セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
濁流が如く押し寄せる黒い手を前に、ミカの余裕は崩れない。
笑顔のまま放たれるカーボンロッドは迫る黒い手を打ち消していき、それでもなお突破してきた黒い手をミカの接近戦闘がなぎ倒す。
以前であれば想い出の残量を気にして戦闘しなければならないミカであったが、今はその心配をする理由が無い。
そんなミカの前では黒い手の存在は驚きこそすれども、倒せない敵ではなかった。
「これで終わりなのか?もっと楽しませるんだゾ!!」
ミカが吠える。
沸き上がる感情に身を任せるように吠えながら、黒い手を掴んで地面に叩き付けた。
楽しくなってきた、そう実感しながら周囲を見渡して――
「…?」
疑問を抱いた。
視界一杯に広がるのは黒い手。
その中に―――セレナの姿が無い。
「…くふふ」
この状況で姿を暗ます、そこから推測できる可能性は1つ。
「―――そこだゾ!!!!」
オートスコアラーだからこそ出来る無理な身体の動かし方で両手を突き出したのは――真上。
何時の間にそこにいたのだろう、上空から降下するように姿を見せたセレナの手に握る銃口は、ミカの風船を狙い定めている。
後はトリガーを引けばセレナの勝ちであったが、想像よりも早くミカはセレナの奇襲に気付いてしまった。
「(間に合え―――!!)」
トリガーを引いて放たれる弾丸、同時に放たれるカーボンロッド。
同時に放たれたそれはお互いの狙いへと向かい、そして―――
パンッと乾いた破裂音が鳴り響いた。
「……行けるかなって思ったんですけどね」
「楽しかったんだゾ!!もう一回やるんだゾ!!」
身体に落ちた割れた風船を始末しながらセレナは残念そうに呟く。
結果的に、風船を割ったのはミカのカーボンロッドであった。
セレナの銃弾は狙いこそ良かったが、奇襲に気付かれた時点でミカが回避出来ないわけがなく、容易く避けられてしまった。
ニトクリスの鏡での初戦はこうして敗北と言う形で終わってしまった。
「そう言えば、あの奇襲はどうやったんだゾ?」
ミカが何気なく聞いたのは1つの疑問。
黒い手の出現までミカはセレナの動きを捉えていた。
黒い手の出現後、一時的にその姿を見失いこそしたが、それでも上空へ移動したのであれば気づかないはずがない。
ならばどうやって?そんな思いで聞いた疑問に対して、
「ん~…一度やって見せた方が良いですかね」
そう語るセレナの手には2本の剣。
鍛錬の最初でセレナが生成した剣と全く同じのそれをセレナは片方ずつ一定の距離を置いて地面に突き刺して離れる。
ん~?と訝しむミカの前でそれじゃあ行きますね、と突き刺した片方の剣に触れると――――その姿が消えた。
「あれ?どこ消えたんだゾ?」
慌てて剣の元へと向かうミカであったが、セレナの姿はどこにもない。
何処へ消えたんだゾ?と探すミカに、
「こっちですよー」
聞こえてきたのは探し人の声。
振り向いてみればもう1つ突き刺さった剣の方にセレナの姿があった。
驚くミカであったが、すぐにそのトリックの正体に気付く。
そう、答えは単純。
「実は反射出来る物であれば移動出来るんですよ」
セレナが解明したニトクリスの鑑の機能は3つ。
1つは無制限での武器の生成。
現時点において剣と銃だけでこそあるがその他の部類も可能であろうと推測しており、未だに試してはいないが聖遺物レベルの武具の生成も出来る可能性があるが、その代わりに耐久力は低いのが難点となっている。
なのでセレナは意図的に耐久性を下げて、素材を反射が可能な物体でのみ精製し、それを意図的に破壊させる事で黒い手が出現出来るようにしている。
2つ目は黒い手。
制御できる距離こそ制限があるが、反射する物さえあれば実質無制限に呼び出せる。
ただしロック機能のせいか暴走時程の力はなく、形態も黒い手のみとなり、暴走時に見せた武器形態への変化が出来なくなっていた。
しかしそれでも力の強さは相当の物であり、まず掴めば逃げるのは難しくなるだろう。
これがニトクリスの鏡の主兵装となるだろうとセレナは思っている。
そして3つ目がこの移動方法。
≪鏡面移動≫そう名付けたこの移動方法はある程度の大きさの反射物(大体剣程度の大きさ)さえあれば鏡面に入り込み、別の鏡面から姿を出す事が出来ると言った物。
これを使ってミカに奇襲を掛けたのである。
どれも情報だけで知っており、試したのは今日が初なのだが、一応はどれもが上手く機能出来ている。
後はこれを鍛錬で数をこなして練習し、形にしていけば―――
「ミカさんもう一回お願いします!!」
「ばっちこーいだゾ!!」
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「はぁ……」
最近ため息多いな…そんな事を考えながら手に握るビニール袋の重さを感じながら帰路へと付く。
あれからミカさんと計4回程鍛錬をしたわけだが、ニトクリスの鑑の操作は想像以上に疲弊をもたらすらしく、終わった時にはもうへとへと。
それでも夕食の支度をしないといけないと部屋に戻れば、買い出しを綺麗に忘れていた事を思い出し、慌てて来たわけだが……
「節々が痛いです…」
我ながら無理をし過ぎていたのだろう。
明日は筋肉痛の可能性があるな、と翌朝から感じるであろう痛みにとほほ、と悲しみながら人通りの少ない場所へと向かう。
後はそこでテレポートジェムを使って帰れば買い出しは終わりと歩いていると……
「……何ですかねあれ」
セレナの視線の先、人通りの少ない路地であるにも拘らず、ポツンとあるのは1つの紫色の天幕。
興味本心で近寄ってみれば≪占います、絶対当たります、無料です≫と売り文句の後に≪占い屋≫と書かれた看板。
怪しい…あまりにも露骨な怪しさがある占い屋であるとセレナは通り過ぎようとして――――
「そこの君、悩みがあるんじゃないか?
相談してみないか?ボクに。
きっと力になれるよ。ボクなら」
天幕の中から聞こえたのは男の声。
突然の声に驚きこそしたが、不思議と嫌な気がしない、そんな声に釣られる様に恐る恐るではあったが、中へと入ってみる。
中は意外としっかりとした如何にも占い屋と言う内装をしていた。
薄暗い天幕の中を照らすのは幾つかの蝋燭。
周囲には占いに使うのであろう、トランプや道具が並んでいる。
そんな天幕の中心にその男はいた。
白いタキシード姿に白い帽子、占い屋には見えないその男は天幕へと入って来たセレナを歓迎する様に笑顔を見せた。
「歓迎するよ。君を」
どうぞ、と何時の間にかあった椅子に腰を降ろす様に促され、それに従う様に腰を降ろしたセレナにさて、と男は語り掛ける。
「自己紹介をしておこうか。占いの前に。
必要なんだよ。互いの信頼が。」
不思議な話し方をする人だな、とぼんやりと思っている間に男は自己紹介を始める。
―――ふと、その名前を聞きながらセレナは思った。
「ボクの名前はアダム、そう呼んでくれたまえ」
どこかでその名前を聞いた様な、そんな気がした。
ZENRA出現