セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

76 / 166
第72話

赤い鮮血を見た

 

赤い赤い、鮮血を見た

 

少女の右手を食いちぎる《異形》を見た

 

 

 

 

「………………………………あ」

 

 

 

 

右手を食い千切られた少女の名前を誰かが叫ぶ

 

その名前が親しい人の物であると理解するが、動かない

 

身体が動かない

 

脚が、手が、身体が、脳が、上手く動かない

 

 

 

 

 

「………………あぁ………」

 

 

 

 

 

 

セレナの脳裏にあるのはーー恐怖

 

知らないはずなのに、知るはずもないのに《異形》に対して恐怖する

 

計り知れない恐怖を抱いてしまう

 

 

 

 

 

「………あ………あぁ………」

 

 

 

 

 

見えるのは炎

 

建物に満ちた炎の中に立つのは一匹の《異形》

 

《異形》は少女を眺めていた

 

相対する少女を眺めていた

 

《異形》が動く

 

ゆっくりとゆっくりと、目の前にいる少女(えさ)を屠らんと動く

 

 

 

 

 

 

「あ………あぁ………ああ………」

 

 

 

 

 

 

そして少女はーーー理解した

 

目の前の《異形》がーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を殺したのだと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ………あぁ………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《精神に大規模な負荷を感知しました》

《理由選定ーー特定》

《対象生物を捕捉ーー認定》

《対象生物の驚異レベルを測定ーー認定》

 

 

 

 

 

 

 

 

《此より機能の一時全解放を以て対象の排除を開始します》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------

 

「馬鹿弟子!!おい!!聴こえていないのか!?………ッ!!セレナ!!返事をしろ!!」

 

キャロルの咆哮が空しくシャトーに鳴り響く。

オートスコアラーを護衛に付けなかった事をこれ程までに悔やんだ事はないだろう。

ガリスが持ち帰った手帳、そこに書き記されていたのは、ドクター達の目的、そしてネフィリムについての情報とーーーその過去。

それを知った瞬間にセレナが向かっていると聴いた時は最悪だと思った。

呼び止めは叶わず、セレナの悲鳴に近い叫び声と共に連絡も途絶えてしまった。

急遽ガリィを派遣したが、到着するまで映像もなくただただ不安が募っていく。

速く、速く、焦る想いの中で願いなど馬鹿馬鹿しいと思っていたキャロルは、それでも願う。

どうか無事でいてくれ、と。

 

《此方ガリィです、現場に到着ーーーーなによ、あれ》

 

ガリィからの通信と同時にその視界から待ちに待った映像が送られてくる。

セレナの無事、ただそれだけを祈りながら送られてきた映像を確認したキャロルはーーーそこに映し出された光景に絶句するしかなかった。

 

「………なんだ、あれは」

 

そこにあったのはーーー球体。

地面を抉りながら空間に固定する様に存在する黒い球体。

良く確認すると球体となっているそれがセレナのファウストローブ ニトクリスの鏡から出てくる黒い手だと分かる。

何重にも積み重なる様にして球体と化しているそれに誰もが絶句する。

 

《………マスター、あれなんですか?見てるだけで背筋が冷たくなるんですけど………あれマスターが設定した機能ですよね?》

  

「………知らない」

 

《………はい?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレはあんな機能を作った覚えなどないぞ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------

 

ワインをゆっくりと飲む。

人とは素晴らしい生物だと思う。

数少ない人生の中で、多種多様な開発をしてみせるその精神は称賛するしかないだろう。

このワインもそうだ。

この味も香りも、素晴らしいの一言だ。

僅かな人生でこれだけの物を作り出せる人間は、まさにこの星を統べるべき種族であろう。

 

だからこそ私は力が欲しい。

こんな素晴らしい物を作れる人間の可能性を守る為にも、

呪いによって可能性を阻まれた人類の救済の為にも、

あの《神》を自称する連中に抗う為にも、

私は力が欲しいのだ。

 

計画は既に始まっている。

今から始まるのはその序章でしかない。

だが、大事な始まりだ。

全ては此処から始まるのだ。

 

 

 

 

「さあ、生まれるが良いさ

君に与えられた力を見せてくれ、僕に」

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

それは突然に起きた

 

黒い巨大な腕が、黒い巨大な脚が、球体を中から突き破る

 

それはもはや《人》と言うカテゴリーを超越する大きさをしていた

 

巨大過ぎる腕が残された球体を掴む

 

まるで生まれるのを邪魔するなと言わんばかりに残った球体を引きちぎり、中から生まれたのはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!!!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な化物だった

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。