僕のお父さんは円卓最強の騎士   作:歪みクリ殴りセイバー

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ロンドンで書きたかったところが書けたなぁって感じです

キャラは色々ぶっ壊れてます、ご注意を


現実という皮肉

 ──何を言っているんだろう、先輩(この人)は。

 

 ギャラハッドさんが私から離れる? そんなことあるはずがない。彼とはずっと、ずっと一緒だったんだ。あの日から私は(えいゆう)を知った。(せかい)を知った。(すべて)を知ったんだ。

 

 そんな彼がいなくなる? 

 

 考えたくもない……いや、考えたことすらない。もしそうなったら自分はどうすればいいのだろうか。……考える必要なんてない。だって彼が私を置いていなくなるなんてことはないからだ。

 自分の寿命が短いことは分かっている。だからこそ、死ぬまで……ワガママが許されるならば死んだ後もずっと彼と一緒にいたいと思うことはいけないことなのだろうか? ずっと一緒にいたい人がいて、その人といつまでも共にありたいと思うことは醜い欲望なのかもしれない。それでも、自分にとっては何よりも大事なことなんだ。

 

「絶対に……離しません」

 

 グランドオーダーの中で数多くの英雄を見てきた。生前の恩讐を忘れられない復讐者、民を愛する薔薇の皇帝、後悔しない生き様を貫く海賊……星の数ほどいる英雄の中で彼が自分に宿ることになったのは偶然でも奇跡でもない。彼が彼であったから私を救ってくれたのだ。そこからマシュ・キリエライトの人生は始まり、世界には美しいものが沢山あるんだと知ることが出来た。

 確かにこの世にもういないはずの人と共にいるのは理に反しているのかもしれない。だからといって、せめて死ぬまでの短い時間を共に歩みたいという願いすら許されないのだろうか? 

 そういう意味では人理焼却に感謝すらしている。今のカルデアにおいて、英霊ギャラハッドの戦力無くして人理修復は有り得ない。少なくとも、グランドオーダー完遂まではギャラハッドさんがいなくなるということはないだろう。

 強くなりたい。彼の重荷を少しでも背負い、隣で戦えるくらいには強く、強く。

 強くなりたくない。強くなって彼がいなくても大丈夫だと判断されてしまえば、この旅が終わったら彼はいなくなってしまう。

 守りたい。彼が紡いできて、先輩達が紡いでいくこの世界を。

 守りたい? 彼がいなくなって、自分も存在しなくなるこの世界を? 

 どっちも本心で、どっちも嘘だ。デミ・サーヴァント(ヒトでもサーヴァントでもない体)なだけでなく、心まで中途半端。日に日に増していくのは彼に対する欲求ばかり。

 ……分かっている、そんなことは正しくないと。手段を間違えた幸せにきっと意味なんてない。幸福な未来なんて待ち受けてなんかいないだろうけど、ならば幸福な今を噛み締めていたい。

 

 図らずしも、滅亡を知る騎士と同じ結論に至ったことを知るものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑う。嗤う。ワラウ。

 狂ったわけではない。状況はしっかり把握しているし、何をなすべきかも分かっている。それでも漏れ出てしまうこの笑い声は喜び……なんてものじゃない。例えるなら、そう……愉悦、だろうか。

 自分のナワバリ(ロンドン)を侵されたことも、さっきまで戦っていたやつ(ニコラ・テスラ)のこともどうでもいい。なぜならば、今オレの目の前には父上(アーサー王)がいる。いや、父上だけじゃない。あの騎士も、今ここにいるんだ。

 なんたる運命の悪戯か! 今、ロンドン(ここ)にはあの時の円卓の騎士が三人揃っている。各々が持っている聖槍、魔剣、聖盾も同じ。聖槍にかけられている呪いなんて瑣末なこと、重要なのはオレ達三人が獲物を持って戦場に立っているということだ。

 

「オイ、お前は退いてろ。退かないなら……殺す」

 

 クラレントに魔力を込め、場違いなマスターに殺気を飛ばす。戸惑っている様子すら焦ったくて、赤雷を飛ばすことでようやくオレが本気だと悟ったようだ。まぁ──こんなことをしなくても理想の騎士サマは危険に巻き込まないように下がらせるだろうが、関係ないやつを巻き込むのはもうやめた。だが、戦いが始まってしまえば巻き込まない自信がない。

 

「…………」

 

 父上はこちらを冷ややかに見下ろしていた。冷徹な瞳は敵を見据えた王としてのものであり……オレがずっと向けられてきた視線でもある。オレはそれを王だからだと、私情を挟むべきでない立場にいるからだと思ってきた。……いや、そう思いたかった。

 

 でもある日、見てしまった。

 

 厳格な父上がその顔に笑みを浮かべて話しているところを。アーサー王としてではない父上を。その時に胸中を占めたのは「何故」という二文字だけで、身体に全く力が入らなくなることがあるのだと初めて知った。相手の顔にも見覚えがあり、いっそ殺してやろうかとすら思ったことは数知れず。それが【理想の騎士】なんていけ好かない呼び名を欲しいままにしてる奴なら尚更だ。

