セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第128話

 

ずっと一緒だと思っていた。

大好きな調とずっと、ずっと一緒に居られるって思ってた。

大人になっても、おばあちゃんになっても、

私と調が離れる事はない、そう信じていた。

 

けれど――そんな《ずっと》はあっさりと壊された。

脳裏に焼き付いた光景が幾度も再生される。

血に塗れた調、心地よい温もりが消え去った調、光の無い瞳の調。

再生される光景を見る度に再認識させられる。

 

奪われたのだと。

私の幸せを、私の家族を、奪われたのだと。

だから――復讐を果たそうとした。

 

調を殺したあの女を無残に、徹底的に殺してやろうと思った。

お前が誰を殺したのかを知らしめる為に、躊躇なく殺してやろうと思った。

その為ならこの手が血に塗れようとも、大好きな歌で命を奪うとも、構わなかった。

だって、それしかないのだから。

もう彼女はいない、もうあの笑顔を見る事は出来ない、もう、もう―――

 

だから殺す。

絶対に、何があっても殺す。

相手の事情なんて知るものか、世界がどうなろうと知るものか。

暁切歌から月読調を奪い取ったその罪を、この手で晴らさねば許せない。

それを阻むのであればそいつも殺す。

女も男も子供も老人も関係ない。

殺して殺して殺して殺して殺して―――殺し尽くそう。

 

その為にこの《歌》がある。

聞いているだけで心地よく、優しく、そして力をくれる。

望みを叶える力を、復讐を果たす力を、この歌は私にくれる。

 

聴こえる、歌と共に。

力を振るえと、望みを果たせと、《奴》を倒せと。

歌声と共に胸元で光が強まり、その光が私を動かす。

 

痛みも苦しみも私の動きを止める理由にはならない。

血が飛び散ろうとも、身体が可笑しくても、止まらない。

あいつを殺すまでは、止まらない。

 

見える、見える、見える。

あいつが見える、殺すべき相手が――あの死神が見える。

私の復讐を邪魔する奴が、あそこにいる。

 

――理解している、私の歌ではあいつには敵わない。

普通に戦えば間違いなく負ける、それは決定事項だ。

だから、普通に戦わない。

此方に背を見せている今こそ最大の好機だ。

例え死神でもこの鎌――イガリマの力を以て首を切り落とせば殺せる。

 

地を跳ね、宙に飛ぶ。

狙うは死神の首。

この鎌を以てして切り飛ばし、復讐の最大障害を排除する。

その後は風鳴翼を殺して復讐を果たし、二課の装者も殺して――それで……

 

《………ソ…レ……デ?》

 

……それで、どうするのだろう?

大好きな調はもう…いない。

この世の何処にも、もういない。

あの笑顔を見る事も、あのぬくもりを感じる事も、もう出来ない。

もう、二度と会う事が出来ないのだ。

そんな世界に残されて……どうしたら良い?

 

ふと空を、見上げる。

ドクターウェルの暴走で迫りつつある月を、あれだけ必死になって止めようとしていた月を。

そして、思う。

もう、良いんじゃないかと。

こんな世界を救った所で、私が一番救いたかった人は、もういない。

だったら――こんな世界終わってしまえば良いんだ。

 

一部の人だけが救われる間違えた世界。

そんな汚い世界なんて、壊れて消えてしまえば良いんだ。

――そうだ、そうしよう。

この復讐を果たしたら、そうしよう。

月を落とし、この世界を終わらし、そして――死のう。

そうすれば大好きな調にまた会える、また調を感じる事が出来る。

 

――そうだ、そうだ、それしかない。

《歌》が賛同する様に甘い音色で更に力を与えてくれる。

そうしろと、それが良いと。

 

だから私は鎌を振るう。

目指すべき終わりは決めた、ならば後は突き進むだけだ。

まずは復讐を終わらせる、その為にこいつの首を刎ね飛ばしてやろうと鎌を振るおうとして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――させない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《それ》は声と共に目の前に姿を見せた。

強い意志を秘めた声で、聴き慣れた声で、

見慣れた姿が、暁切歌にとって絶対に忘れる事など出来ないその姿が、

 

《月読調》が、其処にいた。

 

 

 

 

 

 

 

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《――――シ―――ラ―――ベ?》

 

向けられる戸惑いの声。

困惑し、混乱し、恐れる様に声を絞り出している。

目の前の存在が幻ではないのかと、疑う様に。

だから私は――その手に抱き着く。

大きくなってしまっても、何も変わっていない切ちゃんのぬくもりを感じる事が出来るその手に。

 

「…うん、そうだよ切ちゃん、私だよ」

 

《――ウソ――ダッテ――》

 

