セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
いつも通りのシャトーでの朝。
目覚めた私は眠気に負けそうになりながらもベッドから起き上がる。
師匠が私の為に用意してくれた部屋は結構広い。
それこそ4~5人程度であれば一緒に暮らしても問題がない位には広い部屋だ。
私はもっと狭い部屋で良いと前に師匠に話したのだけど………
《小娘が遠慮なんてするな》
こんな風にばっさり。
最初はそんな広い部屋に1人で暮らすのに多少の寂しさがあったけれど、今はそこまでではない。
洗面所で顔を洗って眠気を吹き飛ばし、キッチンでフライパンを取り出して朝食の準備を進める。
朝食なので簡単に済ませられるスクランブルエッグとサラダ、それとパン。
そこそこ上手く作れたと我ながら良い出来のそれらを二人分の皿に分けて机の上に並べつつ時計を見ると、良い時間になっている。
そろそろかな?と思っていると部屋の入口をノックする音。
はーいとパタパタと扉へ向かい、開くとそこにいたのは師匠。
眠そうな顔をしているからまた寝ずに作業をしていたのだろう。
「………メニューは?」
「スクランブルエッグとサラダとパンです、昨日の残りのスープが冷蔵庫にありますけど温めましょうか?」
「………頼む」
これはまた無理をしたなと呆れながらも師匠の願い通りにスープを温め直す。
その間、今にも寝落ちしそうな師匠にとりあえず顔を洗いに行くように指示をしながら温もり始めたスープを味見。
うん、美味しい。
「師匠ー、寝たら駄目ですよ?今日も作業あるんですよね?」
「………寝ておらん、これは目を閉じているだけだ」
「それを寝てるって言うんですよ。もう」
これは寝落ちするだろうなぁ……
後でファラさんに連絡して無理そうなら今日の作業は中止にしてもらった方が良いかも。
「とりあえずご飯だけでも食べちゃいましょう。師匠の事だから今食べないとどうせまーた栄養食で済ませちゃうんでしょう?」
「………あれは時間短縮で尚且つ必要な栄養をだな」
「毎食栄養食じゃあ逆に身体壊しちゃいますよ、師匠ってそう言う所ルーズですよね」
思い返すはシャトーに保護されてすぐの頃。
食事と言われて出された水と栄養食だけのメニューを見た時は真剣に自らが置かれている境遇に危機感を覚えたが、それがこのシャトー内で唯一食事を必要とするキャロルのメニューである事が判明。
これはいけない、と立ち上がった少女の手によって食事改善が実行され、以後はなんやかんやと少女がキャロルの食事も担当するようになった。
キャロルもまたなんやかんやと部屋に来ては食事を堪能していくのでこの関係は自然と続いているのであった。
「そう言えば師匠、そろそろ材料買わないと尽きますよ?ファラさんかレイアさんにお願いしておきましょうか?」
冷蔵庫の中身は現在支援関係にある結社から運ばれているのだが、キャロルの計画上、いずれ結社とは手を切り敵対関係へと変わる。
それを見越して別の搬入ルートを得なければならず、そしてそれを果たすには理想の人材が目の前にいた。
「………ガリィを付ける、お前買い出しに行ってきてくれ」
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「わぁ♪」
少女にとって初めての光景。
それは師匠以外の人間の存在、それも1人や2人ではなく大勢の人が所狭しとたくさんいる。
そして何よりもシャトーでは見る事が叶わない青空と太陽、そして地上に並ぶように建築された建造物達。
少女を感動させるには十分過ぎる光景、それが今まさに目の前に広がっていた。
「はぁ………なんで私がおチビちゃんと買い出しなのよ………」
その隣で文句を言うガリィもいつもとは違っていた。
一般的に見れば病的にまで白い肌は肌色となっており、ドレスの様な服は時期的にも全然可笑しくない、むしろ似合っていると称賛するに値する青の衣服へと変わっていた。
四肢もしっかりと隠されており、誰が見ても可愛い女の子である。
………その正体が人形であると誰が気付けるだろうか。
ちなみにであるが、嫌がるガリィに化粧やら着替えやらを施したのは少女であったりする。
「師匠からの指示ですよガリィさん、あとおチビちゃんはやめてください、私達そこまで差ありませんよ?」
「それでも私の方が上だもの、だからおチビちゃんよ。ほら速く買い出ししちゃうわよ」
さっさと終わらせようと前を歩くガリィに仕方ないですねとため息をつき、その背中に追い付こうと駆け出そうとしてーー
「わぷっ」
「あ、ご、ごめんなさい!?大丈夫?怪我してない?」
横路から出てきた女性とぶつかってしまった。
慌てて謝ろうとするより先に向こうから謝られてしまったので言い出しにくく、とりあえず怪我はしていない事を説明すると、安心したかのように息を吐いた。
「良かったぁ……ごめんね、急に飛び出しちゃって」
「い、いえ此方も前を見ずに………て、あれ?」
女性との接触で時間を食ったからだろうか。
気付けばガリィの姿は見えず、見渡してもその姿は確認出来ない。
「(困ったな…一度戻ろうにもテレポートジェムはガリィさんが持ってるし………)」
そんな悩める少女を見て女性はこう思った。
迷子では?と。
女性は元々優しい性格であった事、そして自分の親友ならばこう言う時絶対に見捨てたりしないと少女の手を優しく握った。
「もしかして迷子かな?良かったら私も一緒に探してあげる」
「あ、えっと、ちが………いいえ、その…迷子……です」
少女からすればどちらかと言えばガリィが迷子になってそうだなと思っているが、彼女とてオートスコアラーだ。
いずれは自分がいない事に気付いて探し始めるだろうし、その時に下手に動き回っていたら飽きっぽい彼女の事だ、きっと私を置いて帰るだろう。
それに目の前の女性の好意を無下にするのは優しい少女には出来ず、彼女と共にこの辺りを歩き回れば此方が見つけるか向こうが見つけてくれるかするだろう。
だから違うと言い掛けた言葉を飲み込み、少女は女性の好意に甘える事にした。
「安心してね、私が一緒に見つけてあげるから」
「あ、その…ありがとうございます………えっと……」
「あ、ごめんね、私の名前は小日向未来。友達からはヒナって呼ばれたり未来って呼ばれたりしてるから好きに呼んでいいからね」
アノナツカシノメモーリアー