僕のお父さんは円卓最強の騎士 作:歪みクリ殴りセイバー
あとアヴァロン登場キャラが奈須きのこの性癖の坩堝でナス生える。みんなどの子が好き?作者はトリ子。(精神が)PON!CRUSH!CRUSH!されますわ
時々不安に感じることがある。あるべき筈のものがないような、そんな感覚だ。
五体満足だった人が急に四肢のどこかを失った時のように、今まで共にいた友人が遠くの地に越して会えなくなった時のように、長年連れ添った配偶者に先立たれた時のように……。
自分は経験したことがないが、例えるならそんな感じだ。
だが、手を伸ばせば届き、声を出せば聞こえ、追いかければ追いつける。そんな距離にいるにも関わらず、遠ざかっているような気がしてならないのだ。彼をもっと知りたい、近づきたいといった欲が転じてそうなったのだろうか? いや、確かにそう言った気持ちはあるがそれともまた違う気がする。
ならば、なぜ?
最近、マシュ・キリエライトはその疑問ばかりが頭に浮かんでいた。
パチリ、と自覚なく瞼が上がっていく。寝ぼけ眼がぼんやりと天井を認識し始め、だんだんとクリアになっていくと同時に耳によく馴染む男性の声が聞こえ、それでハッキリと意識が覚醒するのが自分の日課だ。
──おはよう、マシュ。よく眠れたかい?
「おはようございます。体の疲労はしっかり取れました! バッチリです!」
彼を心配させまいとした建前などではなく、本当に疲れは取れている。体調もベストに近い。だが、寝汗がじっとりと肌についていた。胸の鼓動も僅かに早く、少し息苦しい。鮮明に覚えてはいないが、何かとても嫌な夢を見ていた気がする。
「ギャラハッドさん」
──あ、ごめん。なんて言った?
「いえ……大したことではないので」
最近、こういうことがしばしばある。以前は自分の言葉を聞き逃すことなんてそうなかったが、明らかにその頻度が多くなっている。そのことをわざわざ指摘するのも自分が粘着質な感じがして憚られると思うくらいの人間性は獲得していたが故に問い詰めることはしなかった。
ロンドン特異点の攻略は順調だ。かの有名な円卓の騎士モードレッド卿と最初こそ不安な空気が漂ったものの、なんだかんだで特異点修復のために力を貸してくれている。万事が順調に進んでいると言ってもいい。
だが、人間は頂点にいる時こそ忍び寄る崩壊の気配を感じ取りやすいもの。それはマシュも例外ではなく、少しずつ何かに侵食されているような背筋の冷たさを感じる。それがなんなのか、それがわからないことが一番怖かった。
「……ギャラハッドさん。ずっと、ずっとそばにいてくださいね?」
──え、どうしたの急に。もちろん離れないけどさ。……そもそも離れたくても離れられないし。
「それはッ! ……離れられるなら離れたいってこと、ですか……?」
──ま、マシュ……?
滅多に聞くことのない……いや、滅多にどころか、文字通り四六時中一緒にいる自分ですら初めて聞いたヒステリックな叫びだった。ギャラハッドにとって、マシュという少女は良くも悪くも良い子すぎる家族のような存在であった。
他人を思いやる心を持った良い子であり、それが故に自分のことで怒ったりするようなことがない悪い子。端的に言えば、もう少しだけ自己中心的になって欲しいと思っていた。そんなマシュが今激情に駆られ、普段出さない声を出している。
何が彼女をそうさせたのかはわからない。体は共有していても、心は違う。溜まったストレスがここで爆発したのかもしれないし、悪夢を見て一時的に精神が不安定なのかもしれない。少なくとも、ギャラハッドには思い当たる理由がない。しかし、その顔には覚えがあった。
何年前のことだろうか。もう顔も思い出せない歳の離れた妹がこんな顔をしていた時がある気がする。……そうだ、共働きの両親の代わりに学童に妹を迎えに行った時だ。出来るだけ近くの大学に通っていたとはいえ、迎えに行くのが遅くなっていた時、妹は泣いていた。寂しそうで、迷子が親を探しているような不安な目──マシュが今しているのはそれだ。
どうすれば良いのだろうか。
あの時は原因がすぐわかった。寂しかった。辛かった。悲しかった。それらの感情がありありと伝わって来たから慰めたし、甘えてくる妹に応えておんぶをしたりもした。マシュは今、SOSを出している。それはわかる……が、その原因がわからない。
──えっと……
だからこんな薄っぺらい言葉しかかけられない。それが彼女の望んだ言葉じゃないことは、顔を見ればすぐに分かった。だからといってこれ以上言葉を重ねても火に油なことは容易に理解できる。
──あの時と同じだ。
生まれながらに英雄となることを定められた第二の人生。それが故に、人類史が定められたレールから外れぬようにブリテンという国を見殺しにした人生。『なんとか出来た』なんて傲慢なことを言うつもりはないけれど、『なにか出来た』のではないかと考えている。
