セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
ルナアタック事件の際に立花響、風鳴翼、雪音クリスの三名が見せたシンフォギアが持つ決戦機能。
その稼働には膨大なフォニックゲインを必要とし、意図的な起動が不可能である事から《奇跡の力》と呼ばれ、未だにその機能の全貌は未知な部分が多い。
二課もまたその機能の解明に全力を注いでいるのだが、シンフォギア技術はその開発者である櫻井了子のみが知りうる知識であり、彼女が残した櫻井理論の解析さえもが終わっていない二課ではこの機能の完全解明には至っていなかった。
それ故にあらゆる作戦において《エクスドライブ》は計画に加えていない。
奇跡の力、その力は膨大で圧倒的だが……《奇跡》を計画に加えるのはいざと言う時に発動しない危険性があるからだ。
だからこそーー弦十郎は苦虫を噛み潰したような面持ちで映像を観ていた。
「まさか未来くんが奇跡を……エクスドライブを纏うとは…!!」
奇跡の力を身に纏った小日向未来。
計測している機器からはその危険性が数値となって警報音を鳴らしている。
不味い、この状況は不味いと弦十郎は焦りを見せる。
響くんの独断による出撃、それは十分にあり得た可能性で気を付けておくべきだった。
気付いた時には既に遅く彼女は戦場に立っており、そこから逆算して彼女に残された時間を計算した結果ーーー
およそ、10分。
それを越えたらーー響くんは死ぬ。
仮に死ななくてもそこにいるのはもはや《人間の立花響》ではないだろう。
そんな最悪なカウントダウンを前にこのエクスドライブは不味いとしか言い様がなかった。
「ーーッ!!翼かクリスくんを救援にッ!!」
「無理ですよ!!翼さんは依然敵装者と接敵中でクリスさんは敵ノイズへの対処で動けません!!」
その報告を証明するかのように映像には戦う二人が映し出される。
緑色の装者ーー暁切歌と刃を交える風鳴翼。
F.I.S.のヘリから照射されるソロモンの杖の光から生み出され続けるノイズを味方ノイズと共に倒していく雪音クリス。
どちらもとてもではないが即座に動けないのは明白だった。
「ーーーッ!!」
無力だと歯痒さを感じる。
まだ幼い彼女達に戦わせておいて、自分は何も出来ない現状に歯痒さを感じざるを得ない。
何が大人だ、何が師匠だと。
力も権力も、いざと言う時に使えなければ単なる飾りでしかない。
そんな飾りを得る為に努力してきたわけではないと言うのに……!!
「ーーそれしか、ないか」
後悔の渦の中で浮かんだのは1つの可能性。
それを選ぶのに抵抗がないのかと言えば嘘になる。
後々においてそれが政府や他国に追及される要因となるやも知れないと分かっている。
だが、この現状においてそれしかないと――弦十郎は指示を下す。
「仮面の少女に通信を繋げろッ!!二課から正式にーー響くんへの救援要請を出すッ!!」
未だに敵か味方か判別しきれていない相手に、自らの弟子の命を預ける選択を選んだ。
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「ーーッ!!」
風鳴翼は迫る鎌を紙一重で避けながらも、仕返しとばかりに剣を振るう。
リーチの長さでは向こうが勝っているが、手軽さでは此方が上。
距離を埋め、鎌のリーチを殺した接近戦闘にて片を付けようとするが、狙いを理解している彼女はそれを易々とさせてくれない。
「邪魔するなデス!!」
彼女が後方に飛び退くと同時に鎌が振るわれる。
鎌から放たれるのは分裂した鎌。
回転しながら迫るそれが風鳴翼の動きを阻み、上手い具合に接近する事を許さない。
歯痒い、そう感じながらも翼は剣を構えなおす。
「ッ!………そう易々と決着とはさせてくれない、か!!」
迫る攻撃を避けながらも翼は攻めきれずにいた。
