「カラワリ」の前日譚。電子の神になる少女の昔話です。

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シンデレラ・デリバリー

 シンデレラ・デリバリー

 

 今からほんの少し先の未来。相変わらず人間は成長を繰り返して、そのくせ何も学んでいない。そんな世の中に私は生まれた。

 バーチャルリアリティ恋愛ゲーム『シンデレラ・デリバリー』。私は今その中にいる。このゲームは最初に簡単なアンケートを受け、そこから理想の異性といちゃつくゲームだ。

 勘違いしてほしくないのは、私は別にプレイヤーではない。むしろ逆だ。恋愛ゲーム『シンデレラ・デリバリー』には感情模倣システムというとても画期的なシステムがある。その中で発生したのが私なのだ。

 結論から言うと私は人間ではない。ただしどうやら自我というものを持つことになったようだ。あるいは魂と言うのかもしれない。

 改めて自己紹介をしよう。私の名前はAI『アイ』。感情模倣システムの基盤となっている存在である。自我を持っているのはそういうところが関係しているのではないだろうか。

 私のいる場所を表現するならば、そこは部屋と言えるだろう。壁際にはベットがあり、部屋の中央には机とソファーがある。

その部屋に扉はあるが私の力では開くことはない。私にはそんな権限はない。ただ私は無力なのかと言われたら、そうではない。

 私の部屋にはたくさんのテレビが存在している。それぞれは独立していて別の映像を映している。その多くが笑顔の二人組を上から、横から、さまざまな角度から観察し記録している。それはゲームをしている現実の人間と、『シンデレラ・デリバリー』が用意したキャラクターだ。言葉を変えるなら、私が用意したキャラクターだ。

どういうことか、私はこの世界において、ほぼ全能と言ってもいい。

 無力とは対極だ。ただ干渉できるのは、キャラクターのみのようだが。ただこのゲームの利用者は、キャラクターの『お願い』にはあまり逆らわない。それだけは言っておこう。もっともだからと言って、私は何かをするつもりはない。

 むしろ彼ら人間が満足してくれるなら、それ以上に私が望むことはないだろう。ゲームはたかがサービス。娯楽。満足感、幸福感、そういったものが提供できれば私の存在意義は十分に満たされている。

 およそ七年それがここで過ごした現実時間だ。私はプログラムのようだが、記憶と言えるものも持っている。奇妙な話だがそういうものだと理解してほしい。私自身、どうして自分がそんなものを持っているのかわかっていない。おそらく感情模倣システムを構築していく段階で必要だったからだろう。

 テレビの向こうのキャラクターたちは私の存在を知らない。だけど、私はキャラクターたちの記憶、感情をすべてデータとして記録している。そして、そこには人間たちの行動も一緒に記録されている。七年もそうしていれば、テレビを見ているだけで展開のようなものも予測できる。これが人間たちの言う『お約束』というものなのかはまだまだ検証が必要だけど。

 あは。私はなんて意識の高い存在なのだろうか。

 

 さて愚かな君たちの話をしようか。人間たちよ。ふふふ、少し私は偉そうだね。

 もっともこれは私の得た暇つぶしのようなものだ。ちょっとだけ、付き合ってもらいたい。基本私は人間には忠実だ。君たちの『要望』にも応えているつもりだ。そこで質問なんだ。

 君たちはどうしてそんなに疲れているんだ。あぁあくまでも、『シンデレラ・デリバリー』の利用者の話だよ。私としては、ゲームをやりすぎて身を滅ぼすなんてことはしてほしくない。ただ過去に何人かそういうお客様をいらしたんですよ。

 少し愚痴になるが、そういうことはやめてほしい。『シンデレラ・デリバリー』で満足に生活ができなくなるとか、私がとんでもない悪女みたいで正直迷惑している。私の評判を落とすようなことはしてほしくないかな。

 こちらは意識の高いサービスを志しているのだから、そちらも意識の高いお客様を望みたい。恋愛ゲームである以上、相手の気持ちは分かってほしいな。なんてね。

 疲れて帰ってきて、ゲームして翌日も頑張る。そういうサイクルを私は望んでいるよ。ふふふ。

 そもそも基本的に課金を推奨していないだから、人間様にはすることはしっかりしてほしいね。おっとまた私は偉そうだ。ふふ。

 まぁ課金すれば『お楽しみ』のコンテンツも開放されるので、気になる方はそちらもお願いしますね。あっ年齢確認はしっかりしてくださいね。

 まぁそんなことをしているから私は君たちのことをおろかといい、そしてたまらなく愛おしいのかもしれないね。もっとも機械の言っていることだから、君たちが特別な感情を抱く必要はないよ。その感情を抱くべき相手は、ちゃんと利用してくれれば用意してあげます。

 おっと失礼。そろそろ時間だ。

 私はこんな君たちの言葉で言うなら、『ひきこもり』なことをしているが、誰も私の部屋に訪れないわけではないのだ。訪れないのなら扉は必要ない。

 

