セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
今回の主役は―――
吾輩はアルカ・ノイズである。
名前は3012(サンゼロイチニ)
特に特筆すべき点がないのが特徴の一般アルカ・ノイズである。
え?名前なんてあるのかって?
あるんです、それが。
現在マスターセレナの手によって生成されたアルカ・ノイズの数は4365体。
そのどれもが番号でこそあるが名を与えられており、そしてマスターはその名前を一度たりとも間違えた事がないのです。
あ、噂をすれば……
「あ、おはよう3012、今日はこのエリア担当なの?」
≪おはようございますマスターセレナ。はい、本日第11戦闘班はこのエリアの清掃を任務としております≫
「そうなんだね。このエリアはガリィさんが掃除をサボってゴミを隠してたりしてるから大変だろうけど頑張ってね。あ、必要なら言ってね、確か第5班と7班の担当エリアは比較的に簡単に済むエリアだから必要なら応援に行かせるし、私も師匠との鍛錬終わったら手が空くから手伝うよ」
≪おお…ありがたき御言葉…マスターの偉大なる優しさに感謝を…≫
「そんな、大げさだよ。それじゃあ私行くから頑張ってね」
≪了解いたしました、本日も頑張ってください≫
本日も元気よく駆け足でマスターのマスターとの錬金術鍛錬へと向かうマスターを見送りながら、さてと気合を入れる。
≪では諸君、本日も清掃に励むとするぞ≫
おー!!と掛け声を上げるアルカ・ノイズ達を背に本日もマスターからの任務に励むのであった。
我々アルカ・ノイズはマスターセレナの手によって組織化されている。
戦闘班、諜報班、医療班、雑務班、その他もろもろ……
それぞれの特性に合わせたアルカ・ノイズ達がそれぞれの班に所属し、そこから更に班別に編成されている。
私3012がリーダーを命じられているこの第11戦闘班もその1つだ。
我々の使命はマスターに仇名す敵を撃ち倒し、マスターをお守りする事にある。
他の班もそれぞれに使命こそあるが、その全てはマスターの為に貢献する事。
それこそが我々全員の使命である。
そんな我々だが、基本的に平時においては清掃を主な活動内容としている。
元々は雑務班の仕事であったのだが、雑務班だけでは手が足らず、ただでさえお忙しい心優しきマスターが清掃を手伝われているを見て、日頃待機しているだけの我々戦闘班も手伝うべきでは、となりこうして毎日清掃に励んでいる。
ん?嫌じゃないのかって?
そんな事はない、むしろ我々が清掃するだけでマスターの負担が減るのであれば喜んで清掃させてもらう、それこそが主を支える配下と言うものだ。
≪さて、こんなものか≫
マスターの警告もあって多少の警戒を以て挑んだ清掃も大方終わりを迎えようとしていた。
後もう少し、そう思って気合を入れ直しながら残された作業を終わらせようとして―――ふと、それを見た。
部下の何体かが隅っこに固まるようにして何かを小声でもめている。
どうしたのだろうか?そう思ってこっそりと近寄ると――――
≪いや、これは私がマスターへお渡しを!!≫
≪ふざけるな2214!!貴様、マスターのハンカチを独占するつもりだな!!ここは俺が責任を持ってだな!!≫
≪貴様がふざけるな2432!!こいつを見つけたのは私だ!!この3311が責任を持ってマスターへお渡しするッ!!≫
一枚の見慣れたピンク色のハンカチを奪い合う部下の姿がそこにあった。
おいおい、とため息をつく。
全く不甲斐ない部下を持った物だ、と3体の間に割り込む。
≪隊長!?≫
≪隊長これは…≫
何も言うな馬鹿ども、と優しい感情で部下を見つめる。
手が掛かる子ほどかわいいとは言うが、全くこいつらは本当に……
揉め事の種となったハンカチを回収する。
全く、いくらマスターの私物であるとは言えこんなハンカチ一枚で――――――
≪マスターに褒めてもらうのはこの3012だぁぁぁぁ!!!!≫
≪≪≪あッ!!逃げたぞッ!!!!≫≫≫
「えっと…」
鍛錬を終えたセレナは廊下を歩きながら何かを探す様にキョロキョロと見渡していた。
最近手に入れたばかりのハンカチ、ピンク色の可愛らしいデザインのそれを失くした事に気付いたのは鍛錬を終えた時だった。
部屋を出る時までは持っていたのは確かだと私室から師匠の部屋へと続く通路を探しながら歩いているが、見つからない。
「可笑しいな…」
誰かが拾った可能性もあるにはあるが、それなら連絡の1つぐらいあるはずなのに、と諦めずに探すセレナはふと朝出会った3012を思い出す。
もしかしてあそこに落してあの子が拾ってくれたのでは?と。
3012はセレナが製作したアルカ・ノイズの中では心優しい子として生まれてくれた。
あの子なら拾っていても可笑しくないと駆け足で清掃担当エリアへと向かう。
もう少し、後少し、と見えて来た通路を曲がる。
そこには――――――
≪うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!隊長も糞もかんけぇねえッ!!!!そいつを寄越せ3012ィィィィィィィ!!!!≫
≪だが断るッッッ!!!!この3012が最も好きな事はただひとつ!!マスターからのお褒めの言葉だけだぁぁぁぁぁぁッッ!!!!それがもらえるなら俺は喜んで悪魔に命を捧げるぞォォォォォ!!!!≫
≪くそったれ!!おめえら共同戦線だッ!!!!3012からあのハンカチを奪い、全員でマスターからのお褒めの言葉を賜るんだッ!!!!≫
≪≪≪≪乗ったッッッ!!!!≫≫≫≫
――――咄嗟的に浮かんだのは修羅場と言う単語のみ。
一枚のハンカチを奪い合う様に掃除道具を武器に激戦を繰り広げるアルカ・ノイズ達。
解剖器官を使っていないのは不幸中の幸いだろう。
だが、争う度にバケツの水は床を濡らし、飛んできた箒や掃除道具は壁や床に当たって傷を作り、片づけられていたゴミは床や壁に散らばり果てる。
そこにあったのは、清掃する前よりも遥かに汚れ果てた悲しき光景。
そんな光景に、思わず、そう思わず――――
プチンッと何かが切れた。
≪貴様らぁぁぁぁ!!!!邪魔をするんじゃない!!!!俺はこいつをマスターへとッ!!!!≫
≪ふざけるな3012!!貴様だけに良い思いは―――≫
「――――――ねえ、みんな」
一言、たったの一言。
それが騒動を一瞬で沈黙させた。
その声の持ち主に、声に込められた隠しきれない感情に、背筋に冷たい物が流れ落ちるのを感じながら、その場にいた全アルカ・ノイズの視線が動く。
「――色々と言いたい事はあるんだけどね、とりあえず……」
そこにいたのは笑顔のまま静かに怒りに震えるマスターの姿。
何時の間にかファウストローブを身に纏い、淡々と、なれど絶対に逃さないと言わんばかりに――――
「――――――全員、お仕置き、ね♪」
無数の黒い手がアルカ・ノイズを襲ったのであった。
吾輩はアルカ・ノイズである。
名前は3012。
どうかこの記録を見る者がいれば、心しておいてほしい。
マスターの前で喧嘩しちゃダメ、これぜった――――――――――――――