セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
ゆっくりペースでの再開ですので、遅くなりますがよろしくお願いいたします
――フロンティア消失から数時間後 シャト――
「……………ひま、ですねぇ」
シャトーのとある一室。
普段使われる事の無いその部屋は今とある人物を拘束する為に使われていた。
両手両足を見た事もない拘束具で結ばれ、複数のアルカ・ノイズが部屋の入口を見張る。
逃げ出せばどうなるのかは誰でも分かるだろう。そんな徹底とした監視の下で拘束されているドクターウェルは暇そうに天井を見詰めていた。
あの戦いの最後の時、ドクターは謎の通信を受けた。
《装者がいる区画を排出し、今から出現するゲートに飛び込め》と。
普段の彼であれば見た事もない他人からの指示に従うものかと無視を決め込んでいただろうが、彼は状況から推察してこの通信相手は自身が拝み崇めている英雄の仲間であると判断し、即座に従った。
その判断を悔いてはいない。
実際、彼は己の判断のおかげで窮地に一生を得て助かっている。其処に間違いはないだろう。
だが、よかったのはそこまでだ。その後に彼に待っていたのは、英雄が率いていたノイズ達によるフロンティアの占拠。そして彼は英雄に会う事なく両手両足を拘束の上に部屋に監禁となってしまった。
「はぁ…ほんっとうにひまですねぇ…」
フロンティアを操作するのに必須なネフィリムはフロンティアと融合したままである。
ネフィリムを自身の腕と同化させていたウェルならば今すぐにでもネフィリムに命令し、フロンティアの機能を全て稼働させて脱走…までは無理だとしてもひと暴れする位は出来るだろう。
だが、そんな無駄な事はする気はないのだとウェルは天井のシミを数える作業を続ける。
確かに拘束されたのは不満ではある。だが同時に打倒な行為でもあると納得もしている。
向こうからすればドクターウェルと言う存在は敵であったり味方であったりと読めぬ相手であり、そしてその利用価値はただ切り捨てるのにはもったいないレベルなのだろう。
だからこそ、生かされた。
ネフィリムの力があるとは言え、所詮は単なる人間でしかない自分が今もなおこうして生きている――いや、生かされているのがその証拠だ。
利用価値があるのか、そしてその価値は捨てるには惜しい者なのか、それを確かめる為に。
その話し合いがどういった形で進んでいるのかは分からない。
ただ、ドクターウェルは確信していた。
きっと、いや間違いなくそろそろ――
《出ろ。我らが主がお呼びだ》
「――あは♪」
――その利用価値を示す機会を得られるだろうと。
「お前がドクターウェル、か」
――其処を言葉で表すなら、ファンタジー小説にありそうな魔王の間だろう。
見渡す限り存在する武装したノイズの群れ、そのノイズの群れの前に立つ9人の乙女。
そして――部屋の中で最も圧倒的存在感を示すのは玉座に座った少女。
「(まるで、日本のライトノベルの再現ですねェ)」
以前、研究に何かしらの役に立つのでは?といくつか読んだそれが脳裏を過る中で、ドクターウェルは相も変わらずの拘束具姿であったが、今自身が行える最大限の礼儀を以て頭を垂れた。
「はい。私の名前はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス――親しい者達からウェルと呼ばれている冴えない科学者です。まずはこの命を助けていただいたお礼を――」
「いらん。決してお前を助ける為に行った行動ではない。お前は単なるおまけに過ぎん」
これはお手厳しい、と内心肩をすくめながら男は頭を下げ続ける。
今もなお見極められている。そう理解しているからこそ男は従順に目の前の幼女に従う。
全てはあの御方に出会う為に、と。
「…キャロル様。こいつ殺しましょう。そうするべきです。そうしましょう」
そんなウェルに殺意を振り向けるのは、ガリス。
