ゲゲゲの森と呼ばれる妖怪が暮らす森がある。
その中にあるツリーハウスで、家主の鬼太郎と父親の目玉おやじに仲間の猫娘と砂かけばばあと子泣き爺の五人の妖怪が座っていた。
五人が集まっている中、鬼太郎は火黒の事が未だに忘れられなかった。
「鬼太郎…?鬼太郎!」
猫娘の呼びかけられ、鬼太郎はハッとなる。
「何だい猫娘?」
「…やっぱり彼奴のことが気になるの?」
猫娘が言う彼奴とは十中八九火黒のことである。
「ああ。正直あいつが何を考えているのかわからないんだ」
最初は見上げ入道の時だが、あの時はお互い顔を見たぐらいだった。
次に会ったのはたんたん坊の妖怪城だ。
あの時は人間の少女犬山まなを助ける時に妖怪城赴いたが、そこでは何故か傷ついたたんたん坊と両断された二口女とかまいたちが立ちはだかった。
たんたん坊は当然邪魔してきたが、両断された状態の二口女とかまいたちは何故か体は再生せず、二体は邪魔をしようとしたが両断されていたためか思うように動けなかった。
鬼太郎はたんたん坊を何度も倒すが、その度にたんたん坊は復活していた。
しかし、突如たんたん坊は叫びだし、鬼太郎はたんたん坊を霊毛ちゃんちゃんこを腕に纏わせて殴ると、たんたん坊は復活せずに消滅したのだ。
鬼太郎は何故たんたん坊が復活しなくなったのか考えるが、今はまなを助けることを優先した。
そして、不自然に空いている穴を見つけ降りると、そこには体中に包帯を巻き、炎を彩った和服を着たミイラ男のような風貌の妖怪がまなを抱き抱えていた。
その妖怪火黒は鬼太郎も一度見たことあった。
だが、火黒が何故この場におり、まなを抱き抱えていたのかはわからなかった。
鬼太郎は火黒にまなを返すよう要求する。
「嫌だと…言ったら?」
しかし、火黒から帰ってきた返答はこれだった。
鬼太郎はまなを取り返すために即座に行動する。
髪の毛針、リモコン下駄、霊毛ちゃんちゃんこで火黒を攻撃するも、火黒は全ての攻撃を避けて受け止めたのだ。
しかもまなを抱えたままの状態で。
その上、火黒は本気で戦っていはいなかった。
そして、火黒は戦いをやめて鬼太郎にまなを渡して姿を消したのだ。
最後に自分の攻撃がまなを傷つけかねなかったことを言い残して。
「しかし、火黒という妖怪は儂も初めて聞くな」
鬼太郎の父親である目玉のおやじはお椀のお風呂に浸かりながら言う。
「親父殿でも知らんとは、火黒ちゅーう奴は一体何者じゃけんのお」
「しかし、鬼太郎でも太刀打ちできんとはのお」
ますます火黒という妖怪で頭を悩ませていると、猫娘のスマホに着信音が入る。
「まなから?何々……はぁ!?」
猫娘の素っ頓狂な声に鬼太郎たちの視線が集まる。
「どうしたんだい猫娘?」
猫娘は震える手でスマホの画面を鬼太郎たちに見せる。
「今…まながその火黒と一緒にいるって…!」
「「「「はぁ!!??」」」」
鬼太郎達が話している頃、火黒は人気のない公園のベンチに座っていた。
外はすでに夕暮れへと変わり、人通りは少なかった。
やることもなくベンチに座ってボーっとしていると、誰かが火黒に近づいてきた。
顔を向けるとそこには柱に閉じ込められていた少女だった。
「あの……この前は助けてもらってありがとうございました!」
まさかのお礼に火黒は呆然としていた。
その上、こんな見た目のためお礼を言われると思っていなかったのである。
「あーお嬢ちゃん?俺のこと怖くないのか?」
我に返った火黒からの言葉はこれしか出なかった。
「え?怖い…ですか?う~ん?」
火黒の質問に少女は首を傾げる。
「確かに最初はびっくりしました。けど落ちていた私を傷つかないように優しく受け止めてくれたことは覚えてるよ」
「それだけで怖くないと?」
「うん!そうだよ!」
笑顔で言う少女に火黒は思わず笑ってしまった。
「えっ!?何で笑うんですか?」
「いや~こんなにも珍しい人間は初めてでね。ごめんね笑ってしまって」
「へえ~そうなんですか?」
「まあ、人間は妖怪を大抵怖がって逃げちゃうからね」
「そうなんだ。あ!私、犬山まな!貴方は?」
「俺は火黒。よろしく嬢ちゃん」
「火黒か。…ねえ、黒にいって呼んでいい?」
「黒にい?あ~あ、まあ好きに呼べば」
「本当!ありがとう黒にい!」
それからしばらく話していると、火黒はこちらに近づいてくる妖気を感じた。
「まな!」
鬼太郎と猫娘の二人が焦った様子で走ってきた。
猫娘はまなを抱き寄せ、鬼太郎は二人を庇うように立つ。
「よ!また会ったね少年!」
火黒は軽く挨拶するが、鬼太郎は警戒したままで猫娘は火黒を睨んでいる。
「火黒。お前の目的は何だ?」
「目的?そんなものはないよ」
目的はないという答えに鬼太郎は困惑する。
「目的がないだと…?」
「そ。俺はしいて言えば自由に生きたいだけさ。好きな時に寝たり、誰かと話したり、強い奴と戦ったりとかな」
戦うという言葉に鬼太郎の視線が鋭くなる。
「それは…無闇に誰かを襲うということか?」
「そんなわけないだろ、戦うのは強い奴だけさ。弱い奴と戦ってもつまらないからな」
それから鬼太郎は少し考え始める。
「なら、僕がお前の相手をしてやる」
「それはどういう意味だい?」
「お前が強い奴と戦いたいと言うなら僕が相手をする」
鬼太郎は火黒が知らぬ間に誰かを襲わせないために、自分が標的になることで襲わせないようにするつもりだ。
「面白いこと言うね〜。…いいよ。君の考えに乗ってあげるよ」
とはいえ火黒自身には誰かを襲う気がないが、火黒ならこういうだろうと思っていった結果がこうなるとは思っていなかった。
しかし、今更襲う気はないと言っても信じてもらえるとは思えない。
そう考えた火黒はベンチから立ち上がる。
「それじゃその時は楽しみにさせてもらうよ。また会おうか少年に嬢ちゃんに美人さん」
そう言って火黒の姿は消える。
鬼太郎は火黒の妖気を探るが、周辺に妖気は感じず火黒は何処かに行ったのであった。
「まな、大丈夫だった?」
まなを抱き寄せていた猫娘が心配そうに尋ねる。
「え?別に何にもなかったし、黒にいと話しててとっても楽しかったよ!」
笑顔で答えるまなに、心配していた鬼太郎と猫娘は顔を合わせて溜息を吐くのであった。