セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第82話

 

「――そんな馬鹿なッッッ!!!?」

 

キャロルの叫びが玉座の間に木霊する。

無理もない、映像に映し出されたのは今も部屋で寝ている筈のーーーセレナなのだから。

予想外の人物の登場に誰もが驚愕し、信じられないと自らの眼を疑う中で、1人颯爽と部屋から飛び出した人影があった。

 

「そんな………そんな、マスターッ!!」

 

――ガリスである。

先の一件以来眠り続ける自らの主を心配し、幾度も幾度も眠り続ける己が主を前に無力でしかない自分の不甲斐なさを嫌と言う程に実感させられ、ただ祈る事しか出来ない己に怒りを抱いていた人形は、自らの主が寝ているはずの部屋へと駆ける。

玉座の間からセレナの私室まではさほどの距離はない。

それをオートスコアラーであるガリスの全速力で向かうのだ、時間を掛けずにすぐに部屋は見えてきた。

 

だが、おかしい。

部屋の入り口を警備していたはずのアルカ・ノイズの姿がない。

余程で無ければ持ち場を離れる事がない彼等が、だ。

思えば、とガリスは此処まで駆けてきた通路から感じた違和感とその正体に気付く。

日頃は気にしてもいないから気付けなかったが………間違いない。

 

《少ないのだ》

 

通路を歩くアルカ・ノイズの数が圧倒的に少ない。

日頃に比べれば半分もいないだろう。

それもいなくなっているのは戦闘班に所属するアルカ・ノイズ達ばかり。

嫌な予感がする、ガリスは慌てて部屋の中に入り、自らのマスターが寝ている筈のベッドへと駆け寄るが………そこはもぬけの殻。

完全に冷たくなったベッドは自らの主が何処かへと向かったのを意味し、そしてその場所はーーーー

 

「………どうして……どうしてなのですか………ッ!!」

 

小日向未来がマスターのご友人である事は重々承知している。

ご友人の危機であれば飛び出してしまう優しい心をお持ちなのも承知している。

どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても、誰かの為に戦うお方なのだと承知している。

知っている、知っている、知っている。

マスターに仕える者としてマスターの事は全て知っている。

知っているが故に―――歯痒かった。

 

「どうして……どうして、私達を頼ってくれないのですかッ!!!!」

 

ガリスは吠える。

何故頼ってくれなかったのかと、何故一言だけでも言わずに勝手に行ってしまうのかと。

胸に抱く感情をそのまま言葉に変えて、吠える。

―――分かっている、分かってはいるのだ。

それが彼女と言う人間なのだと分かっている。

大事な人達を傷つけたくなくて、全て1人で抱え込んで、全ての傷を背負おうとする、そういう人なのだ。

きっと、思っただろう。

誰かに助けを求めるべきだ、と僅かでも思っただろう。

けれどもそうすれば頼った相手を傷つけてしまうから、と1人で行ってしまったのだろう。

 

お優しい…本当にお優しい人だとガリスは理解はしている。

だが―――今はその優しさが彼女を苦しめる。

主の為マスターの為、と製作された彼女がそのマスターに頼って貰えない。

それは自らの存在意義を否定されたに近いだろう。

そこから生まれる苦しみや怒りは他人には理解出来ないだろう。

 

ガリスは思う、私はそんなにも頼りないかと。

マスターが作ったこの身は力に成れないのかと。

この身はマスターの為に全てを捧げると誓ったのに、マスターは私を信じてくれないのかと。

 

私は、マスターに必要とされていないのかと。

 

「――――――――ッ!!!!」

 

思考が滅茶苦茶になっていると理解する。

一度冷静になるべきだとも理解しているが、今は時間が惜しい。

すぐにマスターの元へ馳せ参じなければならないと部屋を後にしようとして――――――

 

 

 

 

「――と、行かないのよね~これが」

 

 

 

 

―――部屋の入口を塞ぐ様に立ち塞がるのは、ガリィとミカ。

ガリス同様にセレナが居るかどうかの確認をしに来た―――と言う様子ではない。

纏う雰囲気で、そして2人の姿を見て理解する。

嗚呼そうか、と。

 

「……マスターのマスターは手を出すなと、指示を出されたのですねお姉さま」

 

「察しが良くて助かるわね~…ええそうよ、マスターは今回の件に関しては手出し無用を命じたわ。既に貴女同様にあのちびっこの所へ行こうとしてたファリスはレイアとファラが足止めしてるわよ」

 

――最悪だと思った。

あわよくば私がこの2人を足止めすればファリスだけでも救援に行かせる事が出来るのでは、と思ったが…よりによって相性最悪なファラ姉さまを向けられるとは……

レイア姉さまだけならまだしもファラ姉さまが居るとなればファリスの単騎戦力では突破は不可能だろう。

状況は最悪、なれどそれを察せられたら終わると引き攣りながらも笑みを浮かべる。

余裕だと示す様に、偽りの笑みを浮かべる。

 

