セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「――ッ!それがッ!!……それが、出来たら……」
荒れかけた声を無理に収め、セレナは振り絞る様な小声で続く事が出来ない言葉を紡ぐ。
師匠と響さん、互いに手を取り合える未来が訪れればどれだけ良いと思い描いただろうか。
こんな未来が訪れたら良いのにと何度空想を抱いただろうか。
どう足掻いてもその未来は訪れないと分かっているのに……
キャロル・マールス・ディーンハイムは己の父からの命題を、己が見つけた回答を以て世界を解剖せん為にシンフォギア装者達と争う。
そして装者達は世界を守る為にキャロルと争うだろう。
それはきっと避けられない未来なのだ。
どう足掻いても、セレナと言う小娘1人が抗ってもきっと変えられない未来なのだ。
そう思うと自覚してしまう。
自らの力の無さに、自身が多少錬金術が出来るだけの小娘でしかないのだと実感させられる。
もっと力があれば、と願ってしまう。
「うん、そうだよね。その子にも、もう1人の子にも、引けない想いとかあるんだよね?だから争うんだもんね」
――まさにその通りだ。
互いの信じる物があって、互いが守りたい物がある。
だから争う、だから戦う。
互いが求める物を求め、互いが守りたい物を守る為に戦いは起きるのだから。
そんな両者にどうやって仲良くしろと言えば良いのか。
争う事でしか守れないと分かっているのに、どうしろと……
「それでも、絶対に諦めたら駄目なんだって私は思うんだ」
「………え?」
小日向未来は思い出す。
立花響と言う人間を思い出す。
自身はどれだけ辛い目にあってもへいきへっちゃらと耐え、他人の事に関しては自らを犠牲にしてでも頑張る事が出来る自らの親友ならば、きっとそうするだろう。
どれだけ辛くても、どれだけ厳しくても、絶対に諦めないと手を伸ばし続けるだろう。
それが響だから、それが立花響と言う人間だから。
「………絶対に、諦めない………」
「うん、可能性なんてないのかもしれない、あったとしても限り無くゼロに近いのかもしれない。それでも、諦めない。
仲良く出来る道があるんだって、一緒にいられる道があるんだって、信じて信じて、突き進む。その先にきっと誰もが望む幸せな結末があるんだって信じて………私の大好きな親友がそうしてるように」
………答えになったかな?と心配そうに見つめる未来お姉さんに、思わず小さな笑みを浮かべてしまう。
それは綺麗事だと誰にでも分かる。
人類皆そう出来るのであれば誰も争わないし、誰も悩む事はないだろう。
綺麗事だ、笑いたくなる程の綺麗事だ。
なのに………………その言葉に僅かに救われた様な気持ちになっている自分もいた。
「………そう、だよね。諦めたらそこまで………」
前に師匠に言ったことを思い出す。
人間の可能性を信じて、と語ったのをーーー
師匠にはあんな事を言って自分自身が可能性を諦めているなんて、滑稽物だ。
ーー心情1つ変わったところで何かが変わるわけではない。
けれども、理解する。
諦めない大事さを、信じる事の大事さを………
「………ありがとうございます、少しだけスッキリしました」
「うん、それなら良かったかな」
未だに抱える悩みは残っているが、諦めない気持ちを知ったセレナは小さく覚悟を決める。
絶対に誰もが望む幸せな結末とやらを見つけて見せる、と。
「うーん、もうそろそろ始まりそうだけど………ヒナ、ビッキーはまだ?」
そんな二人の小さな相談を知らない創世の言葉に未来はスマホを取り出して確認するが、連絡は入っていない。
恐らく装者としての任務で遅れているのだろう。
心配する気持ちの中、響ならきっと大丈夫と堪えてまだ連絡は入ってないねと笑顔で答える。
「(………強い人だなぁ)」
心配していてもそれを表に出さずに信頼して堪える。
中々に出来ない事だと感心しながら、ふと自身も師匠に連絡を取っていない事を思い出す。
