セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第59話

 

事の発端はファリスに与えられた記憶(メモリー)にある。

ガリス同様にファリスにも後々の為にと膨大な知識と現段階で判明している装者の記録をインプットしているのだが、その中でファリスが一番興味を抱いたのがーーー剣こと風鳴翼であった。

 

戦場で歌を奏で剣を振るうその姿。

自らを防人と、剣と語るその姿。

それでありながら歌姫として多くの人々を魅了するその姿。

 

どれもこれも自我と記憶を得たばかりのファリスには真新しく、眩しく、明るく、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――徹底的に壊したい、と思った―――――

 

 

 

 

 

 

 

それはまるで決まっているかのように沸いた願望であり、極自然とそうするしかないと沸いた感情であった。

 

あの剣を地面にひれ伏せさせて泥水を啜らせてやりたい。

あの剣を圧し折り、その心を滅茶苦茶にしてやりたい。

あの剣が泣いて謝る光景を見てみたい。

 

あの剣を、この手で―――ーー

 

 

 

 

 

はっきり言って歪んでいる感情。

だがそれが、それこそがファリスと言う存在が自我と記憶を得たと同時に初めて抱いた感情であり、その感情は行動へと形を変えて―――あの騒動を引き起こした。

間違いなく、あの場で止めなければ彼女は本当に風鳴翼と戦うためにシャトーを飛び出していただろう。

その姿はまさに―――狂犬だ。

 

「(これはまあ…また厄介な奴を作ってくれた物だな…)」

 

ガリスの時とは違い、ファリスは扱い方を一歩間違えれば厄介な事を仕出かすタイプなのは間違いないだろう。

そんな行動を引き起こす原因となっている、風鳴翼へ対する異様なまでの向けられた感情。

恐らくだが、その原因となっているのは人格の元となったファラとガリィだろう。

最近になってファラが風鳴翼の歌声に興味を持ち、こっそりとCDやらグッズを買い集めているのを知っているのだが……恐らくこれは本人さえも気付いていないのだろうが………

ファラは今、オレやプレラーティ、馬鹿弟子以外の人間に対して初めて敵意以外の感情を向けている。

 

ファラはオートスコアラーの中では大人びた性格をしている。

任務にも忠実で、比較的にオートスコアラーの中で一番人間と接する事の多い彼女だが、基本的にファラが他人に対して興味を抱くと言う事はない。

特に錬金術と関係のない相手に対しては全然と言っても過言ではない。

主たるオレと、協力関係にあるプレラーティ、そして保護対象者であり実質家族であるセレナを除いてだ。

そんなファラが初めて錬金術とは無関係の人間に興味を抱いた。

恐らくその興味がガリィの歪んた性格と重なり、対象に対する異常なまでの執着心を見せているのだろう。

 

「(…ガリィめ、余計なことを………)」

 

本人に罪はないのだが、ついそう口走ってしまう辺りガリィへ対するキャロルのイメージが伺える。

さて、そんな狂犬ファリスだが……今でこそ大人しくしているが、恐らくこんな行動をまた繰り返すだろう。

ファリスの今の状況は、恐らく欲求不満に近い。

風鳴翼と言う餌を前に焦らされ、待たされ、増え続ける欲求に身を焦がしているのがファリスだ。

ならば、その欲求を発散させてやれば少しは大人しくなるのでは?

それならば………

 

 

「……喜べファリス。風鳴翼と争うのは今は無理だが、代わりに戦える相手を紹介してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……なるほど、色々と驚かされ放題ですが……私が呼ばれた理由は把握致しました」

 

場所は代わりいつもの鍛練場。

そこに集うのは、二課の監視と言う任務の為に帰還出来ないレイアを除いたシャトーの主な面々。

その中央、ファリスと向き合うのは彼女の姉であり、キャロルに仕える忠節な人形ファラ。

その手には既に剣殺し(ソードブレイカー)が握られており、自らが呼ばれた理由を理解した彼女は目の前にいる妹へ構えをとる。

 

「………姉妹の初対面、もうちょっとロマンチックなのが良かったけれど………これはこれで私らしくもありますね」

 

剣殺し(ソードブレイカー)を構えるファラに油断などない。

対峙するは、自らの妹として開発されたファリス。

その実力も、特性も、何もかも不明な相手。

そんな全くの未知な相手に、ファラもまた興奮していた。

どのような力を持っているのか、どのような技を使うのか、どのような戦闘方法を用いるのか。

妹であるはずのファリス、だが今のファラの眼に映るのは《敵》としてのファリス。

 

戦いの場を迎える度に沸き上がる興奮。

それを抑えようとはするが、きっと表情に出てしまっているだろう。

いけないとは思いながらも抑えきれない感情を燃やしながら、ファラは構える。

目の前の妹に、戦うべき相手に構える。

 

そんな姉を相手に、ファリスは手を掲げる。

宣言する様に堂々と、勇ましく、盛大にーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降伏、です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー敗けを認めた。

 

 


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