セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「へぇ、キャルちゃんは初めてこの街に遊びに来てたんだ」
「はい、今お世話になってる人のお知り合いの方と一緒に来たんですけど、少し目を離したら行方不明に…」
未来と名乗る少女と出会って彼是数十分が経過しただろう。
会話の流れで自然的に名前を聞かれ、しかし答える事が出来る名を覚えていない少女は悩んだ。
悩みに悩み、咄嗟的に浮かんだのは師匠の姿。
キャロルからロを抜いて≪キャル≫と名乗る事にした少女に対して、未来はそれが偽名であるとは欠片も思わずにその手を握って街中を歩いていた。
さながら姉妹の様に仲良く歩くその姿に誰もが少し前までは赤の他人であったと思わないだろう。
「ん~…これで商店街は一通り回ったけど……どうかな?そのお知り合いって人いた?」
「いえ…どこに行っちゃったんでしょうか…」
未来お姉さんの案内で商店街の大体部分は歩き尽したけれど、一向にガリィさんの姿は発見できません。
いくら飽きっぽい彼女でもこんな数十分で帰る……のはあり得る、あり得るけど…それならそれできっと代わりの迎えとしてファラさんかレイアさんを送って来るはず。
その様子もない所を見るとガリィさんはきっとまだシャトーへは帰還しておらず、この辺りのどこかにいるはずだけれど……
「(最悪の場合は師匠に連絡とってみようかな?きっと師匠、ガリィさん怒るだろうけど…)」
私にとってガリィさんはちょっとだけ苦手意識があるけれど、それでも優しいお姉さんです。
口を開けば人の事をおチビちゃんやらミニマムやら言ってくるが、その裏で色々と世話をしてくれているのを私は知っている。
お礼を言おうとすると何時もの様に誤魔化し、けど去って行くその顔が優しい笑みである事も私は知っている。
そんなちょっと口の悪いお姉さんであるガリィさんと師匠は険悪ではないけれど、良好でもない。
ガリィさんは師匠にちょっかいを掛けて楽しみ、師匠はそんなちょっかいにマジ切れする。
それが何時もの2人のコミュニケーションであるのだけど、私からすればもう少し仲良くしてほしいと思っている。
なので師匠に連絡してガリィさんが怒られる、と言う展開は可能な限りは避けたい。
けれどこのまま姿が見つからないと……
「う~ん…」
そんな少女の様子に小日向未来もまた悩んでいた。
まるでお人形の様な可愛さを持つその少女を出来るならばその知り合いの人と合流させてあげたい。
しかし商店街内は既に回り尽し、商店街の外となるとリディアン音楽院に進学してからまだ1月しか経過していない自分では分からない所もある。
「(響を呼んで……けど…)」
最近の響はあからさまに何かを隠している。
夜の外出も増えたし、居眠りの回数だって増える一方。
今日だって追試を免除されるレポートを先生から泣く泣く受け取っていたけど……間に合うのかな?
そんな響を呼び出すのには思わず躊躇してしまう。
けどこの子をこのままにしておくのも……
互いに悩み抱え、時間はただ過ぎて行こうとして――――それは突如鳴り響いた。
この地域全体に鳴り響きそうな程に高々と鳴り響くそれに未来は全身を硬直させ、少女は理解できない様子でその音に驚愕していた。
「あの、この音は…?」
少女の純粋な問いに対し、未来はただ少女の手を強く握り、そして駆け始めた。
「知らないの!?ノイズ警報だよ!!はやくシェルターに逃げないと!!」
《ノイズ》
人類を脅かす認定特異災害。
情報でこそ知っているが、まさか本物と接触する日が来ようとは………
「(アガートラームで!!………けど師匠が………)」
思い返すのは買い出し前に師匠に命じられた内容。
《良いか?シャトー内部ならば構わないが、外では絶対にシンフォギアを纏うな。
シンフォギアから放たれる波長が厄介な連中を呼ぶ、今はまだ奴らと接触するわけにはいかないからな。
………まあ、たかが買い出しで使う事はないだろうけどな》
いえ師匠、めっちゃありましたよ………
周囲を見渡してみるが、まだ近くにノイズは出現していない。
ならばこのまま未来お姉さんと一緒にシェルターへ逃げれば………いや。
「(それは不味いかも………)」
シェルターには恐らく避難誘導や怪我人の対応の為に警察等がいる。
