セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「………やっぱり、ですね」
目の前に広がる汚部屋。
錬金術の道具と資料があちらこちらに散らばり、整頓なんてされた気配さえもない程に汚れきったこの部屋は師匠であるキャロルの私室。
少し前までは綺麗だったこの部屋で師匠から錬金術を教わっていたのに、どうしてここまで部屋を汚せるのでしょうか…
「……最近の師匠、なんか忙しそうですもんね」
最近の師匠は前よりも更に忙しそうに何かをしている。
前ならば最低でも食事を摂ってくれていたが、最近はそれさえも怪しく、幾度か部屋の前まで食事を持っていってあげた程だ。
寝る時間さえ取れているのかも怪しい。
そんな忙しい師匠が何らかの用事で外に出た。
弟子として力になりたい、ならばと部屋の掃除だけでもと扉を開けたらこの始末。
待ち受ける困難を前に思わず逃げ足になりかけるが、ここで退くわけには行かない!
「よし、それじゃみんな綺麗にしちゃいましょう!」
《オォォォーー!!》
「オーだゾ♪」
「はぁ~(露骨なため息)なんであたしもなのよォ………」
本日の掃除にはいつものアルカ・ノイズ以外にも暇そうだったミカ、そして相も変わらず読書に励んでいたガリィを連行し行われる。
役割分担としては、少女とアルカ・ノイズが部屋の整理、整頓。
ミカは可燃ゴミを燃やしたり、力仕事を担当。
ガリィは床掃除である。
「ちょっと!あたしだけなんか雑じゃない!?」
「だってガリィさん他の細々とした作業だと飽きて逃げ出すじゃないですか。それにガリィさんの機能なら床をすぃーと滑るだけで綺麗になりますし」
「人をクイッ○ルワイパーみたいに言うんじゃないわよ!
………はぁ、仕方ないわねェ、分かったわよそれで良いわよ」
と多少揉めたが無事に掃除開始となりました。
私が資料関係の書類を束ねて棚に戻し、不要なゴミは全て袋に纏めていき、それをアルカ・ノイズ達が運びーー
「燃やしちゃうゾ♪」
ミカさんがそれを燃やす。
火力的に一瞬でゴミが燃え尽きるので最近問題の環境問題にも優しいです。
そもそもシャトーから排出された排気ガスとか何処に行くんでしょうか?
………謎が1つ増えてしまいました。
「……はぁ、ほらそこ退きなさいな。さっさと終わらせちゃうから」
片付き床が見えてきたエリアからガリィさんがすぃーと滑り、滑った道の汚れが綺麗さっぱり消えています。
流石はガリィさんです。
ですけどやっぱりそれ……クイック○ワイパーみたいな機能ですね。
「今クイックルワ○パーみたいって思ったでしょ?思ったわよね?」
そんな事ないですよーと適当に返事を返しながら掃除を進めていく。
師匠は普段はそこそこ片付けする人なんですけど、何かに集中してしまうとこんな風になってしまう人だ。
よほど集中して何かを研究していたのでしょうけど………資料からそれを読み取る事は未熟な私にはまだ出来ません。
せめて綺麗にしてまた集中出来るように、掃除頑張らせてもらいます!
「大体終わったかな?」
まさにビフォーアフター。
汚部屋でしかなかった部屋が見違えるように綺麗になっている。
特に床、ガリィさんのクイックル………いや、便利な機能のおかげで新築の床のように綺麗です。
ピカピカで反射までしてます、凄いです。
ですからガリィさん、そんな何か言いたげな目で見つめてくるのはやめてください。
もうクイックルワ○パーなんて言いませんから。
「………思ったより速く終わっちゃいましたね」
想定していた時間よりも迅速に終わりを迎えてしまい、さてどうするかと悩ませる。
師匠が帰還するまでまだ時間があると思われるから、何か他に出来る事がないかと部屋を見渡すが、もう大体やり尽くしてしまった。
手持ち無沙汰に部屋の中をゆっくりと歩き回る。
「(そう言えば、師匠の部屋をこんなにゆっくり見て回るって今まで無かったですね)」
基本的に部屋に入る時と言えば師匠から錬金術を学ぶ時だけ。
それ以外で入るのは稀で、こんなにゆっくりと見て回れる程の余裕は今まで一度もなかった。
これを機会にちょっとだけ、と部屋の中を見て回る。
と、言っても………部屋の中にあるのは私にはまだ理解が追い付かない錬金術や聖遺物の資料ばかり。
試しに本を抜き取って流し読みしてみましたが、ちんぷんかんぷんとしか言い様がありませんでした。
「ちょっと~もう片付け終わったんでしょ?ならもうガリィは戻っても良いかしらァ」
ガリィさんの言葉にそうですねと賛同する。
これ以上部屋にいても仕方がないですし、と持っていた本を書棚に戻そうとしーー気付く。
「………これって」
