セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第48話

2人の歌姫による歌声が聞こえる。

会場にいる観客を、生配信を通して全世界の人々を、その歌声が魅了していく。

ある者は歓喜の声を上げ、ある者は感動の涙を流し、ある者はただ聞き惚れた。

多種多様な感情が人々を盛り上げていく。ただそのどれもが彼女達の歌声に魅入られているからこそ生まれているのは間違いないだろう。

子供も大人も、女も男も、国も人種さえ関係ない。

その歌声は確かに彼らの心を掴んでいた。

 

―――ナスターシャはそんな歌声を暗い面持ちで聴いていた―――

 

「……マリア」

 

ステージの上で歌を奏でるあの子は、本心から楽しんでいる様に見える。

――いや、見えるのではない。そうなのだ。

あの子は歌を奏でる事を楽しんでいる。歌姫マリアが計画の為に作られた偽の立場であると分かっていても、それでも心から楽しんでいるのだ。

あの子らしい、そう納得してしまう程に。

 

だからこそ、この胸に罪悪感が沸く。

今から起こす事は、あの子からそんな楽しみを奪ってしまう事。

それどころか、彼女は永遠に悪人としてその名を刻み、穏やかな日常とは欠け離れた日々を過ごす羽目になるだろう。

そしてそれは、マリアだけではなく、切歌も、調もさえもーー

 

きっとそれをマリア自身も認識しているのだろう。

だからこそ、きっとあの様な幻を見てしまったのだ。

 

「……セレナ」

 

ーー今でも思い出す事が出来る。

過酷な研究所での生活。その環境に適応する為に誰もが心を殺していくあの地獄の中で、セレナは心優しく純粋な心を持ち続けた。

争う事を嫌い、他人の為に手を差し伸ばし、自身が辛くても心配させまいと笑顔を忘れなかった優しい子。

シンフォギアを纏えると分かった時もそうだ。

争う事を嫌っているのに、この力で誰かを守れるならと進んでシンフォギアを纏う道を選び、そして――――

 

「………私達大人はなんて無力なのでしょう…」

 

幾度も思ってしまった。

この身がシンフォギアを纏えるのであれば、喜んで彼女達の代わりとなったのに。

あの優しい子達が犠牲にならなくてもよかったのに、と。

 

だが実際は、これだ。

この身に巣食う病魔はもうじき私の命を刈り取ってしまう。

あの子達に罪を残して、去ってしまうだろう。

なんて無力だ、と噛みしめる唇から血が溢れる。

全てをあの子達に押し付けて去ってしまうこの身の弱さを、大人として最低な行為であると実感しながら、ナスターシャは零れる血を拭う。

 

「…それでも、成さねばならないのです」

 

正義だけでは救えない人々を、力ある者だけが救われる間違えた世界を正す為に、成さねばならないのだ。

例えこの身が朽ち果てようとも、例え地獄に落ちようとも、成さねばならないのだから―――

 

「マリア、聞こえますか。計画を予定通り始めます」

 

――それ故に始めよう。

優しい子達を間違えた道に引き摺っていると理解しながら、ナスターシャは計画始動を伝えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――了解したわ、マム」

 

計画始動の合図を受けたマリアは覚悟を決める。

今から始まるのは全世界を敵に回す行為。

愚かであると分かっている。進むべきではないと分かっている。

けれども成さないといけないのだ。

一部の権力者だけが救われ、残りは切り捨てられる。

そんな間違った世界を正す為に、1人でも多くの人間が救われる道を進むために――

 

「―――ッ!!」

 

覚悟を決めた。

歌姫マリアの最後を、フィーネのマリアを始める覚悟を、

 

「――そして、もう1つ」

 

始まる、フィーネのマリアが。

終わる、歌姫マリアが。

手を振るう、今までを捨てる様に。

手を振るう、これからの始まりを意味する様に。

 

「(さようなら、私)」

 

歌姫マリアと言う過去の人物へと向けた別れの言葉と共に手を振るう。

同時にドクターが呼び出したノイズ達が観客席へと出現し、次々と騒ぎになっていく。

悲鳴、怒号、叫び声。

会場に満ちていた歓喜の声はどこへ、代わりに満ちたそれらを鎮める様に言葉を口にしよう―――――とした。

 

 

 

 

 

「―――――――――――――――――――え」

 

 

 

 

 

 

見えた。見えた。見えた。

観客席の中では際立って目立つ特等席。

来賓や関係者、高いチケット代だけを払える人物のみが座れるその席に、見た。

 

「―――――――――――ッッ!!!!」

 

ーー脳が命じる。

それは幻なのだと。

居るはずがないのだと、命じる。

 

「(…………嗚呼)」

 

マムが言った言葉を思い出す。

もういないのだと思い出す。

ーーもう、どこにもいないのだと、思い出す。

 

「(――やっぱり、貴女は私を許してくれないのね)」

 

だから今こうして幻として私の前に出てくる。

私の罪を問う様に、今から始まる罪を問う様に―――

 

許してほしい、なんて甘えた事を言うつもりはない。

あの日、私は彼女を見捨てた。

炎の中に消えゆく彼女を、セレナを見捨てたのは私だから。

 

ーーだからこそ、私はこの罪から逃げない。

この罪は永遠に私が背負わないといけないのだから。

セレナを見殺しにしてしまった罪も、弱い私が犯した罪も、今から始まる全ての罪も、何もかも背負い、そしてこの手を汚して全てを救ってみせよう。

 

……だから、お願い、セレナ。

今だけは―――私を見ないで。

 

 

 

 

「―――狼狽えるなッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

――その言葉は果たして誰に伝えた物なのだろうかと自虐しながら、マリアは覚悟を決める。

特等席に居た幻が姿を消したのを認知しながら―――

 

 




楽しいデス(笑顔)
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