「先生いいのか?」
「ん?なにがだいドクター?」
「いやなにがって決まっているだろう。あの死柄木の元にいる悪魔の事だ。死柄木に任せて大丈夫か?さすがに今回は先生がアドバイスをするべきじゃないかね」
「大丈夫さ、今の死柄木弔なら一人でなんとかするよ。それにこれもまた成長の良い機会だ」
「……なんとも、流石だな。あれを良い機会と言うのは先生ぐらいだろう。とても私はそんな度胸は持てないよ」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
「そう言えば先生は死柄木でなくアレの方を後継者にしようと思わないのか。せっかく手元といっていい場所にきたが」
「うん?彼をかい」
「ああ先生なら出来るんじゃないか?」
「そうだね……面白そうとは少し思うけど、僕は彼を後継者にしようとは思わないな。彼は善悪で言えば善とは言えないけど、逆に悪とも言えないからね」
「は?ハハハハ!単独での殺害数か既に歴史上最多になってる悪魔が悪じゃないなんて初めて聞いたよ!して先生それはどういうことだね。正直先生よりもセルは悪だと思うんだか」
「悪への認識違いかな。彼のしてる事をボクは悪とは思えないよ」
「ふむ?先生もおかしな事をいう。セルにより軽く数百万の人が食べられ、さらに国も滅ぼされているがこれは悪にならないのか?」
「人を食べるというのは彼にとっては食事だ。食事を悪と言うなら人は全てが悪になってしまうよ。まぁ同族食いを悪とするなら悪だろうけど彼は人かな?」
「ふむ……では国を滅ぼしたことは、これも悪にならないと先生は思うのかな?」
「彼が意図的に国を滅ぼしたのなら僕を遥かに越えた悪だと認めるけど、博士も知ってるだろ、滅びてる国は彼を何度も襲って何度も返り討ちにあった結果で滅びている。」
「セルのしたことは正当防衛と言いたいのか?それでセルは悪にならないと言うのは、些か無理がないか?」
「うーん……少し変な例えだけど、各地の町に出没する肉食の野生動物を駆除しようとした町が狩人を雇って派遣するんだ。狩人は野生動物に返り討ちにあい町はさらに高値で狩人を無理をして雇ってドンドンと投入、町収支の限界を越えてまで狩人を雇った出費で町が潰れた。この場合は町を滅ぼしたのは野生動物となるかい? 」
「確かに可笑しい例えだが……本質的には間違ってもないのか?しかしそれでもセルが悪ではないとは思わんな」
「やはり認識が違うね……ボクとしては悪とは悪意があって初めて本当の悪になると思う。無自覚な悪意がない悪も有るんだけど、彼はそう言うのとも違うと思うんだ」
「……悪でないとすれば先生からみてセルはなんだと思う?」
「そうだね。生態系ピラミッドの頂点に君臨する者という感じかな」
「頂点の生き物か。それはまた大きく出たな。だが可笑しいとも思えないな。頂点の生物か……」
「ドクターはやはり彼を実験材料にしたいと思ってるだろ?」
「ないな」
「そうなのかい?それは実験材料にするのが不可能か危険と思うからか」
「そうじゃない……。仮に危険がなく実験材料にする事が可能としてもしたいと思わない。なんというんだろう。先生の認識がピラミッドの頂点とすれば私の認識ではセルは生物の到達点だ」
「へぇ到達点か。到達してるって事は其処から先はないって認識だね。それは確かに実験材料にするのに面白味がない」
「……ただ科学者として到達点を目指したいとは思うがね」
「なるほど、なるほど、それでドクターが目指した結果があの新型の脳無というわけだね。こんどの襲撃に使うらしいけど、さて……彼はどんな反応をするかな」
「私は怒らせそうでこわいんだが、楽しそうな先生が羨ましいよ。と、そういえば善でも悪でも無いと言ったが、先生がアレを此方(悪)側に引き入れない理由なはならないよね」
「あぁ彼を悪にしようと思わない理由は極単純さ」
「極単純な理由?」
「彼が悪になれば人類は滅びるからね」
合宿二日目、ヒーロー科B組も来て総勢40人を越え、本格的に始まった合宿の訓練は地獄の様相を見せていた。
「ふぎぃい!!!」
「おらぁぁあ!!」
「ぐぅああぁぁ!!」
生徒個人個人の個性によって訓練の方向性も様々だが、一部拷問としか言えない訓練もしている。吐いたり雄叫びを上げたり痛みで涙を流しながら訓練する様など狂気を感じても仕方ない。
ヴィラン連合は勿論だがセルといった災害まで関わる可能性のある今、ヒーローの卵でも何時戦闘になるか判らないと、教師たちの課す訓練内容も濃いものとなっている。プロヒーローたちは生徒たちを生かそうと、生徒たちが死んだ方がましだと思うほどの訓練を受けさせた。
