セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第78話

 

男が目覚めた時、全ては終わっていた。

ネフィリムを一撃で屠った死神は何処にもおらず、装者達も二課に回収されたのか何処にもおらず、荒れ果てた戦場の片隅で運良く気付かれる事なく気絶していた男だけを残して全てが終わっていた。

偶然見つけたネフィリムのコア、それを胸に抱えて戦場を後にするが、男の表情は乏しい。 

呆けた顔で、何を考えているのか分からない表情をしながら、男は理解していた。

自らの胸には空白が出来ている事にーーー

 

「………可笑しい」

 

男の夢は英雄となる事。

数多の民を救い、英雄として崇められる事。

その為のF.I.S.、その為のネフィリム、その為のフロンティアであった。

予定外もあったが計画に必要な品は揃った。

後は計画通りに事を運べば夢が果たされると言うのに、男の胸にあるのは悲願が叶う喜びではない。

空白、ただ空白。

胸にぽっかりと空いた空白、そこには本来抱く筈だった喜びはない。

何故、何故だ。

あれほど渇望していた夢がまもなく果たされるのに、誰からも認められる英雄に成れるのに、どうして………………

 

「ーーー嗚呼、そうか」

 

理解する、理解する、理解してしまう。

答えが分かれば何ともない話だ。

そうだったのかと呆気ない答えに笑みが止まらない。

そう、僕はーーーー

 

 

 

 

 

「僕は………惚れたんだ………!!」

 

 

 

 

 

圧倒的な力、圧倒的な存在感。

理解した、英雄とはこれだと。

何者も寄せ付けない、何者をも負かし、絶対的勝者として君臨する英雄の模範であるあの死神に憧れを、そして惚れ込んでいるのだと理解してしまった。

嗚呼、そうだ!!

ネフィリムを一撃で叩き潰した時に感じた絶望とは違う感情………!!

あれは喜びだったんだ!!

真の英雄に出逢えた歓喜だったんだ!!

嗚呼、なんだそうだったんだ!!

 

「あは………あははッ!!」

 

男は嗤う。

真の英雄に出逢えた喜びにうち震えながら、そして願う。

再会を、もう一度あの死神と出逢える機会を心の底から願いながら男は戦場を後に去っていく。

 

そして、戦場には誰もいなくなった。

 

 

 

 

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時間は少し遡る。

キャロル・マールス・ディーンハイムは空中から戦場を、死神と化した自らの弟子を見下ろしていた。

 

「………ッ」

 

自らの甘さに吐き気がする。

ニトクリスの鏡、未だに全貌を解明していないあれの危険性を把握していながら使用を許可し続けた己の甘さに吐き気を、そして怒りを抱く。

どうして止めなかったのだと何度も後悔が押し寄せる。

可能性は十分にあった。

止めるべきだと幾度も思ったが、キャロルの中にある《仮説》がそれを押し止めていた。

 

ーー吐き気がするほどに残酷な仮説がーー

 

けれども今はその仮説を忘れて手に握る矢を構える。

《ミスティルテイン》

北欧神話において万物による危害を受けないと言う誓いを以て無敵であった神バルドルに唯一誓いから外されていたヤドリギの枝を用いて作られた神殺しの矢。

それを構え、向けるはーーー死神の頭部。

想像通りであればこれで事態は終息出来る。

だが、もし違えばーーー

構える弓矢に戸惑いが生まれる。

最悪の可能性が脳によぎり、それが戸惑いとなって判断を鈍らせる。

もしも、もしも違えば、と。

 

「ーーーー」

 

思えばオレも甘くなったなと笑う。

父の命題を果たす、それだけを糧に何百年も孤独に生きてきた。

その過程で幾度も敵対する者が生まれたが、全てを屠ってきた。

邪魔する者は殺し、障害は排除し、ただ父の命題を果たす為だけに生き、ふと振り返ればそこにあるのは屍と血に染まった道。

誰かの怨嗟を、誰かの嘆きを、誰かの悲しみを、死と言う形で踏み締めて作り上げた穢れた道。

キャロル・マールス・ディーンハイムの人生とはそんな誰かの死の上に成り立つ邪道でしかなかった。

そしてオレも別にそんな道を歩むのに抵抗も嫌悪もなかった。

それが普通だと、それがオレの人生だと、ただ歩み続けてきた。

この道が途絶える、それはオレの命が、父の命題が果たされた事を意味するのだと歩み続けた。

 

そんな道に、突如現れたのがあいつだ。

最初は都合の良い駒程度しかなかった。

想い出の供給、そしてシンフォギア装者と言う戦力として扱える便利な駒、ただそれだけだった。

それがどうだ。

いつの間にかオレの人生に土足で入り込んできて、人の食生活に文句は言うわ、頼った覚えもないのに勝手に食改善するわ、挙げ句に弟子になっているわ………

オレの人生を好き勝手に踏み荒らして、けれどもそれを嫌だと思っていないオレがいて………

いつの間にか、オレの人生にあいつの存在は当たり前になっていて………

 

「………嗚呼、認めてやるよクソッタレ」

 

キャロル・マールス・ディーンハイムにとって、セレナと言う存在はもはや絶対に手放したくない存在になっていると認める。

あいつの作る食事が好きだ。

あいつが起こす予想外のトラブルも好きだ。

あいつが見せる笑顔が好きだ。

あいつの、あいつの全てが好きになっていた。

あいつの存在が、オレにとって全てになっていると認めてやるよ。

だからーーーー

 

 

 

 

 

 

「馬鹿弟子ぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

矢を放つ。

オレの弟子を、オレの家族を

 

オレの人生を返して貰う為に。

 

 

 




キャロセレ
キャロセレ


ウェル………セレ?

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