セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「……ふう」
セレナは転送された先にある路地裏から周囲に誰もいない事を確認し、安堵する様に息を吐く。
転送されたセレナの側には先ほどまで護衛としていたアルカ・ノイズの姿も、ガリスの姿も無い。
ただ1人で姿を現したセレナはそのままの脚で夕日に染まりつつある街へと繰り出していく。
ーーその表情は決して明るい物ではなかったがーー
セレナが街へと繰り出した理由は2つ。
1つは純粋に買い出しの必要があったから。
そしてもう1つは――岩国での一件にある。
セレナが撤退後、遅れて撤退したガリスの口から岩国基地でもノイズ襲撃事件が発生し、多大な犠牲が出たと報告を聞いた。
それも列車同様にドクターウェルがソロモンの杖と共に姿を暗ます為に起こした自作自演の襲撃であるとも。
―――悔しかった。
ドクターの目的を判明させる為とは言え、こんな人間を放置する事しか出来ない自分が、
もう少しあの場に留まれば救える人がいたのではないかとあの時撤退する判断を下した自分が、
「(…分かっています、分かって…いるんです)」
あそこにいたとしても私に出来る事なんてさほどない。
ガリスに頼んで数人救える、それが限界だろう。
なれど思ってしまう。
その数人だけでも救えたのに、と。
どうして見捨てたのかと自らを責めてしまう。
それはまるで底なし沼の様に思えば思う程に悪い方へ悪い方へと思考が誘導されて行っているのが理解できた。
このままではいけない、本能が咄嗟的に思考を閉ざす様に考える事を中断させ、思考から逃れる様にセレナは買い出しへと駆けた。
黒に塗り潰されそうな思考を少しでも発散させるように、無理やり日常を演じる事で耐えようとして――――
「………はぁ」
買い出しする必要のある品々を記入したメモをため息交じりに眺める。
少しでも気分を発散させないといけないと言うのに、口から漏れるのはため息ばかり。
向かうべき店は遠く、なれど脚は動く事を拒否していた。
「……はぁ」
再度ため息。
昔誰かがため息ばかりしていると幸せが逃げるって言ってましたっけ、とぼんやりと思い浮かべ、少し前にも同じ事を考えていたなと乾いた笑みを浮かべる。
……理解していた。
師匠に着いて行く、その道は決して綺麗な物ではない。
誰かの悲しみを、誰かの憎しみを、誰かの怒りを、
それを足場にして進むのが師匠と共に進む道だ。
今後もこんな事は続いていく。
こんな事で折れてはいけないと理解してはいる。
師匠はこれよりも辛い人生を既に経験しているのだ。
あの人を解放するには、あの人と共に歩むには、これで躓いていてはいけない。
そう理解しているのに、浮かぶのは犠牲になった人達。
彼らにも家族がいただろう、待つべき人がいたのだろう。
その人達の悲しむ顔を思い浮かべるだけで胸が苦しくなる。
そして空想を抱いてしまう。
顔も知らないその人達から向けられる怨嗟の声を、
どうして救わなかったのと嘆き悲しむ声を、
ありもしないのに、聞こえもしないのに、眼の前で起きている様な錯覚を引き起こす。
―――いけない、そう自覚しているのにどうしても繰り返してしまう。
「…弱い、ですね私」
自らの心の弱さを改めて思い知る。
こんな事で私は師匠の力になれるのだろうか?
こんな私で師匠を解放何て出来るのだろうか?
繰り返す自問自答にため息をつき、流石に向かわないとと動こうとしない脚を無理に動かして買い出しへと向かおうとして―――
「あッ!!」
ふと、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「えっと…あの…」
セレナは困惑していた。
自分の目的は気分転換を兼ねた買い出しであったはず。
なのに、今彼女がいるのは―――――
「…どうして私こんな会場にいるんですか?」
≪Queens of Music≫
表紙にそう書いてある渡されたパンフレットによるとこれからこの数か月で有名になった歌姫と日本で有名な歌姫、風鳴翼が今夜だけのコラボライブをするらしく、会場にはそれを一目見ようと多くの人が詰め掛けている。
世界各国の首都を中心に世界中に生配信されるとも書いてあるので中々に人気ある歌姫なのだろう、とそこまでの興味がないのと先程までの鬱な思いがそれ以上先のページを捲る気持ちを起さずに、パンフレットを閉ざす。
セレナがいるこの座席は所謂特等席、と言う奴なのだろう。
他の座席とは異なり個室化された此処は席の都合上他の座席を見下ろす形になっているが、下にいるのは人人人……
無数にいるのでは?そんな錯覚を起こしてしまいそうになるほどの人に満ち溢れた会場は開演を待つ声が今か今かと聞こえてくる。
そんな会場にどうしてセレナがいるのか?
その理由は―――
「キャルちゃんお待たせ!!これジュースだけど良かったかな?」
笑顔で飲み物片手に戻って来た小日向未来にあった。