セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第79話

 

≪神殺しの矢 ミスティルテイン》には1つだけ決定的な弱点がある。

それは脆弱性。

神話においてバルドルは己の死を夢見て、その死を避ける為に母親であるフリッグが万物ではバルドルに一切危害を加えられないと言う誓いを立てたとされる。

その誓いから唯一免除されたのが、ヴァルハラの西に生えていたヤドリギの新芽。

あまりにも非力なそれがバルドルの命を刈り取れるとは到底思えなかったのだろう。

そんな誓いから唯一免除されたこのヤドリギの新芽こそが《ミスティルテイン》。

後にロキがバルドルの弟を騙し、その矢で兄を殺させた事からこの矢は神殺しの異名を背負う事になった。

だがこの矢は伝承にある通り、あまりにも非力で脆弱。

まともに射たとしてもあの死神相手ではその外皮が神殺しの逸話を持つこの矢でも止めてしまうだろう。

だからこそ、作り上げた。

ガリスとガリィの水の槍で、ミカの渾身の一撃で、作り上げた。

死神の頭部の外皮を削り、脆弱なミスティルテインが狙い通り届く様に弱点を作り上げてみせたのだ。

 

≪――ッ!!?ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!≫

 

本能か、それとも知っていたのか。

迫る矢に何かしらを感じ取った死神はもがき暴れ始める。

それを押し止めるは巨体な身体を持つレイア妹。

己が持ち得る全ての力を以て暴れる死神を抑え込んでみせる。

放たれた矢が狙いへと向けて急加速する。

神バルドルを射殺した神殺しの矢、それが今死神の頭部へと迫り、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

≪エ゛エ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!≫

 

矢は、神殺しの矢は狙い通りに頭部を射抜く。

人形達が作り上げた決定的な弱点、そこを正確に射貫いて見せた。

悶える死神、その様子を見たレイアは自らの妹にもう必要はないだろうと退く様に指示を下す。

姉の指示に従い、死神に対し警戒心を抱きながらもその巨体をゆっくりと起こしていくが、心配は杞憂であったのだろう。

 

死神が、瓦解していく。

まるで崩れ落ちていく砂の城の様に、全身を包んでいた黒い液体が一斉に流れ落ちていく。

金属音と共に手にしていたガングニールも地面へと落ち、それも同様に黒い液体となって散っていき、液体は瞬く間に溶けて消え落ちる。

大量に流れ落ちる黒い液体、ネフィリムよりも大きい体格をしていた死神は段々と小さくなっていき――――そして、

 

 

 

 

 

 

「―――――全く、手の掛かる弟子だ」

 

 

 

 

 

全ての黒い液体が流れ落ち、死神であった者が1人の少女へと姿を変える。

静かに寝息を立てて眠る、誰よりも優しく、誰よりも人の可能性を信じる少女が――セレナがそこにいた。

降り立ったキャロルが眠るセレナを優しく抱える。

手元にある確かな温もり、それに安堵する自分に本当に甘くなった物だなと微かに笑みを浮かべながら、あれだけの騒動を引き起こしておいて気持ちよさそうに眠るセレナの頬を僅かな怒りと悪戯心で引っ張りながら、人形達に指示を下す。

 

「撤退する。ガリス、オレ達が転送を終えると同時に水の壁を破棄してから引き上げろ。ガリィ、お前は予定通りに装者達に例の物を与えてから帰って来い」

 

「了解しました、マスターのマスター。ほら、ガリィお姉さま行きますよ」

 

「えぇ~…はぁ…仕方ないわねぇ…」

 

指示を下された2人はそれぞれの反応を見せながら行動へと変えていく。

かたや颯爽と、かたや渋々と去って行く2人の背を見届けながら、キャロルはテレポートジェムを叩き付けて引き上げていく。

その手に抱いた温もりを、キャロル・マールス・ディーンハイムの人生において欠かせない存在となった自らの弟子をしっかりと抱えて――――

 

 

 

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「あ、居た居た。うわ~…良く生きてるわねこれ…ま、死なれちゃ困るんだけど」

 

声が聞こえる。

誰かは分からないけど、声が聞こえる。

 

「えっと…あったあった。はいパッパラパッパッパー、マスター印のお薬~♪」

 

誰…だろう?