救いたいのに救えない。
ブリテンの時とは違う。自分が正確に対処出来れば、マシュが苦しんだり不安な気持ちになることはないのだろう。でも、それも仕方ないことなのかもしれない。
だって、自分は英雄なんかじゃないんだから。
マシュと立香の絆は相当深いものである。それも当然の話で、多くの時間を共に過ごし、数多の試練を共に乗り越え、数え切れないほどお互いに支え合ってきた。
今後の人生で二度と出会わないであろうと思うほどの親友。それがマシュ・キリエライトに対する藤丸立香の心象……なのだが、どうにも様子がおかしかった。とはいっても、雰囲気や覇気といった曖昧なものだが、人間関係に聡い立香が長い時間一緒にいる人の変化を感じ取る情報はそれだけで充分だった。
「マシュ……どうかした?」
「あ、先輩……いえ、大丈夫ですよ」
そんなわけあるかい! と叫んで問い詰めたい気分だったが、まぁ大体察しはついている。というか、マシュの大抵の悩みはギャラハッドさんに相談することで解決するのだから、未だに悩んでいる様子を見せるということはギャラハッドさん関連以外にあり得ないのだ。
一心同体……いや、二心同体なのにここまで悩むとは珍しい……と言いたいところではあるが、あれでマシュは結構悩む。初恋もまだな自分が言うのもアレだが、初恋の相手の一挙手一投足が気になる中学生のように小さな異変でも気にしてしまうタイプだ。
案外大したことではないのかもしれないと思う自分と、でも何か出来ることがあるのではと思う自分がせめぎ合う。しかし数十秒もしないうちに後者が勝つのもいつものことであった。
「とりあえず話してみない? そんな感じじゃ攻略出来る特異点も攻略出来ないよ?」
「それは……」
少々強引とも言える立香の気遣いに言葉を詰まらせるあたり、自分でもこのままではよろしくないと思っているらしい。一分ほど葛藤していたが、その間目を逸らすことがなかった立香の圧に負け、ぽつりと語り出した。
「……最近、ギャラハッドさんの様子がおかしい……と言えば少し違うんですけど、何と言えばいいのか……このままではギャラハッドさんがいなくなってしまうような気がして……」
今まで感じたことのない焦燥感はどこから来るのだろうか。改めてそう考えた時、うまく言語化はできないが思い当たる節はあった。彼が離れていっている気がするのだ。呼べば答えてくれ、困れば助けてくれる。それ自体は変わっていないというのに。
マシュは気付かないし、気付けない。カルデア職員も分かっていながら口をつぐんできたことを藤丸立香は言葉に出来てしまう。無神経だから……ではない。むしろ逆と言っていいほどに彼女は仲間思いで人の気持ちがわかる人物だった。だからこそ、告げた。
「マシュはさ、ギャラハッドさんが特別なんだね。ずっと一緒にいて、ずっと傍にいて、離れることがない存在なんだと思う。でもね、そうじゃないのが普通なんだよ」
未来を取り戻す旅も今回で四度目。たかだか一人の一般人だった立香が一回りも二回りも成長するには十分すぎる経験だった。聖女と、皇帝と、大海賊……比喩なく歴史に名を残した者達との出会いは、間違いなく藤丸立香の財産だ。だが、出会いがあれば別れもあることを知っている。それが既に死んでしまっている人なら尚更だ。
「今、ギャラハッドさんと一緒にいられることは奇跡みたいなものなんだよ。いなくなっちゃうなんて私も思いたくないけど、それでも心のどこかで準備はしておかなきゃいけないんだと思うんだ」
不安を煽るような言い方をしてしまっただろうか? もっと慰めるように言うべきだっただろうか? だが、これが自分の偽らざる本音だった。
出会いがあれば別れもあるなんてことはマシュもわかっているはずだ。でもそれはギャラハッドさんだって例外じゃないことに気づいていないのか、目を逸らしているのか……。
チラリとこちらを見るマシュを盗み見て……後悔した。ソレを見た瞬間、背筋は凍り、危険と判断した体は全身に鳥肌を立てていた。
普段、宝石のように煌めく彼女の瞳は何も映していなかった。目の前にいる、立香さえも。
ちなみに「マシュと立香の会話ギャラハッド聞いてないの?」という突っ込み来そうなので先に言っときますと、マシュがギャラハッドの力を引き出す練度が上がるのと同時にギャラハッドは自分の意思で睡眠のような状態に入れるようになりました。なので聞かれたくない会話がある時はマシュが事前に言います(着替えとか風呂とかトイレは言わない)
イメージとしては某忍者漫画の人柱力が近いです。練度が高まると出来ることが増える感じ
幕間でやるなら?
-
円卓の騎士時代の話
-
特異点の話
-
カルデア(事件前)の話
-
それ以外に出てくるキャラとの絡み