一日が終わる頃には生徒たちは当然なことに満身創痍、食事の時間となり……今回から食事は自分達で作るようにと筋肉痛で動くだけで痛く今にも倒れそうな生徒たちにいう。普通の合宿では自分達でご飯を作るのは醍醐味。もしかしたら善意なのかもしれない。……聞いて絶句してる生徒にどう聞こえたかはともかく。
「世界一上手いカレーを作ろう!」
夕飯に作るのはカレー、眼鏡の委員長筆頭に一部の生徒がハッスル。大半の生徒が勘弁してくれと思った。それでも空腹な彼等に御飯抜きなんて選択肢はない。無理矢理テンションを上げてカレー作り開始。
始まると空元気なのか騒がしく始まるカレー作り、普段は対立的なA組B組だが、同じ苦しい目にあったという連帯感からか組を越え普通に会話もしながらカレー作りは行われた。まぁ敵対されてる側が精神的に大丈夫かと心配になるほど敵対的な生徒もB組にいたが。
市販品しか使っておらず極々普通のカレーだが、空腹は最高のスパイスだと全員が自作のカレーを絶賛。至福の食事タイム。ある少年が居ないことに気付き一人カレーを持って離れるお節介なヒーローの卵もいた。股間を強打されて良くやる。彼は底抜けのお人好しかただのドMか。
合宿の夜、生徒たちが寝静まった頃にプッシーキャッツや外のプロヒーロー達に雄英のプロヒーロー二人達は話をしていた。
プッシーキャッツもそうだが、生徒たちに見せていた昼間の顔と違いその顔は何処か不安な様子だ。この場の全員がセルの介入の可能性とオールマイトの現状を聞いていた。
「向こうは大丈夫だろうか。」
「セルに加えてヴィラン連合がいつ雄英に来てても不思議じゃないのよね」
「ねぇオールマイトが雄英から離れて一人で敵を待ち受けるきって本当なの?」
「……本当です。」
「本当って、雄英はなんでそれを許したの!幾らオールマイトだって一人じゃ」
「……わかっているでしょう。相手を考えたら一人じゃなくても同じだって」
「……それは」
「○国で、その国のナンバーワンヒーローを守ろうとして、軍隊と数百人のプロヒーローが終結してあの悪魔セルと対決した結果はしってるだろ?」
「……壊滅だったそうね。それも数時間もしないうちに」
「質は判らないが○国の方が日本よりプロヒーローの数は多かった。それが軍隊もいれて簡単に壊滅させられてるんだ。判るだろ。もし仮に日本でオールマイトを守るのに日本の大半のプロヒーローを集めても、まず同じことになる、だからオールマイトは一人で待ち受けることにした……」
「おい、それはつまり勝ち目がないからってオールマイトを見捨てるっていうのか!」
「オールマイトを、平和の象徴を見捨てるような事があっていいわけないじゃない…」
「落ちついてくれ。話は続きがある」
「続き?」
「オールマイトが一人になったのはセルと会話をするためです」
「会話?なにをいってるの」
「あまり知られてないがセルは会話をした相手を見逃す事がよくあるそうだ。…………情けないが我々もオールマイトもそれにかけている」
「……そういうことなのか。オールマイトが一人になったのは、世界的に災害扱いのセル相手とはいえ、オールマイトがヴィランから見逃して貰うしかない。そんなの誰にも見せられないからか」
「……そう言うことです」
「上手くいくのか……会話をすれば見逃す傾向にあるだけで絶対という事はないのだろう」
「しかしそれしか手段はない」
「…………オールマイトに内緒で喋りのプロも送りました。もしセルが来たとしても会話さえ成立すれば奴が何とかしてくれるでしょう」
「……上手くいってほしいわね」
「まぁ本当に来るかわかりませんし。それに此方が心配しても仕方ないことです。今は合宿の事に話を変えましょう」
「……それが合理的ですね」
「予想以上に内のB組は頑張ってたな。体育祭ではA組に完全に負けたからA組を越えようと必死なんだろう」
「……逆にA組はB組の追い上げを感じて必死になっていますよ。どうやらライバル意識が良い方に向いてるようです」
「それにしても生徒たちを見て思いますが、若い頃の成長速度は羨ましいですよね」
「ねぇ?私を見ながら言ったのはなんで、乙女心を傷付けるっていうなら貰ってもらうわよ?」
「は、はははピクシーボブ、た、他意はないですよ。いや本当に、本当ですから!にじり寄らないでください!」
「ははは、いっそ付き合ったらどう」
「笑えない冗談はやめてください!」
「笑えない冗談ってなによ!」
雄英に対して襲撃の可能性があると言われていたが、まるで緊張感のない空気。
まぁしかし襲撃をしてくるヴィラン連合やセルの狙いからいって、危険なのは雄英かオールマイトだと思うのが当然だろう。この場も狙われる可能性が無いと言い切れないが、それでもその可能性は小さいと思って仕方ないことだ。
仕方ない事だが……彼等は後悔するだろう。
「合宿ってとても楽しいです!」
「あぁそうだな。合宿があと数日で終わるのがたいへん名残惜しいよ」