セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「レアにレイ………ッ!!」
最悪だ、実に最悪なタイミングだとレイアは憤りを感じざるを得なかった。
可能性としては十分にあり得た。
ガリィのシスターズであるガリスが、ファラのシスターズであるファリスがいる様に、自らのシスターズが居ても可笑しくはないと。
それがこのタイミングで姿を現し、尚且つ向こう側に味方する。
最悪過ぎる展開だとレイアは歯軋りしながら、硬貨を構える。
対するレアとレイも笑みを浮かべたまま、構える。
華奢な見た目からは想像出来ない重装火器を背負ったレアが、
華奢な見た目からは想像出来ない巨大なハンマーを握ったレイが、
ファリスを守る様にファラとレイアの前で武器を構える。
高まる緊張感。
動けば戦いが始まる一触即発の中で、ふとファリスは気付く。
自らの前に立ち、今まさに戦闘を始めんとする双子の片方、レアが何か紙の様な物をこっそりと此方へ差し出している事に。
何だろうと疑問を抱きながらもレイア達に気付かれない様に受け取り、その中身を拝見するとーーーー
《ごめーん☆カッコつけたけど勝ち目ないから逃げて☆》
ーーーーーーーーーーーは?
きょとんと、出だしの文面にファリスは理解できずに何度か目を擦って確認し直すが、内容は一緒。
理解出来ない、困惑するファリスだが続いて書かれている内容を見て納得する。
レアとレイはまだ未完成なのだ。
まだ最終調整段階である彼女達はコアである偽・聖遺物を何とか動かしているだけの状況なので正直な話、今こうして動いているだけでも奇跡に近い。
本来ならばマスターであるセレナの調整を受けてから起動する筈だった二人が起動出来ているのはーーーファリスのおかげだ。
ファリスの奏でた歌声で生まれたフォニックゲインが彼女達の偽・聖遺物を起動させ、起動した二人は危機的状況にあったファリスを救うために(あとレイアに対する怒り)奇襲を仕掛けた。
だが、それが二人にとって最大で最後の好機。
辛うじて動いている偽・聖遺物ではシスターズ最大の武器であるコアを武器とする最終兵装の使用、なんて論外であり、持っている武装では足止めが精々。
詰まる所ーーー最初の奇襲が失敗した時点で勝ち目がないのである。
「………」
派手な登場、そして余裕綽々と言った表情。
けれどもその実態は勝ち目がないので逃げてくださいと来た。
呆れる様にため息をついてからーー二人に並ぶ。
「ーー!?」
「ちょ、ファリッち!?」
「ファリッちではありません、です。ファリス、です。二度と間違えないで下さい、です」
状況としては以前最悪。
なれど先程に比べれば好転したと言って良いだろう。
先程まではあくまで自らが時間稼ぎをしてガリスがマスターの元へ向かうのを援護するだけだった。
だが、今は違う。
二人の協力があれば目の前で立ち塞がる二人を突破し、マスターの元へ馳せ参じる事が出来るやもしれぬ。
その希望がファリスを勇気づけ、デュランダルを再度構え直す。
その様子を見て仕方ないと言わんばかりに駆動音と共に重装火器を起動させるレア、ハンマーを構えるレイ。
それらを見てレイアとファラも構える。
オートスコアラーとシスターズ、その戦いの火蓋は切って落とされようとしてーーーー
その場にいる全員が《それ》を察した。
「ーーッ!!伏せろッ!!」
レイアの叫びと共に全員が床に倒れる様に伏せたと同時にーーー
シャトーの壁を貫通する巨大な赤い光が通り抜けていった。
---------------------------------------------------------------------------------------------
ヒーローが好きだ。
大好きなマスターと一緒に見たヒーロー達が好きだ。
銀色だったり、五色だったり、色々いるヒーロー全員が好きだ。
カッコ良くて、強くて、憧れて、好きだ。
《悪》を倒し、《正義》を成す彼らが好きだ。
好きで好きで、大好きだ。
けれども知っている。
映像のヒーローはあくまで架空の存在で、現実にはいないんだって知っていた。
《悪》を倒し、《正義》を成す人間なんていないんだって知った。
ーーだからアタシがなろうと思った。
マスターの邪魔をする《悪》を打ち倒し、マスターの《正義》を助けるヒーローになるんだって誓った。
「ーーーッ!?」
ガリィは理解出来ないまま、吹き飛ばされていた。
勝機は見えていた。
以前のガリスとの鍛練の結果を見たキャロルの手により改造されたガリィは自らが操る水の支配力を強める事に成功していた。
無論、その改造をガリィは誰にも教えていない。
何故か?ガリィだからである。
自らの優位性をほいほいと喋る筈がないガリィらしい行動であるが、今回はそれが勝機となった。
水の支配を奪い切れない状態での二対一、それも片方は戦闘力ではオートスコアラー最強のミカである。
負ける要素など何処にもなく、その予想通りにあと少しの所まで追い詰めていた。
ガリィとしてもガリスの気持ちは分からないではないが、それでもガリィにとって優先すべきはマスターの命令。
拘束して終わりにしようと気を緩めると同時にーー衝撃がガリィを襲った。
顔面を襲う衝撃、その正体が何かわからないままガリィは壁に激突した。
「ガリィ!?」
慌ててミカが駆け寄ろうとするがーー足が止まった。
否、止めざるを得なかったのだ。
ガリィが壁に激突した際に生じた視界を阻む砂煙から現れた自らに迫る足をその巨大な爪で受け止める為に。
「ーーッ!!」
重い、それがミカが抱いた率直な感想であった。
だが止められないわけではないと片手で食い止めながら逆の手で反撃とばかりに爪を振るう。
しかし、同時に足が砂煙の中へと消え、振るった爪も空を切る。
砂煙の中から聞こえるのは聞き慣れた轟音。
自らも使うブースターの音だと理解するとミカは両手を構える。
視界が悪い砂煙の中でミカはその音だけを頼りにカーボンロッドを撃つ。
撃って撃って撃ち続ける。
それはさながらガトリングの様に発射され続ける。
マスターであるキャロルから施された改造で射撃速度が向上したミカだからこそ出来る連続射撃。
視界が悪く、音だけが頼りの射撃であるがこれだけ放てば当たるとミカは撃ち続けた。
どれだけ放っただろうか。
ミカが放ったカーボンロッドが床や壁に突き刺さりまくり、荒れに荒れたセレナの部屋の中心でミカは両手を下ろす。
既に砂煙は晴れている。
おかげで見えてしまった荒れ果てた部屋の惨状には誰もが視線を反らすだろう。
そんな惨状の部屋でミカは、《彼女》と相対していた。
あれだけ放ったカーボンロッドを一撃も受けずに、無傷なままでなんかカッコいいポーズを決めている《彼女》と相対していた。
「………お前、何者だゾ?」
ミカの質問に彼女は待っていましたと顔を輝かせながら上げる。
その顔は、ミカを大人にしたと言えば良いだろうか。
ミカよりも大きい背格好の彼女は、ミカと同じ赤い髪を揺らしながら、カッコいいポーズをデデンっ!と決めるとーーー
「天知る地知るアタシが知る!!!オートスコアラー・シスターズミカの《姉》ッ!!《ミウ》ッ!!爆!!誕!!だぞ!!」
カッコいいポーズのまま、おそらくずっと練習していたのであろう名乗りをあげた。
シスターズの中でいっちばん名前を悩んだのがミウだったりします………
ちなみに名前はミカ・ジャウカーンからミとウをとっただけだったりします。
色々と考えたけどシンプルが一番かなって