僕のお父さんは円卓最強の騎士   作:歪みクリ殴りセイバー

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正直、ギャラハッドがいなくなったブリテンはその後、歴史の修正力が働いたのだろうか、正史と同じ道を辿って行った……みたいな感じの一文で済ませるつもりだったけど、感想で思ったよりブリテン後日譚の要望があったので書いてやったぞオラァン! 注意事項があるからしっかり読めよオラァン!

※この話を読む前に、注意事項があります。
・士郎とアルトリアのペア以外見たくない人はブラウザバック推奨
・また、綺麗な形で終わらせて欲しいという方は前回の終わりのままを思い出にし、この話は見ない方がいいと思います

以上を了承できる方のみお読みください。見た後の文句はロード・キャメロットします。

今回のテーマ『誰かがいなくなっても、残された者の人生は続いていく』

後今回は全部アルトリア視点なので勘違い要素、無し!w 勘違いタグ、お前、消えるのか……!?

あ、あとお気に入り登録二千突破と評価バーの赤、ありがとうございます!何気に10点評価押されたの初めてだから嬉しさもひとしお

※前回にも追記しましたが、10/6 日刊ランキング一位になりました!本当にありがとうございます!


ブリテン後日譚 〜アルトリアの旅路〜

 あのカムランの丘での戦いが終わり、ブリテンは完全な崩壊を迎えた。再び王として私に立ち上がることを求めた者達もいたが、私がもう一度聖剣の柄を握ることはなかった。あれほど必死になって守ろうとしていた物が蹂躙されているというのに、何故だろう。

 無関心なわけじゃない。生まれ育った国が無くなるのは悲しいし、虚しい。だがまるで憑き物が落ちたかのように王であること、国を守ることに固執する気持ちは薄れてしまった。

 

 —————————————— ……これからどう生きようか。

 

 王としてしか生きてこなかった私が王でなくなった時、何をしようかと考えても答えは出なかった。とりあえず、すべきことをせねばならない。

 王でなくなった私は、王の象徴とも言えるエクスカリバーを返還することにした。そして、ここまで付いてきてくれた唯一の円卓の騎士であるベディヴィエールを、聖剣返還の任を機に、円卓の騎士から解放することに決める。ベディヴィエールは嫌な顔もせず、それを了承してくれた。

 ……何がしたいか、という問いに答えるには私は無知すぎる。国について、民について、人について……私はかつての彼と同じように旅に出ることにした。幸い、聖剣を返還するとその不老の機能が解け、私は本来成長するはずだった姿を取り戻す。……どうやら私の胸はかなりあるらしい。

 そのおかげで幼い見た目の男王だったアーサー・ペンドラゴンだと疑われることは一度もなく、余計なトラブルに見舞われることもなかった。……いや、下衆な眼差しを向けられることはあったが。

 ともあれ、ギャラハッドが言うように女としての幸せを掴む日は遠そうだ。……待てよ? 

 

「何故彼は、私に【女】としての幸せをなどと……?」

 

 もしかしなくとも、彼は私が女だと気付いていたというのか? その上で、最期まで私に付き従ってくれたと? 男尊女卑が激しいこの時代で? ……いや、驚きはすまい。それがギャラハッドという騎士なのだろう。

 

「……貴方以上に素晴らしい男性に出会うのは難しそうですね、ギャラハッド……」

 

 空を見上げる。そして雲を眺め、天へと昇ったギャラハッドがどこかにいないだろうかと探し、見つからずに諦める。この広い空のどこかで見守ってくれているのだろうか? それか何処かで生まれ変わり、新たな命として生まれてきてるのだろうか? 

 そっと傍らに倒した盾を撫でる。度重なる激闘を経てきたはずのギャラハッドの半身は、持ち主の心を写したように傷一つない姿を太陽に向けていた。

 

「……重いですね」

 

 魔力による筋力強化をしなければ、アルトリアの膂力は並みの騎士とそう変わらない。軽く振り回すだけでも体を持っていかれそうになり、やはり剣とは根本的に違うのだと思い知らされる。彼は本当に自分より歳下なのだろうか? 

