セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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時間が飛びマース


第6話

シャトー内部にある広大な広さだけが特徴のその部屋は、シャトーの主たるキャロルでさえもその部屋の存在を忘れかける程に誰にも使われる事がなかった。

最初は倉庫…と言えば聞こえが良いが実質はいらない物を押し込めただけの汚部屋。

そんな部屋を掃除、整理し、今はある目的の為に利用されている。

それはーーー

 

「やぁぁぁッ!!」

 

白い装束を身に纏った少女から放たれるは短剣。

まるで意思を持つが如く少女の指示に従い、器用に動き回りながらこの部屋に存在するもう1人の存在、ミカへと迫る。

 

「あはは☆そんなんじゃ当たらないゾー♪」

 

短剣の動きは決して遅いわけではない、むしろ人の目で追える可能性は圧倒的に低いだろう。

しかしミカはそれを認識し、自身へ迫る短剣を器用に避け、確実に少女へと距離を埋めていく。

 

「ッ!!」

 

ミカを相手に接近戦の危険性は他の誰でもない少女が一番知っていた。

近寄らせてはいけない、即座に判断して行動へと変えてゆく。

放たれた短剣は2つ、未熟な自分ではそれ以上増やせば完全なコントロールに失敗する可能性が高まる。

だがそれでもミカの接近を許すわけにはいかなかった。

 

「てりゃぁぁぁッ!!」

 

少女から追加で放たれた短剣。

合計4つとなった短剣がミカへと迫るが、その動きは明らかに先程のそれと比べれば精密さに欠ける。

しかしやはり数は数、接近しようとしていたミカの動きを確かに阻んでいた。

これなら………少女は確かな手応えを感じながら短剣の動きに集中するが、次第に動きの乱れが目立ってくる。

修正しなければと更に意識を集中させようとした際に生じた僅かな隙。

時間に数えれば数秒にも満たさないほんの僅かな隙が、この戦いに結末を迎えさせた。

 

「あはは☆これで終わりだゾ~♪」

 

気付けば目前にはミカの巨大な爪。

あの一瞬で距離を埋められたッ!?

驚愕している間にも迫る爪に何とか更なる短剣を作り、その一撃を防がんとするが、迫る一撃に比べれば貧弱な迎撃。

短剣は容易く破壊され、巨大な爪は少女へと衝撃をぶつけてーーー頭の上からパンッと破裂する音が聞こえた。

 

「やったゾ♪これで勝敗は………えっと?」

 

「はぁ………これで65戦2勝63敗………ミカさん強すぎです……」

 

落胆する少女の顔に降り注ぐのは割れた風船。

中からは「お前の負け」と中々に達筆な文字で書かれた紙が降り注ぎ、少女の落胆に更に拍車をかける。

対するミカの頭には風船が3つ。

あの中の1つでも割れば少女の勝利と言う中々なハンデを貰ってのこの勝敗率には落胆せざるを得ないだろう。

ちなみにだが2勝と言っても1つはミカがルールを把握せずの自爆、もう1つはミカの動きに風船が耐えきれずの自爆であったりもする。

未だに少女の力で勝利を勝ち取る事が出来ない、それは少女にミカとの圧倒的な力量を認識させた。

 

「ふふん♪」

 

此度も勝利を得られてご満悦なミカだが、少女は決して弱いわけではない。

むしろオートスコアラーの中で一番戦闘能力が高いミカ相手にかなりの奮戦を見せているだろう。

その事をミカも承知している、だからこそミカにとっても少女との鍛練は楽しい時間でもあるのだ。

 

「あら、今日もミカの勝利でしたか」

 

「ファラさん!何時から見てたんですか?」

 

そんな二人の鍛練場である部屋に入ってきたのはファラ。

少女がシャトーに身を置いてからはや一月。

その間なんやかんやと一番少女の身の回りの世話を手伝っていたのがファラだったりする。

そんな事もあってか、少女も自然的にファラに懐き、ファラもまた少女を愛おしいと認識していた。

 

「鍛練の途中からです、短剣の数を増やして接近を妨害しようとしたのは良い判断でしたが、そのコントロールに失敗したのはまだまだ未熟な証ですね」

 

「うぅ………分かってはいるんですけど、どうしても上手くいかなくて………」

 

「ええ、なので今度時間がある時にはその鍛練をしましょう。マスターがお呼びですよ?そろそろ行かないと間に合わないのでは?」

 

