セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
≪―――アレ、ワタシ、ドウシテタンダッケ?≫
疑問、彼女の心が抱いた感情に意識が浮上する。
答えを求めるが、答えはなく。
答えを探すが、答える者もなく。
自分が何をしていたのか、自分が何を成そうとしていたのか、全てがあやふやとなり思い出せない。
≪…ナニヲシヨウトシテイタンダッケ?≫
繰り返す答えの無い自問。
幾度やっても答えがないそれに時間の無意味だと判断して思考が閉ざされる。
不思議と此処にいると思考する事さえも億劫だと感じる。
まるで水中の中にいる様な心地よい浮遊感と、何かに守られている様な安堵感。
2つの優しい感覚が少女を優しく守護する。
≪――アア、ネムイ…≫
浮かんだ意識が再度沈んでゆく。
眠れ眠れと、聴こえてくる歌声がまるで母親が赤子を眠らせるかのように、子守歌となって意識が沈む。
考える必要はない、考える意味など無い。
全ては私に任せておけと子守歌が少女の意識を再度眠りへと付かせた。
されど、意識が眠る最後に少女は思う。
―――何か大事な事を忘れている気がする、と―――
---------------------------------------------------------------------------------------------
「―――ふざけるな…ふざけるなッ!!!!お前がッ!!お前如きが奏の歌を汚すなぁぁぁッッッ!!!!!」
怒りの咆哮と共に風鳴翼が空へ駆け飛ぶ。
天空を埋め尽くすは剣の雨。
≪千ノ落涙≫。翼と彼女が持つシンフォギア≪天羽々斬≫だけが可能とする文字通り剣の雨を降らす大技。
空間に具現化した剣の数々、その矛先は全て死神へと向けられたまま一斉に降り注ぐ。
千ノ落涙は対個人の技ではない。
どちらかと言えば圧倒的な数を以て個ではなく面を攻撃する対多数戦闘に重点を置いた技だ。
だが決して個を相手に使えない技と言うわけではない。
1つ1つが鋭い切れ味を誇る剣。僅かにでも当たれば致命傷は避けられない上に圧倒的数で迫る故に避ける術もない。
まさに必殺。それに翼の怒りの感情が上乗せしたかのように日頃の倍以上に数を増した剣。
それが一斉に死神へと迫る。
ただでさえデカい図体な上に獣との戦いのダメージもある以上、回避する事は出来ない。
それを計算したのか、はたまた感情のままに放ったのかは翼本人にしか分からないが、そんなベストなタイミングで放たれた剣の雨。
当たればダメージは避けられないのは明白。
そんな迫る剣の雨に対し、死神は―――
ただ、左腕を軽く振った。
何事もなく、腕を先程の様に形状を変える事もなく、ただ億劫に腕を振るい―――
それだけで迫る剣の雨が全て瓦解した。
「―――なッ!!?」
眼の前で起きた出来事を理解出来ない翼を襲ったのは、呼吸をする事さえ困難になる程の猛烈な強風。
天羽々斬を盾代わりにして何とか必死に呼吸をしながら翼は理解する。
あの死神はただ手を振るっただけでこれだけの強風を作りだし、千ノ落涙を打ち破ったのだと。
地に足を付いていない以上踏ん張る事も出来ず、咄嗟的に脚のプースターを起動させるがそれでも強風に耐える事などできなかった。
「――先輩ッ!!」
強風によってコントロールが困難になる翼。
バランスは崩壊し、地と天の区別さえ理解出来ないまでに目まぐるしく変わる景色。
その果てに、迫るは地面。
不味いと咄嗟的に不時着体勢を整えるが、そんな翼を受け止めるかのように地面と翼の間に入り込んだのはクリス。
轟音、そして衝撃。
クリスの耳と身体を襲うそれを何とか耐えながらも、不時着した翼を何とか抱き留めていた。
「馬鹿じゃねえのかッ!!いきなり策も無しに突っ込む馬鹿がいるかよ!!いつもの先輩らしくねぇじゃねえか!!」
「―――受け止めてくれた事には礼を言う雪音。だが――例え馬鹿だと罵られようとも私は…奏の歌を汚すあやつを許せんのだッ!!!!」
翼の怒り。それを理解できる者は恐らく翼本人だけだろう。
天羽奏と言う人間はそれだけ彼女にとって大事であり、全てであり、決して他人に踏み荒らされたくない場所であったのだ。
その歌を奪い、奏でる死神に対する翼の怒りは止まる事を知らない。
クリスの必死の説得にも耳を傾ける事もなく再度飛翔し、技を放とうとする翼。
そんな翼に仕方ねえな!!とガトリングを起動させて自らも戦闘へ参加する。
「(今の先輩は頭に血が上ってやがる!!アタシが援護してやんねぇと何するか分かんねえぞ!!)」
地上からは雪音の遠距離兵装が、空からは翼の剣が、