 

「そもそも、どこの世界に盾だけで戦う騎士がいるのですか……ッ!」

 

 楽しい思い出を話しているはずなのに、胸が苦しい。笑っているはずなのに、声が震える。王という仮面を被らねば、自分はここまで泣き虫だったのだろうか。

 

 ——————————————そうか、私は寂しいのか。

 

 私とともに戦ってくれた円卓の騎士から、離反者と裏切りが出た。私に着いてきてくれた者も死んでしまい、ベディヴィエールも今どこで何をしているのか知らず、ギャラハッドはもう居なくなった。……一人だ。王でなくなった(アルトリア)は一人だった。

 ガシャリ、とギャラハッドの盾が震える。いや違う。震えているのは私だった。もう縋る先なんて、彼の忘れ形見しかない。幸いにもその盾の影にいたから、泣き顔を誰かに見られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅を続けていたある日、ふと彼が育ったという町を見てみたくなった。アテもない旅よりはいいだろうということもあったが、本当にたまたま行ってみたくなったのだ。

 ……道のりはかなり遠く、馬無しで行くには厳しい距離だ。だが今の私には時間だけはあった。

 辺境と言って差し支えないところだったが、彼が言った通り、あの内乱の戦火はここにまで及んでいたらしい。家屋は潰れ、原型が残っている物の方が珍しく、新しい血痕が通路の石畳のあらゆる所に飛び散っている。

 彼が育ったと思わしき、この町唯一の修道院も例外なく原型を留めることなく、看板が辛うじて文字が読めるくらいだ。

 

「うっ……」

 

 一際ひどい腐乱臭がする。ここに住んでいた人の数が多いからであろうか。見れば、一際大きな女性の遺体は服を着ていない。まるで破かれたかのように捨てられている衣服を見れば、何があったかなど想像に容易かった。

 

「せめて、彼と同じところへ……」

 

 このまま残していても疫病のもとになるだけだ。あの優しい彼の母親がそのようなことを望むわけもないと、せめてもの弔いで遺体を燃やし、残った骨を地中に埋める。

 

「……すみません、コレはまだ私に貸しててください」

 

 本来なら故郷とも言える場所で家族達と同じ場所に置いとくべきなのだろうが、今のアルトリアには彼が残した盾がまだ必要だった。……弱い(アルトリア)は、頼る物がなければきっと壊れてしまう。

 己が治めてきた国の、その末路。それらは強き王でなくなったアルトリアが一人で受け止めるには些か重すぎる荷だった。

 

 ———————————————やはり、私が王になったのは間違いだったのだろうか? 

 

 最後まで自分に仕えてくれたベディヴィエールやギャラハッドに悪いとは思いながら、やはりそう考えずにはいられない。何もかもとまでは言わないが、ほんの少しでも今よりマシな未来があったのではないか、と。

 

「……貴方が最期まで信じてくれた王は正しかったのでしょうか」

 

 自信がない。この惨状を見て、正しかったのかと問われればアルトリアはきっと首を横に振るしかない。

 重い足取りで、かつて大通りであったと思われる道を歩いていると、自分以外の人影を見つける。向こうもこちらに気づいたらしく、近寄ってくる。見た目は小汚い老人だったが、こちらに向ける眼差しには敵意も悪意も感じられない。

 

「……こんなところに人が来るなんて珍しいな。嬢ちゃん、旅人かい?」

 

「……はい。あの、ここでなにを?」

 

「俺は廃墟になった町の家を漁って、どうにか食い繫いでる哀れな老人さ。こんなジジイを雇う人なんか、このご時世いやしないしな」

 

 語ってる内容とは真逆に老人の声は明るい。若干の嫌悪感はあれど、下賤などと口が裂けても言えなかった。こうせねば生きていけぬ民がいる。それを招いたのも、また私だ。

 

「……ん? 嬢ちゃん、その盾……隣町のやつかい? いや、間違いねぇ、そんな馬鹿でかい盾、他に見たことねぇし、紋様もそっくりだ」

 

「……分かりません。これはとある人の形見を、私が勝手に譲り受けたようなものですから……」

 

「形見、ってことはそうか。あの坊主は死んじまったか……」

 

「坊主?」

 

 そんな小さい頃からこの盾を扱っていたとはにわかには信じ難いが、たしかにあの若さであれだけの腕があったのだからおかしくはない……のかもしれない。

 

