セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
第42話
降りしきる豪雨、夜空を照らす雷鳴。
暗闇に満ちた世界を駆ける1つの列車があった。
日米共同で開発された軍用装甲列車。
安保理や条約によって縛られる日本国内での使用例は少ないが、日本政府が自衛隊とは別に保有する数少ない武器を搭載した列車である。
日本国内の数少ない使用例の大半は重要物資等の輸送。
重火器を保有し、大抵の攻撃であればびくともしない装甲を持つこの列車にはうってつけの任務だろう。
ただし、それは―――――
≪――――――!!!!≫
普通の人間相手であれば、の話であるが―――
「≪ソロモンの杖≫、ですか?」
キャロルから呼び出されたセレナに手渡されたのは幾つかの資料。
そこには《ソロモンの杖》と呼ばれる認定特異災害ノイズを唯一操る術を持つ聖遺物が日本政府からアメリカへ研究目的で移譲される事が事細かに記載されている。
その護衛として米軍からは精鋭部隊に所属している軍人達と研究者数名、そして日本政府からは―――
「……響さん」
シンフォギア装者である立花響、雪音クリスを護衛として選抜していた。
無論対ノイズに対する護衛としてだろう。
「ソロモンの杖は軍用列車で岩国にある米軍基地へと輸送される。正直どうでもいい話だが……どうもこの話きな臭い」
きな臭い?と聞き返すと同時に手渡されたのはまた資料。
その内容を拝見すると、そこには幾つか疑問に感じる物があった。
「最初に渡したのは結社から得た情報で、そいつはオレがガリィに命じて集めさせた情報だ。比べてみたら分かるだろう」
キャロルが言おうとしている事はすぐに理解できた。
提示された2つの情報には内容に差が有りすぎるのだ。
隠された情報と暴かれた情報。
その数は決して少なくはなく、そのやり口から意図的な情報秘匿である事はすぐに分かった。
そしてそんな隠された情報全てに共通して出てくるのは1人の男。
≪ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス≫
通称ドクターウェル。
米国の連邦聖遺物研究機関から出向してきた生化学を得意とする研究者で、その学歴はかなりの物。
天才、この言葉が似合う人間とはこういう人間の事を差すのだろう。
……その裏に不審な事が無ければ、だが。
「米軍が扱うルートや正規ルート以外の密輸ルートで大量に物資を搬入していますね…それも聖遺物やその破片、それに医療物資までも…」
「ああ、数日の滞在にしてはあまりにも膨大な荷物な上に、隠してまで搬入する意図が分からん。それ故にこの男はどうもきな臭い…それに結社もだ。
あいつらは意図的にこの情報を隠した。何もないのならばそんな事をする必要はないのにわざわざご丁寧に、だ」
―――結社はこの男と何かしらの関係がある?
不審な動きをする男と結社、そこから連想できる答えは決して心地よい物ではない。
「…この男が何をしようが勝手だが、装者が側にいる状況で好き勝手されて装者が負傷する事態になれば計画に支障が出る。だから馬鹿弟子、お前に1つ仕事を任せる」
遠くに見える閃光。
群がる無数のノイズに向けて放たれる弾丸の光だ。
空を我が物顔で舞うノイズ達はその弾丸を受けるが、彼らからすればこの程度少し邪魔なだけ。
弾丸の雨を避ける事もなく、次々に装甲列車に襲撃を掛けるノイズ達。
それをセレナは静かに見つめていた。
キャロルからの仕事≪移送列車の監視と情報収集≫の為に。
≪マスター、窓際では風が入って御風邪を引きます。奥へ≫
「ありがとう、けど大丈夫だよ」
セレナが今いるのは巨大なアルカ・ノイズの中。
空中飛行型輸送用アルカ・ノイズ(443)
セレナが初期に開発したこのアルカ・ノイズは、自我こそ保有していないが、高いステルス性能と迎撃能力、そして大勢のアルカ・ノイズの輸送を可能にした空飛ぶ移動要塞だ。
全体的に黒を中心としたその見た目は闇夜の中では更に力を発揮し、レーダーだけに留まらず視認する事すら難しくなる。
現に列車から距離を取っているとはいえ、未だに二課の監視に引っかかる事無く移動出来ているのがその証明だろう。
その中で護衛として引き連れて来た数名のアルカ・ノイズに心配されながらもセレナは一方的な殺戮が繰り広げられている光景を黙って見つめていた。
――ー憤る気持ちを抑えて―――
≪マスター聞こえますか?此方ガリスですどうぞ≫
聞こえてきたのはガリスの声。
列車内に諜報班のアルカ・ノイズと共に潜入している彼女の声に返答する。
「聞こえてます、ガリスそちらは?」
≪列車の中ははっきり言って阿鼻叫喚です。侵入してきたノイズにほとんどの軍人は壊滅、件のソロモンの杖とあの男は装者二名と二課の職員一名と共に前方車両へ避難しました≫
「……そう、ですか…ガリス、可能な限りで良いのですが」
≪分かってます、既に何名かは救助して諜報班の手によって避難させておきました、記憶操作もバッチリです≫
ありがとう、そう答えながら助かった命にホッと安堵すると共に―――ドクターウェルに対する怒りに胸が熱くなる。
既にガリスの調査で彼が持つアタッシュケースの中にあるソロモンの杖は無くなっており、ドクターが衣服の下に隠し持ってこの襲撃を自作しているのは判明している。
許せない、憤る想いを抑えるので必死だった。
未だに何を企んでいるかまでは不明であるが、その企みのせいで犠牲になった人達が哀れで可哀想で……
けれどもセレナは堪えた。
ここでドクターを抑えても所詮はそこまで。
未だにこの男の企みが何か分かっていない状態での下手な動きは犠牲者を増やしかねない。
だから今は堪える。
煮えくり返す想いを堪えて、今は耐えた。
≪――マスター、装者両名が甲板にてノイズと戦闘を開始しました≫
「……はい、此方からも見えてます」
列車の甲板に姿を現したのは2人の装者。
ルナアタック事件からはや3か月、その間に鍛錬を積んだのだろう。
動きは以前よりも良くなり、何よりもお互いの連携が上手くなっている。
互いに互いの死角をカバーし合うその姿だけでどれだけお互いを信頼しているのかが分かる。
「………………」
きっとあの人達は、まだまだ強くなる。
信頼と言う武器を得て、更に強くなるだろう。
彼女達が味方であればと何度願っただろうか。
師匠の計画、その全貌は未だに謎であるが………彼女達との敵対は避けられないだろう。
戦いたくないと、何度も思った。
けれども私は選んだのだ。
師匠と共に行き、師匠を今までの人生から解放させる為に動くと、決めたのだ。
列車がトンネルに入り、これ以上の追跡は危険だと判断してガリスに撤退の指示を下しながら自らも引き上げる為にアルカ・ノイズに指示を出す。
叶うのであれば敵として再会したくないと、願いながらーー