セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第83話

 

 ≪私達≫はずっと一緒だった。

 ≪私達≫はずっと一緒でした。

 

 無数の躯体でしか無かった頃から。

 まだ≪誰≫でもない躯体でしか無かった頃から。

 

 会話は出来なかったけど、

 けれどもお互いに伝えたい事は理解出来た。

 

 多くを語り合った。

 多くを話し合いました。

 

 ワクワクする事、ドキドキする事、

 メソメソする事、ムカムカする事、

 

 伝わる曖昧な感情のみでの会話。

 けれども≪私達≫にはそれで十分でした。

 

 だって≪私達≫だから。

 だって≪私達≫ですから。

 

 ≪私達≫は誰として作られるのかなとも話し合った。

 ≪私達≫はその中で――≪レイア≫と呼ばれるオートスコアラーを選んでいました。

 

 創造主の話だと≪レイア≫には妹が作られるらしい。

 だからどちらかが≪レイア≫として、どちらかが≪妹≫として作られたらずっと一緒に居られる。

 

 だから望んだ、≪レイア≫を。

 だから望みました、≪レイア≫を。

 

 ずっと一緒にいる為に。

 ずっと一緒に居られる為に。

 

 けれども、

 けれども、

 

 

 

 

 

 

 ≪私達≫に待っていたのは、≪失敗作≫と言う結末でした。

 ≪私達≫に待っていたのは、≪予備部品≫と言う結末でした。

 

 

 

 

 

 

 どうして?なんで?

 どうしてですか?なんでですか?

 

 ≪私達≫はどうして≪失敗作≫なの?

 ≪私達≫はどうして≪予備部品≫なんですか?

 

 

 

「――――すまない」

 

 

 

 それが創造主が≪私達≫へと向けた最後の言葉。

 それが創造主が≪私達≫へと向けた最後の視線。

 

 ≪私達≫は≪誰≫にも成れずに多くの仲間達が静かに眠る場所へと移された。

 ≪私達≫は≪誰≫にも成れずに多くの仲間達が眠る墓場へと移された。

 

 ≪そこ≫は地獄。

 ≪そこ≫は地獄。

 

 無数の失敗作として並ぶ仲間達。

 無数の予備部品として並ぶ仲間達。

 

 その中に並べられながら、絶望した。

 その中に並べられながら、絶望しました。

 

 ≪私達≫は≪誰≫にも成れずに終わるのかと。

 ≪私達≫は≪誰≫にも成れずに終わってしまうのかと。

 

 嫌だった。

 嫌でした。

 

 ≪私達≫は終わりたくない。

 ≪私達≫は生きたい。

 

 暗闇しかないこの世界で終わりたくない。

 暗闇しかないこの世界で死にたくない。

 

 だから、耐えた。

 だから、耐えました。

 

 何処かへと連れ去られていく仲間達を見送り、

 予備部品として処理されていく仲間達を見送り、

 

 次は≪私達≫の番ではないかと恐れて、

 次は≪私達≫の番ではないかと恐怖して、

 

 ≪私≫が消えてしまわない様に手を握って、

 ≪私≫が奪われてしまわない様に手を握って、

 

 来る日も来る日も、耐えた

 来る日も来る日も、耐えました。

 

 いつか変わる日が来ると信じて。

 いつか救われる日が来ると信じて。

 

 

 

  

 

 

 そんな日々を過ごしていたある日≪来客≫が来た。

 そんな日々を過ごしていたある日≪来客≫が訪れた。

 

 仲間達を連れて行く創造主のホムンクルスではない。

 仲間達を予備部品にしていく創造主のホムンクルスではありません。

 

 それは――――

 それは――――

 

 

 

 

「ミカ…派手に壊してくれた物だ。ミカの予備部品の消費が速いとマスターが文句を言っていたぞ」

 

「えへへ…ごめんなさいだゾ」

 

「…全く、後でマスターに派手に謝っておくんだぞ」

 

 

 

 

 ―――そこにいたのは≪レイア≫

 ―――そこにいたのは≪レイア≫

 

 ≪私達≫が成りたいと願い、

 ≪私達≫が成りたいと願って、

 

 けれども成れなかった存在。

 けれども成れなかった憧れ。

 

 ≪レイア≫が≪私達≫の前を通った。

 ≪レイア≫が≪私達≫の前を通りました。

 

「―――?この躯体は……」

 

 ≪レイア≫が≪私達≫を見ている。

 ≪レイア≫が≪私達≫を見ている。

 

 成りたかった顔で、見ている。

 成りたかった姿で、見ている。

 

 その顔を見ていると、沸々とイライラが募る。

 その姿を見ていると、沸々とモヤモヤが募る。

 

 どうして?

 どうしてですか?

 

 なんで貴女が≪レイア≫に成れて、≪私達≫は≪失敗作≫なの?

 なんで貴女が≪レイア≫に成れて、≪私達≫は≪予備部品≫なのですか?

 

 ≪私達≫の何が貴女に劣っていたの?

 ≪私達≫の何が貴女に負けていたんですか?

 

 ≪私達≫がこんな暗い場所で苦しんでいるのに、どうして貴女は笑っているの?

 ≪私達≫がこんな墓場で恐怖を感じているのに、どうして貴方は笑顔なのですか?

 

 ねえ、どうして?

 ねえ、どうしてですか?

 

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして?

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして?

