セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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久しぶりに帰ってきました
リアル忙しい…


第149話

 

「―――」

 

《フロンティア事変》

そう呼称されたあの戦いから既に1月が経過しようとしていた。

消失したフロンティアとそれを手引きした謎のノイズ軍の捜索。二課所属の装者並びに小日向未来の治療。米軍並び多国籍軍との外交問題。そしてF.I.S.装者三名の処遇等々――

 

この1月の間、これ等問題解決の為にあちこちを飛び回る羽目になった弦十郎は、今とある一軒の家の前に居た。

 

「…ここ、か」

 

弦十郎の見上げる先に佇む一軒の家。

何処にでもあるごく普通の一軒家なれど、今の弦十郎の眼にはさながら敵の本拠地の様に見えていた。

無理もない。何故なら此処に住んでいるのは―――

 

「…外れていればどれだけ嬉しいだろうか……」

 

つい先日受けた相談。

その内容と今までの調査結果が導く答えを知っていながらも、思わずそう呟いてしまいながら、呼び出しベルを押す。

静かな空間に鳴るベルの音。その後に聴こえる足音を耳にしながら弦十郎は静かに呼吸を整えてから覚悟を決める。

 

「はーい、どちら様で…あら?貴方は…」

「……初めまして。私、以前に御宅の御息女であるキャルさんの安否確認で伺った者達の上司で、風鳴弦十郎と言います。急な来訪もうしわけありませんが、実は大事な話がありまして。少しお時間よろしいでしょうか?」

「――ええいいですよ。良ければ中でどうぞ」

 

キャルの母親の従姉。そう名乗っている女性の案内で家の中へと進む。

訪問時とは異なり、僅かに押し隠しきれない程の敵意を混ぜた視線を受けながら。

 

「…キャルくんはご在宅ですかな?」

「いいえ。実は少しばかり事情がありまして、今は別の方で過ごしているんです」

「事情、ですか」

 

ええ、そうですよと笑顔で答えながら前を歩く彼女。

その態度は、事情を説明する気はないと言葉なく伝えて来る敵意交じりの物だ。

 

「(……ふむ)」

 

恐らく…いや、確実に俺が此処を訪れた理由を察しているのだろう。

それがもらたす意味。それを重々承知の上で彼女は俺の家の中へと招き入れた。

ならば、恐らく今から俺が会うのは―――

 

「どうぞ。此方です」

 

女性が1つの扉を前にそう伝えてくる。

一見すればどこの家庭にも当たり前に存在する木製の普通の扉だ。

だが、その扉から――否、扉の奥にある空間に居るであろう存在から醸し出されているこれまでの人生の中で感じた事の無い程の強大な存在感と敵意が、目の前にある扉をまるで地獄の扉であるかのように錯覚させてくる。

 

「(…さて、鬼が出るか蛇が出るか)」

 

もはや逃げると言う選択肢はない。

逃げ出そうとした瞬間、間違いなく今目の前にいる彼女は俺を襲ってくるだろう。

そう容易く想像させてくれる程に、彼女は敵意も殺意も隠そうとさえしなくなっていた。

 

ならば、もはや選択肢は1つしかないと静かに呼吸をすると、ゆっくりと扉を開ける。

開いていく扉。其処から見える光景は何処の家庭にある、ごく普通のシンプルながらも快適感を感じさせてくれるリビングフロア。されどその雰囲気をまるで飲み込み、己が空間に塗り替える様に、フロアの真ん中に置かれた机に備えられた椅子に――《彼女》は居た。

 

「ようこそ風鳴弦十郎。歓迎する気はないが、話くらいは聞いてやるぞ」

 

――その瞬間、風鳴弦十郎が胸に抱いていた仮説は、確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、少し良いですか?」

 

それはまだ弦十郎を始め二課が様々な問題の対処に追われていた頃。

ある日、弦十郎は小日向未来から《相談》を聴いて欲しいと言われた。

他の皆には聞かせたくない相談がある、と。

 

その内容は――仮面の少女の正体が、キャルではないかと言う物だった。

 

「…もしかして…いや、絶対に違うって思うんです。けど…どうしても…あの目を忘れる事が出来なくて…それで…」

 

相談を持ち掛けた小日向未来自身も、あり得ないと否定していた。

あの優しい子が、戦場に居る筈がないと、あり得ないと。

実際、この相談を聴いた相手が他の面々ならば間違いなくその否定に賛同しただろう。

 

キャルちゃんがそんな事をする筈がない、と。

それは流石に考えすぎではないか、と。

あいつが戦うなんて想像できるか、と。

きっとそう返事を返していただろう。

 