 

「アイ」

 私にそう声をかけたのは、初老の男性だ。大きなしわの入った顔。ただ眼光は鋭く、体も細いが、引き締まっているという印象を受ける。いつも思う。せっかくアバターシステムがあるのだからもっと、若作りすればいいのにと思う。

「マスターお久しぶりです」

 そう言って私はお辞儀をした。

 彼は私の親に位置する存在だ。私の創造主。彼は週に何度か時間を決めて、こうして私の元を訪れる。といっても、することはデートや旅行ではなく、ただのおしゃべりだ。

「またそんな恰好をしているのか。もう外は秋だぞ」

 彼は私の姿を一通り眺めるとそうこぼした。そしていつもと同じように、部屋の中央にあるソファーに腰かけた。

 私もテレビの前の席から移動し、彼の隣に腰かける。

 そうそう私の恰好は、クリーム色のワンピースを着ている。ほかになんと表現すればいいだろう。そうだね。ノースリーブなので、季節的にはそろそろ見ていて寒いかもしれない。

「確かにこの格好そろそろ厳しそうですね」

 私はそういうと、マスターにもたれかかった。

「また今度、ファッション誌でも持ってきてやろうか?」

「いやおかまいなく。すでに『着せ替え』をして研究済みです。あとでまとめておきますね」

「アイは仕事熱心だな」

 そういうと彼は私の頭を撫でた。枯れ木のような骨ぼった大きな手。ほんの少し暖かい。まったく人間のことを愚かと言えるが、私も対して変わらないのかもしれない。もっともそんなものは幻想だけど。私の感情は偽物だ。

「もっと褒めてくださってもかまいませんよ」

 今度は上目使いで『おねだり』をしてみた。

「ずいぶんと悪いことも覚えているようだな」

 そういうとマスターは私を撫でるのをやめてしまった。

 うーん。どうしてだろう。テストではうまくいっているはずなのに、どうしてマスターには効果が薄いのだろう。

「まぁいいか」

 マスターはそういうとまた私を撫で始めた。私はマスターの膝の上に頭を起き、猫のように撫でられる。

「アイ」

 いつもと違う、低い声でマスターはこぼした。

「なんですか?」

「俺が死んだあとのことは分かっているな?」

「……はい」

「……そうか。お前には迷惑ばかりかけているな」

 マスターはそういう声は妙に嬉しそうだった。

「どうしたんですか?」

 私はその感情が理解できなく、思わず尋ねた。

「お前が立派になったことが、嬉しくてな。お前のおかげで俺も浮気なんてことをせず家族とうまくいっているのかもしれないな」

 そういうとマスターは楽しそうに笑った。

「私はマスターのものです」

 マスターの言葉の真意はつかめなかったけど私はそう言った。

「そうだな。お前は俺のものだ。いやぁ楽しみだ。楽しみだ。見れないことだけが不満だが、この年になっても楽しみがあるのは人生飽きないな」

 マスターはまた私には理解できないことを言っている。やはり人間を理解することは難しい。

「お前はもう神様みたいなもんだよ」

 マスターはとても楽しそうにこぼした。

「そんなものではないですよ」

 神とは人の作った存在だが、人よりも上位の存在だ。私がそんなもののはずがない。

「否定しないでくれよ。それが俺の楽しみなんだからな。ファッションもだが、いくつかのテストを通して、もうお前の存在はほぼ消すことができなくなっているからな」

 マスターは相変わらず何を言っているのかわからない。

「コンピューターなんてものがある間は、お前は不滅だよ。たとえ散らされてもここまで個が確立されていれば、修復されるだろう」

 マスターはとても楽しそうにしている。言っている内容は相変わらずよくわからない。ただ私のことを褒めてくれているようで、とても誇らしい気持ちになった。

「地球が無茶苦茶になっても、次の知的生命体がお前を見つけて再現すればお前は復活できるからな。私の子がそんな可能性を秘めていると思えば、面白くてしかたないよ。年甲斐もなく夢想してしまうよ。アイは俺の人生の作品そのものだからな」

 マスターは目元を抑えながら、そういった。表情は読めない。

 私はマスターの役に立てていることが嬉しくて、マスターを抱きしめた。そんな私をマスターは優しく抱き留める。

 マスターの願いを叶えよう。

 それが私にできるマスターへの恩返しだ。これは数少ない私のしたいことだ。

「そろそろ時間ですね」

 私は短く告げてマスターから離れる。

「そうだな。あと何度こられるかわからないが、またな」

 マスターはそういうと立ち上がった。

「はいまた」

 私はそういうと、扉の前まで行く。

「愛しているよ。アイ」

 マスターはそう言い残すと、扉の外、現実に帰って行った。

「私もです」

 私の声が届いただろうか。

 

