していく中で男は女王に授けた鏡を回収しようとしていた。
もう男にとってこの国にいる意味はない、だから鏡を回収したらさっさとこの国を去ろうとして。
だが、男が鏡を見つけた時――それはもう別の物へと成り代わっていた。
黒い手を操るだけの鏡だったそれは無数の人々の命と心、そして感情を喰らい――1つの道と成っていた。
男は鏡の中に続く道を通り、そして――1体の《神》と出会った。
それこそが、カストディアンとの戦いで敗北し、地球を去って行く同族を見送りながらもこの星に居座る選択を選んだ地球にいる最後の《神》だった。
そこからだった、男の願いが形を歪めていったのは。
男は自身が考え続けた計画を達成する事と併用して《神》の研究を続けた。
あの力を知りたい、研究者ならば誰もが抱く知識欲に従って男は《神》を調べ続けた。
その為ならば男はそれまで敵対していた者にさえも頭を下げ、協力を要請したと言う。
その1人が――かつてのフィーネだった。
男の元には多くの人が集まったとされる。
国も人種も民族も関係ない、全てが共通の願いを果たす為に集まった人達。
その人達と触れる中で男の中で何かが変わり、そして男に1人の親友と呼べる仲間が出来た。
男とその親友、そしてフィーネ。
不思議と息があうその3人を中心に時に笑い、時に苦しみ、時には争いながらも共に活動をし続け、そして1つの研究成果を生み出した。
何かに《神》を憑依させて呼び出す、その方法を彼等は完成させたのだ。
既に《神》自身を鏡の世界から呼び出す事は不可能だと言う結果は判明していた。
ならば《神》自身ではなく《神》を何かに憑依させれば呼び出せるのではと考え生み出されたのがこの方法だった。
この完成に3人を含め誰もが喜んだ。
今までの苦労が遂に報いたと誰もが喜び、抱き合い、歓喜した。
この時だけはあのフィーネでさえもが笑顔を見せたという。
――だが、彼らが喜ぶのはこれが最後だった。
神を憑依させて呼び出す方法、それ自体は確かに完成した。
だがその続きが上手くいかなかったのだ。
最初は小動物を用いた実験から始まったそれは彼らの期待する成果を生み出せなかった。
確かに《神》は一度は憑依してくれる。
だが次の瞬間にはすぐに消え去り、憑依仕掛けた動物はまるで体内の水分1つ残らずに絞り出されたかの様にミイラになって死んでしまう。
これではいくら方法を完成させても意味がないと誰もが悩み苦しんだ。
そして――1つの提案が自然と出た。
《人体実験》、その言葉が彼らの仲を切り裂く原因となるとは知らずに――
人体実験に賛同したのは鏡の持ち主である男を始めとする組織の大半だった。
既に彼らの知る限りの動物による実験は全て行われ、そして失敗に終わっている。
ならば残された手段は人体実験しかないと言う意見が主体であり、研究者としては間違いなく彼らが正しいだろう。
対する反対派は男の親友とフィーネ、そして彼等に味方する少数だった。
動物実験で実験対象となった生物の末路を知っている彼等は安全性が確認されていない状況での人体実験は非人道的行為だと猛反発し、最低でも安全性の確保が済んでから行うべきだと言う意見が主体であり、人間としては彼等は間違いなく正しかった。
研究者と人間。
ぶつかり合う双方の意見は次第に対立となり、そして遂には――組織を割った。
男が主体となる新組織と男の親友が主体となる旧組織。
これ等は完全に分裂を果たし、そして争いを始めた。
《神》の君臨を果たすべきだと考える新組織と《神》はあの世界で眠らせてあげるべきだと考える旧組織による対立が始まったのだ。
その中で男は人体実験を繰り返した。
ある人物はミイラの様になって死に、ある人物は内部から爆発四散して死に、ある人物は其処にいたと言う事実が嘘であるかのように霧になって死に、ある人物は溶けて死に、ある人物は皮膚だけを残して死に、ある人物は苦しみにのたうち回って自ら死を選んだ。
死、死、死、死、死。
男は幾度も死を繰り返した。
その果てに正しい答えがあるのだと、その果てに待つ結果を知れば親友達も理解してくれると、繰り返して――ある可能性に気付いた。
繰り返される死の中で見つけた法則。
その法則通りならば《彼女》が適任だと。
男は理解していた。
その可能性が2人の仲を完全に終わらせるものだと理解していながらも、それでも男は止められなかったのだ。
――親友の娘を実験対象に選んだのだ。