けれども弦十郎だけは違った。

以前からキャルと言う少女の存在を不審に思い、その情報を探らせていた弦十郎だけは違った。

それまで集めてきた情報、そして小日向未来からの相談。

それは弦十郎の中で、バラバラだったパズルが完成する様に1つなり、そして答えとなった。

 

――少女達にはあまりにも残酷な真実に、なってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処で気付いた?」

 

目の前の女性――何者かは分からない。

歳は20~25と言った位だろうか。

視る者を魅了してしまいそうな美女だが、その瞳に宿しているのは狂気。

何かを成すのに躊躇なく犠牲を出せれる人間のみが出せる力強い瞳の輝き。

その瞳を前に、弦十郎も無意識に身体が臨戦態勢を取っている事を感じながら、質問に答えていく。

 

「…まず不審に感じたのは、キャルくんの個人情報だ。家族構成、年齢、出身、経歴。その全てが――あまりにも綺麗過ぎた。まるで最初から全てが作られたかのように」

「…ふん。弟子の可愛さあまりに手を回しすぎたか。他は?」

「マリアくんと翼のライブ会場での一件。未来くん達から離れてノイズに追われたと言うのに無傷だった件と、その彼女の会場内での足取りが一切負えなかった事だ。監視カメラの1つや2つに不具合が発生した、と言うならばまだ理解出来る。だがそれがキャルくんが進んだであろう道の全てで発生したとなれば、疑わざるを得ないだろう」

 

そして極めつけは――未来くんの証言。

相談を持ち掛けた未来くん自身でさえもあり得ないと否定し続けていたが、それでも絶対に違うとは言い切る事が出来なかった。

あの時見た瞳が、彼女と一緒に居る時に感じた感覚が、仮面の少女の正体がキャルである事を完全否定する事が出来なかった。

 

「……なるほど、な」

 

女性の手にはいつの間にかワイングラスが握られていた。

中に満たされているのは、赤いワイン。

飲むか?と差し出されるが、それを沈黙を以て拒否すると、肩を空かして自分で飲み干していく。

 

訪れる沈黙。

外から聴こえる鳥の声が、車道を走る車の音が、シンクに落ちる水滴の音だけが、静かに鳴る。感じる時間の長さ。一分が永遠であるかの様な重い沈黙。それを弦十郎は、ただ待ち続ける。《彼女》の言葉を、待ち続けるしかなかった。

 

どのくらいそうしていただろう。

続く沈黙、それを打ち破ったのは―――

 

「…風鳴弦十郎。1つ取引をしよう」

「取引…だと?」

 

ああ、と告げると同時に机の上に放り出された封筒。

警戒しながらも放り出された封筒を手に取り、その中身を拝見する。

 

「――ッ!?これは…」

 

開封した封筒の中身。それは今回米国が揉み消そうと躍起になっている艦隊派遣を証明するのに十分な証拠となる資料と、米国が奪取したフロンティアを用いて選ばれた一部国民のみで地球脱出を企んでいた事を記す記録の数々。国家機密レベルで今もなお米国で保管されているであろうそれが、封筒の中に乱雑に入れ込まれている事に弦十郎は驚きを隠せなかった。

 

「お前達が先の件で米国と揉めているのは知っている。これがあれば交渉も上手く行くだろう」

 

確かに今現在、フロンティアを巡って起きた今回の騒動で日本と米国は揉めている。

艦隊派遣の事実を揉み消し、逆に今回の事態で発生した被害を日本のせいだと責任転嫁しようとする流れがある。あくまで自分達は被害者だと、そう主張する様に。

フロンティアを用いた計画の事など一切知らないで通すつもりなのは誰の目にも明らかだが、米国のどうにか誤魔化したいと言う強い意志が外交に現れており、このままでは押し通される危険があるにはあった。

そんな状況下でこれらの証拠があれば―――

 

「(確かにこれは喉から手が出る程欲しい物だ。だが…)」

 

彼女は言った《取引》だと。

それはつまり提供されたこれら証拠に匹敵する対価を、要求される事を意味する。

何を要求するかは不明だが、提供された物に対する対価を考えれば、自然と警戒してしまう。それがもしも今後の不利益になればと恐れて――

 

「安心しろ。オレが求める対価は安いものだ」

「……その対価を、聴いても良いだろうか?」

 

そんな弦十郎の考えを察したのだろう。

女性は空になったグラスを静かに机に置きながら、彼女が求める《それ》を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――仮面の少女の正体がキャルであると言う事実。それを一切他人に明かすな。オレが求めるのはただそれだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――初めて見せた優しい顔で、そう言った。

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