二方面からの同時攻撃に対し死神は再度左腕を振るい、強風を生み出してそれらを跳ねのけようとするが―――
≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!》
それまで様子見に徹していた獣が参戦する。
クリスと翼の攻撃に合わせたのか、はたまたただ利用しただけなのかは分からないが三方面からの同時攻撃、それも一方は死神に対し確実にダメージを与え、死神からも≪敵≫として認定されている獣による物となり、死神の動きに迷いが生まれる。
それを翼は勝機と捉えた。
自身の中に眠る全ての力を以て翼は1つの大技を展開する。
≪蒼ノ一閃≫限定解除の威力には程遠いがそれでも今自身が放てる全てを込めたこの一撃は、間違いなく最高の一撃である。
いくら力量が分からぬあやつでもこれを喰らえば―――
そんな翼の行動に合わせる様に雪音もまた大技を用意する。
≪MEGA DETH INFINITY≫
形成された12機もの大型ミサイルが死神目がけて発射される。
威力は大型ノイズを1撃で撃退してみせたお墨付き。
上空からは蒼ノ一閃、地上からはMEGA DETH INFINITYと獣と化した立花響の拳。
この場においてそれぞれが持ち得る最大限の力を以て放たれた一撃が死神へと迫る。
「これなら――!!」
「くたばれ化物ッ!!」
≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!≫
この瞬間、誰もが思っただろう。
勝った、と。
実際そうだろう。
普通であればこれは間違いなく勝利となる。
それぞれが放った一撃はそれだけの威力を有しており、フィーネを相手に勝利した事もある少女達の力であれば並大抵の敵には勝利出来るだろう。
―――そう、並大抵であれば、だ―――
「―――――?」
違和感に気付いたのはクリスだった。
死神の右手に集っていた黒い液体、ただ集まるだけで動きを見せていなかったそれが――一斉に動き始める。
何かしらの行動を取ろうとしているのは判った。
だが同時にもう遅いとも思った、思わざるを得なかった。
迫る攻撃はもう接触しようとしている。
今更足掻いたところでもう―――と。
だが、クリスはその数秒後にその判断を後悔する事になる。
《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!!!!!》
「――――――――――ッ!?」
聴こえて来た咆哮にクリスは目覚めると同時に疑問に思う。
どうしてアタシは空を見上げているのだろうか、と。
どうしてアタシは地面に寝転がっているのだろうか、と。
可笑しい、そんな疑問を胸に立ち上がろうとするが――身体が思う様に動かない。
何が…そんな思いで上手く動かない身体を確認する。
「―――――え?」
そこにあったのは、ボロボロの身体。
埃と砂と血に塗れた己の身体。
全身の傷からは血液が溢れ、右足の関節からは白い何かが肉から突き出ている。
突き出ている何か、その正体を理解すると同時に、クリスを壮絶な激痛が襲った。
「―――ッ!!!!ああああああああああッッ!!!!??」
悲痛な叫び声が木霊する。
激痛と痛みから溢れ出る涙。
全身を襲う激痛で滅茶苦茶になる頭の中。
理解できない、困惑するクリスは痛みに苦しみ悶えながらも考える。
「(なんだなんだなんだ!!?いったいなにがあったッ!!?)」
つい先ほどまでクリス達は圧倒的優勢であった。
各々が最大の力を込めた放った一撃、それがもうすぐ死神に命中しようとした時のことまではしっかりと覚えている。
その後だ、その後から今に至るまでの記憶がない。
何があった、激痛に襲われながらもクリスの視線は周囲を見渡し―――そして、絶望した。
「―――――――――――は?」
≪そこ≫には何もなかった。
カ・ディンギルを背に立つ死神、その前方には何もなかった。
岩もカ・ディンギルの破片も、大地も遥か遠くにある廃墟の住宅街も、全てが無くなっていた。
まるで何かで焼かれた様な焼け跡だけが残され、それ以外は何もない。
文字通り、何もないのだ。
「――――――――――――――――――――」
呆然とするクリスの視線はゆっくりとこの惨状を引き起こしたのであろう死神へと向けられる。
死神の右手、そこには何時の間にか1本の槍が握られていた。
クリスはそれを過去のデータで見て知っていた。
震える唇が、ゆっくりとその名前を答える。
風鳴翼のパートナーが持ち、今は立花響の胸に宿っているはずのその名を、口にする。
「――――ガングニール、だ…と…?」
黒い死神が持つのは≪白い撃槍≫
天羽奏が持ち、幾度の戦場を彼女と共に駆けた白の撃槍がそこにはあった。
クリスちゃん大怪我