セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
ーーこれは本当に現実なのかーー
気絶から回復したクリスは目の前で繰り広げられる激戦を最初現実だと認識出来なかった。
まるで怪獣映画にある様な破壊と破壊がぶつかり合う戦い。
実はこれが映画でした、と言っても今のクリスなら信じるだろう。
ーーそれだけ、目の前の光景は現実とかけ離れていたーー
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《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!!!!!》
死神の巨大な腕がギチギチと軋む音を鳴らす。
腕に幾つもある螺旋状の間接部分が開いて伸びて行き、ただでさえ巨大な腕を更に巨大な姿へと変貌させ、咆哮と共にそれが振るわれる。
その姿はさながら鞭だろうか。
ジグザグに軌道を描きながら振るわれた腕は、接触した全てを見境なく破壊しながら突き進む。
岩であろうが、カ・ディンギルの破片であろうが、地面であろうが、関係なく破壊する。
その矛先に立つのは獣。
邪魔する障害物を破壊しながら迫る一撃に対し、獣は引く事も避ける事もなく、前へと駆ける。
≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!》
咆哮と共に駆ける獣は、死神の腕が障害物を破壊した際に生じた足場と成りうる破片だけを選んで飛び回る。
空を自由に飛び回る獣に対し、死神の腕が幾度も振るわれるが如何せんサイズ差が大きいのもあり、死神からすれば狙いにくい事この上ないだろう。
振るわれる腕を器用に避ける獣。
破壊力では圧倒的に上を行く死神だが、機動力においては獣が勝っていた。
破片を足場に飛び回り、時折隙を突く様に幾度か拳が死神に襲い掛かるが、死神からすればさほどのダメージとなっていないのだろうが、死神の精神を乱すには十分だったのだろう。
飛び回る獣に対して死神の怒りが積もっていく。
腕が獣を仕留めんと更なる勢いを以て周辺もろとも破壊しながら動きを加速させるが、獣からすれば好機。
増える足場に獣もまた速度を上げながら死神に襲い掛かる。
≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!》
いくらダメージが少ないと言えども積もればなんとやら。
死神の身体が僅かに崩れ落ちる。
延びていた腕は縮小し、地に手を付きながら崩れ落ちるその姿に獣も、そして怪物同士の戦いを見ていた装者達も、この戦いの勝者を予想した。
ーーーそう、この時まではーーー
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「正体不明生物動きを止めましたッ!!」
「蓄積したダメージが限界を越えようとしているんだ!!これなら行けるぞッ!!」
戦いの様子を見ていた二課のオペレーター達もまたこの戦いの勝者が決まったと思っていた。
地に手を付く死神、そして止めを射さんとする獣。
誰が見ても勝敗は決したと思うだろう。
現にこの場にいる人達は誰もが獣のーーー立花響の勝利を信じて疑ってもいなかった。
ーーただ1人弦十郎だけを除いてーー
「(なんだ………なんだこの拭いきれない違和感は………!!)」
あの生物の登場と共に感じた力量差。
挑む事さえも愚かだと感じたあの絶対的な差をーーー弦十郎は今もなお感じていた。
映し出されるその姿からは少しも連想出来ないと言うのに、それでも弦十郎を恐怖させたあの力量差が、今もなお弦十郎の動きを縫い止めている。
「(なんだ………俺は何を見落とした………?)」
弦十郎は何かを見落としていると感じていた。
映像に映し出される異形同士の戦い。
その戦いのどこかに見落としている何かがある。
なんだ、俺はいったい何を見落として――――
「―――ちょっと、待て…藤尭!!映像を巻き戻せ!!」
「え?あ、はい!!」
指示通り映像が戻される。
映し出されるのは獣の猛攻を前に鞭と化した腕を振るう死神の姿。
死神の武器が破壊力であるのならば獣の武器は機動力。
無数に繰り出される鞭の雨を前に獣が持ち前の機動力で躱して一方的な攻撃を繰り返すその光景に、弦十郎は違和感の正体に気付いた。
「―――知らない、のか」
「え?司令、今なんて?」
「こいつは、知らないんだ…自身の力を、その使い方を――!!」
弦十郎が死神に抱いた違和感。
それは―――圧倒的な存在感とは裏腹の未熟な戦闘方法にある。
自らの攻撃が獣の――響くんの優位性を高めているだけだと理解しているのに、それでもなおも同じ戦闘スタイルを継続している。
それはさながらヤケクソになった子供の様な戦闘スタイルとさえ呼べない未熟な戦い方だ。
そこに何かしらの策がある、と言う可能性も否めないが……窮地に追い込まれているその姿からはとてもではないが連想できない。
それ故に辿り着いた答え―――そして―――
その答えは、今まさに形になろうとしていた―――
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≪それ≫に気付いたのは風鳴翼であった。
地に手を置き伏していた死神の顔、そこにあるお面の様な表情から歪む様な音が聞こえた。
なんだ、訝しむ翼であったが、同時に獣も気付いたのだろう。
何かしらの攻撃が来る、そう本能で理解したのか即座に飛び退いて距離を開ける。
吐き出す呼吸は荒く、四肢に込めた力は例え距離を開けていようが即座に埋めて拳を叩きこめる、そう言わんばかりに死神を見据える獣だが――――後に想う。
この選択こそが―――獣の敗因となった、と。
まるで操り人形の様な気味の悪い揺れ動きを見せながら、死神が立ち上がる。
獣はまたあの鞭の攻撃が来ると判断し、何時でも動ける様に体制を整えるが、その判断が間違えである事にすぐに気付く。
死神のお面の様な表情、そこの口元にあたる部分が―――軋む音と共に開く。
まるで壊れた人形の様な開閉に誰もが訝しむ様にその様子を眺めるが、そんな視線を浴びながら死神の右手が動く。
真っすぐに伸ばされた右腕、その右腕から零れ落ちるのは―――黒い何か。
さながら液体の様なそれは右腕を伝い、右手に集中していく。
「…何をする気だ?」
クリスの呆然とした言葉。
誰もが死神の行動を予測できない中で――――≪それ≫は聞こえた。
≪―――――――――――――――――――♪≫
それが歌だと認識するのに時間が必要だった。
日本語でも英語でも、人類が扱う言語のどれでもない全く理解出来ない未知の言語を用いての歌。
けれども先程の咆哮とは打って変わった透き通る様な歌声に誰もが先程までの惨状を忘れてる聞き惚れる。
聴く者を魅了し、聴かない者を振り向かせて聴かせる歌声。
そんな歌声に誰もが魅了される中で――――
「――――――何故、だ」
自らの身体が震えている、そう理解するのにさほどの時間が必要なかった。
呆然と呟きながら、風鳴翼は理解出来ないと死神を見上げる。
耳に聞こえる透き通る様な歌声に―――堪えきれない怒りを抱きながら―――
「―――何故だ、何故―――」
「…先輩?」
クリスの心配する声を耳にしても風鳴翼の感情は止まらない。
否、止められる人などいない。
聴こえてくる歌声、理解出来ない言語で奏でられても、それでも―――翼にだけは分かる。
≪彼女≫とずっと一緒の時間を過ごして来た翼にだけは分かる。
その歌がなんであるのかを、そしてそれを歌って良いのは――――
「――――何故おまえが奏の歌を歌うッッッ!!!!」
―――失われた片翼だけだと―――
???カウント1