セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
セレナが開発したアルカ・ノイズは多種多様である。
活用方針が決まって開発される者もあれば、試験的な意味を込めて開発される者もいるし、その時の気分で開発される者もいる。
その中でもーー今呼び出されたアルカ・ノイズは自身でもどうして開発したのだろうと少しだけ考えてしまう特殊タイプだ。
《みんな元気かな?こんな楽しいお祭りの日に喧嘩はダメだぞー?もっと笑顔で楽しもう!!》
装者5人を前に愛嬌を振り撒きながらくるくると回るその姿に、愛らしいと思いながらもやはりどうして開発したのだろうかとアルカ・ノイズを通して見える光景に頭を抱える。
正式名称《特殊潜入工作型アルカ・ノイズ K(着ぐるみ)》
特徴はやはりその愛らしい姿だろう。
着ぐるみに近い材質の肌を持ち、実際に内部に1人でこそあるが収納可能であり、他のアルカ・ノイズに比べれば戦闘能力が低いが戦闘行為自体は可能と言った性質を持つ。
そんなアルカ・ノイズを開発した理由だがーー正直覚えていない。
セレナが1日で作るアルカ・ノイズは開発済み、新規開発の者を含めれば軽く100は越えている。
ある程度は自動生産にしているが、それでも幾つかは手を加えなければならない事もあるので基本的に一度製作作業に取り掛かるとどうしても忙しく、たまに意識が飛んでしまう事や気分がヤケクソになる事もある。
恐らくだが、そんな時に開発してしまったのがーーあの子だろう。
《わたあめは好きかな?フランクフルトは?たこ焼きは?美味しい食べ物たくさんあるよ~♪》
そんな過程で生まれてしまったあの子に与えた役目は、暁切歌と月詠調の逃走を援護する事。
その役目を果たさんと器用に二課の面々と二人を切り離す様に間に割り込み、尻尾(?)らしき器官が二人に早く逃げなさいと言わんばかりに振り回されている。
だがしかしーーー
「………?」
「えっと………なんデスかね?」
悲しいことにその努力は二人には通じていなかった。
尻尾(?)が更に勢いを増して二人に早く行けと促すが、二人はただ首を可愛らしく傾げるだけ。
そんな必死の活動を見せるアルカ・ノイズだが、流石に限界なのだろう。
怪訝そうに見詰めてくる二課の面々(響だけは何故か嬉しそうに)を前に、段々と逃げ足になろうとしている。
マズイ、このままではあの子の努力が無駄に終わってしまう。
どうにかしないと………アルカ・ノイズの視界を通して何かしらの打開策を求めて探しーーそして、
「ーーあれです!!」
それを見付けた。
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風鳴翼は困惑していた。
校庭にて見かけたマリア・カデンツァヴナ・イヴ。
何故彼女が此処にいるのか、その理由こそ不明であったが捕縛する絶好の機会だと校庭へと急いだのだが………
校庭に着いた時には既にその姿はなく、探し回ったが行方知れず。
人違いであったのかと僅かに思ったが、そこにカラオケ大会での二人の出現。
疑いは確信へと変わった。
マリア・カデンツァヴナ・イヴは此処に来ている、と。
生憎通信機を所持していなかった為に二課とは連絡が取れなかったが、それでもこの場でフィーネの面々を捕らえる好機だと二人が逃走するのであればこの道だと先回りし、そしていざ捕縛しようとした際にーーー
《みんな笑顔で楽しくだよ~♪スマイルスマイル~♪》
この謎の着ぐるみの出現だ。
何処となくノイズを連想させる姿は、世間的に言えばキモカワ………と言う奴だろうか。
上手い具合に邪魔してくる事に怒りを覚えながらも、恐らく中にいるであろう学生もまた与えられた使命を果たさんと奮闘しているのだろうと我慢してきたが、流石に限界であった。
「すまないがーーー」
そこを退いてくれないか、そう続くはずだった言葉はーーー
《ワッショイワッショイ└(゚∀゚└)》
《ワッショイワッショイ(┘゚∀゚)┘》
突然現れたイベントに使うのであろう大量の荷物や飾りを運搬する着ぐるみ達に阻まれた。
「なッ!?」
何処から現れたのか不明だが、見事なまでに此方側と二人を引き離す様に雪崩が如く移動する着ぐるみ達。
どうにか抜けようとするが、勢い凄まじく突破は不可能だと諦めるしかない。
「ーー!聴こえているデスか!!決闘デス!!今日はこれでお暇するデスが、決闘を以て決着をつけるのデス!!」
「………時間は此方で指定する」
そんな雪崩の向こう側から聞こえてきたのは一方的な要求。
反論しようとするが、声が途絶えたのと同時に消え去った雪崩達の向かい側には、既に二人の姿はなかった。