自分の身元証明が出来る物を一切所持していない私がもしも警察に捕まれば、厄介な事になる。
それはきっと師匠にも多大な迷惑をかけてしまうだろう。
だったら………
「………ごめんなさい」
小声で必死に手を引っ張ってくれる未来お姉さんに静かに謝ると、手を離した。
未来お姉さんから戸惑いの声が聞こえたが、それもシェルター目掛けて増えていく人混みの中に埋もれるようにして消えていき、横路に姿を隠した私を置いて去っていった。
「…さて、これからどうしましょうか」
人がいなくなった商店街に1人残った私は考える。
一番のベストはガリィさんと合流してシャトーへと帰還ですけど、何処に行ったのでしょうか……
シェルターに逃げ込むとは到底思えないし、何処かにいるはずなんですけど………
「………?」
ふと視界の隅に入ったのは炭。
風に漂うように視界に入ったそれを自然に追いかけていき、そしてーーー
《ーーーー》
炭の中を歩く人類の敵、ノイズの姿があった。
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「マスター、まだ手を出さなくて良いんですかぁ?流石に危ないんじゃありません?」
ビルの屋上、そこから地上を見下ろすガリィの視線の先にはノイズから逃げる少女の姿。
数はそこまでではない、しかし相手はノイズ。
触れられたら最後、炭となって死を迎える相手に捕まってたまるかと逃げ惑う少女の表情は真剣そのもの。
とてもではないが演技の類とは思えない。
《………もう少しだけ様子を見ろ、それで判別する》
マスターったら疑い深いのね、小言を紡ぐガリィの視界からリンクされた映像を見ながらキャロルはもどかしい気持ちになっていた。
今回の買い出しには2つの目的があった。
1つは純粋に買い出し。
そしてもう1つは、少女が敵か味方か、それをはっきりさせる事だ。
少女の外見的特徴、そしてシンフォギア《アガートラーム》
これだけ分かれば少女について調べあげるのは容易い事だった。
F.I.S.にレセプターチルドレン、そして………《フィーネ》
少女…いや、《セレナ・カデンツァヴナ・イヴ》から始まり次々と判明されていく闇に埋もれた情報の数々は一般人が知れば始末されても可笑しくない類いの物ばかり。
それに何よりも驚かされたのは………セレナ・カデンツァヴナ・イヴと言う少女は既に死亡していると言う事。
詳しい死因までは分からなかったが、既に死んでいるはずの少女が急に現れる。
そこに何かしらの策略や陰謀がないと誰が言えるだろうか。
それらから推察して、彼女がF.I.S.またはフィーネ勢力どちらかの手の者である可能性が高まった。
………無論、俺とて疑いたいわけではない。
奴に対しては一定の信頼を置いているし、奴が敵でなければ良いとは思っている。
だが計画には万が一の失態もあってはならないのだ。
だから今回の買い出しを名目にした外出を計画した。
外の人間との接触によって自らが纏う嘘に何らかの失態が出るのでは?とその様子を逐一ガリィに監視させていた。
そんな時にノイズの出現である。
偶然にしては出来すぎているし、フィーネの手には《ソロモンの杖》がある。
ノイズを自由に操れるあれがあるのであれば、偶然を装って少女に何らかの指示、または少女の回収をするのでは?
そこまで考え、ガリィに少女の監視を継続させるように指示したが………
「………ノイズだけ、か」
少女を追いかけるのはノイズのみ。
フィーネ、またはそれに与する勢力の誰もが姿を現さない上にノイズは間違いなく少女を灰にせんとしている。
………やはり危惧のし過ぎか?
《あのぉ~マスター?流石にそろそろ………》
ガリィの提案は正しい。
少女の体力も限界に近いだろうし、そろそろ奴らが現れても可笑しくない。
ガリィに回収するように指示を出そうとしてーーー
《………ん?あれって……え?ちょ、なんでおチビちゃんがあれ持ってるの!?》
言葉が荒れるガリィに釣られるように映像に視線を戻せば、少女の手に握られたジェムに驚愕する。
おい、まさか………あれはッ!?
少女がジェムを投げると同時に地面から現れたのは………アルカ・ノイズ。
キャロルが後々の計画を全うするために必要なピースの1つが、そこにいた。
この作品中にやりたかったこと
ノイズVSアルカ・ノイズが出来そうで安心しました………