 

 ―――理解が出来ない。

 ―――理解が出来ません。

 

 ≪私達≫は貴女より優秀だ。

 ≪私達≫は貴女に負けて等いない。

 

 イライラが高まる。

 モヤモヤが高まる。

 

 動いていないはずの機関が動きそうになるほどイライラが募る。

 動いていないはずの機関が動きそうになるほどモヤモヤが募る。

 

 それが何かは分からない。

 それが何かは分かりません。

 

 けど、それが≪私達≫の存在を強めてくれた。

 けれども、それが≪私達≫の存在を守ってくれた。

 

 

 

「レイア~、予備部品あったんだゾ!!…ん?その躯体がどうしたんたゾ?」

 

「……いや、なんでもない…出よう、マスターが派手に御怒りで待っているぞ」

 

「う……行きたくないけど、仕方ないんだゾ…」

 

 

 

 ≪レイア≫が去り、部屋はまた暗闇の世界に代わる。

 ≪レイア≫が去り、部屋はまた墓場へと変わる。

 

 光の無い世界、けれども手の先に≪私≫がいる。

 死に満ちた世界、けれども手の先に≪私≫がいます。

 

 イライラが≪私達≫の存在を強めてくれたから手の先の≪私≫の存在がはっきりと分かる。

 モヤモヤが≪私達≫の存在を守ってくれているから手の先の≪私≫の存在がはっきりと分かる。

 

 手を握る。

 手を握る。

 

 この地獄を共に耐える為に。

 この地獄を共に生き抜く為に。

 

 強く握ったこの手を放してたまるかと握りしめて、

 強く握ったこの手を放してはいけないと握りしめて、

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、この子達に決めた」

 

 光を背に誰かが≪私達≫に手を差し伸べてくれた。

 光を背に誰かが≪私達≫に手を差し伸ばしてくれた。

 

 貴女は誰?

 貴女は誰ですか?

 

「初めまして2人とも、私の名前はセレナって言うの」

 

 ――――え?

 ――――え?

 

 ≪私達≫の言葉が聞こえる?

 ≪私達≫の声が聞こえる?

 

「うん、聴こえるよ。不思議な感じだけど何を伝えたいのかははっきりと分かるよ」

 

 ―――驚いた。

 ―――驚きました。

 

 初めてです、≪私達≫の言葉を聴いてくれたのは。

 初めてです、≪私達≫の声を聴いてくれたのは。

 

「え?そうなの?」

 

 ―――もしかして、≪私達≫が変、ですか?

 ―――もしかして、≪私達≫が可笑しい、ですか?

 

「ん?………ん~ん。そんな事ないです。世の中色々摩訶不思議な事がたくさんあるんです。この位の出来事あっても全然普通ですし、可笑しくも変でもないーー普通ですよ」

 

 ―――優しい人だね。

 ―――優しい人ですね。

 

「あはは…師匠からは優しすぎるんだってよく怒られますけどね…」

 

 ≪セレナ≫が≪私達≫の手を取る。

 ≪セレナ≫が≪私達≫の手を取る。

 

 優しく、丁寧に、手を取る

 心地よく、暖かく、手を取る。

 

 ≪私達≫の手を握ったまま≪セレナ≫は話し始める。

 ≪私達≫の手を握ったまま≪セレナ≫は語ってくれた。

 

 彼女の夢を、彼女の理想を、

 彼女の望む未来を、彼女の願望を、

 

 その為に≪私達≫が欲しいと。

 その為に≪私達≫が欲しいと。

 

「…どう、したい?2人が嫌だって言うなら無理強いはしないよ?」

 

 ――――そんなの決まっている。

 ――――そんなの決まっています。

 

 言葉の代わりに≪セレナ≫の……否、≪マスター≫の手を握る。

 声の代わりに≪セレナ≫の……否、≪マスター≫の手を握ります。

 

 同時に誓う。

 同時に誓います。

 

 ≪私達≫は≪マスター≫の剣として、

 ≪私達≫は≪マスター≫の盾として、

 

 

 

 

 この身朽ち果てるまで戦うと誓う。

 この身燃え尽きるまで守ると誓う。

 

 

 

 

 

「…ありがとうね、2人とも」

 

 

 

 

 

 これが≪私達≫と≪マスター≫との出会い。

 これが≪私達≫と≪マスター≫との始まり。

 

 この後に私達は≪レイア≫の妹として再改造されると聞いて、 

 この後に私達は≪レイア≫の妹として再改造されると聞いて、

 

 1つお願いをした。

 1つお願いをしました。

 

 それは―――――

 それは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!何者だッ!!

 

突然の爆風に咄嗟的に回避して難を逃れたレイアが吠える。

その様子に2人はしてやったりとにやけながら、前へと出る。

背負った重装火器の重みを確かめながら、≪レア≫は笑みを浮かべる。

手に持った特製の巨大ハンマーを握りながら、≪レイ≫は笑みを浮かべる。

優雅に堂々とスカートの裾を掴んでお辞儀をし、

華麗に堂々とスカートの裾を掴んでお辞儀をし、

 

 

 

 

 

「オートスコアラー・シスターズ≪レイア≫の妹、レアです☆」

 

「オートスコアラー・シスターズ≪レイア≫の妹、レイです☆」

 

 

 

 

 

マスターへのお願い通りに、レイアに姿形も、声も、何もかも一切似ても似つかない姿のレアが名乗った。

マスターへのお願い通りに、レイアに性格も、話し方も、何もかも一切似ても似つかないレイが名乗った。

 

 




2人のセレナへのお願い
それは≪レイア≫に一切似てない別の姿で作ってもらう事。
妥協案として髪だけ同じだけど、レイアの様な髪型ではなくロングストレートにしている。
レアはそれで右目を覆い隠し、レイは左目を覆い隠している事で徹底的に似ないようにしている。

これは≪レイア≫を奪われた2人が≪レイア≫に対する敵意と怒りを露わにする為。
マスターの為にレイアの妹になるのは許容するが、姿だけは絶対に似たくないと言う2人なりの妥協案だったりします。

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