セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「あ、キャルちゃん!遅かったけど大丈夫?迷子になってたりしてなかった?やっぱり私も着いて行っておいた方が良かったかも…」
「あはは、ごめんなさい。少しだけ迷子になっちゃって…」
「仕方ないですよ、この会場結構広いですから」
「だからと言ってヒナは心配し過ぎだよー。キャルちゃんが可愛いのは分かるけどさぁ」
何とか元の座席へ帰還する事が出来たセレナはホッと安堵しながら席に座る。
既に会場の明かりは暗くなり始め、それに合わせて客席のボルテージが上がっていく。
始まるよー!!と子供みたいに目を輝かせてペンライトを振るう弓美を見ながら、ライブとはああやって盛り上がるものなんですね、と間違えて知識を植え付けられたセレナは見様見真似で同じようにペンライトを振るいながら始まろうとするステージへと視線を向ける。
「…あ、あの人」
ステージに姿を見せた2人は見覚えのある人物。
片方は風鳴翼。
もう片方は―――先程追いかけられたあの女性であった。
パンフレットに目を通すと彼女の名前は≪マリア・カデンツァヴナ・イヴ≫。
たったの数か月で全米チャートにランクインし、今や世界の歌姫として活躍している事と今までの活動履歴がズラッと書かれている。
凄い、それがセレナが抱いた素直な感想だ。
たった数か月でこれだけの活躍をしている彼女に、素直に感嘆する。
「「――――――♪」」
2人の歌声が鳴り響くと共に始まった。
日本の歌姫風鳴翼と、世界の歌姫マリア・カデンツァヴナ・イヴによる今夜だけのライブが始まりを告げた。
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「―――つまりは、お前達は無関係だと?」
≪正確に言えば今は無関係なワケダ≫
キャロルの私室にて聞こえる会話の声は2つ。
1つは部屋の主たるキャロルのもの。
もう1つは錬金術を用いた通話にて会話するプレラーティのもの。
≪確かに結社はあの男、ドクターウェルとその一味に対し協力していたワケダ。物資と情報、あと細々とした物を幾つか。だが今は違う。連中援助を受けるだけ受けて一方的に結社との関係を断ったワケダ。…局長命令で手出し無用となっていなければこの手で滅ぼしてやるつもりだったワケダが……≫
「…少し待て。今のはどういう意味だ?何故アダムが手出し無用など命令を…」
≪…正直分からない。あの変態が何を考えているのかを理解できる奴なんてこの世にいるのか怪しいレベルなワケダ≫
プレラーティの言葉に賛同しながらアダムの不審な行動に考え込む。
結社からすれば一方的に援助を受け取るだけ受け取って勝手にさよならしたドクター一味は言わば泥棒だ。
結社からすれば敵対するのは当然な選択、なのにアダムはこれを放置する上に手出し無用の命令まで下している。
組織のトップとしては最低の最悪を行く選択でしかない。何故こんな事をするのか……
「(…まあ、あの男の行動が読めないのは今に始まったわけではないが……)」
だが、それを差し置いてもアダムのこの行動には何かしらの策略を感じる。これから始まる《何か》に備えた動き。そして、その先にあるのはーー恐らく馬鹿弟子に関する何かだ。
何故あの男がここまで馬鹿弟子に興味を示すのか、その理由までは不明のままだが、確実にあの男の目的に馬鹿弟子は強く関与しているのは間違いない。
それが何であるのか分からないが……可能な限り接触を避ける様に手を回しておくべき、か。
≪…しかしまあ、まさかお前とこうして連絡し合う仲になるとは、想定外なワケダ≫
「…それは此方の言葉だプレラーティ。お前とはいずれ殺し合うしかないのだと思っていたのだがな」
プレラーティとキャロル。
この2人はキャロルの言葉通り、本来であれば殺し合うしかない関係であったのだろう。
それがどのような過程を踏んだ結果であったかは誰にも分からぬが、それでも間違くいずれこの二人は殺し合っていただろう。
ーーだが、変わった。
殺し合う未来しかなかった二人、それが変わったのだ。
あの子が、セレナが居た事で変わったのだ。
≪(…あいつから頼まれたとはいえ、複雑な気持ちなワケダ)≫
