セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第50話

「まだ着かねぇのかよッ!!」

 

叫びに近い声が狭いヘリの中に鳴り響く。

映像が中断されてはや数十分。

会場へと急行するヘリであったが、未だに到達出来ずにいた。

その理由はーーー

 

「無理ですよ!!先程の救助活動に時間を取られてしまいましたから、速くて後20分程度はかかります!!」

 

ヘリを操作するパイロットの返答にちぃッ!とぶつける先のない拳を握りながら雪音クリスは少し前の出来事を思い出す。

岩国からヘリで会場へと急行しようとした際、米軍からの救援要請を受けた。

曰く、列車護衛の任に付いていた隊員数名が何故か山奥にある山小屋にて孤立しているらしい。

隊員達も自分達がどうして此処に居るのか、どうして列車から離れているのかは分からず、気付いたらこの山小屋にいて無線機と数日分の食料が置かれていたとの事。

そしてこのヘリの進行方向にその山小屋があるので救助要請を申し込んできた、と。

 

米国と日本、国際関係がある上にお人好しの多い二課が無視出来るわけもなく要請を受諾。

米軍共同の救援活動を行い、山小屋にて孤立していた米国所属の軍人12名が救助されたが、その結果ライブ会場へと向かう時間は予定より大幅に遅れてしまっていた。

そして発生したのがーーーあの映像だ。

 

「翼さん大丈夫かな……」

 

「あったりめぇだろ!!先輩が簡単にやられるかよ!!」

 

口ではそう語るクリスだが、内心では焦っていた。

映像が中断されてから既に結構な時間が経っている。

風鳴翼と言う人間を知っている彼女達でも状況が不明な現状ではどうしても心配してしまい、それが焦りとなっていく。

速く、速くと願うが未だに会場が見えさえもしない。

 

「………無事でいろよ先輩」

 

急行するヘリの中、クリスの祈りに近いその声が静かに鳴り響く。

未だに見えぬ会場、そこで1人戦う風鳴翼の無事を願うようにーーー

 

 

 

 

そして、その祈りはーーーー叶えられようとしていた

 

 

 

 

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「ーーッ!………流石に厳しい、か」

 

風鳴翼は傷付いた身体で剣を手に目の前に立つ敵と対峙する。

マリアとの一騎討ち、アームドギアを温存していると理解していたが、それでも優勢に戦えていた。

次の一撃で終わらせる、その想いで放とうとした一撃を防ぐ様に姿を現したのはーーー二人のシンフォギア装者。

データには存在しない未知のシンフォギア装者の強襲、そして三対一と言う不利な状況に風鳴翼は追い詰められていた。

 

「………他の装者達が来ない」

 

「これだと計画通りに行かないデスよ……!」

 

「ーーーッ」

 

だが、ある種追い詰められているのはマリア側もだ。

計画では装者達との戦闘にて発生する膨大なフォニックゲインを以て眠れる巨人をーーーネフィリムを目覚めさせる事こそがマリア達がこの場で戦闘を始めた理由。

なのに肝心の装者二人が姿を現さない、予定された計画には無かった失態だ。

今後の計画を踏まえると、この場で長時間の戦闘は避ける必要があり、短期決戦を以てネフィリムを目覚めさせる予定であった。

だがこのままではそれも叶わない。

 

「(フォニックゲインは未だに20パーセントしか無い………こんな数値じゃ………)」

 

そしてもうじきLiNKERも効果時間が経過してしまう。

LiNKERが切れれば風鳴翼相手に戦いを継続するのは無理だろう。

一見優勢に見えても内情では押されているのはマリア達であるのは明白であった。

 

「(ーーー最悪の場合は)」

 

膨大なフォニックゲインを発動させるだけであれば方法はある。

 

《絶唱》

 

命を削り奏でる絶唱であればネフィリムを目覚めさせるに至るフォニックゲインを出現させる事が出来る。

だがそれは最後の手段だ。

絶唱によって生じる負荷は膨大であり、耐えきれなければ命を燃やし尽くしてしまう危険性がある。

無論そんな事を調と切歌にさせるつもりはない。

もしもの場合は私がーーー

 

「ーーマリア」

 

ーー優しい温もりを感じる。

見ると調と切歌が心配そうな面持ちで私の手を握っていた。

………考えていた事を察したのだろう。

大丈夫よ、と無理に笑顔を浮かべてその小さな手を握る。

 

「(そうよ、私………)」

 

今度こそ失うわけには、見捨てるわけにはいかない。

セレナを救えなかった私だけど、今度こそこの握った手を離してなるものか!

私の居場所を、失ってなるものか!!

