セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
ファリスの一件から数日が経過した。
右手を切り裂かれると言う言葉にすれば凄まじい損傷を受けたはずのミカであったが、キャロルの手により修復を完了した。
そんなミカの修復作業中の間、罪悪感からかずっと傍にいたファリスであったが、自然とミカと仲良くなっていた。
最近では頻繁に鍛錬場へ赴き、素人が入り込めば瞬く間に死んでしまうだろう鍛錬と言う名前の激戦を繰り広げている。
その様子にむくれていたファラであったが、
最近はファラがファリスを連れてどこかへ消えていくのを頻繁に見かけるが…何をしているかまでは不明である。
ただファリスが良く鼻歌を歌う様になった事だけは確かだ。
さて、そんな仲睦まじい様子を見せてくれているファリスのマスターであるセレナはと言えばーーー
「わぁ~♪」
視界一杯に映る華やかな飾り付け。
嗅覚を刺激する出店から漂う多種多様な美味しそうな香り。
普段は学生と関係者しか入れないリディアン音楽院の校門を通り抜けながら、セレナは握られたパンフレットを手に―――≪秋桜祭≫へと赴いていた。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「え!?い、良いんですか!?」
「ああ、構わん。たった今を以てお前の謹慎処分は解除とする。件の…なんだったか?秋桜祭?とやらにも行って来て構わんぞ」
秋桜祭当日の朝、朝食の場で発せられた内容に思わず立ち上がってしまう。
謹慎処分の関係で恐らく行くのは無理であろうと諦めていたセレナからすれば朗報であった。
だがそれはそれで色々と用意しないといけなくなるのも事実。
セレナの脳内には今日着ていく服どうしましょうか?とか髪型可笑しくないでしょうか?とかお土産とかいるんでしょうか?とか、女の子らしい悩みに埋め尽くされる。
せっかく許可を貰えたのだ、しっかりとおめかししてから行こうと朝食として作ったパンとスープをさっさと食べ終え、鼻歌交じりに衣装タンスの方へ向かおうとして―――
「―――ただし、条件があるがな」
まさかの不意打ちの一言に足を止めざるを得なかった。
「え゛し、師匠…条件って何でしょうか…あ、師匠とエルフナインちゃんのお昼ごはんと晩御飯はしっかりと作っていきますから安心してください!後掃除洗濯もアルカ・ノイズ達にお願いしますので大丈夫ですよ!」
「…いや、助かるは助かるんだが…何だこの扱い…まあいい。条件と言っても些細な物だ。こいつを付けていけ」
千切ったパンを食しながらキャロルが取り出したるは――小さな白い花をモチーフにした飾り。
受け取ってみると想像以上に軽いそれは見た目も愛らしく、試しにと胸元に付けてみるが全然違和感なく胸元で白く輝いている。
だが一見すれば普通の装飾品だが、錬金術を学んでいるセレナはほんの僅か程度の違和感であるが気付けた。
これを装着すると同時に何かしらの術式が起動した、と。
「察しが良くて助かる。そいつにはオレが組んだ認識阻害術式を入れ込んである。そいつを付けている限りお前の外見は他の奴らから見れば異なる様に視える仕組みにしてある」
「えっと…具体的には…?」
「お前が大人に見える様にしてある。だが錬金術師相手であれば効果がない玩具程度の効力だからオレにはいつも通りのお前にしか見えん。だからどんな姿になっているのかまでは保障出来ないがな」
なんでそんな仕組みを?疑問に抱いたそれを聴こうとするより先に理解してしまう。
二課が不審な動きを見せているとの情報は既にガリスから報告が上がっている。
現段階ではまだ脅威に至るレベルではないが、それでも警戒するには十分。
師匠はそれに備えてこれを渡してきたのだろう。
ありがたい、そう思う反面……理解する、してしまう。
ーーー私に残された《日常》はもうあまりないのだとーーー
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「………………」
胸元で白く輝く白い花。
その輝きに複雑な感情を抱きながら、セレナは気持ちを切り替えるように頬を軽く叩く。
先の事を考えるのは、今はやめよう。
校門をくぐり抜けながら、今日を楽しもうと笑顔を見せながら前へ前へと進む。
その先に待つ再会と出会いを未だ知らずに………
----------------------------------------------------------------------------------------------------
立花響は周囲の明るい雰囲気とは異なり、暗い面持ちにて佇んでいた。
先日行われたフィーネのアジトである廃病院襲撃。
そこで言われた言葉が何度も脳内に響き渡る。
《偽善者》
《正義では守れない物を守る為に戦っている》
分かっては、いた。
その人によって戦う理由は異なるのもその人だけの理由や事情があって、それは時に争うしか道がないのも分かってはいる。
立花響の人生がまさにそれだ。
この拳で誰かを救えるのであればとシンフォギアを纏い、誰かを救う為にこの拳を振るってきた。
その為に了子さんと………フィーネと闘った。
守りたい世界と守りたい人の為に、この拳を振るった。
それしかなかったから、振るった。
「………………」
偽善、そう言われても仕方ないのかな、と思う。
それしかなかったとは言えこの拳は………間違いなく了子さんを打ち倒した。
了子さんなりの事情や理由を踏み越えて、私が守りたい物を守る為に倒してしまった。
誰かを救いたいと願う、この拳で………………
「ひーびき」
「え?あ、未来どうしたの?」
そんな暗い面持ちをした響に寄り添う様に姿を表したのは小日向未来。
自分の親友である響が何かを悩んでいるのは知っていたが、力がない自身では何も出来ないと心の中で嘆く少女は、せめてと笑顔を見せる。
「良かったら一緒に周らない?ステージまで時間あるから、ね?」
小日向未来は願う、願うしかないから願う。
せめてこの一時だけでも自分の親友が笑顔でいられます様に、そう願いながら優しく手を引っ張るのであった。
「(キャルちゃん………来てくれてるかな?)」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「おっめでとうございまーす!!」
クラッカーの爽快な音と、拍手喝采が鳴り響く中でセレナは乾いた笑みを浮かべていた。
射的と書かれた出店で繰り広げられるこの光景には理由がある。
セレナが《落ちたら全部やるよ!!》と書かれたどう見ても落ちなさそうな巨大な熊のぬいぐるみを落として見せたからだ。
「あはは……ど、どうもー……」
セレナからすれば日頃の鍛練に比べれば容易い事であり、レイア直伝の狙撃センスを以て、どうせ狙うならと撃ち落としてみたらこの騒ぎなので、困惑するしかないだろう。
学生から手渡された沢山の景品を何とか持ちながらセレナは射的を後にしていくのだが、これは困ったと悩む。
「どうしましょうかこれ………」
景品はぬいぐるみやお菓子から始まり、幾つかの出店の無料引換券等もある。
前者はともかく、キャロルから結構な額のお小遣いを貰っているので引換券はありがたくもあるが、必要と言うわけでもないのでどうしたものかと困っていた時だった。
背中に感じたのは二人分の感触。
誰かに当たってしまったと急いで謝ろうとしてーーーー
「マリア!?何してるんデスか!!」
「マリア、どうしてここに?」
そこにいた二人に驚愕するしかなかった。
セレナの大人姿、必然的に似てしまうのはやむ無し