セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第52話

立花響は駆けていた。

荒れる呼吸を抑えて、ひたすらに会場へと向けて駆ける。

会場にいるであろう親友達と、1人で戦っている翼を心配しながらーーー

 

「くそったれッ!だーれだあんな厄介な電波放ってやがる奴は!!」

 

その隣を駆けながら雪音クリスが愚痴る。

………彼女の気持ちも分からなくはない。

ヘリで会場へと急行していた両者であったが、件の妨害電波がヘリの機器にも影響をもたらし、会場に接近すれば操作不能になる事が判明。

結果妨害電波の及ばない場所へ着陸し、そこから足で移動する羽目になったのだ。

しかしヘリが降下出来るポイント、かつ会場から近い場所となると場所が限られてしまい、遠くはないが近くもない曖昧な場所への降下を余儀無くされてしまったから、愚痴の1つや2つ言いたくもなるだろう。

 

「………未来、皆、翼さん……」

 

そんなクリスとは対照的に響の顔は暗い。

会場の観客が避難しているのは知ってはいる。

けれどももしかして、と言う可能性が彼女の不安を煽る。

それに二課からの報告で聞いた所属不明の装者による襲撃を受け、未だにあの会場で1人戦っている翼。

映像や通信が途絶えてそこそこの時間が経過してしまっている。

翼さんなら大丈夫、と思う反面、どうしても浮かび上がる最悪の可能性。

そんな不安な感情が彼女の表情を暗くしていた。

 

「………はぁぁ………」

 

しゃあねぇな、とクリスがぼやくと同時にその背中を勢い良く叩きつける。

 

「うぇえッ!?く、クリスちゃん?」

 

「なーにしょげた顔してんだよ、おめーにんな顔似合うかよってんだ。

……大丈夫だ、皆無事に決まってんだろ。あいつらや先輩がそう簡単にやられるたまかよ」

 

だから暗い顔する前に急ぐぞ、頬を赤くしながら照れるようにそっぽを向いて前を行くクリスの彼女らしい言葉にそうだよね、と頬を叩いて気合いを入れ直し、暗い表情とはオサラバした響もまた駆ける。

皆が待っている会場へ、私の陽だまりが待つ場所へとーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー響ッ!!」

 

「未来ッ!!良かったぁ………無事だったんだね………!!」

 

会場へと到着した響を待っていたかのように小日向未来が駆けてくる。

それを抱き締めて再会を喜ぶ響であったが、未来はそうではなかった。

 

「お願い響!!あそこに……会場にキャルちゃんがまだいるの!!」

 

「えぇ!?きゃ、キャルちゃんがどうして!?観客は避難したって………」

 

そこから未来が高まる感情をなんとか宥めながらゆっくりと説明し始めた。

ノイズの出現と共に彼女の案内で避難し始めた事、

出口までは一緒にいたけれど、出口付近にいたノイズの囮となって別れてしまった事、

その後に観客が解放されて、その中にいるんじゃないかと探し回ったけれどもその姿はなかった事を、

 

「だからきっとまだ会場にいるはずなの………お願い響!!助けてあげて!!」

 

ーー浮かんだのは最悪の可能性。

ノイズを相手に逃げ切れた、とは想像しづらい。

かつて自身がまだガングニールを、天羽奏から受け継いだシンフォギアを目覚めさせる前、子供と一緒にノイズから逃れる為に街中を駆け回ったのを思い出す。

無数のノイズはどこを逃げても、どこまで逃げても追い掛けてきた。

下水でも道路でもビルの上でもお構い無しに追い掛け続け、人間だけを殺すと言うその使命を果たさんとした。

あの時ガングニールが、歌が無ければ、立花響は灰となってこの場にいなかっただろう。

 

それ故に浮かんでしまう最悪の可能性。

ノイズに追われ、シンフォギアがあったからこそ窮地を脱する事が出来た立花響だからこそ分かる最悪の可能性。

 

ーーけれどもーー

 

「ーーうん、分かった!キャルちゃんは私に任せてッ!!」

 

立花響はそんな可能性を自ら否定する。

絶対に無事だ、絶対に大丈夫と否定する。

それが曖昧な理想に近いと分かっていながら、それでもと望む。

何故ならそれが立花響と言う人間だからだ。

誰も苦しまず、誰もが幸せな世界を望む心優しき乙女。

それが、立花響だから。

だから望む、だから手を伸ばす。

皆が望む平和を掴む為、苦しむ誰かを助ける為にこの拳はあるのだからと立花響は駆ける。

最悪の可能性を吹き飛ばし、最高の可能性を手繰り寄せる。

その為に駆ける、立花響は駆ける。

その先に待つ人がいるから、彼女は駆けれるのだからーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、さっきキャルって聞こえたけどさ、もしかして………?」

 

「え?クリスちゃん、キャルちゃんと知り合いなの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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《なあなあ、俺達こんな仕事で良いのか?》

 

《だってあんなジャパニーズニンジャと正面切ってやり合うなんて無理だろ、いや、俺達もニンジャ型だけどさぁ》

 

会場の一角、映像中継を管理する部屋の前に陣取るはセレナが作成した如何にも忍者です、と言いたげな黒い衣装を身に纏ったアルカ・ノイズ達。

諜報班所属のアルカ・ノイズである彼らは忍者をモチーフに開発され、戦闘能力こそ低いが多種多様の忍術もどきと隠密行動を得意とし、諜報班として数々の活躍をあげている。

 

さて、そんな彼らが此処にいるのには訳がある。

そう、この部屋の中にいる風鳴翼のマネージャーであり、護衛であり、ガチモンの忍者である緒川だ。

ファラより事が終わるまではあの男を外に出さぬようにと命令を受けた彼らだが、ぶっちゃけガチモン忍者であるあの男とやりあって勝てる気が不思議としない。

アルカ・ノイズVS人間だと言うのに、だ。

 

しかし与えられた役目は果たさねばならない。

ならばどうするか?

答えは単純明快、出口と言う出口を全て塞ぎ、ダクトまでも塞ぎ、ネズミ一匹通れない完全密室に作り替え、ひたすらに睡眠効果の高いガスを部屋の中へと充満させる忍術を用いる事だ。

え?それは忍術じゃないだって?

いやいや、忍術だよこれも。

あれだよ、睡眠の術だよ、うん。

 

《ガスどのくらい流しましたっけ?》

 

《映像中継途絶えてすぐだから………彼是1時間位か?》

 

《流石にもう良いんじゃない?これ以上だと永遠に眠っちゃうんじゃあないか?》

 

《いやいやまてまて、ジャパニーズニンジャを舐めるんじゃないぞ。最近の忍者は手に光線球作って放ったり、何度殺しても周囲に病気ばら蒔いて甦ったり、お寿司を食べるだけで回復したりと何でもありだ。油断すればすぐにやられるぞ。だからガスは止めずにドンドン流す、いいな》

 

《御意》

 

間違えたジャパニーズニンジャの情報が緒川に対する最大の警戒となり、部屋を満たすガスは延々と送り続けられた。

 

ーーーまさかこの警戒が功を成し、耐えきれなくなった緒川が部屋の中で眠っているとは知らずにーーー




アルカ・ノイズVS緒川
勝者アルカ・ノイズ(勝因間違えたジャパニーズニンジャ知識)

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