「…予想は出来ます、今後の計画に影響が出るから、ですよね?」

 

「これまた察しが良いわね、この際アルカ・ノイズに関しての情報秘匿は諦めるとしても私達オートスコアラーと錬金術師の存在は秘密のままにしておかないと本当に計画が破綻するわけ。まぁ、マスターからしても結構苦渋の選択なわけよ。貴女も大人しく我慢してくれると嬉しいのだけれど……」

 

説得しながらもガリィは理解していた。

眼の前にいる妹がこの後どう行動し、そして何が始まるのかを、理解していた。

 

 

 

 

 

「―――分かりますよね?」

 

「……分かっちゃうのよね…」

 

 

 

 

 

 

瞬間、2人が駆ける。

両者の手に纏うのは氷の刃。

かたや己がマスターの苦渋の選択を守る為に、

かたや己がマスターを救う為に、

氷の刃がぶつかりあい、音となってセレナの私室に鳴り響く。

それが、戦いの狼煙となった。

 

 

 

 

 

 

 

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「――――ッ!!」

 

ファリスの武器は2つある。

機動力、そして剣だ。

小柄な体形で製作された彼女は壁を、そして天井をも自由に駆け巡りながら生成した剣を弾丸が如く撃ち放つ。

放たれる剣はどれも名剣。

偽・聖遺物を起動していない状態では見た目だけの偽物とは言え、流石に本物に比べれば劣化しているがそれでも十分な凶器となるだけの殺傷力を保持している。

それが弾丸同様、否それ以上の速度を以て放たれる。

普通の人であれば避ける間もなく身体に剣が突き刺さり、終わりとなるだろう。

 

そう、普通の人であれば、だ。

 

「―――はぁッ!!」

 

迫る剣の弾丸を打ち落とすは、ファラ。

その手に握る哲学兵装≪剣殺し≫は対剣において最強。

降り注ぐ名剣も彼女の剣殺しに掛かれば紙同然だろう。

 

「―――これだから嫌だったの、です」

 

放った剣の尽くを打ち落とされたのを駆ける中で確認したファリスがぼやく。

ファリスとファラ、姉妹関係こそ良好だが戦闘面においては最悪の一言だろう。

ファリスには攻撃手段が剣しかない。

偽・聖遺物のエネルギーで動く彼女達オートスコアラー・シスターズは、製作段階で内部構造が変化している為、錬金術を扱う事は出来ない。

それ故に他の攻撃手段がないからこそ、この苦戦は最初から予想がついていた。

おまけに――――

 

「――――ッ!!?」

 

駆ける脚を急停止させ、側面の壁へと飛び退く。

同時に先程までいた場所に降り注ぐは、硬貨の雨。

たかが硬貨と思う人もいるだろうが……硬貨も所詮は金属の塊なのだ。

それが銃弾と同じ速度で放たれば、それはもはや凶器としか言えないだろう。

そしてそんな事が出来る者はシャトーにおいてただ1人。

 

「…ファリス、これ以上は地味な結末でしかなくなる。早めに投降して諦めろ」

 

両手に硬貨を持ち、何時でも放てると言わんばかりにポーズを取りながら構えるレイア。

彼女の存在もまたファリスを窮地に追い込んでいる。

此方の攻撃の尽くを打ち落とすファラと硬貨の弾丸で狙い撃ってくるレイア。

攻守が完璧すぎる2人を前に、勝機はないだろう。

それでもファリスが戦闘を続けているのは、時間稼ぎの為だ。

 

「(此方にファラ姉さんとレイア姉さんが居ると言う事は、ガリスの元には恐らくミカ姉さんとガリィ姉さんが向かった筈…此方の戦局は絶望的ですが、向こうはまだ勝機がある、です)」

 

ガリスの特性は視界に入る全ての液体を操る力。

あれさえあればガリィ姉さんは圧倒出来る筈。

残る問題はミカ姉さんだけだが……そこはもう祈るしかないだろう。

 

「(本当は私が行きたい、ですけど…仕方ない、です)」

 

戦略的に見ればこの判断は正しいだろう。

勝ち目がない此方と僅かでも勝機のある彼方。

どちらを優先するか、考えればすぐに答えは出るものだ。

 

「……マスター」

 

マスターが1人で勝手に行った事に、悲しんだ、怒りを抱いた、むしゃくしゃした。

けれども同時に納得もした。

マスターはこういう人間だから、誰も巻き込みたくなかったのだろうと分かっていたから。

だが、あくまで納得しただけだ。

マスターに言いたい事は山ほどあるし、1人で闘うなんて言語道断だ。

だからこそ本音を言えば今すぐにでも駆けつけたい、がそうは行かない。

 

