セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第53話

---撃音---

迫る黒い手に振るわれるは全てを薙ぎ払う黒い撃槍。

黒と黒、お互いに同じ色を持つ2つは激しく衝突し合う。

一見すればそれは互角にしか見えない対等な戦いである。

だが―――実際はマリアの姿を確認すれば一目瞭然であろう。

 

「――ッ!!はぁはぁ――ッ!!」

 

纏うシンフォギアは既に全身傷だらけとなり、振るわれる撃槍もまた損傷が目立ってきている。

対する黒い手は千切れ飛んだ物も幾つか存在していたが、ゆっくりと粘液の様な悍ましい何かを垂らしながら再度引っ付いていく光景には、マリアも乾いた笑みを浮かべるしかないだろう。

黒い手でこれなのだ、それを操る彼の少女など無傷でしかない。

それどころか、この戦闘中彼女は徹底的に黒い手の制御だけを行い、自らは戦闘に介入してくる要素さえ見せない。

 

「舐められた……ものね……ッ!!」

 

敵、彼女がそう発言すると同時に始まった戦闘は終始マリアが苦戦を強いられていた。

それも当然だ、相手は切っても千切っても吹き飛ばしても再生し向かってくる黒い手。

その絡繰りこそ不明だが、戦う度に数が増していくのも相まって嫌が応にも苦戦を強いられ、既に対応すべき手段は数えられる程度しかなくなっていた。

LiNKERの効果時間ももはやカウントダウン状態。

彼女の登場と共にマムとの通信が途絶えた為不明のままであるが、恐らく当初の計画のネフィリムを目覚めさせるに至るフォニックゲインも足りていないだろう。

撤退するのも考えたが、ネフィリムが覚醒していないこの状況で撤退した所で後がないのも事実。

ならば、残された手段はーーー

 

「(…これは、最悪の選択を使うしかないかしら…)」

 

浮かび上がるのは――≪絶唱≫

命を燃やし、奏でる歌はネフィリムが目覚めるに至るフォニックゲインを出現させ、同時にこの黒い手を倒せる力となるだろう。

当初の予定では仮定の段階にさえ無かった最悪の選択。

けれども、もはやそれしかないだろう。

この窮地を脱し、目的を叶えるにはそれしかないだろう。

 

「―――――」

 

――怖くない、と言えば嘘になるだろう。

どうしても浮かび上がってしまうのは、あの子の――セレナの最後。

絶唱の負荷に耐え切れず、炎の中へと散ったあの子の最後の姿。

 

――いざ絶唱を奏でようとして初めて分かる恐怖――

あの子はこんな恐怖に耐えて、大人の為に、汚い世界の為に歌を歌って死んでいったのかと理解する。

怖いと言う感情が何度も胸を掻き回し、そこから生まれた自らの弱い心が命ずる。

全てを投げてしまえば良いと。

世界も目的も何もかも、かなぐり捨ててしてしまえば良い。

そうすれば解放される、そうすれば楽になれる、と。

 

「―――ふ」

 

僅かに、その提案を受け入れようとした自分がいたのも事実だと自覚する。

マリア・カデンツァヴナ・イヴと言う人間の弱い心が揺れ動いたのを認める。

甘い誘惑に、優しい誘惑に揺れ動いたのを認める。

 

けれども、それでも、と傷ついた身体を奮い立たせる。

視線を黒い手から逸らし、見つめる先には――調と切歌。

私が得た、得てしまった居場所を見つめる。

セレナを見殺しにした私が得てはいけないはずの居場所を、得てしまった居場所を、守りたいと願ってしまう居場所を、見つめる。

 

「ま、マリア?」

 

「――――!?もしかして…駄目ッ!!それは駄目ッ!!マリアぁぁッ!!」

 

支え合いながらゆっくりと立ち上がる2人を見つめながら、覚悟を決める。

既にこの命はあの時に――セレナを守れなかった時から何時でも燃やす覚悟をしていた物。

そんな命を、大事な居場所を――あの子達を守るのに使えるのであれば、本望だろう。

ポケットにあるお守りを握りしめ、小さく笑みを浮かべる。

あの子は、きっと許してくれないだろうな、と。

自身を見殺しにした私を、助けてくれなかった私を、絶対に許してくれないだろう。

 

「(…だけどお願い、セレナ)」

 

今だけで良い、たった1度だけで良い。

どうか私に勇気を頂戴―――セレナ

 

「―――見せてあげるわ、私の覚悟をッ!!!!」

 

----口が動く----

奏でられるは死が近づく歌

セレナが奏で、命を燃やしたあの歌を、歌う。

ゆっくりと、ゆっくりと動いていく唇は歌声を奏でようとして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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---纏う雰囲気で察した---

彼女が奏でようとしているそれを、命を燃やす歌を、察した。

流石の黒い手も絶唱には耐えられないだろう。

引くべきだ、その為の機能はファウストローブにある。

なんならポケットにあるテレポートジェムでも構わない。

絶唱をやり過ごす術などいくらでもある。

引くべきだと脳がもう一度命ずる。

それは冷静な正しい判断だ。

何も間違えていない、正しい答えだと理解している。

ではなぜーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目ぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この身体は前へと進んでいるのだろうか?

 





やだ………ファウストローブ ニトクリスの鏡強すぎたかしら………?

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