僕のお父さんは円卓最強の騎士 作:歪みクリ殴りセイバー
予想していなかったわけではない。
縁が重要らしい英霊召喚において、この土地で召喚される可能性は高い方だろうと思っていたし、モードレッドがいたことでその予想は確信へと変わった。
誰よりも敬愛した人が自分に何度も何度も敵意を向けてくる状況というのは辛いことだ。これは罰なのだろうかと問われれば、そうかもしれないと答えるだろう。
滅亡の運命を知っていながら何もしなかった故か、はたまた最後の最後に人理に背いてあの決戦に介入したことが理由か……或いは、そんなどっちつかずな振る舞いをしたことがきっかけか。
どれにせよ、自分に罰を与える執行者として彼女ほどの適任はいないだろう。その生涯を以ってブリテンの王たらんとした彼女ならば、こんな酷い裏切り者の首を刎ね、心臓を串刺しにする権利がある。
だが、今ここでは死ねない。
今の宿主であるマシュとの状態は未だ不明瞭で、僕がいなくなることで何が起きるかわからない。人類の歴史、その未来を背負うことになった立香ちゃんは元は一般人で、その重荷はとても背負い切ることは出来ないだろう。
だからまだ、彼女達には英雄ギャラハッドが必要なんだ。
黒の嵐が迫り来る。だが、それを避けることはしなかった。何故なら知っているから。彼ならば、絶対にこれを防いでくれると。
確信めいた信頼に違わず、嵐に呑まれるところで青白い光がそれを遮る。幾度となく見た光ではあるが、見るたびに輝きを増していく。それはつまり、自分が彼の力を引き出せるようになっていることの証左でもあった。
半ば無理やりに嵐を突破し、黒き騎士王に盾を振るう……ことはなく、薙ぎ払われた槍から発せられた衝撃波だけで吹き飛ばされる。
「くっ……」
当たり前だが強い。引けば嵐、寄れば槍。そのどれもが一撃必殺で、まともに喰らえば容易に絶命できることは簡単に想像がつく。さすがは彼と同格の円卓の騎士と言ったところだろう。間違いなく、自分一人では勝てない相手だ。
だが、裏を返せばそんな騎士王と同格の円卓の騎士がこちらにはもう一人いるということだ。
「ハハハハハハッッッッッ!」
嵐に立ち向かうは雷。あれほど強大な力を誇ったニコラ・テスラに勝るとも劣らぬ圧倒的な力の奔流が嵐を裂き、その先にて待つ黒き王を焦がし尽くさんと猛進していく。この特異点で共に戦ってきた仲ではあるが、間違いなく今が本気なのだと察せられる。しかし敵もまたさる者、魔力で出来た赤雷を形あるものかのように叩き落としていく。
たった二騎の英霊が起こしている天変地異を見て、立香は果たして自分達が入る余地があるのかとさえ思ってしまう。戦いに生き、戦いに死んだ英雄が本来の力に近い状態で力をぶつけ合うのを見るのはこれが初めてだ。法外な力も見慣れてきたとはいえ、立香は何の力も持たない一般人であり、あの暴力に抗う術を持たない。
何ができる? 自分に何が……?
手の甲に刻まれた令呪を見る。今の自分の存在価値なんて魔力タンクくらいなものだ。それを理解できてしまうからこそ、なおさら悔しい。結局自分は一人じゃ何もできないのだろうか。
……いや、違う。凡人だから、英雄じゃないから何もできないんじゃない。そうやって諦めるから何もできないと思ってしまうんだ。英雄だって、独りでなんでもできるわけじゃない。
思い出せ。復讐の聖女を、地を揺るがす軍神を、世界を焼却せんとする魔神柱を打ち倒したのはたった一人の英雄だったか? ……違う。ここまで来れたのは皆がいたからだ。
三画ある令呪の全てが紅く光る。モードレッドの放つクラレントとは違い、鮮やかで、宝石のような輝きだ。そこに込められた魔力量は円卓の騎士達でも無視できるものではなく、天変地異を思わせた戦場が凪のように静まり返った。
──二人が羨ましかったんだ。
文字通りの一心同体で、お互いがお互いを変えがたいものだと大切に思っている。いくつ死線を越えても、二人の間には自分が入り込めない絆が確かにあった。それが羨ましくて……寂しかった。
いきなり世界を救えなんて言われて、一緒に戦ってくれる人達は皆すごくて、一番近くにいる人達の間にすら立ち入れない……そんな自分を嫌っていた。
「でも、それもお終いッ!」
もう、逃げない。偉大なる使命からも二人からも。向かい合ってぶつかっていく。それが、
──ちょっとだけ二人の間に入らせてもらうよ。
赤雷と黒嵐がぶつかり合い相殺される。そんな光景を何度見ただろうか。未だこちらを見下ろす鉄面皮を変えることは叶わない。
「チッ……」
思わず出た舌打ちは攻撃が通らないから出たものではない。目の前の黒いナニカに対してだ。
あれがアーサー王だと? いや、確かにアーサー王ではあるのだろう。だが……アレは何だ?
