セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
愚かな行為だと理解はしている。
けれどももう耐えられなかった。
親友が、ひだまりが傷つくのも、誰かを傷つけるのも、耐えられなかった。
だから――――
≪――――――≫
輸送用アルカ・ノイズである彼14333は少女をーーー立花響を輸送していた。
人命救助の為、ではない。
彼女を戦場へ送る為に輸送しているのだ。
何故そうなったのか、それを説明するには少し遡る必要がある。
≪第3陣輸送部隊が来るぞ!!≫
≪場所開けろッ!!急げ急げッ!!≫
「負傷者は此方に!!歩ける方は此方へ!!」
「薬品が足りないぞ!!誰か急いで医務室から持ってきてくれ!!」
二課の職員とアルカ・ノイズ、そして負傷した米軍関係者達。
甲板から船内までどこもかしこも埋め尽くされているが、未だに輸送されてくる人は後を絶たない。
それもそのはずだ、なにせ――救う対象が増えたからだ。
米国の不審な動きを監視する、国連で決まったその名目の為に近海に配備されていた多国籍軍が米軍救援の為に同海域に侵入。
その本心は米軍の目的――フロンティアの奪取にあったのだが、そんな多国籍軍をウェルが見過ごす筈がなく、ノイズによる攻撃を喰らい、アルカ・ノイズ軍がこれを救助。
結果、多国籍軍もまた救助される流れとなり――二課の潜水艦の内部は国も人種も全て勢ぞろい状態になりつつあった。
そんな所狭しとなった艦内を駆けるのは、1人の少女。
名前を立花響。
その胸に宿るガングニールが彼女を蝕み、命を奪い獲らんとしている状態で、彼女が向かうのは――甲板。
多くの軍人やそれを運ぶ職員やアルカ・ノイズ達、その中から―――少女は探していた目的を見つける。
≪第4陣が来る前に甲板を開けろッ!!輸送完了したら飛んで開けろッ!!」
今まさに飛び立たんとしている輸送用アルカ・ノイズ達。
その一体に、響は飛び乗った。
そのアルカ・ノイズこそ――14333である。
≪え!?ちょ、ちょっとッ!?≫
彼からすれば予想外の展開に困惑し、降りる様に促すべきだと口を開くが――それを阻んだのは、少女の叫びだった。
「お願い!!私をあそこへ――未来の所へ連れて行ってッ!!」
そうして今現在、彼は本来の任務とは別の行動を実行しているわけだ。
≪(――あーあ、ヤバいよな、コレ…)≫
任務放棄に加えて独断での行動。
説教……で済めば良いがと思う彼は今更ながら後悔する。
あの時降ろすべきだったと、降りる様に促すべきだったと。
何なら他のアルカ・ノイズに連絡して無理やり降ろすべきだったと。
乗っているのが二課の装者であるのならなおさらだ。
だが、出来なかった。
少女の――立花響の叫びを聞いた時にはもう、出来なかった。
友を助ける為に向かう、その姿が――自らのマスターと被ってしまった時点でもう無理だった。
戦場が見えてくる。
黒と白、光と手が交差する戦場が迫って来る。
おびただしい数の攻防が繰り広げられる戦場、これ以上の接近は危険であった。
その危険性がマスターから与えられた厳命である≪死ぬな≫を思い出させ、その命令が彼の動きを止めてしまう。
戦場から遠くも無いが近くも無い、そんな曖昧な位置で停止してしまったアルカ・ノイズの動きを見て、響も何気なく察したのだろう。
「ありがとう!!此処で良いよ!!」
元々戦場まで送ってもらおうとは思っていなかった彼女からすれば十分だった。
扉を開いた響の眼にも、戦場が視える。
親友が、ひだまりが傷つき、誰かを傷つけてしまっている戦場が視える。
「――――ふぅ」
静かに深呼吸をするとともに胸のガングニールに手を沿える。
奏さんから受け継いで、多くの戦場を共に生きて、今は私の命を蝕んでいるガングニール。
これ以上使えば――仮に助かったとしてもそこにいるのはもう≪人間≫ではない私だろう。
怖くないか、と言われた怖いとしか言えない。
――≪死≫――
今まで縁のない物だと思っていたそれが今は目の前にある。
眼の前で誘い、招いているのだと思うと恐怖する。
――死にたくない、それは間違いなく本音だ。
まだしたい事もある、やり残した事もある、楽しみにしている事もある。
まだ生きたいと、そう思っている。
けど、けれどだ。
それは彼女が――私の陽だまりである未来が居てからこそなのだ。
未来と一緒にしたい事、やり残した事、楽しみにしていた事がある。
当然、未来だけじゃなくて皆がいないといけない。
だから、これ以上未来が傷つくのも、未来が誰かを傷つけるのも、許せない。
