緑谷くんはクソデクです   作:色々残念

1 / 13
緑谷くんはクソデクです

過去において「個性」とは超常な能力を表した言葉ではなく、個人個人の性格や容姿等を表した言葉であったが。現在は、個人個人の千差万別に異なる超常な能力を表す言葉として「個性」が使われている。

 

空想や虚構の存在でしかなかった超人が今では珍しくも何ともなく、至極ありふれた存在となり日常へ溶け込んでおり。大多数の人間が当たり前のように大なり小なり「力」を持っているこの超人社会では度々「個性」を悪用した犯罪が行われるが、その都度単なる職業の一つと化した「ヒーロー」を名乗る偽者共が鎮圧に向かい一応は事件を解決していく。それが偽者共の仕事である為競い合うように動き、悪党退治を奪い合う事も少なくは無い。しかし自分自身の為ではなく誰かを助ける為に動く者こそが本来は「ヒーロー」と呼べる存在だ。

正にその体現者と言える「ヒーロー」の頂点の頂点にして「平和の象徴」と讃えられる最高のヒーローである彼の存在が、今の社会を支える一本の柱と成っている事に気付く者は僅かだ。

彼の登場以降大幅に減少した犯罪件数の数は即ち、抑圧された潜在的な犯罪者の数に等しい。

強大な抑止力となる彼の存在が消え去った直後、減少した筈の犯罪件数は増加の一途を辿るだろう。

平和を維持する為には、彼という「平和の象徴」の存在が欠かせない。

存在するだけで犯罪への抑止力となる者など彼以外には居ない。故に彼1人こそが真のヒーローと言える事は疑い様の無い真実であり。

 

「つまりヒーローと呼ばれて良いのは彼だけで、讃えられるべきなのは世に蔓延る偽者ではなく本物である彼だけだ、解るなグリーン?」

「とりあえず貴方がオールマイト大好きなのは解りました、レッドさん」

路地裏で並んで座り込み持論を熱く語る男性と聞き終えた感想を答える少年。ヴィジランテのチームとして活動中に名乗る名で互いを呼ぶ彼等の前には世間一般でヴィランと呼ばれる存在達が男だろうが女だろうが区別無く、1人残らず四肢の関節を外された上で縛られて地に転がっていた。

 

態々用意した進路希望の紙を配らず放り捨て印刷に使われたインクと紙を無駄にする環境には優しくない担任教師がキミら全員ヒーロー志望だよねと言い放つと生徒達は2名を除いた全員が全て個性を発動させる。目玉が飛び出るだけとか、頭が河豚の様に膨らむだけだったりとか、明らかにヒーロー向きでは無いのが混ざっていたりもするが概ね全員何かしらの力を持っているようだった。そんな彼等へ個性を発動させなかった2名の内1人が行儀悪く机に足を乗せたまま口を開く。担任教師にこんな没個性達と自分を一緒にするなと挑発的に言い放ち周囲の人間をモブ扱いして嘲笑いながら目立っているクラスメート約1名に見向きもせず。将来の為のヒーロー分析ノートに今日デビューしたヒーローについて書き加えているもう1名。因みに何を書いていたかというと「マウントレディ」のページへ、ヴィラン退治後に見せた悪どい笑顔と手柄を奪われて項垂れている「シンリンカムイ」を色鉛筆まで使ってフルカラーで鮮明に書いていたりする。書き加えた絵に「現代ヒーロー社会の厳しい現実」と題名を付けて満足げに頷く彼の名は緑谷出久。マイペースな彼を置いて盛り上がるクラスメート達の中でも一際テンションが高い生徒1名が何故か机に乗りながら、この学校唯一の雄英進学者となりオールマイトを超えるヒーローになって高額納税者ランキングに載るという人生設計を高らかに語ったが。担任教師が放った緑谷も雄英志望の一言で表情が一変し鬼の様な形相と化した生徒が怒りのままに爆破の個性を使い、気に入らない相手の机を破壊する為に背後へ振り向いた時には既に。緑谷出久は隣の席に座っていた名前も覚えていない誰かを軽々と持ち上げ、無理矢理自分の机の上に座らせて盾にしていた。俺を盾にするなんて本当に雄英志望かよと批難する生徒に、僕が雄英志望だと聞いて嘲笑っておきながら直ぐに手が届く範囲に居て僕よりも非力なのが駄目なんだよとにっこり笑い。近くにいた君が悪いと言い放った緑谷に、ヤベー奴の事嘲笑っちゃったと焦るクラスメート複数