回収後、キャロルと治療班によって元の状態へと完全復活を果たした彼女はその殺意を遠慮する事なくウェルに向け続けている。合図さえあればいつでも殺せると。
されど、その殺意をキャロルは許可しない。
ドクターウェルの利用価値は十分にあり、フロンティアの存在も捨てるには惜しい。
それ故に内心では殺すべきだと思いつつも、それを抑えて彼に言葉を掛ける。
「御託も前置きも良い。俺がお前に問うのはただ1つだけだ。俺に仕えるか、俺に殺されるか、好きな方を選べ」
まさにデットオアアライブ。
従えば生。逆らえば死。
冗談でもなければ脅しでもない。正真正銘のウェルの今後が決まるそれを、キャロルは問い掛けた。
そんな問い掛けに、男は静かに笑う。
この問いかけの意味は、ただ1つ。
自身の利用価値が彼女のお目に叶ったと言う事実。
故に自分は殺されずに此処にいると、従うと言う生きる選択肢を与えられたと理解する。
ならば自分が選ぶべき道はただ1つしかない。
それを選ぶべきだと理解しながらも―――
「――私が仕えるのは、この世でただ1人。僕の英雄だけです。故に貴女には仕えられません」
――断った。
己の生を得る選択肢を投げ捨てて、この状況で最も愚かな選択を彼は選んだ。
それ故に――
「そうか」
淡々とした口振りと共に向けられるは片手。
其処から浮き上がる魔法陣の様な物から感じる死の気配。
彼女が片手を振るうだけで終わるそれを前にしながらも、笑みだけは決して崩さない。
英雄に対する意地。それだけは絶対に曲げないと言う意思を以て絶やさずに笑みを浮かべながら、彼女の片手が振り下ろされるのを―――
《キャロル様》
――そんな死を直前とした瞬間だった。
キャロル。そう呼ばれている彼女の下に急ぎ足で近づく一体のノイズ。
それは彼女の耳元で何かを口早に語ると、彼女の表情に一瞬だが揺らぎがあった。
その揺らぎが何かは分からない。しかしどうやらそれは―――
「……ドクターウェル。死ぬ前に1つ、オレの為に働け」
ボクの命を助ける、希望の光となったようだ。
「……此処よ」
先程の部屋から案内されたのは1つの部屋。
此処まで案内してきたガリスと名乗る女性――いや、人間の女性そっくりに作られた人形が忌々しいと言わんばかりに敵意を込めた眼差しで此方を睨みながら、部屋の中に入る様に促す。
可愛げのない小娘ですねェ、と内心憤りこそ感じていたが、今はそれよりも込み上げてくる喜びを前に震える。
「―――く、くふふ」
此処まで案内される中で、何故僕の死が先延ばしになったのかを聴く事が出来た。
この部屋の中に眠る1人の人物。その人物の治療の為だと。
その人物について詳しい内容は語られなかったが、それが誰なのかを想像するのは容易い事だった。
「(あぁ!やっと…!やっとお会いする事が出来るッ!!)」
あの玉座の間に居なかったボクの英雄。
それが目の前の部屋の中で眠っているのだと、すぐに分かった。
故にボクは喜びに満ち溢れながら部屋のドアノブを握る。
この先に、この先に居るんだと歓喜に震えながら、ドアノブをゆっくりと開けていく。
「(…マスターに変な事しようとしたら即座にぶっ殺す)」
背後から向けられる殺意など今の僕にはどうでもよい事。
ありとあらゆる喜びの感情に満たされながらボクはドアを開けると、中へと足を踏み入れた。
部屋の中は所謂少女趣味と言う奴だった。
置かれた愛らしいぬいぐるみ。ピンクや桃色と言った色合いの家具。机の上に置かれた少女向けの化粧品。
それらを一瞥しながら、ボクは部屋の中にあるベットで眠っている人物を、待ち望んだ英雄の顔を遂に目撃して――驚愕する。
「(こ、この子は――!?)」
――その《人物》をドクターウェルはかつて資料で見た事がある。
過去に起きたネフィリムの起動実験。その際に死亡した1人の装者。
その名前は――
「セレナ…セレナ・カデンツァヴナ・イヴ…!?」
あのマリア・カデンツァヴナ・イヴの妹であるセレナ・カデンツァヴナ・イヴが其処に眠っていた。