止めないと、取り戻さないと行けないんだ。
そしてそれが出来るのは、きっと私だけ―――
だから―――――――
14333はその姿を見て思う。
嗚呼、やっぱりこの少女は――――
「Balwisyall nescell gungnir tron」
―――マスターにそっくりだと。
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そして、時は動く。
「未来ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!!」
立花響の拳が小日向未来を殴り飛ばす。
その威力は凄まじく、チャージ体勢で無防備だった未来はまるでボールが如く海上を跳ねて飛んで行く。
仮面の少女を助ける為に振るった拳、なれどその拳は間違いなく未来を殴ってしまった。
その悲しみに涙を流しながらも、響は未来に拳を向ける。
例え親友を、ひだまりを殴ってしまっても――取り戻すと誓ったその拳で構える。
ーー仮面の少女に無防備に背中を見せてーー
「――――」
そんな姿を視ながら、セレナは思う。
どうして彼女は――此方に敵意を向けないのか、と。
完全に此方に背を見せ、無防備なその姿を今襲えば一瞬で終わってしまうと言うのにどうして、と。
そんな困惑するセレナに対し、響は―――
「えっと大丈夫!?怪我とかしてない!?未来を止めてくれてありがとね!!未来は私が必ず助けるからあとは任せて貴女は安全な所へ!!」
放ったのは、心配する言葉。
まだ味方だと判明していないのに、最初に語る言葉が敵味方の確認ではなく、相手を心配する言葉。
襲ってくるかもしれないのに、敵対するかもしれないのに、そんな事を心配するよりも先に相手の事を心配するとは……
想像さえしていなかった言葉に、思わず、そう思わず小さく笑ってしまう。
「ふぇ!?ど、どうして笑うの!?」
「―――いえ、貴女らしいなって思いまして」
「え?えっと………会った事、ある?」
「ーーええ、貴女が知らない所………ですけどね」
彼女らしいなと、立花響らしい言葉だなと笑う。
繋がった縁は1度だけしかないけれど、それでもその1度が彼女の人を理解させ、そして今それが再確認される。
優しい人だ、世の中の人間が皆彼女の様であれば誰も争わないだろうと想える位優しい人だ。
だが、世の中はそう甘くない。
彼女のその優しい心はいつか必ず他の誰でもない、自分自身を苦しめてしまうだろう。
けれども私はーーーー
「………援護します。私も彼女をーー未来さんを助けたい心は一緒ですから」
ーーそんな優しい人を好きだと思ってしまうのだから。
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ドウシテ、響が邪魔するの?
ドウシテ、響がワタシを殴るの?
ワタシは、響のタメニーーーー
「ーーー嗚呼、そっか、そうだよね」
理解する、理解する、理解する。
嗚呼、なんだそうだったのかと理解する。
ーーー響は、ダマサレテルンダーーー
回りの人達が響に嘘を言ってるんだ。
響をワタシからウバイトル為にーーー
嗚呼ナンダソウダッタノカ………
もう、響ったらカンタンにダマサレルんダから………
本当、響はワタシガイナイとイケナインダネ。
けど、もう大丈夫だよ響。
「私が、救ってあげるから♪」
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「み、未来さんのフォニックゲインが急速に上昇しています!!」
「これはーー!!この数値はーー!!」
鳴り響く警報音、機器が異常を知らせる悲鳴を鳴り響かせる二課で確認されているのは、小日向未来のフォニックゲインの急速な上昇。
その数値の上昇は止まる事を知らないとでも言わんばかりに増え、そして数値はーー過去に一度だけ観測された最大値へと上り詰めた。
そう、その最大値とはーーー
映像が光によって何も見えなくなる。
戦場を照らす輝き、その輝きを二課の面々は知っている。
ルナアタック事件の時に、フィーネとの戦闘において見ている。
「ーーまさか………」
呟く様に弦十郎の口からこぼれた一言。
彼の頭にある1つの可能性。
当たっていてほしくない、そう願いながら光が消えた映像を確認するがーーそこにあったのは当たっていてほしくないと願った想いを打ち砕く悲しい現実。
光が消えた中心にいるのはーー
「エクスドライブ……だとぉ!!?」
ーーー奇跡を身に纏った小日向未来だった。
ナツカシノメモーリアカウント結果
未来さんエクスドライブ化