Rising/Grand Order 作:ピポライデン
「どうしてこうなった」
燃え盛る街で少女、藤丸立香はそう呟いた。数時間前までは確かに普通の日常生活を送っていた彼女は、献血の誘いを了承してしまったばっかりにカルデアなる場所にほぼ拉致同然の形で連れてこられてしまったのだ。何かの補欠のような扱いを受けるらしかったのだが、よく状況を呑み込めないままあれよあれよと与えられた部屋に通された。下手に動き回ると何をされるか分かったものじゃないので、仕方なくその部屋にいたロマンという男性と話して時間を潰していた時に事件は起きた。立香はよくわからなかった為に寝てしまい追い出された説明会をしていた場所で爆破事故が起きたのだ。ロマンには避難しろと言われたのだが生存者を見つけるためにもそこへ行き、死にかけの少女を見つけた後、気づけば一人ここに座り込んでいた。ここに来る前にお願いを聞き入れ手を握ったはずの死にかけの少女もいない。
「ど、どうしよう」
人を探すために動くべきだという考えと、誰かが通りかかるかもしれないから動かない方が良いという考えが脳内で対立し辺りを見渡すことしかできない立香。人影の一つでもあれば良いのだが、残念ながら目に入るのは倒壊した建物と燃え盛る炎のみ。どこを見てもその光景のため誰かが通りかかるのを待つのは現実的ではないだろう。ならばと立香は当てもなく歩を進め始めようとした。
「あ、あの」
「ひゃ!?」
しかし、突然後ろから声をかけられた為に一歩目を踏み出すことが出来なかった。慌てて振り向くと、そこにいたのは手を握ったはずの少女だった。マシュ・キリエライト、それが彼女の名前であり立香が最後に見たときに負っていた傷はすっかり治っている、ついでに言えば、かけてたはずの眼鏡がなく服装が違っている上、身の丈ほどの大きな盾を持っている。そんな彼女は少し失敗したと言わんばかりの表情をしている。
「あ、すいません。ちゃんと正面から声をかけるべきでしたね。配慮が足りませんでした」
「だ、大丈夫だよ!ちょっと吃驚したけど、誰もいないと思ってたから会えてよかった。でも、その恰好は?」
「これですか?簡単に言えばデミ・サーヴァントになった影響ですが……先輩、デミ・サーヴァントってわかりますか?」
残念ながら立香は良くも悪くも普通の一般人である。サーヴァントという言葉すら学校の英語の授業で意味を習った程度にしか知らない彼女は首を振るしかなかった。それに対してマシュは知りえる範囲で教えることにしたが、このままここにいるのは危険と判断し、二人は移動を開始した。
*
「無事ですか?先輩」
移動を開始して数分、動く骸骨に襲われたもののそれを倒したマシュ。立香としては原理不明の動く骸骨に襲われる恐怖はあるが、常人には到底出来ない動きが出来るマシュが自身を守ってくれることにそれ以上の安心感を覚える。未だによくわからないが、本来のサーヴァントには敵わないもののあの程度なら何とかなるらしい。こんなことなら少しでも武術を嗜んでおくべきだったと若干の後悔しながら引き続き安全そうな場所を探す。しかし、マシュはその場を動かず辺りを見渡している。
「どうしたの?」
「いえ、今悲鳴が聞こえたような気が」
「悲鳴?私は聞こえなかったけど、よくわかんないけどサーヴァント?ってのになって感覚が強化されてるなら私が聞こえない悲鳴も聞こえるかもね。一応行ってみる?」
「はい、そうしましょう。もしかしたら生存者かもしれませんし、先輩は私から離れないでくださいね」
マシュが悲鳴が聞こえた方向に歩き始め、立香がそのすぐ後ろについていく。歩を進めるごとにその悲鳴は立香にも聞こえるようになり、骸骨に追われる女性が見え始める。骸骨の数は二体であり、マシュが迅速に蹴散らした事によりその女性に目立った外傷を負わせることもなく救出に成功した。よく見るとその女性は説明会の時に色々話していた女性であった。残念ながら眠気に逆らえず寝てしまい追い出された立香は名前すら知らないが。
「所長、無事ですか?」
「……どういうこと?今更になって……いえ、それよりもなんであの時寝てた一般人がマスターになってるのよ!」
指を突き付けられながら、そう問われるもそもそもマスターの意味も分からない立香はその疑問に答えられなかった。なんで助けたのに怒鳴られなきゃならんのだとも思ったが、よくよく考えると助けたのはマシュであり自分ではない。しかし、だからといって怒鳴られるとは思っていなかった。そんなことを考えてる立香に代わってマシュが説明をしている。
『やった!やっと繋がった!!みんな、無事かい!?』
「その声、ロマンさん?」