 

「ーーどうしたのかしら!貴女の実力はこんなものなの!!」

 

故にマリア・カデンツァヴナ・イヴはフィーネのマリアとして風鳴翼と対峙する。

LiNKERの残り時間は多くはないが、それでもまだ時間は残されている。

その残り時間でどうにかフォニックゲインを高めさせ、ネフィリムを目覚めさせる。

そこからだ、そこを通過しなければ全てが始まらない。

権力者だけが救われ、弱き者は捨てられる世界。

そんな間違えた世界を正す為に、そんな世界で犠牲になった全ての命に報いる為にーー!

 

「(ーーーお願いセレナ、私に力をッ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー聴こえてきた歌声にその場にいた全員が動きを止めたーー

ーーー止めざるを得なかったーーー

その歌声はあまりにも冷たく、悲しく、なれど美しい歌声。

聴いているだけで全身がおぞましい何かに包まれるような感覚に襲われるのに、それでも聞き惚れてしまう歌声。

まるで神話に名高いセイレーンの歌声の様にーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーッ!!調ッ!!」

 

まず《それ》に気付いたのは切歌だった。

歌声に聞き惚れる面々の中、最初に歌声の魅了から解放された切歌が見たのはーーー調に迫る《黒い手》。

切歌の咆哮に即座に意識を取り戻した調が二振りの巨大な回転鋸を起動させて迫る黒い手に切り掛かるーーーしかし、

 

「なッ!?」

 

鋸は確かに黒い手を切り落とさんと駆動音を奏でながら目標に当たった、当たってはいた。

ーーーなれど切り刻んでいるわけではない。

まるで泥を相手にしているような感覚だと調は思った。

ズブズブと沈んでいく回転鋸に驚愕し、このままだと飲み込まれると何とか黒い手を振り払い、距離をとる。

 

だったら!と放つは無数の小型の丸ノコ。

それは迫る黒い手に次々と接触し、僅かに黒い手の勢いを押し止める。

ーーーだが、それだけだーーー

黒い手は放たれた丸ノコを飲み込む様に沈み込ませながら、攻撃を攻撃とさえ意識していないかのように、更なる勢いを以て動き始める。

 

「でりゃぁぁぁぁッ!!」

 

そんな調を援護するように切歌の鎌が振るわれる。

切歌が持つシンフォギアはイガリマ、シュメールの女神ザババが持つ二刃の1つ。

魂を切り刻む翠の大鎌、これで切り刻めば流石の黒い手も、と切歌は思っていた。

 

ーーー切り飛ばしたはずの黒い手が再度繋がるまではーーー

 

「嘘デーーーがはッ!!」

 

驚愕する切歌、だがその驚愕が言葉となる前に降り注ぐは拳。

凄まじい威力を以て放たれたそれは切歌を会場の壁へと叩き込んだ。

 

「切ちゃんッ!!よくも切ちゃんをッ!!!!」

 

切歌を殴り飛ばした黒い手に対して怒りを露にし、咆哮しながら二振りの巨大な回転鋸を変化させる。

自らを中心に、縦へ環状展開させた鋸。

それはさながら乗り物の様な形と化して、黒い手目掛けて駆けた。

 

「はぁぁぁッ!!」

 

速度を以て放たれる一撃は黒い手を切り刻んでいく。

切り飛ばし、吹き飛ばし、道を作っていく。

これならーー調の表情に僅かに確信が生まれる。

だがーーー

 

「ーーッ!!」

 

突然鋸の動きが急停止する。

なにがッ!?と調が確認するように見渡してーー理解した。

切り飛ばした筈の手が、吹き飛ばした筈の手が、まるで侵食するように鋸に纏わり付いてその動きを完全に封じていた。

そして同時にーーー

 

「きゃぁぁぁッ!!」

 

動きを止めた獲物を逃すつもりなどないと言わんばかりに、身動きが取れない調を黒い手が殴り飛ばした。

 

「調ッ!!切歌ッ!!」

 

吹き飛ばされた二人の元へと駆け寄ろうとしたマリアの前に立ち塞がるのは黒い手。

最初の出現より数が増したそれらはマリアに敵意を向けながら揺れ動く。

 

「いったいなんなのこれはッ!?」

 

その疑問に答えを持つ者は誰もいない。

壁に吹き飛ばされた調も切歌も、黒い手に刃を向けようとも相手にされる様子さえない事に驚き戸惑う翼も、通信機越しに理解できない状況に戸惑うナスターシャも、会場に潜むドクターウェルも、

誰も、誰も答えを持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、この時まではーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは静かに姿を現した。

空から、ゆっくりと地に降りようとするそれを迎え入れるように黒い手が集う。

自らの主を迎え入れる様に、主を受け止める様に差し出される黒い手に、それは降り立った。

 

黒い軽装、黒い仮面、身体の線から唯一女性である事だけが分かる黒に染まったその人物は降り立つ。

そして口を開く。

宣言するかのように堂々と、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「初めましてマリア・カデンツァヴナ・イヴさん

       私はーーー貴女の敵です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャロルお手製《対シンフォギア》特化ファウストローブニトクリスの鏡による初蹂躙です

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