セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「ながッ!?」
ちょっと長くなりましたが、許してください!!絶唱歌いますから!!
セレナが眠り続けて数日が経過した。
疲れからか、はたまた死神化の影響からか、セレナは幾度も行われた検査で全て異常無しと言う結果を出してもなお眠り続けている。
その原因はキャロル、そして名医の記憶と知識を与えられているアルカ・ノイズでも判明出来ずに、ただ時間だけが過ぎた。
普段はそんなセレナを心配して側に居続けているキャロルだが、今日は違う。
玉座の間、セレナを除くシャトーの面々が勢揃いの中で彼女達の視線は1つに集っていた。
「―――――ふん、馬鹿な事を」
キャロルは玉座に腰を据えながら目の前に映し出される映像に苛立ちと、そして人間の愚かさを改めて認識しなおしていた。
ガトリングの銃声、イチイバルの装者雪音クリスが持つ遠距離兵装が火を噴き、それらが海上を移動する黒い装者―――≪小日向未来≫に向けて放たれる。
≪
長野県皆神山から発掘された鏡の聖遺物。
魔を払う力、凶祓いの力を持つこの鏡の聖遺物は10年前に皆神山の発掘チームからフィーネが奪取した聖遺物だ。
フィーネは神獣鏡を奪取する際にソロモンの杖でノイズを召喚しているが、そのノイズによって後の二課の装者≪天羽奏≫の両親は灰となって死亡している。
この時のノイズへ対する怒りが彼女を装者へと変えたのだが……彼女は知る由もなかっただろう。
そのノイズへ対抗する武器を作った張本人こそが両親を奪った犯人だ、と。
「……ふん」
あの女の事だ、恐らくこうなる展開を見込んでの行動だったのだろうと思う。
まあ今となっては誰もその真相については分からないのだがな。
だが、どうやらあの女が残した遺産は面倒な事を作り上げてくれた様だ。
神獣鏡のシンフォギア。
完成していたと言う情報こそ知っていたが、適合できる装者はおらず、その特性からシンフォギアとしてではなくあくまで1つのパーツとして何かの機械に搭載されたと聞き及んでいたが……それをまさかシンフォギアとして、それも最悪な人選で適合させてくるとは……
「……ある意味、幸いだった、か」
もしも馬鹿弟子がこれを見ていれば間違いなくあの戦場へと飛び込んでいっただろう。
小日向未来と言う友人を救うために、彼女と言う人間は絶対に行くだろう。
だがそれは許されない。
あの死神化の影響が完全に解明されていないこの状況で闘いに行かせるなど絶対に許可出来ない。
ニトクリスの鏡の使用についてもだ。
あの鏡の危険性は今回の件で十分に証明された。
≪仮説≫がある以上あいつから引き剥がすのは無理だが、使用を禁止にする事は出来る。
あいつが目覚めたら一度ニトクリスの鏡の解明を時間を掛けて行うべきだろう。
その為にも一刻も速い馬鹿弟子の目覚めを祈るだけだ。
だが、この時のキャロルはまだ知らない。
既に部屋の中がもぬけの殻になっている事に、
キャロルの自室に置かれた薬が失くなっている事に、
アルカ・ノイズ戦闘班が全員居なくなっている事に、
まだ誰も気付く者はいなかった。
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可笑しい。
それがドクターウェルが抱いた疑問であった。
「…ドクター?」
「可笑しい、可笑しいですよ…」
彼の視線の先にあるのは、神獣鏡のシンフォギアを身に付けた小日向未来。
親友を戦わせたくない、親友を守りたい。
その願いを、愛をLiNKERで引き上げる事で装者としてシンフォギアを起動させるだけのフォニックゲインを手に入れた傀儡の少女。
戦闘経験は一切ない彼女だがそれを補うのがダイレクトフィードバックシステム。
装者の脳に情報を画として直接描写する神獣鏡の特性を生かした機能であるこれは、あらかじめ戦闘プログラムを用意しておき、それをシステムを用いて脳に理解させる事で素人であろうともある程度の戦闘技術を身に付ける事が出来る。
だが、所詮は設定されたプログラム通りに行動するだけ。
避けられる攻撃を避けず、防げる攻撃を防がず、そう言った欠点があるのだが、ドクターからすれば彼女はあくまでフロンティアに施された結界を壊す為だけの道具。
戦闘力など最初から期待もしていなかった。