「その盾はな、隣町……まぁ俺の故郷なんだが、そこの修道院に預けられたモンらしいんだ。しかも相応しくない者が触れたら呪われるなんていわくつきな品物だった」

 

 ……そんな危険なものだったのだろうか? 少なくとも今触れている私は何ともないし、どこか身体に影響を及ぼしているわけではない。

 

「まァ、だからこそ人が集まって我こそが英雄だと言いながらその盾に挑戦する奴らが、俺がガキの頃から何人もいた。だが、悉く返り討ちよ。おもしれぇくらいにな」

 

 ……面白さはちっともわからないが、どうやらこの盾が相当な物であることは事実らしい。少し不安になり表面を指でなぞったが、やはり拒絶するような反応は感じられなかった。

 

「俺が生まれてからあの坊主が現れるまでの約五十年、そのじゃじゃ馬は誰も主人と認めやがらなかった。————それがどうだい!? 見た目が十前後の子供が何かに躓いたのか、転ぶように出て来てその盾に触れたら、なにも起こりやがらねぇ! そん時は笑い転げたよ!」

 

「は、はぁ……?」

 

 やはりこの老人のツボがさっぱりわからないのはこちら側のセンスがないせいなのか、向こうがズレているのかすらアルトリアにはわからないが、とにかく老人が人生を楽しく生きていることはわかった。

 

「わからねぇかい? 嬢ちゃん、俺の五十年培って来た《盾には触れられねぇ》って常識が、あの坊主のたった数秒で崩されたんだ。その瞬間を見た時、背筋が震えたね。あのアーサー王が選定の剣を抜いたのを直接見た奴らの感動にだって劣らねぇだろう」

 

 アーサー王の名が出て一瞬心臓が跳ねたが、そういうことかと妙に納得してしまった。人智の及ばぬ力を操り、人々の常識を破り、不可能を可能にする。それこそが————

 

「————-英雄だった。紛れもなくその坊主は俺にとっての英雄だった……だが、有望なやつほど早死にするのも世の常なのかねぇ……そういえば、円卓の騎士サマにも確かデケェ盾を扱う方がいたそうだな。えぇと……ギ、ギャラ……なんだっけな?」

 

「……ギャラハッドです」

 

「そうそう、ギャラハッドサマだ。案外、その坊主がギャラハッドサマだったのかもしれないな。年も現れたタイミングもピッタリだ。……嬢ちゃん、その盾、大事にしてくれよな。まァ、もともと俺ンじゃねェけどな!」

 

 老人はまた楽しそうに笑い去っていく。お世辞にも良い生活をしてるとは言えないのに何故あんなにも楽しそうに生きているのか……何となく、アルトリアにもわかった気がした。

 そっと彼の盾を見た。もちろん動いたり喋ったりするわけではないが、まるで玉のような表面が、キラリと光を反射する。

 もう、夕暮れであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……旅を長く続けると、見えてくるものがあった。

 自分の甘さや拙さ、なによりも潔癖さ。人とは清いだけじゃない、汚い部分や醜い部分もある。常に民の理想であらんとする私は、きっと清濁を併せ持てぬ子供だったのだろう。

 王としては正しかったのだと思う。悪を許さず、国と民の命を生かすためのことをして来た。だが、国を引っ張っていくには、私はあまりにも人の裏を知らなさすぎた。国のためと謳っていれば、民がついてくると無意識に思っていたのかもしれない。

 きっと、私から離れていった騎士達は国のためであろうと譲れぬ大切なものがあったのだろう。……今の私には、それが羨ましい。旅の途中でどんなに美しいものを見ても、私の心が満たされることはなかった。

 アルトリア・ペンドラゴンに残ったものは一体なんだろうか? 

 民を見て、人の営みを見た今はそんなことばかり考えてしまう。たった一つ私に残されたこの盾を、私はどうすべきだろうか。

 悩んでいた私に、あの時と似たような風が髪を靡かせた。

 

「……ギャラハッド?」

 

 まるで、彼に手を引かれるように歩いた。歩いて、歩いて、歩いて……。何日歩いたのか定かですらない。時には舟を漕ぐこともあった。

 ……どこに向かっているのだろう? 