『うん、漸く通信がつながったんだ。その様子だと無事みたいだね。それより所長少し伝えたいことが……』
そこから始まるロマンとオルガマリーの話し合い。立香は半分以上何言ってるのか理解できなかったが、それでも自分以外のマスターが全員生死の狭間を彷徨ってること、この地で起こってる異変を解決しないとカルデアに帰ることすらできないことは理解できた。
「──というわけで貴女、サーヴァントを召喚しなさい」
「はい?」
なんだがよくも分からないものを召喚しろとはどういう了見だろうか。マスター権限がどうとか言っているが立香にはさっぱりである。マシュからの簡単な説明で、サーヴァントにはクラスというものがあり、サーヴァントを召喚する人間をマスターと呼ぶらしい。また、自身が既にマシュのマスターとなっており、その証拠に令呪が手の甲にあることを教えられ、オルガマリーに言われた通りにサーヴァント召喚することになった。
「さっさとしなさい!」
「そんなに急かさないでくださいよ。えっと、これを投げ込んでっと……わ!」
言われた通りに聖晶石を使ってサーヴァントを召喚するも、砕けた聖晶石が発する光に驚きながらも現れるであろう自身のサーヴァントを期待しながら待つ。光が収まり、そこには一人の男が立っていた。顔は良い方だが、その身体や顎の辺りは言うなればサイボーグのようだった。男はゆっくりと立香に目を向けると、口を開いた。
「サーヴァント、セイバー。ジャ……雷電。お前が俺のマスターだな?」
「そうらしい、よくわかんないけど」
「フッ……そうか。実は俺もサーヴァントとしては新参者だ。お前が俺の初めてのマスターだからな。……名前は?」
「あ、立香です。藤丸立香。こっちはマシュで、あちらオルガマリーさん」
「立香か。ところで、サーヴァントは基本的にマスターの事を名前じゃ呼ばないらしいが、お前はどっちが良い?」
「マスターって呼ばれるのは慣れてないし、名前でいいかな」
「わかった。さて、まずは索敵から始めるか」
そう言って、雷電はオーグメントモードを起動し周囲を探る。それにより、こちらに高速で近づく何者かを察知した雷電は高周波ブレードを構え、その何者かが放った短刀を弾く。オーグメントモードによる拡張現実に表示される人影は、より速度を上げて雷電へと迫る。やがて、人影は目で見えるほどに迫り雷電もまた人影を迎え撃つ。人影の持つ短刀と雷電の高周波ブレードが交差し、その一瞬で勝負はついた。
「え?」
雷電以外は誰も気づいて居なかったために、突如現れ消えていくアサシンのサーヴァントを不思議そうに見る立香。マシュが気づけていない以上彼女に気づけるわけもなく、彼女からすれば雷電が何かを弾き、得物を構え振ったと思ったら誰かを倒していたようにしか見えない。
「立香、無事か?」
「え、あ、うん。何があったの?」
「敵襲だ。といっても奴一人だが、気配遮断を使いながら迫ってきてたからな。迎撃したんだ」
気配遮断って使えるものだっけ?と疑問を持ちながらも、自分が召喚したサーヴァントの強さを実感する立香。セイバーのクラスは優秀とのことだが、それも納得出来る強さと言えるだろう。気づく事すら出来なかったマシュは若干落ち込んでいるが、雷電もオーグメントモードが無ければどうなっていたかは分からないと励ましながら、再びオーグメントモードを発動させた雷電は高周波ブレードを構えなおし、倒壊した建物の陰へと声を投げた。
「出てこい。そこに居るのは分かっている」
「いやぁ、まさかルーンまで見破るとわね。化学も想像以上に発展してるってわけか?」
声をかけて数秒、その陰から青いフードの男が手を叩きながら出てきた。その顔はどこか嬉しそうにも見える。敵意は感じられないが警戒するに越したことはない。
「答えろ!お前は、何者だ!マシュ、油断するなよ」
「は、はい!」
「おいおい待て、俺は別に敵対する気はねえよ。俺はこの地で行われた聖杯戦争で召喚されたキャスターのサーヴァント。まあ、色々あって聖杯戦争なんてやってる場合じゃ無くなっちまったけどな」
「どういうことだ」
手に持つ杖を手放し、その場に座り込むキャスター。その姿を見て、警戒こそするも高周波ブレードを鞘に戻し、質問を投げかける雷電。特に誤魔化す事もなくこの地で起こったことを話すキャスターの話を聞いて、オルガマリーとロマンはなにか思い当たる節があるようだ。
「──とまあそういうわけで、一夜にして聖杯戦争は別のものにすり替わってたってわけだ。で、ここからは提案なんだが手を組まねえか?アンタらにとっても悪い話じゃないと思うんだが」
そう言って、キャスターは手を差し出した。