セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第91話

 

 海上にてぶつかりあう黒と白。

魔を払う光を放つ未来、魔を象徴するような黒い手を操るセレナ。

互いの技が縦横無尽に振るわれ、放たれ、ぶつかり合う。

空中から、海中から、真っ正面から、ぶつかり合う。

 

「ーーーッ!!」

 

 セレナは分かっていた事とは言え戦いにくいと歯軋りする。

相手はただでさえ自身にとって友人であり、恩人でもある未来お姉さんだ。

精神的にも戦いにくいと言うのに、彼女が持つ神獣鏡の輝きと自身が持つニトクリスの鏡の黒い手、この2つの相性が最悪過ぎる。

彼女の神獣鏡の輝きは魔を払う光。

あの光の前では圧倒的な再生力を誇る黒い手でも塵に等しく、彼女の放つ光によって次々と打ち消されていく。

精神的でも、戦闘力的な意味でも戦いにくい、それがセレナが小日向未来に抱く感想だ。

 

「(それに……)」

 

 戦っている最中に気が付いた事がある。

――時間が経つにつれて彼女の動きが格段と向上している。

最初からつい先日まで戦闘経験のない素人がする動きとは思っていなかったが、今はそれが更に拍車を立てている。

自身の行動の無駄を省いているだけではない。

此方の移動、攻撃、回避、ありとあらゆる行動パターンを読み取ってそれを自らの行動に取り組んで仕掛けてくる。

まるで戦いながら学んでいる様に―――

 

「――――まさか」

 

 様に、ではない。

本当に、学んでいるのではないか?

彼女は戦いながら此方の動きを読み取り、それを学んで自らに生かしているのではないか?

――それならば理解出来る。

先日まで戦闘経験のない彼女が此処まで戦う事が出来る十分な理由となる。

そしてそれを可能としているのはやはり――――

 

「(あのシンフォギア――!!)」

 

 セレナの予測は正しい。

小日向未来は戦いながらセレナの動きを随時≪画≫としてダイレクトフィードバックシステムで記録し、その行動パターンを解明、理解し、自らの動きに組み込み、独自に対彼女用の戦闘プログラムを構築し、それを実践しているのだ。

 

 例えどれだけ武に優れた超人でも絶対に隙は存在する。

セレナもその1人だ。

オートスコアラー、そしてキャロルに戦闘技術を学び、単純な戦闘能力だけで言えばミカに迫る勢いのある彼女でもその動きには本人でさえ気づかない程度の隙がある。

そんな僅かな隙を読み取り、狙い撃つ様に光が放たれる。

 

「――――ッ!!」

 

迫る光を身体を捻って何とか躱すが、同時に未来が操る遠隔の鏡が躱したばかりで無防備なその姿に光を放とうとするが、咄嗟にセレナが海面から呼び出した黒い手が主を守る為にその身を犠牲に光の勢いを弱める。

だが、弱めただけでしかない光は、彼女の肌に傷をつける。

本来ならばファウストローブの防護機能がダメージを軽減させるのだが、神獣鏡の輝きはそんな防護機能さえも削り取る。

幸いなのは光自体が小規模な物で肌を薄く切る、程度で済んだ事だろう。

左腕を伝う血液、見た目程に傷みが無い事に安堵しながら構えなおす。

 

「(私の予測通りなら…長期戦に成れば成るだけ此方が圧倒的に不利になっていく…けど…)」

 

 セレナの持つニトクリスの鏡が操る黒い手は確かに強い。

圧倒的な再生力、かなりのパワー、鏡面さえあれば無尽蔵、主を守る為に動く自立行動。

強い、確かに強い。

だが―――それだけなのだ。

≪それ以上≫が無いのだ。

 

 装者達の様に必殺技や隠し種があるわけではない。

いや、あるのかもしれないが、未熟なセレナではそれを引き出せていない。

故に、短期決戦を望むとしてもそれが可能となる≪力≫がないのだ。

 

「どうにか――ッ!!」

 

 しないといけない、そう続くはずだった言葉は迫る光を前に阻まれる。

黒い手を呼び出してもあの光を前にしては無意味だと分かっているセレナはそれを躱し、両手に作り出した拳銃を彼女目掛けて放つ。

迫る弾丸、それを未来は手に持つアームドギアで撃ち落そうとするが、接触する直前に弾丸は粉々に割れ、彼女の周囲に鏡面となって散り――同時にそれらから生み出された黒い手が一斉に未来を襲う。

 

「―――――――」

 

 今までのセレナの行動パターンには無かった奇襲。

一瞬、困惑が表情に現れるが、それは本当に一瞬だけ。

迫る黒い手、それらを前に未来は―――自ら脚部のブースターを切り、海中へと沈んで躱した。

 

「―――ッ!!」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

これで決まれば良かったが――失敗した。

海中から飛び出した未来は再度脚部のブースターを起動させて光を放ち、粉々になった弾丸もろとも黒い手を消失させた。

もうこれで、この奇襲は彼女に通用しないだろう。

段々と手詰まりになっているのが分かる。

持ち札が無くなり、追い込まれているのだと実感させられる。

退くべきではないかと心の弱い部分が悲鳴を挙げているのを自覚させられる。

けれども――だとしても―――

 

「――絶対に退けません」

 

 絶対の覚悟と憤りを胸にセレナは立ち上がる。

優しい彼女を取り戻すと、彼女をこんな目に合わせたあの男を絶対に許すかと。

確かに追い込まれているが――それがなんだ。

救うを決めたのだ、取り戻すと決めたのだ。

ならば進むしかない。

まっすぐに、ひたすらにまっすぐに、進んで助けるしかないのだ。

 

「はぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 だからこそ駆ける。

勝算はないと頭が命じても、駆ける。

助ける人が、取り戻すべき人がいるのだと駆ける。

そんな彼女に向けられるのは、光。

この一撃で決めようとしているのだろうか、歌声と共にチャージされていく光は膨大でまともに受ければどうなるか……

それでも、駆ける。

手を伸ばして、駆ける。

助けたいと願い相手を、未来お姉さんに必死に伸ばした手と共に駆け、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来ぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そんな彼女に、小日向未来に振るわれたのは拳。

唇を噛み締め、友を、ひだまりを殴り飛ばしたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――ひ、びき?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――涙を流す立花響であった――

 

 

 

 

 

 

 




ひびみく パワハラ現場なう


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