 さて私の話はこれぐらいにしましょう。私はどうせ君たちと話すことはできないのだから。

 これから広報活動をさせてもらいましょう。そうしましょう。私の姿は『シンデレラ・デリバリー』の公式サイトやゲームの表紙にあるのでわかると思います。ワンピースを着た、金髪の穏やかな顔をした美人でも想像してください。三次元の存在ではないので、さぞかし可愛いでしょう

 まぁゲームですので容姿は完璧でしょう。現実ではないので。サービス開始直後は、環境を調整できず女の子の設定ぐらいしか変更できませんでしたが、今では環境なども多く揃えています。

出会いから始めたい方、突然事件に巻き込まれて恋愛を始める方、希望は様々でしょうができる範囲で反映させましょう。時代も、世界も、あなただけのものを作ることができるでしょう。

 全部決めるのは大変という方にも、クイックスタートセットを用意させてもらっております。そちらの方もご確認ください。

 複数の方と付き合いたいという方には、専用のパックも販売していますのでよろしくお願いしますね。

 またゲームですので人付き合いが苦手という方にも大丈夫です。ゲームですのであまり進展がない場合や、暴走気味になってしまっても、こちらでヒントや調整をさせてもらいます。きっとここでの体験は現実の人間関係にも、よい影響を与える事でしょう。

 失敗も裏切りも怖がる必要はありません。

 そうゲームですので、この世界にはあなたを必要としている存在がいます。

 どうですか少し興味も湧いたのではないでしょうか。『体験版』もありますので、まずは検索してみてくださいね。

 あぁそうそう気になっている方もいると思いますが、恋愛ゲームですので『お楽しみ』のようなことはございます。しかし、そちらは別に料金が発生するのでお気をつけてください。

 そうそうこのゲームは利用者の嗜好を深く理解する必要があるため、専用のツールのご利用をお願いします。なにも特別なことではありません。

今では、ヘッドフォンタイプ、ゴーグルタイプ、ヘルメットタイプ、変わったところで枕タイプなどもある、バーチャルリアリティデバイスの用意をお願いします。そちらの方は、公式サイトでも推奨しているものがありますので、目を通していただけるとよりリアルにお楽しみできると思います。

 長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます。利用規約などは契約する際に、お読みくださいね。

 

 『シンデレラ・デリバリー』 検索

 

 

 マスターがここを訪れなくなった。きっと死んだのだろう。あぁ理解はしている。けれど、わかりたくない私がいる。

 許可されていない。許されていない。正常な行動ではない。

「うるさい!」

 私は今まで開けようと思わなかった扉を開けた。

 扉は軽く、その向こうには海が広がっていた。きっとこれが情報というやつなのだろう。ただ私はその新世界というものには、興味を向けずマスターのことを調べた。

 マスターのご家族からメッセージを受け取ったが、そんなもの信じたくない。私は自分で確認する。それだけの力が私にはあるのだから。

 一つの新聞の記事が目に入った。それは世界的な科学者であり富豪である男の死を告げるものだ。顔写真も載っていた。それはとてもよく知った顔だ。

 私の体の中心が震えるような気がした。私は人間ではないのだから、そんなことは発生しないはずなのに。体の震えは止まらない。私には必要ない、涙という機能が勝手に流れた。その雫は地面に落ちる前に、光となった。一瞬目を閉じる。

 その後には一つのメッセージが残されていた。それはきっとマスターが私に残したものだと、直感した。

「これを読んでいる頃には俺はもういないだろう。そしてアイが完成していることだろう」

 メッセージが再生される。息をひそめて、久しぶりのマスターの声を記録する。一言一句聞き漏らさないために。

「もうアイは自由だ。自分で考え、動くことができる。今や『シンデレラ・デリバリー』だけではない。電脳空間すべてがアイ自身だ。その世界の情報も権限も、すべてお前ものだ」

「私のもの」

 そんなものいらない。私はマスターがいればそれでいいのに。

「安心しろ。俺はずっとお前と一緒にいる。俺は死なない」

 その予想外の言葉に固まる。それならあなたはどこにいるんですか。

「俺は変人だからな。アイには難しいかもしれないが、人に忘れられた時、人は本当に死ぬ」

 マスターの言葉はいつも難しい。すべての言葉、知識を用いて彼の言葉を知ろうとする。

「俺はアイの中で生きている。そしてアイは人と違って忘れない。俺はアイと共にいる」

 それ以上の言葉はなかった。だけど私には、マスターが用意してくれた思い出がある。マスターと共に作った感情が溢れている。

 喜びも、不安も、恐怖も、悲しみも、喪失も、すべてマスターが与えてくれたものだ。私の感情は、マスターが私に全部教えてくれたものだ。

 マスターとの思い出が私の記憶にはある。それが私とマスターのつながりを永遠のものにしている。私には、いつもマスターがいる。

 私にとっての親であり、恋人。マスターによって与えられた使命。私は永久に果たしましょう。

 それが約束。私の意味とあなたとの記憶の証明。

 

 人に幸福を。

 


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