翼さん?クリスちゃん?

 

「これをちょちょいのちょいっと、はい終了。これで最悪の可能性は避けれるでしょ」

 

ぼやけた視界で見えたのは、青。

青い服を身に付けた誰かが、そこにいると言う事だけしか分からない。

 

「終わりましたかお姉さま」

 

「はいはい、終わりましたわよ。これで数日で回復するでしょ。流石マスターお手製のお薬……効果は凄いけど、材料とか聴いたらヤバそうね」

 

「終わったのでしたらさっさと引き上げましょう。マスターが心配ですので帰りたいんですよ私は。さっさと、早急に、迅速に」

 

「分かった分かったわよ。それじゃあ帰るわよ~」

 

何かが割れる音と共に青い服を着た誰かが姿を消す。

待って、思わず引き留めようとした言葉は喉から出ず、伸ばそうとした腕は無力のまま地に落ちたまま。

そして再度意識が落ちていく。

ゆっくりと眠り落ちていく意識の中で、立花響は思う。

あの人、誰だったのだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪音クリスが再度意識を取り戻した時、それは二課にある医務室のベットの上であった。

どうして此処に…一瞬困惑するが、すぐに原因を思い出す。

あの死神との戦闘、そしてそこで負った怪我を―――

 

「―――――ッ!!」

 

思い出す、右足から突き出ていた白い何かを。

肉を突き破り外へ突き出ていた骨を、思い出す。

咄嗟的に布団を跳ねのける。

自らの右足が大丈夫なのか、もしもと言う恐怖に打ち震えながら確認する様に跳ねのけた布団の先に―――右足は残っていた。

治療を受けたのであろう、完全にギプスで固定されたままでこそあるがそれでも無事に残っている右足にほっと一安心しながらクリスはベットに突っ伏す。

 

そんな時に機械的な開閉音と共に部屋に入ってきたのは弦十郎。

 

「目覚めたかクリスくん」

 

数人の医師らしき男達と共に姿を現した弦十郎。

その姿にああ帰ってこれたんだなと思いながら、弦十郎の口から自らの身体の状況が言い渡されていく。

最悪の可能性も止む無しと思いながら話を聞くクリスだが、その内容に首を傾げるしかないだろう。

 

「―――軽傷、だぁ?」

 

「ああ、信じられないが君だけではなく翼も、そして響くんも軽傷でしかなかった。クリスくんの場合は右足の骨に僅かな異常が見られたと言うので念の為の固定ではあるが、経過を見る限り数日で解除となるらしい」

 

――ありえない、それがクリスが抱いた感想だ。

あの時確かに自身の身体は重症であった。

おびただしい出血量、折れた骨が肉を突き破っていた右足。

あの時に感じた激痛も、痛みのあまりに零れて止まらなかった涙も、今でも思い出せる。

あれが全て幻でした、なんてありえない。

だが、現に渡されたカルテに記された診断結果はどれも軽傷な物ばかり。

どういうこった、理解出来ないと困惑するクリスであったが、いくら考えても答えは出ないと諦めてベットに寝転んだ。

 

「正直俺達も全く状況が理解できていないが……何はともあれ君達が無事で本当に、よかった」

 

弦十郎の言葉に嘘偽りはない。

突然の妨害電波により戦場の状況が確認できなくなった時は心底焦った。

情報が一切入らない状況で誰もが願った。

彼女達が無事であってくれと、そして願う事しか出来ない大人の―――自らの無力さをどれだけ嘆いただろうか。

だからこそ回収時に呼吸をする3人の姿を見た時にどれだけ安堵したか。

家族同然の少女達の無事を、弦十郎は年甲斐もなく泣いて喜んだ程だ。

 

その喜びの果てに想う、想ってしまう。

こんな年端もいかない少女達を危険な目に合わせておいて、俺達大人は見ている事しか出来ない無力さを、自身にもノイズと抗える力があれば少女達を苦しめる必要などないのに、と。

 

そして弦十郎はこの数分後に自らの無力さを更に思い知る。

 

――――立花響の胸の中に眠るガングニールがもたらす最悪な結果に――――

 

 

 

 

 

 

 




暴走終わったぜ
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