オレが誰より
だというのに、淡々と黒槍を振るうあの姿は何だ? 決まっている。
「アーサー王であるなら全部このオレが灰にしてやるよぉぉぉ!!」
宝具の解放。
モードレッドが有する剣の名はクラレント。その宝剣に秘められた効果は──対アーサー特攻。
赤雷が全身を迸り、雷神の如き姿を眼前の敵に晒す。ここで初めて黒き騎士王は表情を動かした。アレをまともに食らってはならないと長年の戦歴で磨き上げられた直感が告げる。避けようにも、あの雷はロンドンの空全域を埋め尽くすだろう。ならば……と、そこまで考えたところで槍が嵐を纏い始める。
紛れもない全力の一撃のぶつかり合いがコンマ数秒で行われようとしている戦局。だが、実際に戦場を支配したのは叛逆の騎士でも円卓の長でもなく、一介の少女に過ぎないマスターだった。
「──令呪を以て命じる。我が騎士よ、迷いを捨て立ち向かえ」
それは、歌のように。
命令というにはあまりに優しい声音で、願いというにはあまりに力強く。
「重ねて令呪を以て命じる。我が騎士よ、魂の枷を捨てよ」
現時点でその言葉に込められた意味を理解したのは、マシュ・キリエライトただ一人だった。あの紅い光が照らされた時から脱力感が身体を襲い、自分の中から大切なものが抜け落ちていく恐怖で震えが止まらなくなる。
そして。
「最後の令呪を以て命じる! 我が騎士よ、その実体を晒し、今ここに顕現せよ! 」
令呪から発せられた紅光が一際強く光り輝く。モードレッドが雷、アーサー王が嵐だとするならば、立香から発したその光は太陽のように暖かくロンドンを包み込む。やがてその光も収まり、再び鬱屈な雰囲気をした街が帰ってくるかと思われた。
光がまるでガラス細工のように砕け、辺りに散らばる。星屑のように煌めくそれは一つ一つが意志を持った生物かのように一箇所に集まっていく。それは確かに形を成していき、四肢と顔を整えていく。
再び光が散った。一度目の時のように強い光ではなく、例えるなら雪が太陽の光を浴びて反射をしているような優しいものだ。
光から現れた人物が目を開く。先程の光にも負けない輝きを秘めた黄色い瞳は片方が白髪により隠されており、しかしそれでも隠しきれないくらい優しげな眼差しをしている。その身体には不完全ながら黒い鎧を纏っており、生半可な攻撃では傷一つつけられないであろうことが窺える。そして、何より目を引くのがその右手にあるものだ。
ソレはそこにあるのが当然と言わんばかりに存在していた。数多の攻撃を受け止めていながら傷一つない姿は、扱う者の心を映す鏡でもあった。身を覆えるほど巨大でありながら威圧を感じさせることのないそれの名は──雪花の盾。
かつて少年を英雄にし、王を導き、少女を守った盾。
正しく、伝説がそこにあった。
「……凄いなぁ、立香ちゃん。君は受け入れて成長できたんだね」
誰にも聞こえないくらいの声量でポツリと呟く。心からの賞賛と尊敬を示したその言葉は、自罰的にすら聞こえた。
久しぶりの自分の眼で捉える世界を見つめようと辺りを見渡す。一人は疲労困憊で、一人は青い顔をし、一人は狂気的な笑みを浮かべ、一人は驚愕の表情をしていた。
どうあっても逃げられない運命があるというのなら、それに従うしかないのだろう。
かつて数えきれないほど述べてきた……だが、もう言うことはないであってほしかった名乗りを上げた。
「我が名は円卓の騎士第十三席ギャラハッド。人理の未来を取り戻すため……我が王よ、貴女を打ち倒させて頂きます」
色々書きたいことはあるけどそこまで行けるかどうか…
幕間でやるなら?
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円卓の騎士時代の話
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特異点の話
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カルデア(事件前)の話
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それ以外に出てくるキャラとの絡み