セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
人間と言うのは理解出来ない現実――非現実を前にするとどうするだろうか?
人によっての違いもあるが、大抵の人間は2つの選択肢のどちらかを選ぶ。
1つは排除、理解出来ない非現実を力を以て排除する選択。
魔女狩り、異端狩り、邪教徒狩り、歴史において様々な名称で行われてきたこれらはその選択を選んだ結果だ。
その果てに多くの人命が失われる事となったのは、言うまでもない。
そんな選択とは真逆のもう1つの選択、それは――――
「あは…あはははッ!!素晴らしいッ!!素晴らしいですよ貴女はッ!!流石は僕の英雄ッ!!貴女の求愛は確かに受け取りましたよッ!!!!」
―――受け入れる、非現実を自分にとって都合よく解釈し、自分にとって最適な妄想へと書き換えて受け入れる。
この男、ドクターウェルが選んだのは後者だ。
ノイズVSノイズと言う非現実な現実を男は都合よく解釈した。
このノイズ達は彼女が≪僕≫の為に独自の手法で作り上げたのだと。
ソロモンの杖を、ノイズを操る唯一無二の力を持つ僕に対等になるべくして作ったのだと。
理想の英雄たる彼女が英雄になろうとしている僕と対等になってくれたのだと。
実際ノイズを作り上げたと言う所までの彼の妄想は正しい。
確かにセレナはノイズを……アルカ・ノイズを作り上げた。
その基礎を構築したのはキャロル、そして結社の錬金術師達ではあるが、その基礎から発展させ、今の形へと造り上げたのは間違いなく彼女だ。
だが、決してこの男の為に作ったわけではない。
ノイズを討ち倒す力、その為だけに作ったのだ。
基礎を作ったキャロルが考えている思惑とは全く以て違う方向を向いてしまった開発方針だが、それでも断じてこの男の為だけではないと断言しておく。
けれどもそんなものこの男の妄想においてはどうでも良い事実。
男にとって大事なのは自らの妄想なのだから。
「………ドクターウェル………」
その傍らで治療を受けるマム………ナスターシャは思う。
やはり私は間違えていたのだと。
全て最初から間違えていたのだと。
白い孤児院で行ってきた非道な研究も、優しい子達を闇に引きずり込んでしまった己の愚かさも、この男を味方に引き入れたのも、
全て、全て間違えていた。
強き者だけが救われ、弱き者は見捨てられる災厄。
その災厄から人々を1人でも多く救おうとした私達は、いったい何をしているのか。
「……調……切歌………マリア………」
私が引きずり込んでしまった優しい子達。
あんなに仲が良かった3人は今やそれぞれの道を進み、互いに互いを、そして自らさえも傷付けながら茨の道を進んでしまっている。
その発端は………間違いなく私だ。
止めなくてはいけない。
自らが生み出した間違えを、その全てを正し、あの子達がこれ以上傷付くのは阻止しなければならない。
それこそがーーー終わるこの命の最後の役目だ。
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二課の医療チームに属するその男は、目の前の光景が理解できずにいた。
二課が持つ潜水艦、その甲板においてーーー
《重症患者からゆっくりと降ろすんだ!!》
《医療物資は此処に置いておくぞ!!》
《輸送が完了した奴から急いで戻らせろ!!戦場にはまだ要救助者がいる!!1人でも多く救うぞ!!》
ーー人類の敵である筈のノイズが言葉を話し、人を救っていると言う信じられない光景がそこにあるのだから。
ノイズからの要請、最初にそれを聞いた時は「……は?」と戸惑った。
ノイズは人類の敵、決して分かち合えない筈の彼等が要請?と。
そもそも過去会話をしたと言う記録さえない彼等が言葉を使ったのか?と。
戸惑いながらも彼は指示に従い、輸送されてくると言う米国の軍人達の受け入れをする為に甲板へと向かいーーそこで待っていたのがノイズが人を助ける為に動いているこの光景だ。
理解が出来ない、そう思っているのは彼だけではない。
運ばれてきた軍人達もノイズを信じられないと言った面持ちで見ている。
