セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第80話

 

ーーー歌が、聴こえるーーー

 

聴こえる歌声に瞼を開ける。

視界いっぱいに映るのは、夕陽。

今にも地平線に消えてしまいそうな夕陽と荒れ果てた会場がそこにあった。

 

「……どうして………私…こんな所に………?」

 

疑問を胸に少女は眠っていた観客席からゆっくりと立ち上がる。

人は、誰もいない。

あるのは瓦礫と廃墟と化した会場だけ。

恐らくはライブ会場、だったのだろう。

足元に散らばるペンライトがその名残を感じさせてくれる。

 

「………………」

 

周囲を見渡しても、やはり人は誰もいない。

誰もいない廃墟と化した会場で少女は1人困惑しながらも歩み、そしてーーーー

 

「………あ」

 

《彼女》を見つけた。

廃墟と化した会場、その中央に位置するステージに座って1人孤独に歌声を奏でる女性。

燃えるような赤い髪をした女性は誰に聞かせると言うわけでもなく、ただ1人歌い続ける。

そんな歌声を前に、少女は立ち尽くす。

孤独に、けれども聞き惚れる素晴らしい歌声を前に立ち尽くす。

本来ならば胸に抱いた疑問を聞くのが正しいのだろう。

此処は何処か、貴女は誰か、私はどうして此処にいるのか。

疑問は数多ある。

だが、彼女の歌声を前にすると立ち尽くしてしまう。

素晴らしい歌声に、可憐な歌声に、聞き惚れる歌声に、立ち尽くしてしまう。

けれども、何故だろう。

彼女の歌声に感動しながらも少女は思う、思ってしまう。

 

 

ーーー何かが足りない、とーーー

 

 

そんな疑問を抱くと同時に歌声が止まった。

どうして………俯いていた顔をあげて再度女性を見て、気付く。

彼女が、此方を向いていた。

 

「………………」

 

燃えるような赤い髪をなびかせ、女性はーーどこか苦しそうに、悲しそうに、少女を見詰めていた。

どうしてそんな顔をするか、理解できなかった。

疑問は言葉に、少女は女性に理由を問い掛けようと口を開く。

だが、それを阻むかの様にーー世界が揺れた。

 

「ふぇッ!?え?え?な、なに!?」

 

困惑する少女だが、この感覚には覚えがあった。

夢の終わる瞬間に感じる感覚だと理解する。

少女はこれが夢である事にやっと気付いた。

理解は同時に夢の終わりを加速させたのだろう。

意識が急激に上昇していくのが分かる。

夢の終わりを告げる様に世界が割れていく。

夕陽も廃墟と化した会場も、割れて消えていく。

全てが終わりを告げるように崩れていく。

そんな崩れ行く世界の中で燃えるような赤い髪の女性は、少女を見つめ続け、そしてーーーー

 

 

 

 

 

《ーーーーーーーーーーーー》

 

 

 

 

 

何かを、呟いた。

 

 

 

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「………………」

 

見覚えのある天井だ、それがセレナが目覚めて最初に抱いた感想であった。

側に置かれたプレラーティから貰ったかえるのぬいぐるみが此処が自室であると理解させてくれる。

どうして私寝ているのだろうか?掛けられていた布団を退けながら、セレナはゆっくりと起き上がろうとしーーーー

 

「ーーーーッ!?」

 

全身を襲う激痛に動きを止めざるを得なかった。

例えるならば筋肉痛の痛みを何倍も倍増させた物、であろうか。

とにかく痛い、指を曲げるだけの簡単な動作でさえ痛みが走る始末だ。

とてもではないが動くのは無理であると諦めてベッドに横たわる。

 

「ぅぅ………」

 

痛みを何とか堪えながら、セレナは原因が何かを思い出そうとして、ふとそれに気づく。

ベットに置かれたぬいぐるみ達、その中に1つ見覚えのない物が混ざっている事に気付き痛み身体を何とか耐えながら手を伸ばして掴む。

 

「……?これって…」

 

それはセレナをモチーフにしたであろうお手製の人形。

小日向未来がセレナに渡すつもりで購入し、ルナアタックの際に紛失してしまったマグカップの代わりに作り上げていた手製の人形。

秋桜祭が終わった後に行われたセレナのチャンピオン祝いのパーティーの際に渡されたそれをセレナは怪訝そうに見つめて―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな人形、あったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らをモチーフにした人形。

それを入手した覚え等、セレナには≪一切ない≫。

師匠か、はたまたプレラーティさんが作ってくれたのだろうか?と怪訝そうにしながらもぬいぐるみ達の中に置き戻す彼女は、そうだと思い出す。

 

 

今日は≪秋桜祭≫の日ではないか、と。

 

 

師匠の許可は貰えていないが、未来お姉さんからの招待を無下にしたくない。

二課が怪しい動きを見せているのは知ってはいるが、こっそりと行って帰れば問題は無いだろう。

問題はこの全身を襲う筋肉痛を何倍も増やした様な激痛だが…幸いまだ秋桜祭の開演までには時間がある。

こっそりと師匠お手製の薬を拝借して使わせてもらおう。

痛む身体をゆっくりと起こしながらセレナは恐らく作業の為に留守にしているであろう師匠の部屋へ赴こうとして―――――

 

突如姿を現した黒いもやに驚愕する。

 

「ひゃッ!?え、えっと…」

 

今まで黒いもやはセレナが意識しない限り視界に出現する事はなかった。

それなのに突然現れ、しかも以前に比べれば輪郭もはっきり見える位になった黒いもやに困惑するセレナであったが、そんな黒いもやがセレナの私室の入口を指さしている事に気付く。

あそこへ行け、まるでそう言わんばかりに指を向ける黒いもや。

今までにない事に困惑するセレナであったが、以前同様にもやから敵意や悪意と言った負の感情が感じられない事から信頼しても良いと恐る恐るではあるが従う様に入口へと向かう。

部屋から出たら良いのかな?そんな疑問を抱きながらも部屋の扉を開けようとして――――

 

 

≪うわ、おいおいこれ見ろよ。この子ってあれだよな?確かマスターのお友達の……何だっけ?小日向未来だっけ?≫

 

≪どうしたって…うわぁ…これなんだ?もしかしてシンフォギアを無理やり纏わせてるのか?よくもまぁこんな事が思い付くもんだよ≫

 

 

―――聴こえて来た内容に思考が止まる―――

 

未来お姉さんが?シンフォギアを無理やり?

何、何それは?

え?だって…え?

可笑しい、可笑しいに決まっている。

何で未来お姉さんがシンフォギアなんて纏っているの?

何であんなに優しい人がシンフォギアを纏うの?

だって、今日は秋桜祭で、楽しい一日になるはずで……

 

「―――――――――――ッ!!!!」

 

扉を開け放つ。

突然に扉が開いた事に驚愕したのだろう、驚きを隠せないと言った表情で此方を見つめるアルカ・ノイズに普段であれば謝罪の言葉が先に出るのだろう。

だが、今はそれよりも先に――――

 

 

 

 

 

 

「今の会話、どういう事かすぐに教えてッ!!!」

 

 

 

 

 

 

セレナが戦場へ赴く理由となる言葉が先に出た。

 




対価無きものはない。

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