 何故、何故、何故! その顔を一度でも向けてさえくれれば、オレは……。

 幾度そう思っただろうか。思考を重ねるごとに、あれほど父上に対して抱いていた敬愛が憎悪へと変貌していくのがハッキリと自覚出来る。同時にギャラハッドをどう苦しめてやるか、そればかりを考えていた。

 だから、ブリテンの状況が逼迫し、守ったはずの民から非難されるアイツを見て、心でざまぁみろとほくそ笑む。裏切られる苦しみをお前も味わえ、オレが感じた以上の苦痛を受ける義務がお前にはあると。なんなら積年の恨みによって澱んだ心の泥が少し晴れた気さえした。

 それでもアイツは成すべきことを成し続けていた。恨みをぶつけられようと、罵声を浴びさせられようとずっと戦い続けた。

 

 ……ああクソ、カッコいいじゃねぇかこのヤロウ。

 

 いつからか呼ばれていた理想の騎士という称号はまさにピッタリで、それでもなお困窮していく民を救うことはできなかった。いや、むしろ誰も死なせないという理想を貫き通すほどに、なおさらブリテンに生きる人々の生活は貧しくなっていき、現実が色濃く露わになる。

 なんという皮肉だろうか。強大すぎる力が故に、人を戦で死なすか飢餓で死なすかを選ぶ立場になってしまっていた。だというのに、肝心の民は命を賭して戦う騎士に感謝をするわけでもなく、むしろ罵り、そのくせ自分達が何かをしようとはならなかった。

 あまりにも理想的すぎた。アーサー王も、ギャラハッドも。夢を見続けた愚者達が現実を突きつけられた時、もう考える脳など残っていない。頼りすぎたのだ……騎士に、円卓に、そして王に。

 仕えるべき王への忠誠を失い、同じ騎士への怨みを募らせ、守るべき民に失望した。これだけ揃えばオレがブリテンを滅ぼす理由になるには十分すぎた。せめてもの手向けとして、同じ円卓の騎士のオレに滅ぼされるなら王も諦めがつくだろう、と。

 事実、アーサー王にもう力は残っていなかった。かつてはあれほど敬愛していた王がこれほど落ちぶれてしまったのかと、正直失望の色すら浮かべていただろう。

 

 ──勝った、アーサー王にオレは勝った! 

 

 これがオレの存在証明。あとはクラレントでアーサー王の首をとり、高らかに掲げるだけ……のはずだったのに、そこには誰よりも見たくない面があった。

 アイツを誰よりも恨んだのはオレだ。

 アイツを誰よりも妬んだのもオレだ。

 ──そして、アイツに誰よりも憧れたのもオレだった。

 

 ああ、そうだな。ここで現れなきゃ理想の騎士(オレ)じゃないよな。

 

 オレが何よりも望んだものを何でもないように掻っ攫っていったコイツを越えなければ、オレはいつまでもコイツに負けたままだ。弱気なのはらしくねぇ、猛犬のように噛みつき、暴れてこその叛逆の騎士(モードレッド)だ。

 史上最高の一撃を何度もぶち込む。文字通り王の盾、ブリテンの盾であり続けたコイツを打ち破ることが出来なければオレにブリテンを……アーサー王を終わらせる資格はない。

 

 ──証明しろ、自分を。

 

 後先なんて考えなくていい。聳え立つ(キャメロット)を砕け。

 赤雷が荒れ狂う。あの時の自分を振り返っても、まさしく竜と呼ぶに相応しい災害を齎していただろう。

 だが、それでもアイツは超えられなかった。あまりにもあっけなく、オレの存在証明(はんぎゃく)は終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 それが今ではどうだろう。

 同じ武器、同じ人、同じ場所……唯一違うのは立ち位置だ。あれほどボロボロになって戦い続けた王と、叛逆の騎士として後世で誹りを受けているであろうオレはあの時とは完全に真逆になっていた。

 チラリと横を見る。そこにはギャラハッドの力をその身に宿したマシュが立っていて、運命の悪戯としか考えられないほど痛烈な皮肉と化した状況だった。

 

 ──貴方が誰より信頼した騎士(ギャラハッド)は今貴方の側にはおらず、貴方が誰よりも遠ざけた騎士(モードレッド)の隣に立っている。

 

 その事実を認識した途端、抗い難い甘美な刺激が背筋を駆け抜けた。

 

 恨みが少し晴れたような感覚だ。ロンドンの空気とは裏腹に、心の空は段々と色づいていくような錯覚を引き起こす。この感情は一言で表せると、オレは知っていた。

 

「──ザマァみやがれ」

 

 オレは、酷く嗤っていただろう。




この作品のブリテン編が終わった辺りの感想でモードレッドが気になる旨の感想を多々頂いたのですが、ある意味で感想返しが出来たと思っています(間が空きすぎだけど)

Q.モーさんってこんな性格だっけ?

A.モーさんの根幹って父上から認められたいことだと思うのですが、私も意図せずギャラハッドが英雄(真)になってしまったことを踏まえて考えると、王から認められて理想の騎士とまで周りから言われていたギャラハッドってモーさんがなりたかった自分じゃね?と思い至り、こんなクソデカ感情抱えたジメジメ系になっちゃいましたね…
解釈違いな方はさーせん

幕間でやるなら?

  • 円卓の騎士時代の話
  • 特異点の話
  • カルデア(事件前)の話
  • それ以外に出てくるキャラとの絡み

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