セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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みんなー報告しないといけないことがあるから活動報告を見てほしいんだゾー


第54話

 

ーーー《それ》を見たーーー

 

 二人の少女が並んで歩いていた。

瓦礫と化した街を、瓦礫だらけの道を歩く少女達の靴はもうボロボロで、もはや靴としての機能は果たされていない。

靴に滲む血液、荒れた呼吸、汗ばむ身体。

辛く険しい道を進む少女達、しっかりと結ばれた手を握り締め、二人は進む。

 

セレナ、大丈夫?》

 

前を歩く年上らしき人物が後ろにいる年下の少女を心配するが、彼女が限界なのは一目で分かった。

幼い身体にあまりにも過酷な道。

瓦礫や破片は幼い少女の足を傷付け、滲み出る血液が靴だった物を赤く染めていく。

けれども少女は笑顔を浮かべる。

額に汗を流し、足を襲う激痛を耐えながら、笑顔を浮かべる。

 

《だいじょうぶだよ、マリア姉さんこれくらいへっちゃらだもん》

 

それが空元気だと誰にでも分かった。

年上の少女を心配させまいと笑顔を見せる少女に、年上の少女の顔が歪む。

瓦礫の道を進んでどれくらいが経っただろう。

幼い2人が必死に手を取り合って逃げてどのくらいの時間が経っただろう。

足を止めて休むべきだと誰にでも分かる。

だが、それを止めるのは遠くから聞こえる銃声。

大人達の争いが少女達から休む選択肢を奪っていく。

 

《ーーッ、ほらセレナ乗って》

 

年上の少女が屈んで背中を差し出す。

彼女もまた、疲労し、少女同様に血が滲む足であると言うのに差し出す。

そんな背中に少女は乗るのを断る。

幼い少女とて理解している、彼女が自身同様に疲れ果てている事を、

それ故に断った少女であったが、彼女は有無も言わさずに少女を背中に乗せた。

 

ま、マリア姉さん!?わ、わたしだいじょうぶだよ?》

 

《遠慮なんてしないの、さっき食べたパン、私の方が少し大きかったでしょ?おかげで私の方がまだ元気だもの、このくらい何ともないわ》

 

―――嘘である。

年上の少女の持つ小さなバックの中には先程分けた筈のパンがほとんど手付かずのまま残されている。

パンだけじゃない、水も数少ない薬品も全て手付かずのまま残されていた。

 

――少女は理解していた――

幼いと言うのに、理解していた。

この紛争が長引くと、そして自分達の様な無力な子供では明日食べれる食糧が得られるかさえ怪しいと言う事を―――

だから、残した。

ほんの一口だけ食べたパンの味と、数摘だけ飲んだ水の味を思い出しながら、彼女は全て残した。

自身の為ではない。

 

―――全ては背中に背負う彼女の為に、だ―――

 

もしも明日自身が倒れても、彼女さえ生き残ってくれるのであればそれで良い。

既に限界に近い空腹感と、疲労が少女を襲う中、少女は自身の乾いた唇から流れる血液を啜りながら前へ前へと進む。

 

マリア姉さん、ほんとうにだいじょうぶだよ…わたしおりるよ…≫

 

そして背中にいる少女もまた理解した―――せざるを得なかった、

今自身を背負ってくれている人がもう限界である事を、お腹から聞こえる空腹を知らせる音が、乱れた呼吸が、嫌でも教えてくる。

苦しめたくない、降りようとする少女に対して、年上の少女は笑みを浮かべる。

 

≪――本当に大丈夫なのは私の方よ、確かにちょっとだけお腹空いたけど、避難キャンプに行ければたくさんご飯を食べれるわ!!セレナの大好きなプリンだってあるわよ!!だから…だから大丈夫よ。それに、普段は私が甘えてばかりですもの。だから――――≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪たまには私にもお姉ちゃんらしい事させて、セレナ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でりゃああああああああああああッ!!!!」

 

聴こえてきたのは咆哮。

見えていた≪何か≫を中断せざるを得ないその咆哮に最初に動いたのは黒い手であった。

死角からの完全奇襲で放たれる拳に対して黒い手は自発的に主を守る為に幾つも重なって盾となり、もう一振りの撃槍を――立花響の拳を受け止めた。

 

「―――ッ!!はぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

しかし立花響は止まらない。

脚部に着いているバーニアが火を噴き、押し止めようとする黒い手へ向けて彼女らしく一直線に突き破ろうとする。

立花響の一撃に徐々に押され始める黒い手は焦りを見せる。

仮に突き破られれば主へと攻撃が到達してしまう、そう判断した黒い手は盾となっている物の数を増やしながら、全周囲より立花響へ攻撃を仕掛けようと揺れ動く、だがー――

 