 まるで意志を持った風が、木葉のように宙を漂う私を何処かに誘う。ふわり、ふわりと。

 辿り着いたのは————花畑だった。

 一面に広がる花々。赤、青、黄、緑……色とりどりに大地を染める花々は、地平線までも広がっている。

 

『————よく来たね、アルトリア』

 

 懐かしい声がした。いつも飄々として、腹を立たされてばっかりだけれど頼りになる私の魔術の師匠。

 

「……マーリン。ということは、ここが……」

 

『そう。理想郷(アヴァロン)さ』

 

 改めて辺りを見渡す。成る程、確かに理想郷というに相応しい光景だ。だが……なぜわざわざこんな所へ? 

 

「まさかマーリン、あの風は貴方が?」

 

『おぉっと、それは言いがかりさ。正真正銘、アレはギャラハッドのものさ。長らく彼が使ったその盾に残った、彼の最後の意志で君はここに導かれた』

 

「……何のために? もしかして、彼がここにいるんですか?」

 

『……彼はここにはいないよ。彼は間違いなく聖杯と共に天に昇っていった。それは目の前で見ていた君が誰よりも知っていたはずだ』

 

 正直、落胆の気持ちを隠せなかった。ならば、なぜ? 

 

『アルトリア、君の旅路はここで終わりなんだ。もう休みなさい』

 

「終わ、り……?」

 

 嫌だ。まだ見てない景色がある。まだ知らないことがある。私はまだ、何も知らないのだから。……世界の全てを、見ていないのだ。

 

『……アルトリア、認めなさい。いくら君がこの世界を旅しようと、どんな国へ行こうと、どんなに君が求めても、君の探しているものは見つからないよ』

 

「だめ……」

 

『君も本当は気づいているし、分かっているんだろう?』

 

「言わないでください……」

 

 それを言われたら、私は。

 

『————彼がもう、この世のどこにもいないことなんて』

 

 ああ……崩れる。崩れる。崩れていく。私の中のナニカが。

 始めは、本当に自分のためにしていたはずなのに。自分の孤独を知った日から、訪れた町で彼の姿を探してしまっていた。彼の故郷を訪れたのだってそうだ。そこにならいるかもしれない、なんて。気持ち悪い。気持ち悪くて堪らない。

 どこの町に行っても、彼の名残があった。私に命じられて、方々の戦場を駆け回ったからだろう。彼にその役目を命じたツケが今、私に回っている。いまだに彼を嫌う人もいれば、彼に命を救われ、好いている人もいた。まさしく、英雄だった。そんな彼に、相応しい主でいたかった。彼が胸を張れる主でいたかったのに、なぜ私はこうも弱いのだろうか? 

 

『……やれやれ、彼も酷い役を押し付けてくれる。確かに僕は人の感情には疎いけど、何も感じないわけじゃないんだぞ?』

 

 花の魔術師が、今は遥か遠くに行ってしまった騎士に向かってボヤく。心底自分に惚れるだけ惚れさせておいて、本人が気づいた時にはもう二度と会えない場所にいるなんてどんな嗜虐趣味者でもしないだろう。酷い男だ。

 役目を果たした彼の盾が、粒子となって楽園に溶けていく。アルトリアはその光の粒を逃すまいと、必死に空に手を伸ばした。それはまるで、人が神に願っているかのような、そんな風に見えた。

 やがて彼がいた痕跡は全て消え、アルトリアがアヴァロンにたどり着いたという事実だけが残る。花と魔術師と涙……アルトリアの旅路は、それで終わりを迎えた。




毎度の如く原典解説
・もはや書くまでもないし、前回にも書いたけど、モードレッドとの戦闘で傷ついたアーサー王はアヴァロンで傷を癒そうとしたが、結局なくなる。……何? じゃあFateのアルトリアはその後どうなるのか? 知りたい人は、Fate/ZeroとFate/stay nightを見ようネ!

・マーリンの採用理由。やはりアルトリアの旅路を終わらせるのに彼以上の適任がいなかった。というわけで出演。なかなかにしんどい役を任せてすまない

幕間でやるなら?

  • 円卓の騎士時代の話
  • 特異点の話
  • カルデア(事件前)の話
  • それ以外に出てくるキャラとの絡み

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