切ちゃんの手から感じる温もり。

それと混じる様に、切ちゃんの不安定な感情が伝わる。

信じられないと、恐怖に染まった戸惑いが伝わってくる。

暁切歌が最後に見た月読調の光景が、伝わって見えてくる。

 

「(…切ちゃん)」

 

その不安定な感情を月読調は理解出来た。

もしも逆の立場なら、私だって目の前の光景を理解できないだろう。

死んだと思っていた切ちゃんが姿を見せても、きっと私はすぐに受け入れられない。

永遠に失ってしまった大事な人、もう触れ合えない大事な人。

それが目の前に突然現れたら、喜びより先に戸惑い、そして不安になる。

幻じゃないのか、触れたら消えてしまうんじゃないのかって。

 

だから、私はしっかりと手に抱き着いて私の温もりを伝える。

此処にいるって、幻じゃないって、教える為に。

 

《―――ァ―――ァぁ》

 

暁切歌は感じていた。

変貌を遂げた巨大な己の腕に感じる温もりを。

もう二度と感じる事が出来ない筈のその温もりを――《月読調》の温もりを、感じ取っていた。

伝わる、伝わる、伝わる。

幻じゃないと、此処にいるんだって伝わる。

失ってなんかいないんだって、教えてくれる。

 

《――――――――》

 

《歌》が聴こえる。

それは幻だと、お前の成すべき事はそうじゃないのだと。

力を振るえと、その幻を倒せと、あいつを倒せと《歌》が命じる。

 

「―――うるさい――デス――ッ」

 

その《歌》に、暁切歌は――抵抗する。

あれだけ優しく居心地が良い音色に、まだ浸っていたくなる《歌》に、自らの意思と覚悟で反発する。

 

確かに一度は思った。

調のいない世界なんてどうにでもなれ、と。

壊れてしまえば良いんだって、思ってしまった。

 

けれども、違った…違ったんだ。

――この温もりが教えてくれた。

もしも、もしも本当に調がいなくなっても――きっと調は復讐とか世界の破滅なんて望まない。

だって、調はこの世界が大好きだったから。

辛い事もたくさんある、けれども楽しい事もたくさんあるこの世界が、大好きだから。

調だけじゃない、マリアやマム、私も。

そしてそんな大好きな世界に、調がいる。

失いたくない人が、親友が、家族が、大好きな人がいる!!

だったら――だったら――!!

 

 

「私は―――!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…いったいなんなの?」

 

奇襲を仕掛けた化物、その化物の前に立ち塞がった月読調。

突然の出来事に思わず困惑し、様子見をしていたガリスであったが――

 

《――――》

 

《死神》が動き始めた事で状況が変わる。

死神の右手に集い始める黒い液体。

それが何を意味しているのか、ガリスは一瞬で理解する。

 

「――ッ!!」

 

黒の液体から作られるは白いガングニール。

天羽奏が持っていたそれと全く同じ形のそれが、一切の躊躇なく振るわれる。

――ガリスに、ではなく己の後ろにいる1人と化物目掛けて。

 

「ちょっとちょっとちょっと!!!」

 

ガリスが慌てて水の盾を作ろうとする。

化物がどうなろうと知った事ではないが、マスターを元に戻せるであろう知識を持つ月読調を失うわけにはいかない。

だからこその水の盾だったが…それは間に合わない。

時間の問題、盾となる水の問題、距離の問題。

複数の問題が合わさり、とてもではないが間に合わないと言う結論が彼女の人工知能に生み出される。

それに仮に間に合った所で、あのガングニールの一撃を防げる確率は圧倒的に低いだろう。

 

「――ッ!!逃げなさい!!!!」

 

せめての抵抗、だろう。

ガリスは必死に叫ぶ、死んでは全てがおじゃんだからと必死に叫ぶ。

けれどもその叫びより先にガングニールの一撃は迫る。

純粋なる破壊の結晶たる一撃が、1人と1匹の化物を屠らんと迫り、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重々しい金属音が、鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「―――」

 

月読調はただ呆然としていた…いや、するしかなかった。

迫る一撃、破壊と慈悲を織り交ぜた命を奪う一撃。

それを避ける術など月読調には無かった。

例えシュルシャガナを全力で起動させて防いでも、あの一撃の前では呆気なく砕け散っただろう。

 

けれど、せめて切ちゃんだけでも守りたい。

その想いでシュルシャガナが持つ2振りの回転鋸を起動させていた。

切ちゃんを守る盾として。

けれどもその盾は使われる事はなかった。

 

何故ならば――――

 

 

 

 

 

 

「――わた、しのぉ…私の調にぃ……何するんデスかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

月読調が良く知る彼女が――《暁切歌》が、それを防いだからだ。

 




暁切歌復ッ活ッ!!

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