セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
キャロル・マールス・ディーンハイムの成すべき事は父からの命題を果たす事。
その為にキャロルは数百年と言う膨大な時間を費やしてきた。
全ては命題の為と、キャロルは文字通り全てを投げ打って計画を整えてきた。
苦痛も困難も、何もかも乗り越えてただ歩み続けた。
そんな折に現れたのが―――あの少女だ。
シンフォギア《アガートラーム》の装者であり、人間であれば奪われるだけで廃人となる想い出を難なく提供出来る謎の少女。
そんな利用価値が高い少女を、キャロルが都合の良い駒として使おうと判断したのはごく自然な事だった。
ある程度の信頼関係を構築し、指示に従う都合の良い駒として扱おうと。
今までも幾度かあったことをする、ただそれだけだと。
されど、少女との生活はキャロルが生きた数百年の中でも――――暖かい時間だった。
自らを師匠と仰ぎ、しろと言った覚えもない食事の管理までし始めて、馬鹿みたいに優しい癖に一度決めたら中々に折れない強い心を持つ少女との時間。
その時間がキャロルに少女に親しみを覚えさせ、彼女を駒としてではなく、友として見ているのだと自覚させるのにさほどの時間を必要としなかった。
「…認めよう、オレはあいつに影響されてる」
キャロル・マールス・ディーンハイムが成すべき事は父からの命題を果たす事。
その為に世界を解剖せんとする計画に……迷いが生まれていた。
あの少女に、自らの師匠が世界を滅ぼさんとしている等欠片も思っていないあの少女の善意を圧倒的悪意で塗りつぶさんとしている己に、迷いが生まれているのをキャロルは否定できなかった。
なれど、キャロルはもはや計画を中断すると言う選択肢を取る事は出来ない。
何故なら―――キャロルにとってこの計画こそ、父の命題を果たす事こそが己が人生の意味だから。
その為に数百年を捧げた、その為に全てを投げ打ってきた、その為に全てを犠牲にしてきた。
キャロルの長すぎる人生はこの為だけに存在してきたのだ、それを否定する事は、キャロルには絶対に出来ない。
自らの人生を自らが否定すること等、出来るはずもなかった。
だから―――キャロルは少女を逃がそうと決意した。
もはやキャロルに計画を止めること等出来ない。
ならばせめてあの少女には、キャロルが成さんとしている事に気が付く前に……
それが逃げでしかないと自覚しながらも、キャロルに残された手段はこれしかなかった。
「なるほどなワケダ。それで?逃がすと言ってもどこへ逃がすワケダ?お前の計画通りならば世界中逃げ場などないワケダ」
「…色々と考えたが、さっきのお前の言葉で決意が固まった。プレラーティ、もしも時が来たならばお前の作るシェルターにあいつの分も席を用意してくれないか?」
「…そう来るワケダ、良いぞその提案受けてやるワケダ」
その為に生かされたと言うワケダ、と納得しながら提案を受ける。
プレラーティとしても少女の存在は欲しいと思っていた。
あれだけの知識、それもキャロル直伝の錬金術を教わった唯一の弟子である彼女の価値はかなりのもの。
ちょうど助手がほしいと思っていたプレラーティからすれば理想通りの人材である。
だからこそプレラーティとしては少女を計画に巻き込んで損失してしまう事を極力避けたいと質問をぶつけたのだ。
危険な目にもあったが、それだけの価値はある答えを得る事が出来た、とどこか満足そうにするプレラーティにキャロルが警告するように言葉をつなげる。
「……と言ってもすぐには手放さんぞ?まだあいつには教えるべき事が山ほどあるし、しておかないといけない事もあるからな」
「了解したワケダ、いずれは私の助手となる人材だ、協力してほしい事があれば進んで協力してやるワケダ」
「誰がお前の助手になどさせるか」
注がれた最後のワインを飲みながら2人の錬金術師は静かに笑う。
迷いが無くなったキャロルもまた笑う。
いずれ迎える別れを、思うだけで苦しくなる別れを誤魔化す様に笑いながら――――パーティーは終わりを迎えた。
---------------------------------------------------------------------------------------------------
「えっと……」
自身の部屋で目覚めた少女は困惑していた。
自分は確かパーティーの裏方を頑張っていたはずなのに、どうして自分の部屋のベットで眠っていたのだろうか?
記憶を呼び覚まそうとするが、疲れもあったのかはっきりと思い出せない。
どうしたっけ?と疑問を抱きながら、何気なく時計を見る。
針は既に次の日へと切り替わり、シャトーからは確認できないがお日様は登り切った時間だと理解すると同時に―――
「ッ!?いけない師匠のあさごは…いやもうお昼ご飯になっちゃう!?と、とにかく食事の準備を、ああけどパーティーの片づけもきっとまだだし…それに今日はミカさんとの鍛錬も――!!どうしようどうしようッ!?」
脳に押し寄せる本日のスケジュールに慌てて飛び起きようとし、ぷぎゅっと何かを踏んだ。
え?と視線を向ければそこにあったのは―――見覚えのあるかえるのぬいぐるみ。
確かこれってプレラーティさんの…と抱きかかえると同時に一枚の紙が落ちたので拾い上げると―――
《パーティーは楽しませてもらった、そのお礼にこいつをやるワケダ。
―――嗚呼、安心しろ、こいつは予備なワケダ》
プレラーティさんからのプレゼント…?と試しに抱き着いてみると…感触最高です。
これはあれです…やばいです。
しばらく離したくないって思っちゃうくらい感触最高なんですけどこれッ!!
ふわふわにもふもふ…これ抱き枕にします、プレラーティさん…
「ってゆっくりしてる場合じゃなかったです!!とにかく食事から始めましょう!!」
かえるのぬいぐるみをベットに投げて少女は今日もいつもの日常の始まりを感じながら、遅くなった食事の支度を始めるのであった
セレナはカエルのぬいぐるみを手に入れた