え?と部屋に掛けられた時計を見た少女は慌てて部屋を出ていく。

汗を流す時間くらいはまだあるからシャワーを浴びてから行くんですよーと去っていく背中に声を掛けるが、聞こえているやら………

仕方ないですね、と呆れ半分可愛さ半分のため息を付きながら鍛練場の掃除をするのであった。

 

「さらっと逃げようとしてますがミカ、あなたも手伝うのですよ」

 

「……だゾ………」

 

 

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「遅くなりましたッ!!」

 

慌てるようにたどり着いたのは1つの部屋。

部屋の中を埋め尽くす器具や道具の数々、そして部屋の中央にはーー

 

「遅いぞ、どうせミカとの鍛練に夢中になっていたのだろうが……俺がせっかく時間を割いてやっているんだ。遅刻するとは言語道断だぞ」

 

シャトーの、そして四人のオートスコアラーの主であり、少女にとって錬金術の師匠でもある少女キャロルがお怒り状態でそこにいた。

 

「す、すみません師匠!!」

 

謝りながら錬金術の準備をしていく少女の背中を見ながらキャロルは思考に耽る。

 

「(こいつにも慣れたもんだな)」

 

少女を保護してはや一月。

少女の存在は既に慣れ親しんだ物となり、オートスコアラー達も、そしてキャロル自身も彼女に親しみを感じていた。

特にキャロルにとって一番の原因となったのはやはり錬金術だろう。

キャロルが使う錬金術を偶然目にした少女からの提案で錬金術を教える事となったのだが、彼女の成長は凄まじい。

まるで乾いたスポンジの如く教えた事をみるみる吸収し、そして自らの発想で応用、適応させて使う様はキャロルを楽しませている。

シャトーの建造と言う本来の使命に掛ける時間もあるので指導出来る時間に限りはあるが、それでも少女はそんな僅かな時間の教えを十分に生かしている。

 

「(まさか俺が弟子を持つとはな……)」

 

数百年を生きる彼女にとって弟子を取る、なんて選択を己がするわけがないと思っていた。

だが、目の前で教えた事を吸収し、成長していく彼女を見ていると不思議と嫌な気分にはならなかった。

最近では廃棄躯体を利用してオートスコアラーの勉強と研究にも手を出していると聞く。

まあ廃棄躯体からは重要情報の類は取り出しているので何も問題はないだろう。

 

「……そう言えばだが、お前名前は思い出せたか?」

 

何気なく問うたのは素朴な疑問。

この一月、彼女が思い出せた記憶はなく、名前も未だに不明。

新しい名を与えても良かったが……家族から与えられた名前を他人が好き勝手に変えるのには躊躇が生じた。

だからこの一月、お前とか貴方とか呼ばれているのだが……流石にこのままと言うわけにも行かないだろう。

そう思っての問いであったが少女は悲しげに首を横に降る。

 

「……そうか……すまない」

 

「あ、いいえいいえッ!!ただでさえ師匠や皆さんにはお世話になっているのに、むしろこんな何も覚えてない私をこんなに優しくしてくれて私の方が恐縮と言いますか……とにかく気にしないでください!!」

 

どこか無理をした笑顔をして早口で語る彼女に胸が僅かに痛む。

過去の記憶がない、それはキャロルも決して例外ではない。

《想い出》を燃やして力に変える、キャロルの力の源であるそれは使えば使う度に過去を燃やしていく。

思い出せない記憶も既にあるくらいに………

いずれは過去を全て燃やし尽くし、何も思い出せなくなる日が来るだろう。

だから目の前の少女は他人事ではない。

いずれは自らが辿るやもしれない未来でもあるのだ。

 

「(だがそれでも………)」

 

少女は果たさねばならないのだ。

父から与えられた最後の命題《世界を知れ》

だからこそ少女は世界を分解する、世界を知る為に、父の命題を果たす為に………

 

「(………………ん?)」

 

ふと、何故か違和感を感じた。

ほんの小さな、けれど拭いきれない違和感に首を傾げるがーーー

 

「師匠、準備終わりました」

 

弟子からの言葉に違和感を気のせいだと無視してキャロルは師匠として可愛い弟子への教練を始めるのであった。

拭いきれない違和感をその胸に宿したままーーー

 




ファラはおかん、異論は認める

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