セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「喰らえやおマヌケぇッ!!」
先手を取ったのはガリィだった。
開始の合図と同時にガリスの足元から吹き上がる水流。
常人であれば受けるだけで良くて骨折、悪くて命を奪い獲らんとする勢いを持ったそれはガリスに避ける時間を与える事なくダメージを負わせた――と誰もが思った。
「あら?あらあら?ガリィお姉さま最初から奇襲ですか?流石はガリィお姉さまですね。ええ、とてもガリィお姉さまらしい≪立派な手段≫だと思いますよ」
ガリスの落ち着いた声にガリィの表情が僅かに歪む。
声の持ち主であるガリスは確かに避ける時間もなく水流を受けていた。
だが、まるでその水流を自分が出したのだと言わんばかりに緩やかに水流の上で優雅に微笑んでいるその姿からはダメージを負った様子など欠片も想像させず、ガリスはただただ自らの姉を不敵な笑みを以て見つめていた。
「…まあそうなりますよね。ガリィさんもガリスも得意とするのは水。
それも性質が近い2人ならば水流の支配権を奪い取る事も容易いでしょうから…」
無論ガリィとてそれは理解している。
未知な部分が多い妹であるが、その基礎となっているのはガリィ自身。
ならば得意とするのは同じ水の錬金術であると踏んでいたが……
「(想像通りってわけね)」
小手調べの奇襲を難なく受け止め、水流を消しながら再度地面に降り立ったガリスは動かない。
どうぞ、と言わんばかりにニコニコと浮かべたままの笑みに苛々する気持ちを抑え、ならばと次の手を打つ。
「これならどうよッ!!」
雄叫びと共に放たれるは先程と同じ水。
なれど今度は先程の水流とは異なり、さながらウォ―タ―カッターの様な鋭さを携えた物。
それを複数同時に放ってみせる。
「ッ!!」
迫る水の刃と化した放射水に対し、ガリスの笑みが消えた。
先程の水流とは異なり支配権を奪い取るのは不可能とみなしたガリスは迫る水の刃を回避していく。
その動きはまさにガリィ。
動きに合わせて凍り付く床を滑る様に躱していく―――しかし、
「あめぇんだよ!!」
その動きを阻む様に同様に凍った床を滑りながら急接近したガリィの氷を纏った右手がガリスを襲撃する。
姉の急接近に驚かされたと言わんとするように驚愕しながらも、即座に氷の刃を形成、その一撃を食い止める。
「あははッ!!どうしたのどうしたのガリスちゃぁん!!さっきまでの余裕はどこへ消えちゃったのかしらぁ!!」
「――ッ!いえいえ、ガリィお姉様。まだこれからですよ!」
戯言をぉ!と力任せに押し出すガリィに対して、ガリスは何とかそれを受け止める。
乱れ狂う氷の刃、透き通る程に綺麗なそれは刃物と化して互いに振るわれる。
氷と氷、互いに同じ武器で振るわれるその光景はどこか幻想的な美しささえ感じる程である。
そんな光景を眺めながらキャロルは内心確信を得ていた。
「(……これはガリィの勝ちか)」
ガリィは元々奇襲攪乱戦法を得意とし、真正面からの戦闘には不向きな戦闘スタイルを主としている。
そんなガリィの接近戦でもガリスは表面上は余裕を演じているが、その動きから苦戦を強いられている事を難なく理解させてくれる。
ガリスの戦闘能力に期待していたが…まあこれまでか、とこれ以上は無意味と判断したキャロルが止めようと口を開きかけ―――
「これで…おしまいよ!!」
ガリィが放ったのは先程のウォ―タ―カッターの様な鋭い水。
刃を振るいながら近距離で放たれたそれをガリスは苦し紛れの様に身を捻って何とか躱した―――躱したのだが―――
「―――――あ」
ガリィの放った一撃は僅かに、ほんの僅かであるがガリスの頬を掠り、小さい傷でこそあるが損傷させた。
その様子をガリィはしてやったりと笑みを浮かべる。
「あらら。可愛い顔に傷が付いちゃったわね~♪かわいそーう、これ以上続けちゃったらもっと増えちゃうんじゃない?降伏するならガリィちゃんは構わないわよ~♪」
――実際の話、この戦いガリィは開始前から有利であった。
想い出を錬金術と言う力に変える彼女達オートスコアラーは想い出があればあるだけその力を振るう事が出来る。
そう、あればあるだけ振るえてしまうのだ。
ガリィは試合前にセレナを強襲し、想い出を満タン近くまで補給した上でこの鍛錬に挑んでいる。
そのおかげで彼女が使う一撃一撃は通常時の倍の威力を以て放たれており、更に想い出の容量はまだまだあるのでガス欠の心配をする事なく戦えているのだ。
「(決闘だからって平等に?正々堂々と?笑わせてくれるわねぇ)」
勝利の為なら何でもする、ガリィらしい行動である。
最初の水流の乗っ取りこそ驚かされたが、それ以降においては圧倒的にガリィ優先に事が運び、もはや勝利は確信だとガリィ自身思っていた。
だからこそ降伏勧告である。
確かに憎らしい妹であるが、一応は妹。
姉らしい寛容さをみせて、マスターに褒めてもらおうなんて決して思っていない、思ってはいない(大事な事なので)
「さあさあ降伏しなさいな♪これ以上するなら―――」
痛い目に合うわよ、そう続けようとした言葉が止まる。
俯き表情が伺えないガリスが何かを紡いでいる。
なによ、とその言葉が何かを拾おうとして――――――
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない―――ッ!!!!
よくもマスターから頂いた顔に傷をつけたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
呪詛の様に紡がれた言葉と共にガリスの俯いた顔が上がる。
怒り、ただそれだけを現した表情にガリィは僅かに驚かされるが、すぐに笑みを浮かべる。
「なーに?そんなに顔に傷が付いちゃったのが許せないの?ならさっさと降伏して―――」
「―――――――――――――♪」
聞こえてきたのは、歌。
紡がれる声は美しい歌声となり、鍛錬場に鳴り響く。
「―――ッ!!ガリスそれはまだ――!!」
止める様に叫ぶセレナの声は虚しく、歌声は更に勢いを増していく。
同時にキャロルは感じていた。
ガリスから溢れる≪それ≫の正体を、まさかと混乱する頭でそれを紡ぐ。
「…フォニックゲイン、だと!?」
紡ぐ歌と共にガリスの腕に水が集う。
液体でしかないそれは段々と形をなしていく。
柄を作り、矛を作り、それは≪武器≫となっていく。
そして―――――
「―――手加減無しですガリィお姉さま。
私は――今から貴方をぶち壊します」
その手に握るは三又の槍。
伝承曰く、人間に勇気を与え、海の全てを支配する力を持つそれを彼女は握る。
ギリシャ神話において海を司る神が持ったとされるそれの名前は―――――トライデント
神が扱いし武器を纏い、ガリスは目の前にいる