今の自身の役目を再認識する。

私の役目は此処で2人を足止めし、ガリスの元へ行かせない事。

ガリスさえマスターの元へ行けるのであれば目的は達成される。

ならば、私の役目はあくまで時間稼ぎ。

その為にも――――

 

 

 

 

 

「―――――――――――♪」

 

 

 

 

 

歌う、歌う、歌う、歌声を奏でる。

歌声と共に高まるフォニックゲインが偽・聖遺物を起動させて手元に一振りの剣を作り上げていく。

選んだのは≪デュランダル≫

 

ルナアタック事件の際に使われたそれと全く同じ姿形をしたそれを握る。

だがこのデュランダルはあくまで≪一般的な知識でのデュランダルを形にした物≫であり、ルナアタック事件の時に使われた完全聖遺物のデュランダルとは違う物だ。

逸話や記録で残されている力の再現は可能だが、完全聖遺物のデュランダルみたいに光を放ったりとかは絶対に無理。

むしろあれどうやったのだろうかと疑問を抱きながらも、以前の鍛錬の際にミカの手を切り裂いて見せた剣を構える。

 

「あれは―――」

 

「…そう、ファリスちゃん降伏する気はないって事なのね」

 

向けられるデュランダルを前に2人もまた構えを取る。

鍛錬を見ていた彼女達はあの剣の力を知っている。

剣殺しに命中させれば勝てるだろうが、あの剣はファリスのコアである≪名も無き原初の剣≫が形となった物。

あれを破壊すればファリスは―――コアを失って死ぬだろう。

自らを人質に剣殺しの使用を止める、理には適っているがなんという無茶だろう。

 

「後でお説教、ですね」

 

止む無しに戦闘になったとは言え、自らの妹を破壊するつもりなど毛頭もないファラは剣殺しを下げ、代わりに先程までファリスが放ち、地に突き刺さったままになっていた剣を抜いて構える。

剣殺しが使えなくなったと言っても近距離、中距離のファラと近距離から遠距離まで補うレイアのタッグ。

ファリスとしても2人を破壊するつもりなどないから直撃を狙えない。

故に必然的に戦い辛い状況になったのは否めないだろう。

だがこれで目的は達成できるとファリスは駆ける。

ガリスがマスターの元へ行ってくれると信じて、駆ける。

駆けて、駆けて、駆けて、そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっくよー!!レアちゃん☆ッ!!!!」

 

「まっかせてー!!レイちゃん☆はいドーン☆ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイアとファラが突然の爆風に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガリスは苦戦を強いられていた。

ミカはともかく、自らの特性を使えば姉であるガリィはすぐに戦えなくなると思っていた。

だが、結果はどうだ。

歌声を奏で、偽・聖遺物を起動させてもなお周囲にある水の支配権を完全に奪いきれないでいた。

その結果、戦闘継続が可能のガリィとオートスコアラーの中でトップの戦闘能力を誇るミカの2人を相手に苦戦も苦戦。

向こうも破壊までするつもりがないのが幸いだが、それでも苦戦している事には変わりはない。

 

「(―――ッ!!困りましたね、これは…)」

 

状況的にファリスがあの2人を突破するのは不可能、ファリスもそれを理解しているはずだ。

そうなればファリスが取る行動は―――自らを時間稼ぎにする事。

どちらかと言えば勝機がある私に全てを任せて自らは時間稼ぎとするはずだ。

その証拠に戦闘開始から結構な時間が経過しているが、此方に2人が来る様子がない。

ファリスの時間稼ぎが成功している証拠だ。

 

「―――ふぅ」

 

だったら、私がするべき事はその期待に応える事だろう。

一度深く呼吸をし、状況をまとめる。

周囲の水の支配権が奪いきれないのは恐らくガリィお姉さまが何かしらの手段を用いているからと見て間違いないだろう。

その仕組みこそ理解出来ないが、それでも気絶させしてしまえば流石にどうしようもない筈だ。

ガリィお姉さまが消えれば後は最強の戦闘能力を持つミカ姉さま。

勝機は少ないが……それでもこの現状に比べれば1対1の方が遥かにましになるだろう。

 

「(狙うは…ガリィお姉さま)」

 

破壊まではしない。

気絶だけしてもらって……いや、まあ破壊しても……うーん……いやいや、やっぱりないですね、うん。

トライデントを構えて、走る。

周囲にある水を従えて狙うはガリィお姉さま。

駆けて、駆けて、駆けて、

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラ…〇…ダー……キィィィィィッッッックゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然割り込んで来た何かが、ガリィお姉さまの頭部に命中して吹き飛ばしていった。

 

 




いったいだれなんだこいつら(棒)
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