「くそ!!逃げられちまった!!さっきの連中何処のクラスの奴らだよ!?」
「………切歌ちゃん………調ちゃん………」
逃がした魚は大きかったか、捕らえられたなかった事を無念に思いながらも先程の雪崩達が過ぎ去ったであろう方角を見て、思う。
あんな着ぐるみ、用意されていただろうか?と。
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「………ふぅ」
アルカ・ノイズの視界から二人が無事に逃走した事に安堵しながら、アルカ・ノイズ達に撤退の指示をだす。
何とか事なきを得たが、二人が残した決闘と言う言葉が気になる。
無理をしなければ良いのだけれど………そう思いながらも、セレナはーーー現実を受け止める覚悟をした。
《はーい!!まさかのチャンピオン候補がいなくなってしまいましたが!!此処で新しいチャレンジャーの登場でーす!!》
向けられるスポットライトと視線の雨。
手に握るはマイク。
浮かべる表情は、きっと乾いた笑みだろう。
どうしてこうなった、ステージの上に立つセレナの脳裏を支配するのはそんな言葉。
「………………ッ」
セレナがステージに立つ理由ーーそれは、チャンピオン候補達の逃走にあった。
チャンピオンがいなければ優勝者が誰もおらず、イベントとしても成り立たない。
その前にチャンピオン候補となっていた人達は既に会場を後にしており、呼び戻すのは難しい。
ならば新しくチャレンジャーを求めてその中からチャンピオンを選出しようとなったのだが、既にチャンピオン候補達の歌声を聴いた人達からすれば、あの歌声と比べたら………と誰も参加しようとする気配さえない。
このままではイベントが崩壊する………そんな状態で白羽の矢が立ったのがーーーセレナであった。
《おねがーい!!クリスさんの顔を立てると思って参加してー!!》
元々お願い事には弱いセレナ。
そして何より逃げていったチャンピオン候補達の事情を知る者としてもこのまま無視するのは気持ちが良いものではないと参加する事にしたのだが………
「あ、あはは………」
ステージの上に立ってその判断を盛大に後悔する。
人の目線がまさかこんなに緊張感を抱かせるとは、予想外であった。
必死に浮かべる笑みの中、緊張感が全身を硬直させる。
喉が渇き、冷や汗が流れ、脚が僅かに震える。
それらを感じ取りながら、セレナは気付く、気付いてしまう。
今抱いている感情が緊張感などではなくーーー恐怖だと言うことに………
視線の雨、恐怖と言う感情。
不思議とそれらにーーー既知感を抱く。
以前にもこんな風に誰かの視線の雨を受け止めながら、そしてそれに恐怖を抱いていた様な既知感。
それを前に、セレナの身体は無意識に逃げ出そうとしていた。
「(あれ………?どうして……?)」
怖い。
視線の雨が、見てくる人が、此処に立つ事が、怖い。
震える身体、強張る表情、荒れ果てる呼吸。
少しでも気を緩めたら逃げ出そうとする身体に、限界を感じる。
逃げよう、逃げれば良い、逃げるしかない。
無意識に、そう無意識に身体はその誘惑に負けようとしてマイクを床に置こうと身体が勝手に動き出す。
そうだ、それで良いんだと自分の中の弱い感情が口を開く。
無理する必要なんてない、楽になってしまえば良いんだ、と。
身体は驚く程にその誘惑に負けようとしてーーーー
「頑張ってッ!!キャルちゃんッ!!」
ーーー聴こえてきたその声に身体が止まる。
誘惑に負け、マイクを置いて逃げ出そうとした身体が止まる。
その声が誰のものであるのか、すぐに分かった。
俯いていた顔が上がる。
たくさんいる人々がいる客席の中で、不思議とその人はすぐに見付けられた。
「頑張って!!キャルちゃん!!」
立ち上がって応援するのは、小日向未来。
不思議そうに見詰めてくる人々の視線など気にした様子もなく、応援するその姿に、心が少しだけ軽くなったのが分かった。
「ファイトだよキャルちゃん!!」
「あたしの分の敵討ちはあんたに託したよキャル!!」
「頑張ってくださいキャルさん!!」
聴こえてきた応援の声。
聞くだけで誘惑に負けそうだった心が軽くなっていくのが分かった。
恐怖を拭い去る事は出来ないけれど………それでもマイクを置く気持ちは、もはやなくなっていた。
「(………やっぱり、叶わないなぁ………)」
小日向未来と言う人間にはいつも貰ってばかりだなと思う。
出会いも諦めない気持ちも、そして今立ち上がれる力も、貰ってばかりだ。
だからこそ思う。
いつか私も彼女にーーー
「ーーー聴いてください、教室モノクローム」
何かをあげられる様な人間になりたい、そう思った。
セレナの教室モノクローム、聴いてみたくない?