だが、実際はどうだ。
≪――ッ!!ちょこざいなッ!!≫
イチイバルの装者、雪音クリスの放つ遠距離兵装の尽くを避けてみせながら、とても素人とは思えない俊敏な動きと攻撃に対する躊躇の無さを以てクリスを圧倒している。
光が、アームドギアが、幾度もクリスを襲う。
魔を払う力が、シンフォギアを壊す力が、圧倒的な武力となって降り注ぎ続ける。
圧倒的だ、圧倒的ではある。
だがその光景がドクターには理解出来ない。
彼女の実力では、与えられた戦闘プログラムでは小日向未来は絶対に二課の装者には勝てないと思っていた。
なれど映る光景がそれを否定する。
小日向未来の戦いが思っていた答えを否定して見せる。
「………まさか………」
浮かんだ可能性にドクターが呟く。
ドクターが思い浮かべた可能性、それはーーー
小日向未来の精神が神獣鏡の特性を上回り、設定された戦闘プログラムを自らの心で最適化している、と言うもの。
あり得ない話ではない。
LiNKERを投与しているとは言え、シンフォギアを起動させるだけのフォニックゲインを生み出しているのは彼女の親友に対する感情ーーー愛にある。
その愛が深ければ深い程に彼女の力は増し、その増えすぎた力が神獣鏡を上回る事だって十分にあり得る。
「ーーく、くふふ………」
ドクターは笑う。
人間と言う生物はこれだから面白い。
理論や数値では理解できない感情が時にこう言った予想外を生み出してみせる。
科学に携わる者としては非科学的で理解出来ない事であるのに、笑みが止まらない。
何故なら、分かるからだ。
その感情を、愛を理解しているからだ。
小日向未来が親友に愛を抱くように、ドクターウェルもまた死神に愛を抱いているからこそ分かる。
同じ同族だからこそ分かる親近感。
その胸に渦巻く憧れる想い、その感情が、その熱が分かる、分かってしまう。
故に吠える。
愛を理解している者として、愛を抱いている者として、
愛と言う感情を、その喜びを知っているからこそ吠える。
「さあ!!貴女の愛を僕にもっと見せてくださいッ!!貴女の愛がフロンティアを解放する鍵となるのですからッ!!」
笑うドクターの横でマリアは思う。
本当にこの道が正しいのか、と。
邪魔する者を力で排除して、世界を救おうとしている私達は本当に正しいのか、と。
調の言葉が幾度も脳裏をよぎる。
今の私がしている事は力のある人間がやっている事となにも変わらないと言い放った調の言葉が胸をざわつかせる。
「(正しい………正しいに決まっている………!!)」
力が無ければなにも変えられないと知った。
力が無ければ大事なものを守れないと知った。
力が無ければセレナの様に救えない存在が生まれてしまうのを知った。
力だ、力が無ければどうしようもないのだ。
世界を、そしてセレナの意志を継ぐ為にも力は絶対に必要なのだ。
正しい、正しいに決まっていると何度も何度も自らに言い聞かせる。
心のどこかが否定しているのを自覚しながらも、その自覚を誤魔化す様に幾度も言い聞かせる。
ーーーその葛藤が自らを苦しめていると分かっていながらもーーー
「(お願い………セレナ………私に力を………!!)」
もしも、と思う。
もしもこの場にセレナが居たら私をどんな目で見るだろうか。
怒り?悲しみ?哀れみ?
いや、違うだろう。
もしもあの子が此処にいたら、あの子は絶対にーーーー
「ーーん?これは………この反応はまさかッ!?」
絶対な意志を眼に宿して止めに来るだろう。
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「(ーー救わなきゃ)」
小日向未来は朧気な意識の中で力を振るう。
目の前に立つクリスが何かを言っているのは分かる、けれどもその内容までは分からない。
けれども今の小日向未来にとってはそんな事どうでもいい。
小日向未来にとって優先すべきは、救う事。
自らの力を以て戦いを終わらせて、その先にある戦いのない素晴らしい世界へ、皆と一緒に過ごせる優しい日常へと導く事。
戦いがない世界、なんと素晴らしい世界であろう。
そこだったら誰もが笑顔で居られる。
クリスも翼さんも二課の皆も、そして大好きな響も、誰も傷付かないで笑顔で居られる。
学校の友達も、世界中の皆が、笑って過ごせる楽園がそこにある。
《ーーーーッ!!》
なのにどうして抵抗するの?