プレラーティは前に、セレナから連絡を受けたのを思い出す。
キャロルの過去と計画を知った事、
キャロルを過去から解放させる為に計画に参加しようとしている事、
そして、キャロルを信じさせる為にプレラーティを嘘に利用した事、
謝罪の言葉と共にお願いを託された事を、
≪お願いしますッ!!どうか、どうか師匠の力になってあげてください!!私に相談出来ない事とかも、プレラーティさんになら相談できると思うんです!!身勝手なお願いだとは理解しています!!だけど、どうかッ!!お願いしますッ!!≫
――あんな風に綺麗な瞳で自身の為ではなく、誰かの為に何かをお願いされた事なんて、一度でもあったかな?と遠すぎる過去を思い返す。サンジェルマンと出会う前、欲に満ちた爛れた日々を過ごしていたあの頃を。
あの頃の自分を一言で現せばーー欲が具現化した存在だろうか。
ありとあらゆる欲を満たす為に生き、その過程で必要であれば容易く人を蹴り落として、他者の感情さえも操る、そんな存在だった。
そして、そんな欲に生きる者の周りに集まる者なんて欲を求める愚か者だけ。
濁った瞳、甘い蜜を吸おうと必死な欲に満ちた瞳。
そんな瞳を持つ者がプレラーティと言う人間の周りにいた人間だ。
金が欲しい、
権力が欲しい、
食べ物が欲しい、
女が欲しい、男が欲しい、
集まる人間が口にするのはそんな欲だけの言葉。
そんな人間をプレラーティは決して嫌いではなかった。
――自分も其方側の人間だから――
それ故にプレラーティは躊躇が無かった。
欲を求める人間を踏みつけ、苦しめ、弄び、自らの欲を満たした。
だってそうするのが向こうの望みだから。
プレラーティの傍にいれば欲を叶えてもらえる、だからこれくらい耐えられると。
だから遠慮なんてなかった。
欲のままに生き、欲のままにやってきた。
―――彼女と、サンジェルマンと会うまでは―――
始めに抱いた感想は何だこいつであったのをよく覚えている。
錬金術での決闘を挑んで来た時は殊更に何だこいつと思った。
馬鹿かと、愚か者がと、
自らが誇る錬金術がこんな女に負けるものかと決闘に乗った。
勝利した後にこの女をどうしてくれようかと考えながら挑み―――そして、負けた。
人生初の敗北であった。
何故負けた、何故負ける、何故勝てない。
繰り返す後悔、答えの出ぬ自問。
そんな敗者を前に彼女は勝利を喜ぶわけでも、それを誇るわけでもなく、ただ手を差し伸ばして来た。
――私が初めて見た綺麗な瞳を以て、手を差し伸ばして来た。
≪プレラーティ、どうか貴方の力を貸してくれないか。この身は未熟であり、孤独。
故に貴方が欲しい。才ある貴方の力がほしい。プレラーティ、私は貴方が欲しいのだ≫
―――かか、と乾いた笑みが零れたのを思い出す。
馬鹿かと、愚か者かと。
この身に挑んで来た者の全ては欲を得る為であった。
多種多様な欲を叶えようと挑み、そして負ける。
それが今までの生活であった。
それを、この女は莫大な金でも、広大な土地でも、圧倒的な権力でもない――この俺が欲しいとほざくワケダ。
笑う、哂う、嗤う。
かつてのプレラーティであった男が浮かべた最後の笑みを、思い出す。
≪欲しい?この俺を?その為だけに来たワケダ。その為だけに決闘を挑んて来たワケダ―ーか、かかか!!良いだろう!!乗ったぞ貴様!!俺はお前に従う!!プレラーティはお前の物になろうぞッ!!≫
――それがプレラーティと言う人間の変換点。
あそこから全てが変わった、サンジェルマンと出会い、全てが変わった。
あの綺麗な瞳が、全てを変えていった。
そして今、同じような綺麗な瞳を持つ少女に願いを託される。
プレラーティは思う、あの瞳を、あの綺麗な瞳を持つ彼女の願いなんて―――
≪……断れるわけがないワケダ≫
「ん?何か言ったかプレラーティ?」
何でもないワケダ、と返答を返しつつ、厄介な助手候補だと嘆息する。
話すべき事は終わった、と通話を切ろうとして――ふと思い出す。
≪そうだ、キャロル。役に立つかは分からんが、ドクター連中の件で気になるワードを思い出したワケダ≫
「…それは?」
≪フロンティア計画。連中は確かにそう言っていたワケダ≫
――愉悦はまだまだ先になりそうデス――