セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第148話

 

――《もしも》を考えた事はあった。

もしもあの子が生きていれば、と。

あの子が生きていればどれだけ良かっただろうと。

そんなあり得ない《if》を考えた事は幾度もあった。

 

けれどそれは所詮は妄想。

現実は残酷なまでに事実を示し、その事実を変える事は誰にも出来ない。

だからこそ最近ではそんな《もしも》を考える事さえしなくなっていた。

時間の無駄だと、そんな事を考えても苦しむだけだと。

そう、思っていたのに―――

 

「――――セ――レ―――ナ?」

 

ベットの上で上半身を起こしているその姿を前に、零れる様にその名を口にする。

生きているその姿に、忘れもしないあの愛らしい笑みで会話をするその姿に、呼吸を忘れる。

震える身体で車いすを動かす。

あの子の下へと、目の前の光景を確かめたいと動く。

 

「―――?」

 

そんな私に気付いたのだろう。

あの子が……セレナが私に顔を向ける。

あの時と全く変わらない顔で、あの優しい顔のままで――

 

「セレ――」

 

故に、その名を叫ぼうとした。

今度こそ聴こえる様に、しっかりと出そうとした。

けれど、その声は―――

 

 

 

 

 

「えっと、初めましてですね。私の名前はセレナと言います。ナスターシャ先生…でしたよね?ウェル博士からお話は聞いています。私みたいな特殊な治療を専門とされる名医だとか…今回は私の為にわざわざ来てくださってありがとうございます」

 

 

 

 

 

――彼女からのその言葉に、阻まれた。

 

「――――――え?」

 

一瞬なにを言われたのかを理解する事が出来なかった。

今この子は何と言ったのか、と。

理解が追い付かない、けれどもと問いただそうとする。

今のはどういう事なのか、私を覚えていないのか、と。

しかし――

 

「ハハハ、どうも彼女は緊張しているようですねェ。どうしましたナスターシャ先生?患者さんがあまりにも可愛い御方で度肝を抜かれましたか?」

 

ウェルが親しみを感じさせるように肩に手を置きながらそう話す事で阻み―――

 

「――ババァ。何となく気持ちは理解してるが、今は耐えて合わせろ」

 

ウェルの厳しい口調がそれ以上の発言を禁じた。

 

「―――ッ」

 

いったいどう言う事なのかと言葉なく視線で訴える。

何を知っているのかと、説明をしろと静かに、それでいて堪え切れない怒りを以て訴える。

 

「……話は後でしてあげますよ」

 

されどそんな視線に対し、ウェルはそれだけ告げると彼女の下へと戻っていく。

優しい笑みで、知らない人が見れば誰もが信じてしまいそうな笑みを浮かべて。

その笑みの下の本性を知る者として、そしてそんな仮初の笑みをあの子へ向けられている事実がナスターシャの怒りを強くするが、今は敢えてそれを堪える。

後で全てを聞かせてもらうと決意し、今は我慢して彼の言う《ナスターシャ先生》を演じる事にした。

 

「――それで《ウェル》先生?彼女の症状を聴かせていただけるかしら?なにせあまりにも急すぎるお話でしたので、事前情報を聴く事が出来なかったので」

 

嫌味を込めてその名を呼びつつ、今すぐにでも抱きしめてしまいそうになる愛しのあの子の前で《先生》を演じる。

その姿にウェルは肩をすくめる様にしながらもセレナに向くと――

 

「セレナさん、すみませんが《アレ》を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

ウェルはセレナから主治医としての信頼を得ているのだろう。

彼の言葉に素直に従うと着ていたパジャマの上ボタンを開けて、小さく前を開けた。

其処にあったのは―――

 

「――これは…」

 

彼女の胸元には、小さな結晶が出来ていた。

いや、結晶と言う表現は少し違うだろうか。

敢えて言うならば――小さな鏡。

人体に存在する筈のない異物、それが彼女の胸元で静かに輝いている。

 

「(…似てはいる)」

 

似た現象として思いつくのは、やはり立花響の一件だろう。

胸に宿したガングニールの破片。其処から生じた彼女の命を危うくした症状。

アレと似てはいる、けれど―――

 