皆が戦わなくて良い世界がもうすぐ訪れるのに、どうして抗うの?
そんなの間違っているのに。
戦う事が皆を傷つける、だから戦わなくて良い世界を作る。
ただそれだけなのにどうして邪魔するの?
どうして?どうして?どうして?ねぇーーーどうしてなの?
《未来お姉さんは、どうしたいですか?》
ふと、思い出したのはキャルちゃんの言葉。
響と喧嘩してしまった私がキャルちゃんに相談した際に返ってきた言葉。
響を止めたいのか、それとも力になりたいのかと選択を求められたあの時を思い出す。
あのときの私は響の力なりたいと答えた。
力のない私でも響の力になりたいと答えて、キャルちゃんは私が響の側にいてあげる事こそが、立花響の日常になる事こそが力になると教えてくれた。
おかげで響と仲直り出来た、響の側にいようと思えた。
その想いは依然変わらない、私は響の力になりたい。
力が無くて傷付く響を見ているしか出来なかったあの時の私とは違う、今はこの手に響を守れる力がある。
この力でーー神獣鏡の輝きで響が、皆が笑顔になれる世界を作りたいと言う想いに嘘はない。
なのに………どうして?
どうして………私の中のキャルちゃんはそんな悲しそうな顔で私を見るの?
なんでそんな悲しい目で私を見るの?
やめてよ………やめてったら………そんな目で、そんな顔で見ないでよ………!!
ねぇやめて…お願いだからやめて……やめて………やめてッ!!
「やめてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
小日向未来の咆哮が、神獣鏡の輝きへと変貌する。
魔を払う力、シンフォギアを殺す輝きがクリスへと迫る。
避けようとするが、自らの後方に複数の軍人の姿が見えた。
避けられない、だがあの輝きの前ではリフレクターは無意味。
迫る光を前にクリスは葛藤する。
自らの命を捨てる事で後ろの人達を助けるか、
後ろの人達を犠牲にする事で自らの命を取るか、
「ーーッ!!」
葛藤はすぐに答えとなる。
元々の発端は自らがソロモンの杖を起動させてしまった事にある。
それで多くの人達が傷付き、多くの人命が失われた。
だからこれ以上、誰も失わせはしないし、傷付けさえもしない。
リフレクターを展開する。
自らを守る為ではない、自分の身体で神獣鏡の輝きを防ぎ、それでも防げなかった場合の後ろにいる軍人達の最終防衛ラインとする為だ。
防ぎきれなくても避難出来る時間ぐらいは稼げるだろう、クリスは覚悟を胸に迫る光に向けて駆ける。
「(………あーあ、アタシも馬鹿になったなぁ)」
以前のアタシだったら犠牲にする選択を選んだかもと思う。
フィーネに捨てられないように必死だったアタシであれば、十分にあり得た。
だが、今は違う。
二課の仲間が、先輩が、あの馬鹿が、暖かい日常が、アタシを変えてくれた。
そのきっかけを作ってくれたのが………やっぱりキャルだ。
見ず知らずのアタシの相談に真剣になってくれて………最初は喧嘩しろって言うからなんだこいつって思ったっけ。
けど、やっぱり思う。
あの時の相談が無ければ、アタシは胸に溜まりに溜まったフィーネへの本音をぶつける事もなく、二課に拾われる事もなく、フィーネの駒として使い続けられてただろうさ。
照れくさいけど………キャルの奴には感謝しかねぇ。
だからいつかこの恩を返すんだって思ってたけど………こりゃ無理そうだわ。
「(………じゃあな皆、悪いな中途半端で退場しちまって………)」
迫る光に目を瞑る。
せめて少しでも痛みを感じないように、と。
そしてーーーーーーー
「ーーーーーーー?」
痛みが、来ない。
浮かんだのは一瞬で終わってしまった可能性。
けれども聞こえる音が、動く身体がそれを否定する。
何があった?瞑っていた目を開ける。
何が起きたかを理解する為に目を明ける。
そこにあったのはーーーー黒。
一面の黒。
光に身を焼かれながらも必死に防ぐ黒い手、そしてーーーー
「ーーーーーッッッ!!!!」
無数の黒い手と共に光を防ぐ様に立ち塞いでいたのは、仮面の少女。
敵として相対したはずの彼女が、アタシを守っていた。
セレナ介入