この場にいる誰もが目の前の光景を信じられないと見ていた。
《二課の方か!?要請受け入れ感謝する!!要救助者第一陣合計147名だ!!すぐに第二陣も来る!!必要な事があれば言ってくれ!!全力で助けとなろう!!》
「………え、あ、は、はい!!」
恐らく人類史上初めてのノイズとの会話。
それを成しているのだと自覚する前に男もまた戸惑いが抜けきれてはいないが、それでも二課の職員としての仕事を果たすべく、自らの役目を全うする。
1人でも多く救う、その為に男もまた自身にしか出来ない事を成す為に戦場へと向かうのであった。
「ノ、ノイズからの要救助者受け入れ開始しました!!」
弦十郎は思う。
これは本当に現実なのか、と。
人類の敵、人類を殺す為だけの存在である筈のノイズが人を助け、人と協力している。
信じられん………思わず口からそんな言葉が零れる。
だが、現実はこれなのだ。
信じられなくとも、実際に目の前で起きているのだ。
「………ッ」
理解が追い付かない現状、だがそれで止まるわけにはいかない。
戦局は淡々と変わっているのだ。
今こうして呆けている間にも時間は過ぎ去っていくのだから。
ーー思考を切り替える。
戸惑いも困惑も一度捨てて弦十郎は冷静に戦局を見定め、そして指示を出す。
「要救助者はノイズと医療チームに任せろ!!藤尭!!翼とクリスはどうしている!!」
「翼さんは敵装者の追撃を受けてなおも戦闘継続中!!クリスさんは敵対ノイズの排除を……み、味方ノイズと共に実行中です!!」
「友里!!未来くんの動きは追跡出来ているか!?」
「出来ています!!未来さん以前戦闘エリアから離脱して移動中!!ですが何処へ向かっているのかは不明なまま………あ!!」
「どうした友里!!なにがあった!?」
「み、未来さんの元にーーー仮面の少女が!!」
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小日向未来は指定されたポイントへと向かう。
朧気な意識の中で、そこへ向かって成すべき事を成す為に向かう。
そうすればーー
「(そうすれば、みんな争わなくて済む様になる)」
小日向未来には見えている。
全てが終われば皆が辿り着ける楽園が。
誰も争う必要がなく、誰も笑顔で居られる、そんな優しい世界が。
だから向かう、だから急ぐ。
これ以上誰も傷つかせない為に、これ以上誰も悲しませない為に。
けれども………脚は止まる、止めなければならなくなる。
だってーーー
「ーーーーー」
小日向未来の進む道を阻むように、仮面の少女が立ち塞がる。
この先には行かせないと、言葉なく伝わる感情を前に小日向未来は口を開く。
「ーーどうして?どうして貴女は邪魔をするの?」
返答など期待してはいない。
けれども聴いてみたかったのだ。
彼女はーーこの場において誰とも関係がない人の筈なのに。
それなのにどうして邪魔をするのか、それを聴いてみたかった。
だがーー
「ーー止めないといけないからです」
期待を裏切って返答が帰ってきた。
その声は何処かで聞いた様な気がするとは思ったが、すぐに気のせいだと忘れる。
「なんで?私は皆の為にしてるんだよ?」
重要なのは彼女が会話に応じたと言う事。
だったら話したら分かってくれる筈だ。
この先に待つ優しい世界を、皆が笑顔でいられる世界を、分かってくれる筈だ。
「ーー皆の為?」
「そうだよ、皆の為。もうすぐ誰もが笑顔でいられる世界が来るんだよ。誰も傷付かない、誰も争う必要のない優しい世界。それがもう少しでやってくるんだ。私の……この神獣鏡の輝きがあれば」
そうだ、もう少しなのだ。
理想の世界が、誰にでも優しい世界が、響が傷付かなくても済む世界が、もう少しでやってくるんだ。
だから私は行かないといけない、だから進まないといけない。
「大丈夫だよ。その世界は貴女も受け入れてくれる、だからーー」
そこを退いて欲しい、そう続く言葉はーーー
「その世界はーー大事な人達を傷付けてまで欲しいのですか?」
その言葉に阻まれた。
ウェルセレ………?
セレミクセレミク