本棚と本棚の間にある違和感を感じさせる隙間。
そこから漂う《何か》に気付いて確認してみると………的中。
欺瞞術式と認識阻害術式が施されている。
隙間にしか見えないこれは歪められた景色で、実際には此処に何かがある。
解術は………出来なくもない。
師匠が扱う術式の大半は頭に叩き込んでいる。
そこから術式を解いていけば、解術は可能だろう。
だけど………
「(師匠が隠している物を勝手に見つけたら怒られるよね………)」
手を出してはいけない、そう判断して去ろうとしてーーーー
お い で
「ーーーーねーーこら!あんたいきなりどうしたのよ!?」
え?と気付いた時には私は術式を解術していた。
術式が消え去り、隠された景色が浮かび上がっていく。
そこにあったのはーーー扉
木製のそれはまるで当然のようにゆっくりと開いていく。
歓迎するかのように、中へ入れと呼び込むように、開く。
「………ちょっと流石にこれは不味いわよ、あんた術式掛け治してさっさと………ってちょっとッ!!」
叫ぶ声は虚しく、少女の耳には届かない。
誘われるまま、揺れるように扉の中へと足を進める少女の瞳を見たガリィは確信した。
正気ではない。
揺れ動く瞳は何も写さず、その表情はまるで人形の様に白くなっている。
異常だ、明らかな異常だ。
「ちょっとあんーーッ!」
止めないと、扉へと誘われる少女へと向けた足がーーー止まる。
否、《止められている》
違和感は足から、縫い付けられているかのようなそれに視線を向ければーーー
ダメだよ
邪魔しちゃダメだよ
私達と遊ぼうよ
声と呼ぶにはおぞましく、耳にするだけで正気を削られそうな声と共に床一面から延びているのはーーー無数の黒い手
ガリィの足に纏わりつくように、絶対に離さないと言わんばかりに手が足に絡み付いている。
なによこれ!と咄嗟に手に氷を纏い、それを刃と化して無数の黒い手を切り払わんとするがーーー
危ないよ?
危険だよ?
そんな物捨てて遊ぼうよ
床から伸びた黒い手が今度は手を、そして全身へと絡み付きその動きを縫い付けるように止めていく。
全身に絡み付く黒い手が増していく度にまるで鉛を乗せられたかのような重みがガリィを襲う。
動けない、ならばとこの場において最大戦力であるミカに期待するが………
「ンギギギ!……う、動けないんだゾ………」
ミカもガリィ同様、黒い手が既に全身へと絡み付き、動きを完全に封じていた。
「嘘でしょ………!?」
ミカの戦闘能力はオートスコアラーである自分達の中では間違いなくトップ。
そのミカを以てしても突破が敵わないとは……
この黒い手、どれだけ馬鹿力なのよ………!
「(アルカ・ノイズも………駄目か)」
何体かが必死に抗うように抵抗戦を繰り広げているが、次々と黒い手に捕まっていき、その動きを封じられていく。
どうにかしないといけない、焦る気持ちを抑えながら打開策を模索するが、その間に少女は扉の奥へと向かう。
「ちょっと!!」
声は少女に届く気配さえなく、少女は足を止める事なく扉の奥へと消えて行った。
追いかけなければと焦るが、まずはこの黒い手を何とかしなければならない。
「(………落ち着け、落ち着くのよガリィ……こう言う時は冷静になるのよ……)」
部屋を見渡す。
黒い手が伸びた部屋、その手が生えているのはーーー全て床からのみ。
壁や本棚、家財道具からは生えていないのを確認出来る。
天井も同様。
「(床……床だけあって他にはない……)」
「ーーーー!動けるアルカ・ノイズは聞きなさい!床を何でも良いからとにかく《汚しまくりなさいな》ッ!!」
指示を下されたアルカ・ノイズは指示通りに動き始める。
本棚を倒し、可燃ゴミ以外で別処理が必要の為に残されていたゴミを床にばらまき、とにかく床を汚し回る。
まるで新築の家の様に《反射》するほどに綺麗な床は汚れていき、それと同時に黒い手の数が激減していく。
「やっぱりね………!」
あの黒い手は恐らく《反射》する物からしか生えて来る事が出来ない。
だから反射する程に綺麗だった床からのみあの黒い手は生えてきていた!
「そして数さえ減ればーー!」
「邪魔するなだゾー!!」
ガリィは氷の刃で、ミカは持ち前のパワーで黒い手を振り払う。
アルカ・ノイズ達もそれぞれが黒い手を振り払っていき、何とか拘束から逃れる事に成功する。
「あの馬鹿を追いかけーーーさせる気はない訳ね」
残された黒い手が結集し、扉へと続く道を阻むように立ち塞がる。
急がないといけないって時にーー!
「あたしの肌に触れたんだもの、その対価は高いわよ!」
「邪魔する奴は燃やしちゃうゾ!!」
馬鹿な事するんじゃないわよ、ただそう願いながらガリィは黒い手へと立ち向かうのであった。