「…触っても良いですか?」

「あ、はいどうぞ」

 

鏡に触れてみると感触は鏡のそれとほぼ一緒。

けれど純粋な鏡との大きな違いとして温もりを感じると言う事だろう。

それでいて肉体との境界面を触れてみると其処に違和感はまるでない。

まるでこの鏡が最初から彼女にあったかのように、鏡は自然と彼女の胸元で輝いている。

 

「……これは元から?」

「えっと…違う…筈なんですけど…」

 

ナスターシャの質問に対し、セレナの返答はハッキリした物ではない。

自身の出来事である筈なのに、あまりにも曖昧なそれにナスターシャはさらに追及しようとする。

しかしてその問い掛けは――

 

「――ドクターウェル。これはどういう事だ?」

 

――身震いするほどの強烈な殺気によって阻まれた。

何が、と振り返ると――部屋の入口に1人の少女がいた。

その姿は何処からどう見ても幼い見た目をした何処にでもいそうな少女でしかない。

けれど発する膨大な殺気が、動きを許さないその圧倒的な圧が、彼女が《日常》の人間ではなく《非日常》の人間である事を簡単に示した。

 

「…彼女の事になると相も変わらず動きが速い(ボソッ)――いやはや!勝手な独断誠に申し訳ございませんキャロル・マールス・ディーンハイム殿。ナスターシャ先生が《ご到着》されたので少しでも早く診察をしていただこうと私の判断で案内させて頂きました。指示を仰がずに申し訳ありません!」

 

「………オレはナスターシャが《診察》をする予定など聞いてもいないのだが?」

 

「あれェ?そうでしたか?それはまた申し訳ありませんねェ。なにせ彼女の胸元の結晶の件に関しては私なんかよりも《独自》の知識を豊富に持っていらっしゃるナスターシャ先生の方が、的確な診断を下されると思っていましたので至急《お呼び》したわけですよ。連絡はしたと思っていましたが…いやはや、誠に申し訳ありません」

 

互いに言葉を濁し、隠し、それでいながらもぶつけるべき言葉をぶつけ合う会話。

ナスターシャはそんな会話を前にしながらも、聴こえた名前に彼女が、と納得する。

 

「(彼女がキャロル・マールス・ディーンハイム…)」

 

このシャトーと呼ばれる場所の絶対的な王であり、外見からは予想もつかない程の膨大な力の持ち主。

機嫌を損ねればあっさりと殺される、そう言っていたウェルの言葉が実物を前に嫌と言う程に実感させられる。

 

「――ふん。まあいい」

 

納得はしていないだろうと言う態度でウェルとの会話を無理やり終えたキャロルの視線が此方に向く。

それと同時に先程よりはましでこそあるが、それでも十分な位な敵意と殺意を向けられながら彼女が手を差し伸ばして来る。

 

「…キャロル・マールス・ディーンハイムだ。貴様の《お噂》は承知している。仲良くするつもりはないが――こいつの治療を担当している間はこのシャトーでの滞在を許そう」

 

差し出された手と会話内容に戸惑いながらも差し出された手を握ろうとして――不意に力強く引っ張られると。

 

「――後で詳しい話をしたい。この後すぐに部屋を出ろ」

 

耳元でそう話しかけられると彼女は部屋から出て行く。

 

「――はぁ…なんとかボクの首は繋がったままで済みましたねェ」

 

部屋から去って行くその姿に安堵した様に息を吐くウェル。

その隣でナスターシャは一瞬だけ迷った。

彼女の言葉通りについて行っても良いのだろうか、と。

もしや始末するのにこの部屋以外を選ぼうとしているだけではないか、と。

 

だが、しかし――

 

「――ウェル先生。すみませんが少しだけ部屋を留守にします」

 

「は?ちょ、ナスターシャ先生!?」

 

それ以上に知りたかった。

今のセレナに何が起きているのかを。

あの日、セレナを失ったあの日から今まで何があったのかを。

その答えを彼女は知っている、そんな確信があったからこそ私は最悪な可能性を飲み込んででも彼女の言葉に従う道を選び、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

「――来たか」

 

 

 

 

 

 

 

部屋の外で待っていた彼女を前にして、その想いは更に強まった。

 

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