セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「もう、あの時は本当に驚いたよ。シェルターの中でも探し回ったけど見つからないからもしかしてって」
「はは…心配させてごめんなさい。実はあの後知り合いの方が見つかって、別のシェルターに避難してたんです。未来お姉さんにも何とか無事を知らせようとは思ったんですけど、連絡する手段がなくて」
あれからファミレスへと場所を変えて話に盛り上がる2人。
仲良くパフェを食しながら会話するその姿はさながら姉妹の様に仲慎ましく、見ている人々もどこか癒してくれる様な光景だった。
「(良かった…また会う事が出来て)」
少女としてもあの時はやむを得なかったとは言え、未来に心配を掛けてしまった事に心残りがあった。
いずれは謝りたい、そう願っていた少女にとってこの再会は嬉しい限りであった。
しかし―――
「……?」
何となく、そう何となくだけれど少女は気づいた。
空元気と言うか…無理やりと言うか…目の前の女性が無理をしている、そんな気がした。
…つい先ほどまでクリスの相談に乗っていたから、と言うのもあるのかもしれない。
けれども恩ある相手に恩返しをしたい、そう思った少女は―――
「…あの、何かありました?」
思わずそう口走っていた。
想いを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
キャルちゃんの言葉に、一生懸命見栄を張っていた私はあっけなく崩壊して、話をしていた。
言えない事は多く、けれども言いたい事も多く…話す私でさえも言葉を何回も詰まらせながら、話していた。
「……ごめんねこんな時に変な話しちゃって、ほ、ほらほらパフェ食べちゃおうよ!!ここのパフェ美味しいから――――」
さっきまでの明るい雰囲気はどこへやら。
こんな雰囲気にしたのは他の誰でもない、私。
こんな事話すつもりなかったのに……謝りながら雰囲気を戻そうとして―――
「未来お姉さんは、どうしたいですか?」
キャルちゃんから出てきた言葉に、言葉を詰まらせた。
「どう……したいって?」
「そのままの意味です。未来お姉さんはそのお友達が危険な目に合うのを止めたいんですか?それとも…そのお友達の力になりたいんですか?」
――そのどちらも、と言うのは我儘な返答なのかと思った。
私は響に危険な目にあってほしくない。
怪我なんてしてほしくない、辛い事なんて彼女は十分に受けてきた。
翼さんを追いかけてリディアン音楽院に進学するって聞いた時は、やっと響がこの辛い環境から抜け出せるんだって、そして響が辛い時に力になれなかった私が力になれるんだって、一緒に進学する道を選んだ。
けど、待っていたのは―――この現実。
響は力を手に入れて、私は響に守られるだけ。
響を守りたい、響の力になりたい、そう願っていたのにその結果がこれ。
ノイズと戦い、傷つき、それでもへいきへっちゃらって人助けをする。
…きっと私が万の言葉を出しても、響は止まらない。
だって響だから。
人助けをするのが好きで、当たり前で、誰よりも辛い目にあってもへいきへっちゃら…そんな魔法の言葉で耐えてしまう子だから。
だから私では響を止めるなんてできない。
だったらせめて――――
「……力になりたい、のかな?」
言葉にして分かる。
所詮私はどこにでもいる単なる高校生でしかない。
アニメやゲームみたいな力があるわけでも、優れた何かがあるわけでもない。
単なる力が無いだけの非力な少女でしかないのだから。
響の力になりたい、けれど私じゃあなにも……
「でしたら、未来お姉さんはそのままで良いと思いますよ」
え?俯いていた顔を上げ、キャルちゃんを見つめた。
キャルちゃんは…微笑んでいた。
私の相談を真摯に受け止め、笑い飛ばすでもなく、怒るわけでもない。
ただ微笑んで答えをくれた。
その瞳は優しくて、どこかお母さんを思い出してしまいそうになる、そんな優しい眼をしながら―――
「多分ですけど、その人にとって未来お姉さんは≪居場所≫なんですよ」
「……いば、しょ?」
「はい、きっとそのお友達が辛い目にあったり危険な目にあっても笑顔でいられるのは…未来お姉さんがいるからです。
どんな目にあっても、帰ってくれば未来お姉さんがいる。だからきっとそのお友達は頑張れるんです。
だから、未来お姉さんがその人を止めるのではなく力になりたいのなら、傍に居てあげてそのお友達の帰る場所になってあげたら良いんだと、私は思います」
居場所…?
私の傍が、響の居場所…?
≪小日向未来は私にとっての≪陽だまり≫なの≫
私なんかの隣が?
響を辛い目に合わせた私の傍が…?
≪未来の傍が暖かい所で私が絶対に帰って来る所、これまでもそう、これからも…≫
≪みーくー≫
≪未来?≫
≪未来ッ!!≫
浮かび上がる響との思い出。
そのどれもが笑顔で、向けられた笑顔に釣られて私も笑顔になって、そして―――
≪いやだ……いやだよぉ……≫
最後に思い返した響の顔、思い返すだけで苦痛になるそんな顔をさせてしまったのは……
「ッ!!響……ッ!!」
「答えが出ちゃいました、か」
空になった席とパフェ。
その前で1人パフェを食しながらどこかへと走っていく未来お姉さんの背中を見る。
スッキリした顔してたから、きっともう大丈夫でしょう。
恩返しってわけではないですけど、力になれて良かったです。
「あ、このパフェ本当においしい。お持ち帰りとかできないかな?レイアさん食べますか?」
「生憎だが私達オートスコアラーに食事をする機能はない」
ついさっきまで未来お姉さんが座っていた場所に腰を下ろすのはレイアさん。
話が終わったのを見届けて中へと入ってきたのだろう。
ご丁寧に化粧や衣服まで変えてる辺りが凄いです。
「そろそろ帰還するぞ。マスターが腹を空かして待っている」
「その言い方だとまるでペット扱いみたいですよレイアさん…まあもう十分なので帰りましょうか」
支払をしようと立ち上がるが、未来お姉さんのパフェの下に2人分の料金がしっかりと置かれているのを見つけた。
これぐらいなら支払うのに…もう。
「帰ったらレイアさん手伝ってもらいますよ。なにせ仲直りパーティーですからね、本格的なの作っちゃいますよ!!」
「味覚がない私に手伝わせるとは…派手で良いな」
少女は帰還する。
自らの居場所へと、いるべき場所へと、帰還するのであった。
ナツカシノメモーリアー カウント1