何気無しに連絡しようとするが、それが錬金術を用いた連絡方法なのを思い出しここでするわけにはいかないと立ち上がる。
「ごめんなさい、ちょっとおトイレに行ってきますね」
「あ、場所分かる?私もついて………」
「いえ大丈夫ですよ、それじゃちょっと行ってきますね」
未来の心配をありがたく思いながら一緒に行ってしまえば錬金術を見られかねないので、その気持ちだけを受け取りながら席から離れる。
個室である席から離れ、人がいない場所を求めるがもうすぐライブが始まるとみて客足が一斉に外から中へと動き、中々に人がいない場所が見つからない。
客足が途絶えるのを待っていたらライブが始まっちゃいますし………と辺りを見渡し、ふとそれを見つけた。
《スタッフ専用》と書かれた通路を―――
こっそりと覗いてみれば人がいる様子はない。
恐らくはもうすぐ始まるライブの準備の為にスタッフのほとんどが会場へと移動しているからだろう。
ここなら………と周囲を見渡し、此方を見ている人がいないのを確認してからーー
「………本当はいけないんでしょうけど………ごめんなさい」
小さく謝ってセレナはその道を進む。
駆けながら進む。
ーーーその先に待つ出会いを知らずにーーー
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「………ふぅ」
マリア・カデンツァヴナ・イヴは自身が緊張しているのを自覚していた。
無理もない、今から起こす事を思い返せば緊張だってする。
世界を敵に回す、言葉にすれば呆気ないが実際はとてつもない事である。
全てが敵になるのだ、その恐怖は考えれば考える程に恐ろしさを増していく。
だが全てはこの日の為に用意されてきた。
歌姫マリアも、フィーネとして演じる自分も、全ては今から始まる全ての為にーーー
「………そうよ私」
思い返すはあの惨劇の日。
暴走するネフィリムを止める為に絶唱を奏で、自身にとって全てだったセレナが亡くなったあの日。
亡くなった妹よりもネフィリムを心配し、誰もが妹に目を向ける事さえ無く、やっと目を向けたかと思いきや、貴重なサンプルを失ったとだけ語った大人達に怒りを覚えたあの日。
ーーーこの世に正義だけでは守れない物があると知ったあの日ーーー
ポケットから取り出したのはーーー破損したアガートラームのギアを通したペンダント。
此処に来る前にマムから手渡されたこれにはシンフォギアとして機能はない。
お守り代わりにお持ちなさい、優しい言葉と共に渡されたペンダントを握る。
「………お願いセレナ、私に勇気を………」
きっと、これから始まる事をあの優しい妹は許してはくれないだろう。
もしかしたら永遠に恨まれるやもしれない。
それでもーーー進む。
正義では守れない物を守る為、一人でも多くの人を救う為………
そして、セレナの様な悲しい犠牲をこれ以上生み出させない為にもーーー
「マリアさん!そろそろお願いします!!」
部屋の外から聞こえたスタッフの声に覚悟を決める。
今から始まるのは歌姫マリアの最後であり、フィーネのマリアとしての始まり。
歌姫として過ごしてきた日々に名残惜しさはある。
だがもはや止められないのだ。
マリア・カデンツァヴナ・イヴを止められるものはもはや何処にもないのだからーー
部屋の扉を開けてステージへと向かう。
歌姫マリアとして最後のステージ。
せめて悔いはなく終わらせよう、その想いで通路を歩く。
「………………?」
ふと、聴こえてきたのは通路を駆ける音。
スタッフだろうか?と何気無く、そう本当に何気無く向かい側にある通路に眼を向けてーーーーー
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ?」
《彼女》を、見た。
私そっくりの色をした瞳を、
いつも整えてあげていたあの髪を、
見ているだけで癒されたあの笑みを、
愛らしいその姿を、
姉妹再会………?