セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「うわ~♪未来から聞いてはいたけど…噂通りかわいい~♪いや、これはもう噂以上の可愛さ!!わぁ~♪もう離したくないかも~♪」
「…いい加減離してあげたらどうだ立花…キャルも嫌なら嫌と言って良いんだぞ?」
「響ったら…ごめんねキャルちゃん付き合わせちゃって」
「あ、いえ大丈夫ですよ。今日はそこまで急ぎの用事もありませんので」
あれから少女達は暫くの会話と自己紹介の後に自然と行動を共にする流れとなった。
自然に、とは言ったが基本的には≪立花響≫が原因であるのは間違いないだろう。
愛情表現と言わんばかりに背中から少女に抱き着いて満面の笑みを浮かべる彼女が少女を中々に離さずにいたせいでこうなったのだから。
抱き着かれたままの少女もあははと乾いた笑みを浮かべるが、まあいいかなと楽観的に判断する。
少女にとって幸いなのは先ほど自身が言った通り、今日の買い出しはそこまで急ぎではないと言う事。
多少帰宅が遅れてもお咎めはないだろう、と響に抱き着かれたまま少女は考えていたが……
「けど、いいんですか?私なんかがお邪魔しちゃっても?未来お姉さん達も何かしらの用事があったんじゃあ…?」
強いて言えば少女の不安の種はそれだろう。
自分のせいで3人の邪魔をしてしまったのでは?と。
しかしそんな質問を――――
「気にしなくていいよ♪キャルちゃんと遊ぶの楽しみだし、それに未来の友達なら私にとっても友達♪未来から話を聞いた時から仲良くしたいってずっと思ってたもん!!」
「響の言う通り気にしなくていいよ。キャルちゃんにはお世話になってるし、もっと仲良くなりたいって私も思ってたから」
「私も構わない、元々遊びに行く予定であったのだ。そこに1人加わろうとも何ら問題ないだろう」
あっさりと否定して見せた。
少女は思う、やはり彼女達は未来お姉さんの友達なんだな、と。
心優しく、手を伸ばす事に躊躇がなく、他者と結ばれる縁を恐れない心の強い人達。
どこか眩しくて、羨ましいとさえ僅かに思える程に優しい人達。
世界中の人間がこんな人だけだったらきっと世界は平和なんだろうな、と思いながら、少女は差し伸ばされた手を握る。
後に少女は思う。
もしも、そうもしもの話でしかないと知りながら思う。
もしもこの手を握らなければ、縁なんて作らなければ……
私はこんなに辛い想いをしなくてもよかったのかな、と。
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そこからの時間は少女にとって未知の時間でありながら充実とした時間であった。
ショッピングモールでは可愛いコップや衣服を見たり、
映画では感動に涙を流し、
ゲームセンターでは響の暴走に笑みを浮かべた。
その途中で最も驚かされたのは共に行動している風鳴翼がトップアーティストであると言う事を知った事だろう。
カラオケでその歌声に聞き惚れ、自身も何か歌おうと選曲している時に流れたCM映像で眼の前にいる女性が映し出されたのだ、かなり驚きながら確認し、事実を知った時はもう凄かった。
そんな少女に翼も嫌な気はしなかったのだろう。
自身を支えてくれるファンがこうしてまた1人生まれた事に感謝しながら少女に丁寧に対応してあげていた。
そして楽しい時間と言うのは瞬く間に終わりを迎える物。
夕日に染まった空、その下で公園から街を見下ろす3人を眺める少女は思う。
楽しい時間だったと。
嘘偽りなく心から楽しいと思えた時間であったと。
記憶のない少女が初めて過ごしたこの時間は、きっと永遠に記憶に残り続けるだろう。
だから……
「あ、ごめんなさい。私そろそろ帰らないと」
少女は戻る。
温かい日の世界から、暗がりの世界へと、自身を待ってくれている家族が待つ場所へと―――
「え~?もう帰っちゃうの?」
残念そうにする響さん。
どこか抜けてるけど、誰よりも優しくて、誰よりも心強いお姉さん。
年上なのに名前で呼んでとお願いされた時は本当にびっくりしちゃいました。
「こら響、ごめんね色々と連れまわしちゃって」
そんな響お姉さんを嗜めながら私の心配をしてくれる未来お姉さん。
ちょっとだけ大人っぽくて、お母さんがいるとすればこんな人が良いなって思える優しいお姉さん。
「大丈夫か?送って帰った方が…」
最初はちょっと怖い人なのかな、て思ってしまった翼お姉さん。
けどそう思ったのは最初だけ、冷たい外見とは裏腹のとても優しいお姉さん。
皆、とても優しい人達だ。
皆が皆こんな人だったらどれだけ良いかって思える位に優しい人達。
もしも師匠と会わせる事が出来たらきっと仲良くなれるだろうな、と思ってしまう人達との別れを惜しみつつ、笑顔で手を振る。
「大丈夫ですよ、ここからならすぐですから1人で帰れます。みなさん今日は本当に楽しかったです!!また会いましょう!!」
「あ、そう言えば…」
去って行くキャルちゃんに手を振りながら未来は思い出す。
最初の店に寄った時にキャルちゃんにプレゼントしようと買っておいたマグカップ。
猫のデザインの可愛らしいそれを渡すのを忘れていた。
「キャルちゃ―――」
呼び止めようとするが、既にその姿は遠く、横道を曲がって姿が見えなくなっていた。
今度会えた時に…と僅かに思うが、何時会えるか分からないからとその姿を追いかけるように駆ける。
「未来?」
「ごめんね2人ともちょっとだけ待ってて」
2人に謝りながら駆ける。
元陸上部として活躍した自慢の脚はすぐに少女が姿を消した横道に追い付き、名前を呼ぼうとして―――
「……あれ?」
そこには既に少女の姿が無かった。
まるで最初からいなかったかのように遠くまで続くその道に少女はおらず、未来は首を傾げながら周囲を探すが、その姿を見つける事は叶わなかった。
ぶっちゃけ響と翼と縁を作りたかっただけなのデス
この先の為に(下衆顔)