行動を読まれ出鼻を挫かれたとしても雄英志望の男子中学生は止まらず。

「邪魔だァ!退けやモブがァ!」

雄英志望どっちも酷い奴だコレ!と嘆く肉の盾を押し退けてムカつく相手の胸ぐらへ手を伸ばすが、そんなムカつく相手が着ている学ランの襟に剃刀が仕込まれていた事を思い出して舌打ちしながらも手を引っ込める程度の冷静さは持っていた。しかし「どういう事だクソデク!何で無個性のテメェ如きが!」声を荒げ凶悪な目付きでクラスメートを睨み付ける様はヒーローとは程遠く。どう見てもヴィランにしか見えないヒーローランキング上位にランクインしそうな彼の傍へと、いつの間にか音もなく席を立ち歩み寄っていた緑谷は「この前中学生が煙草吸ってたの見かけて思わず写真撮っちゃったんだけど、なんか何処かで見た覚えがあるんだよね。あの煙草吸っちゃってる2人と近くで嫌がる1人。未成年の喫煙は、将来への悪影響があるから気をつけないとね。本人にも周りにも、例えば君にも」と爆豪の耳元で囁いて「内申とか結構気にするタイプだよね。君は」笑顔で脅すタイプだった。

 

自身の肉体を流動的な液体状に変化させる個性を持つヴィランに捕らわれた爆豪勝己。爆破という優れた個性を持つ彼の激しい抵抗とヴィランの厄介な個性が合わさって迂闊に手が出せず歯噛みするヒーロー達の間をすり抜け、爆豪の元へ駆け出した1人の少年。制止を求めるヒーローの声は届かない。考える前に緑谷出久の身体は動いていた。遂にヴィランに身体の自由を奪われた爆豪、彼の意思に反して無理矢理に振るわれる右腕。使わされた爆破の個性によって連続で巻き起こる爆発。しかし幾ら優れた個性だとしても使い始めたばかりの他人の個性はぎこちなく、誰よりもその個性の爆破に慣れている少年には容易く回避されてしまう程に未熟で稚拙な爆破だった。燃え盛る道を怯まず止まらず駆け抜けて、どんなヒーローよりも先に爆豪勝己の前へ辿り着いた無個性の少年の口が開く。

「内面が外見に反映されちゃったのかい爆豪くん!クソの下水煮込みって感じの性格だって皆さんにバレちゃったら人気者のヒーローになんて一生なれないんだから確りしまっておかないと駄目だよ、もう!ほら頑張って今だけで良いから取り繕うんだ、今日から品行方正にして人に優しく生きていくとかは永遠に無理だって解るけど外見だけなら何とかなるでしょ?早くその醜い本性をしまわないとヒーローにさえもなれないよ爆豪くん!え、ヘドロは爆豪くんから溢れ出したものじゃなくてそういう個性のヴィランだったのかい!?なんてこった、余りの親和性に違和感皆無でヴィランって発想自体が無かったよ。悪党顔に悪党がくっついててたからかな凄いなあ。それはそうと爆豪くんは何時まで捕まってるんだい?クラスメートを没個性のモブとか見下してた癖にヴィランに手も足も出ないなんて情けない事はないよね爆豪くん!だってナンバーワンヒーローのオールマイトも越えてヒーローのトップになるなんてデカイ事を言ってた爆豪くんがヘドロに負けるなんてクソ恰好悪い事にはならないよね!さっきキミが助けを求める顔をしていたような気がしたけど、それはきっと僕の気のせいだから助けなんて必要ないよね!あ、それと最後に。学校で僕に爆豪くんが言った「来世は個性が宿ると信じて屋上からのワンチャンダイブ」とか本当にヒーロー志望なのか疑いたくなるような言動と行動は全部逃さず録音録画で記録してあるから、きみが死んだら色々な人に見聞きしてもらおうと思ってるんだ。爆豪くんが生前どんな人間だったのか、僕頑張って出来るだけ沢山の人に拡散するよ!それじゃあ、さよなら爆豪くん!出来れば永久にさようなら!」

言いたい事を早口で言うだけ言って晴れやかな顔で踵を返し、もう用無いから帰りますねと素早く走り去る緑谷出久。その足取りに迷いなんてものは無かった。

 

あのクソデクがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

余りの怒りに限界を越えて一瞬だけ身体の自由を取り戻した爆豪は、天に向かって最大出力の爆破を放つ。澱んだ緑の流動体を突き破り、昇る爆炎の柱。

強烈な爆風が爆豪の身体に纏わりついた敵を荒々しく吹き飛ばした。

 

爆豪勝己自力で脱出。

 

因みにその後全力で緑谷出久を追い、限界を越え痛む腕を無理矢理動かして怒りの雄叫びを上げながら個性を発動させ襲いかかるが。右の大振りを軽々と避けられた上に反撃として「爆豪くん辛いの好きだったよね。そんな君にプレゼントだ!」と唐辛子から抽出したカプサイシンが配合された防犯スプレーを顔へ噴射されてしまう。

視界が塞がれた爆豪少年の無防備な股間に自販機で買ったペットボトルの水を「スマァァァァァァァァァァァァァァァァッシュ!」と叫びながら投擲しトドメを刺す緑谷少年に容赦など無かった。

「それで顔を洗って出直してきなよ、ば、ば、ば、えーと、ば、ば、ば、ちょっと待って、ばけ、ばこ、ばき……確か名字が「ば」から始まって次は、か行だった様な気がする人!」

「さっきまで言えてただろが!クソナードがァァァァァァ!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。