切歌が持つ鎌――≪イガリマ≫は近距離が主体で中距離戦闘はあくまで補佐程度でしかない。
対する翼のシンフォギア≪天羽々斬≫も接近戦を主としているが、彼女と切歌には1つの大きな差がある。
―――実力差だ―――
風鳴翼は幼少期よりこの国を守護する防人として多くの武術を学び、装者となってからは多くのノイズを相手に戦い続けて来た経験がある。
対する暁切歌もまた幼少期より≪白い孤児院≫にて戦闘訓練を積んではいるが、実戦経験は圧倒的に少ない。
その経験の差が2人の実力を決定的とし、仮に2人が真正面からやり合えば間違いなく風鳴翼が勝利するだろう。
では何故そんな実力差がある翼が切歌相手に攻めあぐねているのか。
それは――翼が本能的に切歌が持つイガリマに対して危機感を抱いているからだ。
「(あの鎌…何かあるな…)」
多くの経験を積んでいる翼だからこそ分かる危機感。
その正体こそ彼女には不明だが、その予測は正しかった。
切歌のシンフォギア イガリマの特性は魂を切り刻む事。
文字通りの意味を持つ彼女の鎌が肉体にダメージを与えれば、それは魂にもダメージとなる。
魂のダメージ、それは恐らく治癒する術がない絶対的な損傷となる。
それがどのような結末を生むのか………想像するのは容易い。
その特性自体まで察していないが、その危険性を本能的に察している翼は攻めあぐね、そして焦っていた。
戦局は通信機越しに概ね理解している。
立花響の独断による出撃、それがもたらす危険性も………
「(急がねばならない…立花が死んでしまうなんて、最悪の結末を避ける為にもッ!!)」
対する暁切歌もまた内心では限界に近かった。
自身にとって家族以上であり、最も大事な存在である月読調がいなくなった事、そして自身がフィーネの器として覚醒しつつある事。
これらが生み出す精神的な不調、そしてLiNKERの効果時間のタイムリミットが迫っている事による肉体的な限界。
それらが一斉に幼い彼女に襲い掛かり、切歌は精神的にも肉体的にも限界が近かった。
「急がないと………いけないんデス!!アタシがアタシでいられる間に………!!」
それでも少女は戦うことから逃げない。
残された時間がどれだけあるかは分からない。
けど、その時間で残したいのだ。
彼女にとって大好きな家族や調の記憶に、暁切歌と言う存在を残したい。
だから、逃げない。
目の前の障害を排除し、調を取り戻す。
その為にーー逃げられないのだ。
二人は想いを武器に宿し、構える。
互いに退けない理由が、想いがあるからこそ退けない。
「退いてもらうぞッ!!」
「お前が退けデスッ!!」
2人が駆ける。
天羽々斬とイガリマ、それぞれを握り そして―――――
「悪いけれど、少し寝ててもらうよ君には」
聴こえて来たその声が誰の物であるのか、それを確認する前に風鳴翼の意識は――暗闇へと落ちた。
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「―――え?」
暁切歌は呆然とそんな呆けた言葉を紡ぐ。
つい先程まで戦っていた相手が、風鳴翼が気絶する様に船に寝転がる。
その背後に立つのは――1人の白い服を着た姿の男。
「…ふむ、二課の装者もこの程度、か」
男は気絶した風鳴翼も眺めていたと思いきや、興味を無くしたかのように視線を逸らし、そして此方を見て―――笑顔を浮かべた。
笑顔で歩み寄る男に、切歌は無意識にイガリマを向ける。
本能的にそうしなければならないのだと構える。
だが、男はそんな事を気にする様子も無く―――
「初めましてだね、暁切歌くん。
ボクの名前はアダム、気軽にアダムお兄さんと呼んでほしい」
イガリマの刃を指先1つで押し退けながら自己紹介をし、そして―――
「君の味方だよ、ボクは」
――男の声を最後に、切歌の意識もまた暗闇へと落ちて行った。
ZENRA登場