セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
《ニトクリスの鏡》
古代エジプト第6王朝の女王ニトクリスが所有していたとされる鏡。
暗黒に満ちた別世界を見る事が叶うとされるこの鏡は、その別世界へと繋がる扉にもなりうるとされていた。
女王ニトクリスはこの鏡を利用し、幾人も政敵を始末してきたとされる逸話はこの鏡がまともな聖遺物ではない事を証明している。
ニトクリスの死後、この鏡は行方知れずとなり今の今までその存在さえも疑われていた。
だが、その鏡は時代を越えて今このシャトーに存在する。
ほぼ完全聖遺物に近い形で、だ。
「最初はオレが集めた聖遺物で、過去に焼失した想い出の中にその記憶があったと思っていた。だが過去のオレが記した日記を調べあげたがーーそんな事実は存在しなかった。ならば可能性は1つしかない」
「何者かがシャトーに運び入れた………というワケダ」
オレの質問に対し、プレラーティの返答はNO。
結社としても完全聖遺物に近い形の聖遺物なんて数えられる程にしか所有しておらず、その中に《ニトクリスの鏡》は存在していなかったし、そもそもその存在さえも疑われていた。
パヴァリア光明結社は裏世界においては1、2を争う大規模組織だ。
その結社でさえ知らないのであれば裏世界において《ニトクリスの鏡》は存在しないと認識されていたとみて間違いないだろう。
「………今鏡はどうしているワケダ?」
「聖骸布を使って封じている……だが……」
《聖骸布》
イエス亡き後にその身体を包んだとされるこの布はありとあらゆる魔を封じ込めるとされている聖遺物殺しの聖遺物。
その力は凄まじく、大抵の聖遺物であれば包むだけでその機能を封じ込める事が可能。
しかし一度使えばその力は失われる為に貴重な聖遺物でもあるのだが………
「…その言い方、もしや聖骸布でも?」
「ああ、封じ込めきれていない。未だに穢らわしい物が滲み出ている」
よほどの品なワケダ……そう呟いたプレラーティの意見に賛同する。
だが結社ではないとすれば他に誰があの鏡を持ち込んだ?
このシャトーに入れる人間は限られている。
その中で最も可能性が高い結社がハズレとなると………
「……今回の詫びも含めて結社側でもニトクリスの鏡については調査するワケダ」
「………頼む」
オレだけの力では調べられる範囲に限りがある。
結社とはいずれは敵対するが………味方である間は最大限利用させてもらおう。
それにこの鏡についてはなるべく速く調べ尽くしておきたい。
オレが考えうる可能性の中で最も避けたい可能性、そいつが現実になる前に………
「………そう言えばお前の弟子は随分と遅いワケダ」
「む?そう言えば………少し待て、レイアに確認を取る」
席を離れ、レイアに通信を取る。
さほど待たせる事なくレイアと通信が繋がり、あの馬鹿弟子はどうしているのかを確認するとーー
《…えっと、彼女は今………人生相談に付き合ってます》
「ーーーーーーは?」
なんだそりゃ?思わず呟いた言葉はそんな呆けた内容だった。
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「なるほどなるほど、つまりクリスさんはそのお方と仲直りしたいんですね」
「………ああ…けどフィー……あ、いや、その人とどうやって仲直りしたら良いのか分かんなくて………それで………」
レイアの視線の先、暗くなり始めた街中の公園で少女が自らよりも年上相手の人生相談に付き合っている謎光景が繰り広げられていた。
事の発端は少し前に遡る。
公園で迷子になっていた兄妹を見つけた少女がレイアに買い出し荷物を預けて助けようとした時に、少女より先に手を伸ばしたのがあの少女ーーー第2号聖遺物《イチイバル》の装者《雪音クリス》。
レイアとしては接触は避けたい相手の登場に姿を隠すしかなく、最悪少女に害なす様であればこの場で雪音クリスを始末するのもやむ無しと様子見に徹していたのだが………
どうしてか、共に迷子を無事に親御さんの元へと案内し、そのまま人生相談に付き合い始めた。
ちょうどその頃にマスターから連絡が入り、報告を済ませたが………
《……ひとまずはそのまま様子見をしろ、会話は録音しておけ。フィーネ勢力からの接触だ、無い……とは思うがあいつの会話に不審な様子があったらすぐに報告しろ、良いな》
了解しました、と連絡を終えて指示通りに様子見をする。
しかし………あれだな………
「………地味な仕事だ」
ビルの上、手には大量の買い物袋を抱えて様子見をするその姿はある意味派手ではあるがなと、1人愚痴りながら少女を見つめるのであった。
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少女は悩む。
彼女、雪音クリスさんが口にした悩み。
ずっと一緒にいた親しい人と喧嘩してしまったが、仲直りするためにどうしたら良いのか分からないと言う………少女にとっては羨ましい悩み。
過去がない少女にはそんな人がいたのかどうかさえも分からない。
だけど目の前の年上なのにどこかほっとけない彼女にはそんな人がいる。
それが少し、ほんの少し羨ましく感じながら少女は口を開く。
「これはあくまで私の答えです、無数にある1つの答え、他にも正しい答えがあるかもしれませんが、それでも良いならお話しても良いですか?」
「あ、ああ」
では、と少女は口にする。
私なりの答えを、彼女が望みかどうか分からない答えを、
「私なら徹底的に喧嘩します、もう仲直り出来るか怪しいレベルで」
セレナママの勢いは止まらない………ッ!