セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
目覚めた時に理解した。
私はこの方に仕える為に作られたのだと。
笑顔で嬉しそうに私の名前を口にしながら優しく手を握ってくれた私のマスター。
仕えるべき従僕に対してまるで天使の様な微笑みを向けるマスターに、私は―――決意した。
この方に出会えた最高の喜びを噛み締めながら――ーこの方に一生忠誠を誓おう、と。
「嗚呼…マスターの歌声とか最高過ぎですよ…ファリス録音してますか?してますよね?してないとか言ったら少しキレますよ?え?ちゃんとしてる?それなら良いんですよ~♪いや~マスター最高です!!天使の歌声でしょうか?いや天使なんて枠組みに収める方が無粋ですね!!うちのマスターは世界…いや全てにおいて一番ですよ!!マスターの歌声に比べれば世界全土の歌なんぞ単なる雑音ですもの!!歌姫?そんな単語でマスターの歌を評価しないでくださいな!!私のマスターの歌声はこの世の言葉全てを上回って誰もが絶賛するしかない最高の歌声ですもの!!!!嗚呼嗚呼!!マスター本当に最高ですわ!!!!きゃあ~!!!!マスター最高ですぅぅぅぅ!!!!!!!」
―――ファリスは思う―――
絶賛眼の前で普段は絶対に見せないであろう程に狂ったガリスをマスターが見たら絶対に同一人物だと認識しないだろうな、と。
場所は相も変わらずの廃工場。
その片隅にて通信機から流れ聴こえるマスターの歌声に絶賛悶える様にしながら聞き惚れるガリス。
時には聞こえる歌声に合わせる様に上機嫌に鼻歌を奏でながらクルクルと回転する姿から、彼女にとってこの歌声はとてつもないご褒美なのだろうなあと思いながらもさて、とファリスは視線を別方向へ向ける。
「――――――――」
そこにあったのは≪人であった物≫
それを敢えて何かに例えると言うのであれば……スライムだろうか。
人の形を既に成しておらず、液体の様な塊と化した≪それ≫は少し前まで確かに≪人間≫だった。
ガリスにヘッドショットぶち込みガリスの怒りを買った米軍の男。
彼に待っていたのは、ガリスの≪遊び≫と言う名前の≪拷問≫だった。
≪トライデント≫
ギリシャ神話において名高い海の神ポセイドンが持っていたとされるこの槍の
それは海水であろうが真水であろうが――――≪血液≫であろうが、可能だ。
そんな特性を持つガリスが彼に行ったのは、体内中の血液を弄ぶと言う物。
時には逆流され、時には噴水ショーと体内中の血液を噴射させてから一滴残さずに体内へと戻し、時には体内の血液をひたすらその場で回転させたりしたり、体内中の血液を超高温に変化させて皮膚や内臓を溶かし一体化させるなどと言った内容だ。
だがガリスにとってこれはあくまで≪遊びの範囲≫。
その証拠に―――≪男は生きている≫
皮膚や内臓と言った形があった物と血液の垣根が無くなり、全てが溶けてスライムの様な姿になっているのに、それでもなお男は生きている。
ah…ah…ともはや人の言葉を発する事なく、獣と呼ぶ事さえも遠慮してしまいそうな形になりながらも、男は呼吸をし、動き、生きていた。
「(…まあ、≪これ≫を生きていると判断しても良いのかは分からないですが…)」
そんな光景を引き起こした張本人は、今は通信機から聞こえてくるマスターの歌声に歓喜に浸りながら笑顔で元気に騒いでいる。
恐らく通信機からの歌声が無ければガリスはまだ彼と≪遊び≫を続けていただろう。
正直≪あれ≫に対して一切の感情はないが、流石にここまでなると―――≪気持ち悪い≫と嫌悪感を抱いてしまう。
ガリスのあの様子だともう≪遊ばない≫だろうと、ファリスは剣を構えて―――振り下ろした。
剣から感じ取れる感触は決して人を切ったそれとは異なる気持ちの悪い物であったが、対象の生命活動が停止したのを見て、ほっと安堵する。
嗚呼、気持ちの悪いゴミが処分出来た、と。
「…後で剣洗わないと、です」
既に生命活動が停止した人であったそれにファリスは一切の感情を向けない。
殺したのはあくまで気持ちが悪いからであり、対象に対する哀れみや慈悲、優しさと言った物ではない。
嫌悪感、ただそれだけがファリスが男であった≪それ≫に止めを刺した理由だ。
「…ガリス、そろそろ帰る、です。これが持っていたこの暗号だらけの手帳解読したらきっとマスター褒めてくれる、ですよ」
「もうちょっと…もうちょっとだけ待って!!もう歌い終わるから!!もうちょっとだけだから!!」
「…仕方ない、です。≪これ≫処分してきますのでその間に聞き終えてください、です」
「了解って…ちょっとファリス貴女は聞かないの?マスターの最高の歌声よ?」
「ファリスは後で部屋で最高音質で聞く、です」
「ちょ!?何よそれ!!私もそれで聞きたいわよ!!」
ファリスとガリス。
マスターであるセレナに作られたオートスコアラー・シスターズ。
そんな2人のこの姿をマスターであるセレナは知らない。
狂っているこの2人の本当の姿を知る者は、誰もいない。
―――ただ1人だけを除いては―――