「させるかってんだッ!!!!」

 

轟音と共に放たれるはガトリング砲。

雪音クリスの持つシンフォギア≪イチイバル≫が持つ遠距離兵装が立花響へと迫る黒い手へと放たれる。

ガトリング砲を浴びる黒い手だが、弾丸は調が放った攻撃同様に吸収されるように取り込まれていく。

 

―――それがクリスの狙いであると知らずに―――

 

「―――バアン♪」

 

クリスの戦場に相応しくない声と共に、鳴り響くは―――爆発音。

弾丸を取り込んだ黒い手が次々と爆発していき、千切れ飛び、吹き飛んでいく。

クリスが放った弾丸は小型の爆薬を内蔵した特殊製。

意図的に飲み込ませ、ある程度の時間経過で自爆するそれは、内部からの攻撃と言う予測していなかった一撃によって、黒い手に確実なダメージを与えた。

突然の爆発、黒い手が戸惑う様に揺れ動く中で生まれた僅かな隙を狙って、立花響と雪音クリスは駆け、黒い手に包囲されていた風鳴翼を救助し、一度客席まで退いていく。

 

「大丈夫でしたか翼さんッ!!」

 

「すまない立花、雪音も気苦労を掛けたな」

 

「はぁ!?ん、んなもん掛けられた覚えはねえよ!!あたしはただなぁ!!」

 

再会を喜ぶ三人、だがそんな三人を見たセレナの表情が僅かに歪む。

相対したくはなかった面々が勢ぞろいしてしまった、と。

そして同時に―――

 

「マリア退きなさいッ!!」

 

会場に鳴り響くのは聞き覚えの無い女性の声。

どこから、視線が声の主を探さんと動くより先に1つの閃光が放たれる。

閃光は会場中央へと直撃し、そこから出現したのは―――巨大なノイズ。

 

「――増殖分裂型!?」

 

アルカ・ノイズ研究を行っているセレナは必然的にノイズの情報を多く得ている。

その知識の中に眠る情報によって、眼の前のノイズの正体を突き止めると同時に、視線の先でマリアが2人の小さな装者に抱えられて走り去っていくのが見える。

止めなくては――咄嗟に黒い手を向かわせようとするが、させまいと振り返った装者によって放たれた無数の小さな鋸が増殖分裂型に命中し、飛び散って増殖していく。

黒い手を阻む様にぶよぶよと動くノイズと会場から離脱していく装者達に舌打ちしながら、セレナは次々と増えていくノイズにどうしたものかと思考する。

 

「(これは…不味いですね…)」

 

増殖分裂型は攻撃すれば分裂し、放置すれば延々と増殖を繰り返していく厄介なタイプ。

倒す術はコアを打ち砕くか、分裂や増殖が出来ない火力で一瞬で倒すかだ。

後者はそれこそ絶唱しかないだろうし、前者はあのぶよぶよとしたボディがコアを狙うのを阻む。

かと言ってこのまま放置すればこのノイズは会場外まで溢れるぐらいに数を増やしていくだろう。

どうにか打開策を、そう模索するセレナであったが、不意に聞こえて来た歌に驚愕する。

ただの歌であれば何も問題はない。

だがそれは―――絶唱であった。

 

≪聞こえるか馬鹿弟子≫

 

「え!?し、師匠どうしたんですか!?」

 

聴こえてくる絶唱、そして突然聞こえた師匠の連絡にと二度驚愕しながら返事をするセレナであったが、視線の先では絶唱の三連奏と言う何を考えているのか、思わずそうツッコミを入れてしまいそうになる光景が繰り広げれている。

止めないといけない、その想いで動き始める身体を止めたのはーー師匠の声だった。

 

≪いいか馬鹿弟子、大体の事は知ってる。そして立花響達が何をしようとしているのかも知っている。そのノイズは連中に任せてお前も撤退しろ。このどさくさ以外に撤退出来る隙はない。いいか、これは命令だ。拒否は許さん≫

 

「で、ですけど!!」

 

《命令だと言ったぞ》

 

有無も言わさないとはこの事だろう。

目の前で奏でられる絶唱、止めなくてはと焦る感情を堪え、自身も引き上げる為にテレポートジェムを叩き付けた。

消えて行く身体、消えて行く視界。

消え行く最後に見えたのはーーー立花響の輝く拳であった。

 

 

 

 




F.I.S.ボロボロだねぇ………

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